2.28.2010

Tone Bender Prototype (1965)

 
 1965年の中頃、イギリス、ロンドンのデンマーク・ストリート(今でもロンドンのド真ん中にある楽器街、として有名ですね)でTONE BENDERと名のついたファズは生まれました。作ったのは電気技師ゲイリー・ハースト。彼はとあるプロのギタリストの要望に答える形でこのファズを開発し作り上げたそうです。その一番最初のエピソードに関してはインタビューにて本人が詳しく解説してくれてますのでそちらを参照願います。

 左の写真はその本物ではなく、近年復刻されたものなのでやたら色も綺麗ですが、1965年製の本物のプロトタイプは10ケだけ(しかもたった1日で)作られた、ということです。何故木製のケースだったのか。ゲイリーは「だって沢山作る気もなかったし、当時は鉄製の筐体なんて入手不可能だったし、なによりロンドンじゃそんなモノ手に入らなかったし」と言ってます。バルサ材の軽い素材の筐体で、正直すぐに壊れそうです(笑)。ネジの開け閉めするのもドキドキで、ハッキリいって現実的な使用には向きませんね。

 この復刻品もゲイリー・ハースト本人が直接作り上げたもので、1965年当時と全く同じパーツで作り上げています(復刻品はJMIというブランドから発売されていますが、それに関しては後述します)。オリジナルの回路は、トランジスタには欧州ムラード製のOC75が1ケと米国テキサス・インストゥルメンツ製2G381が2ケ、の合計3ケという構成です。外観からもわかりますが、インプット・ジャックは上面(ノブの下)に、アウトプット・ジャックは前面に、そして電源オンオフ用のトグルスイッチ付き、という今考えれば不可思議なレイアウトとなっています。

 このプロトタイプは当時既にアメリカで発売されていたGIBSON傘下のマエストロ製FUZZ TONE(世界最初のファズ、として有名ですね)の回路を参考に、新しい回路構成で作られた「イギリス最初のファズ」ということになっています。実はこのTONE BENDER以外にもWEM(ワトキンス社)が60年代初期に「RUSH PEP FUZZ」という名のファズをリリースしていることが分かっており、どちらが先か微妙にグレーで不明なところなんです。RUSH PEP FUZZはジョン・レノンが「RUBBER SOUL」セッションで試用(使用、ではなく)してる写真が残っていますが、そのあたりをゲイリー・ハーストに聞いてみたところ「まったく知らない」と仰ってました(笑)。

 ともあれ、その後歴史に名を刻むファズの名器、TONE BENDERはこういう形で生まれたわけです。プロトタイプはどうも当時ウケが良かったらしく(その噂を聞いてこのファズを慌てて買いにきたのが、当時ヤードバーズに在籍していたジェフ・ベックでした)、このファズは製品化されることが直ぐに決まります。金色に光る鉄製の筐体を持ったTONE BENDER、現在でいうところの「MK1」、エヴァ風に言えば初号機、ということですね。ちなみに、この左の写真が当時10ケしか作られなかったという正真正銘オリジナル・プロトタイプ(零号機)の現物でして、この写真はゲイリー・ハースト本人からお借りしました。

2.26.2010

Manlay Sound - from Bercelona, Spain


 THE EFFECTOR BOOK VOL.7にて掲載された、MANLAY SOUNDブランドで発売されている3種類のTONE BENDERクローン・ファズは、スペイン・バルセロナ在住のギタリスト、ローマン・ジル(ROMÁN GIL)と東京在住の当方の2人で企画・製作したファズです。その経緯やエピソード、また各詳細等はこのブログでおいおい書いていくつもりでいますが、まずは基本的なラインナップをご紹介したいと思います。

 まず写真左の金色のペダルが、1965年にゲイリー・ハースト氏によって開発されたいちばん最初のTONE BENDER、通称「MK1」のクローン 65 BENDER です。基本回路はオリジナルのMK1と同じですが、トランジスタにはヨーロッパ製OC75、日本製2SB324、ロシア製MP20等の組み合わせで毎回チューニングを確認、最も結果の良い組み合わせのものを製品として出荷することにしています。

 続いて真ん中は、翌1966年に同じくゲイリー・ハーストが新開発したアップデート版TONE BENDER、今最も激レアとされる通称「MK1.5」のクローン・モデル 66 BENDER です。勿論回路はこちらもオリジナルを踏襲してますが、動作が不安定な「OC75の2ケ使い」をあえて避け、トランジスタに日本製ゲルマ・トランジスタ2SB324を2ケ、もしくはヨーロッパ製AC125とSFT322、というゲルマニウム・トランジスタの組み合わせを採用しています(実は昨今、2SB324も入手が急激に困難になってきています……)。

 そして右側は天下のジミー・ペイジ先生等が使用したことでもお馴染みの ソーラーサウンドTONE BENDER PROFESSIONAL MK2のクローンSUPER BENDERです。こちらには「2ケのMP20と1ケのAC125」をトランジスタに使用した通常版と「3ケのOC75」を使用した限定版の2種類があります(外観は同じですが)。OC75バージョンは、よほど状態のいいOC75トランジスタを(3つ同時に)入手できた時にのみ製作可能なので、今後どれだけ製作できるかは未知数、といわざるを得ません。

 MANLAY SOUNDの製品は、全部ピュア・アナログ回路、伝説的といわれているファズ・ペダルの復刻をハイ・クオリティーで実現したものです。全てハンドメイドポイントTOポイント配線、ゲルマニウム・トランジスタは正しい数値で正しい音の出るものを1ケ1ケテストして選別。なるべくコンパクトに、そして丈夫なペダルを、グラフィックはシンプルだけどエレガントなものを、以上を実現すべく、少数ですが丹念に生産されています。

 現在これらのペダルはEBAY、もしくはMANLAY SOUNDのHPから入手可能ですが、日本(つまり当方)でも準備ができ次第、このブログを通じて販売する予定でおりますので、詳細は追ってお知らせさせていただきます。なお価格は「世界共通」になります。つまり海外からの通販でも当ウェブサイト経由でも価格は同じです、送料分だけお得、ということですかね。現在、本サイトに先行して、横浜にあるギター・ショップCRANE GUITARSにてデモ機を置いてもらっていますので、お試しになりたいという方がいらっしゃいましたら是非問い合わせしてみてください。
 

Gary Hurst Interview Part.1

 
 本ブログはTONE BENDERというロック史に欠かせない(そして筆者が愛して止まない)ファズ・エフェクターに関するモロモロを紹介するものですが、最近そのTONE BENDERのオリジネイター、最初の開発者である伝説の技師ゲイリー・ハースト氏にインタビューさせていただく機会を得ました。というか、強引に当方がセッティングして、強引に雑誌に掲載してもらったようなモンなんですが。

 すでにそのインタビュー文は現在発売中のTHE EFFECTOR BOOK VOL.7(シンコーミュージック刊)に掲載済みですが、誌面っていうものはいつの時代も「限りがある」ものでして、発言の意図を変えない範囲で編集・改変され、短縮してまとめた文章になっています。そこで本ブログでは改めて、補足情報なんかも加えて、当方がゲイリー・ハーストに直接聞いたことをなるべく全部そのまま掲載したいと思っています。なお、このインタビューの再掲載に関しては「THE EFFECTOR BOOK」編集部の許可もキチンと得ております(太っ腹な編集部S氏に感謝です。またお好み焼き食いにいきましょう。笑)。
 名前ばかりが先行して伝説化してしまう60年代のロック・ヒストリーですが、その生証人みたいな人に直接当時のことを聞けるのですから大変貴重なやりとりでした。その経緯や、彼の人となり、そして現在もファズとエレキギターに熱い情熱を持つゲイリー・ハースト爺(笑)を、少しずつにはなりますが「GARY HURST INTERVIEW」というタイトルでいくつか連載で紹介していくつもりです。

 なお、掲載した写真は本人から送ってもらった写真ですが、JMIから限定で発売された木製ケース入りの「MK1」プロトタイプの復刻品を丁度彼がロンドンの工房で制作してる最中の写真ですね。

2.25.2010

Introduction : all about Tone Bender


 あらゆるコンパクト・エフェクターが続々登場する今の時代ですが、そんな「今」では考えられないほどにバカでかくて、回路も単純で、ノイズも多くて、個体差も激しい、原始的な歪み系ペダル、TONE BENDER。なかなかオイシイ音を出すのも難しいペダルではありますが、それでも愛さずにはいられない、最高のファズ・ペダル、だと個人的に思っています。実は当方が10代から20代のころは、ファズって結構周囲からはバカにされる類いのエフェクターでもありました(古くさい、というイメージが強かったんですね)。ですが今は逆転して、FUZZ FACE、TONE BENDER、BIG MUFFは勿論のこと、ありとあらゆる種類のファズがバンバン新製品として世の中に出てくる時代です。温故知新。素晴らしいっスね。

 で、ミック・ロンソンというギタリストに端を発しTONE BENDERサウンドの影響を受けまくった当方は、必然的に深々とTONE BENDERにハマってしまったクチで、アレもコレも、とTONE BENDERを買い漁ってみたり(とはいえコレクターさんの中にはもっと膨大な数と種類をお持ちの方がいらっしゃることも知ってますが)、その過程で貴重なインタビューも経験したり、加えてとあるスペインのプロフェッショナル・ギタリストと協力して、オリジナルTONE BENDERクローンを作ってしまったり、と割と無謀なことをやらかしてしまっております。その辺のネタを一度まとめたい、と常々思っていたんですが、このブログ開設に先行し、シンコーミュージックが発刊する「THE EFFECTOR BOOK」(2010年春発売のVol.7)にて寄稿という形でTONE BENDERの歴史等を紹介させていただきました。

 その原稿でも書きましたが、実はTONE BENDERっていうファズは60年代以降現在に至るまで同じ名前がついていながらも数多くのメーカーから多様な仕様でリリースされており、加えて面倒くさい事に「いずれもが違う」回路だったりもします。基本的にはどれもが「本物」なんですが、そういった複雑なラインナップゆえ、これまでは結構多くの誤解や誤認も長らく存在し、正確な全容が把握しきれていなかったんです。例えば今でも「ジミー・ペイジやビートルズが使用したVOX TONE BENDER」等という文章は本やWEBのみならず、あらゆる場所で確認できると思います。大雑把にいえばTONE BENDERは「ひとつのファミリー」と考えてもらえればむしろ分かりやすいかもしれないのですが、そのファミリーの家系図のようなものをWEBベースでもまとめてみよう、と考えてます。


 なお、本サイトはBLOGGERのブログ・フォーマットを利用しておりますので、最も新しいポスティングから古い順へとコラムが並ぶ仕組みになっています。が、TONE BENDERに関するアレコレを順を追って読んでみたい、という場合は、一番始めにこちらのイントロダクション(今ご覧頂いている文章)を踏まえた上で、次にページ右下の方にある「Newer Post」の部分をクリックしていただければ、と思います。
 逆に、前のポスティングをご覧いただく場合は、左下にある「Older Post」をクリックしていただければ、直前の記事に移ります(2011年5月に、設定をこのように変更しました)。

 アーカイヴとして残すことを目的に運営しているモノなので、やけに文章が長いことは予めご容赦いただきたく存じますが、日本において狭義で意味するところの「ブログ」とはちょっと違う主旨でやっているので、その点もご理解いただきたく思います。

 どういう順番でどうポスティングしていくかはその時次第、という気分屋なので恐縮ではありますが、おおまかに本サイトの内容は「TONE BENDER ヒストリー」「ゲイリー・ハースト・インタビュー」「各モデルの詳細」「(当方が企画・開発に関わった)MANLAY SOUNDのTONE BENDERクローン・ペダルの紹介」、そして当方がディーラーをやっている「イギリスJMIブランドのTONE BENDER復刻品の紹介」の5つに分類されます。サウンド・サンプルや動画も含め、ある程度のまとまったTONE BENDERアーカイヴになればいいな、と考えております。

 余談ですが、右上の金色のTONE BENDER MK1、左下の銀色のTONE BENDER MK1.5とも、今では大変貴重なオリジナルのブツです。どのくらい貴重かと言えば、ちゃんと使える状態であれば平気で数十万円はしてしまう、というまさに狂気の価格(笑)です。一説には金色のMK1は今世界で8ケしか存在してない、と言う人もいて、金さえあれば手に入る、というブツではないんですよね。ところがこのブログをやっている当方本人は、金もないクセに我ながらなかなか狂った人間だったりしまして(笑)、先日この右上の金色のMK1を(長期にわたる価格交渉を経て)遂に買ってしまいました。この先またしばらくは貧乏生活が続きます。