10.29.2010

Manlay Sound - 流通網拡大と価格改定のお知らせ

 
 予定では今回「VOX TONE BENDER」の続きを書くハズでしたが、ちょっとお休みして、MANLAY SOUNDの商品に関するご報告を行います。

 これまでもクドクドと書いてきましたが、MANLAY SOUNDから発売されている3種類のTONE BENDERクローン「65 BENDER」「66 BENDER」「SUPER BENDER」、それから2種類のFUZZ FACEクローン「BABY FACEシリコン版ゲルマ版)」、そしてTHE ALADDINTHE XS FUZZといったファズ・ペダルは、スペイン・バルセロナ在住のギタリストROMAN GIL氏と本ブログを書いている当方本人との共同開発でできたペダルです。当方はプロのギタリストでもなく、プロのエフェクト・ビルダーでもなく、単なるファズ好きのファズ馬鹿でしかありませんが、自分が関わったペダルを発売できて、それなりに好評を得ている、というのは、お買い上げ下さった皆様の賜物でしかありません。この場を借りて重ねて御礼を申し上げます。

 当方としても、出来る限りこのペダルを広めたい、という気持ちはスペインのMANLAY SOUNDのビルダーと同じで、微力ながら本サイトを通じての販売等を行ってきました。が、個人では流通、という意味で思い切り限界があります。これまで在庫のお問い合わせをいただいたお客様/店舗様にはいつも「すいません売り切れです/入荷はしばらく先です」、と心苦しい返事を出すことが多く、申し訳なく思います。スペインのビルダーも東京の当方も、決して量産体制に向いているとは思えませんが、それでも需要があるならなるべく応えたい、とは思っております。

 そこで、日本での販売網を広げることになりました。これまでは当ウェブサイトを通じた直接通信販売と、横浜のクレーンギターズさん、それから岐阜にある(めっちゃエフェクターに強いことで有名な)KSOUNDさんを通じてMANLAY SOUND商品を流通しておりましたが、それらに加えて、東京にあるセカンドスタッフというディストリビューターを通じても、入手が可能になります。セカンドスタッフさんは卸業もなさっているので、全国の楽器店様もそちらを通じて仕入れが可能になるかと思います。また、セカンドスタッフ自社サイトを通じての直販もされるとのことです。

 なお、誤解を生まないためにも記しておこうと思いますが、セカンドスタッフさんはMANLAY SOUND商品の独占販売権を持った日本代理店というわけではありません。ですが、当方個人もMANLAY SOUNDの日本支社長ってワケでもなく(笑)、セカンドスタッフさん同様にMANLAY SOUNDの独占販売権を保持しているわけでもありません。もし片方が独占権を持っていれば、もう一方は販売を即座にやめるのが法的に当然なわけですが、当方はセカンドスタッフさんと直接お話し合いもさせていただき、共にお互い協力してやっていきましょうね、というスタンスになっております。
 先日とあるTWITTERにて、完全な誤解の元に不当な中傷ともとれる書き込みをされた方が一部いらっしゃったようですが(ウフフ。僕も見ましたよー。笑)、実際の事情は上記のようなワケです。スペインのMANLAY SOUND、セカンドスタッフ、当方の三者共に同意を得た上で、引き続き本サイトを通じた販売は継続して行っていきます。

 ただし、これは当初からの方針なのですが、日本で本サイトを通じて販売しているMANLAY SOUND製品は「当方が製作に関わった商品だけ」になります。特別そういう契約をスペインとしたとかいうワケではないのですが、なぜこんなことを書くかといえば、スペインのROMAN GILが自身で開発し、製作・発売されてるペダルが他にも2種類ほどあるからです。
 たとえば、真空管アンプのインプットをプッシュすることだけに特化したブースター「HOT AMP BOX」という白いペダルがMANLAY SOUNDからは発売されています。それから、マーシャルのプレキシ・サウンドの歪みを追求した、というFET回路を使ったオーヴァードライヴ「THE SOUND」というペダルももうすぐ発売されることになっています。
 企画当初から当方も話は聞いてましたし、まあ機会があれば後々ここで紹介する事もあるかとは思います。ですがこれらのペダルは本サイトで販売を行う予定はありません。それらのペダルに関してもし興味のある方は、今後セカンドスタッフさんを経由してどうぞ、というわけです。

 また、今回を機に、当WEBを通じて販売する一部商品の価格を改定することになりました。一部商品は高くなりますが、一部商品は安くなります。新価格に関しては後ほど最終決定してから、改めてご報告させていただきます。

 それから最後に余談にはなりますが、現状進行中のファズ企画2つの進捗状況です。
 以前告知しました「BABY FACE赤」の「WC2010スペイン優勝記念モデル」ですが、製作が難航しております。というのも、中身ではなく、ちょうどいいエンブレム・デザインの入手に四苦八苦しているからです(笑)。もうじき2010年も終わりそうな気配なので、なんとか今年中には形にしたいのですが、こればっかりはスペインまかせ、進展は運まかせ、です。今年中にメドが付きそうになければ、最悪計画中止という事もあり得ます(個人的にも至極残念なんですが)。お待ちいただいているファンの方、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
 それともうひとつ、これも以前告知だけさせていただいたのですが、「65 BENDERのスペシャル・バージョン」。こちらは現在絶賛製作中です。トランジスタにはオリジナルと同じOC75と2G381の組み合わせを使った贅沢なMK1クローンですが、筐体はオリジナルで木製のイカしたヤツをオーダー製作することにしました。価格未定ですがおそらく製造数は世界限定15ケ程(笑)になります。以上2ケのファズに関しては、当サイト独占企画・販売となります。
 ひとまず、そんなわけで今後ともMANLAY SOUND製品をよろしくお願いします。
 

10.20.2010

Vox Tone Bender MK3 (1970's)

 
 これまで「VOX」のブランドの名がついたTONE BENDERをいくつかご紹介しましたが、VOX TONE BENDERにはまだまだ続きがあります。以下、これまでのものも含めて、整理していきたいと思います。
 まず、最初にVOXの名のついたTONE BENDERは1966年、イギリスのSOLA SOUNDが製造したTONE BENDERで、中身はゲルマ3石を用いた、当時出来たばかりのMK2回路でした。
 続いてその直後には、イタリアのEME(後のJEN)社の製造によって、VOX TONE BENDERが発売されました。こちらは中身はゲルマ2石を用いたMK1.5回路(多少修正あり)です。以上は、これまで紹介してきた通りです。

 さて、70年代も半ばにさしかかると、なぜかまたイギリスのSOLA SOUNDの製造で VOX TONE BENDERという商品が発売されています。写真に掲載した、オレンジのサイケなロゴがデザインされた真っ黒い筐体のファズがそれです。70年代は「VOX」という楽器ブランドの商標保持者がコロコロと変わった(当初はアメリカのテリトリーに限ってTHOMAS ORGAN社が、その後イギリスではVOX LTDという会社が新たに興され、またその後はROSE MORRIS社が商標権を得たり、という具合です)時期なので、多くの人が権利を行使したんだろうなあ、とは考えられます。
 そんな最中にSOLA SOUNDが作ったVOX TONE BENDERには「MK3」という文字が入っています。文字通り、当時SOLA SOUNDが(自社のCOLORSOUNDブランドから)発売していたTONE BENDER MK3をそのまま転用したモデル、ということになります。

 中身は言うまでもなく、ご覧の通りMK3そのままで、トランジスタは初期のものにはゲルマニウム・トランジスタが3ケ使用されています。ただし、そのトランジスタの銘柄は、一切のプリントがないので不明なままです。コントロールもそのままで、ファズ、ボリュームに加えて、トレブル/ベースのコントロール(以前も書きましたが、左に回せばカリカリのトレブリーなサウンドになります)はMK3そのままです。

 恥ずかしながら当方も最近までこのモデルのことは全く知らなくて、MY BLOODY VALENTINEのケヴィン・シールズがこれを持っていることを知って、その存在を初めて知りました。最初「なんだこりゃ?」と思ったのですが、調べてみたら、実際にこれは「VOX TONE BENDER」だったわけです(笑)。
 話がちょっとそれますが、ケヴィン・シールズのこの有名なペダルの大群写真はZ.VEXの大将、ザッカリー氏が撮影したものですが、やはり世界中のペダル・フェチは驚愕したようです。勿論当方もドビックリでした(笑)。
 まさかマイブラ効果、というわけではないと思いますが、このSOLA SOUND製VOX TONE BENDER MK3は、近年イギリスのJMIから復刻版がリリースされています。JMI版も、ゲルマ・トランジスタ3石を使ったMK3回路を踏襲しています(ちなみにJMIはその復刻MK3を、「JIMMY PAGE SPEC」とうたって発売していますが、それはおそらく、以前こちらで紹介した通りにペイジ先生はMK3を使った事があったから、と思われます。ですが、正直ジミー・ペイジのTONE BENDERといえばその殆どはMK2を指すことが多いと思われるので、ちょっと誤解を生む恐れのあるJMIの宣伝文句、とも言えるかもしれません)



 で、このMK3回路だったころのVOX TONE BENDER MK3には、上に載せた黒/オレンジのサイケなロゴ、という筐体以外にも、ご覧のようにシンプルな筐体のモデルもあったようです。ただ、基盤のレイアウトや回路をマジマジと見ると、全く同じ回路でもないようで、ワケわかんないですね(笑)。トランジスタもやっぱり違うモノのようですし、正直にいえば、どちらが先でどちらが後か、もう既に判断できません。申し訳ありません。とりあえず写真でもわかるように、イン/アウトのジャックは筐体横に移動されていることも確認できます。

 さてそのVOX TONE BENDER MK3モデルには続編があります。黒×オレンジのほぼ同じ筐体(とはいえデザインはチラっとだけ変更されていますが)で、後にシリコン・トランジスタ・バージョンが出ているんです。サイケデリックな「TONE BENDER」の文字は筐体下に移動、さらに「TREBLE/BASS」のコントロールは、名前が「TONE」に変わっていますね。また、ゲルマ版の時代とは、基盤上のポットの設置の向きが逆になり、ご覧のように裏蓋を開けると回路が丸出しで見えるようになりました。
 ちなみにここに掲載した写真は、1978年7月29日の製造日スタンプがあり、70年代も随分後半に入ってからも、VOXのブランドからTONE BENDERというファズがリリースされていた、ということがわかります。

 ただ、回路の写真をご覧いただいてもお判りのように、このシリコン版VOX TONE BENDERの回路には(数えるのもイヤになるほど)沢山の抵抗/キャパシタが配置されており、TONE BENDERのファズ回路としては、すでに「MK3回路」とは呼べないものになっています。
 本家SOLA SOUNDのTONE BENDERは、後にMK4と呼ばれる回路(JUMBO TONE BENDER等に使用された回路のこと/ほとんどBIG MUFFのようなシリコン4ケ使いのファズ回路で、60年代のTONE BENDERらしさは殆ど失われていますが)を生みますが、それに近いもの、と推察されます。
 以上が70年代に発売されていたVOX TONE BENDER MK3になりますが、実はこの10年以上あとに、また更にVOXはTONE BENDERを新しく発売します。それに関しては次回にて。
 

10.15.2010

D.A.M. 1966 (MK1.5 Clone)


 何度も触れているように、「MK1.5ともいうべき回路」を発見したのは、イギリスのファズ・ビルダー、デイヴィッド・メイン氏です。とはいえ、誰だって「あ?なんだよMK1.5てのは?」と思うのも極自然な成り行きなわけで、一般的に判りやすい表現だとは思えません。
 しかしながら、(65年夏の)MK1と(66年初夏の)MK2があって、その中間に実は更に別なバージョンが実際にあったのですから、それをなんとか判りやすく表現するには「MK1.5」が適切だったんだろう、と同意せざるを得ません(まあ、エヴァンゲリオンにも「ver2.22」なんていうバージョンが存在する現在ですから、今なら納得する方も多いのだとは思いますが)。
 さらに面倒くさいことに(笑)、そのMK1.5回路は、TONE BENDERとは縁もゆかりもないハズの他社メーカー、アービター社の名作ファズ、FUZZ FACEの回路とほぼ同じ、というのですから、話は更に複雑です。

 さて、ではデイヴィッド・メイン氏は自身の作ったレプリカでそれをどう再現したか、を見たいと思います。「1966」と名付けられ、「TONE BENDER REPLICA」とサブタイが付いたこのファズは、D.A.M.のヒット作のひとつです。ただし、ピュアなクローンではなくて、現代的にモディファイが施されたファズでもあります。

 回路の話は後述しますが、このファズには2つのモードがあり、その切り替えは筐体の横に付いたスイッチで行います。ひとつは「66」と名付けられたモードで、こちらを選ぶと66年〜68(註:当方の知る限り、66〜69年、だと思うんですけど)年に、イタリアのEME(後のJEN)社が製造したVOX TONE BENDERのサウンドを得られる、とのこと。
 そしてもうひとつ、「SUPER BEE」と名付けられたモードに切り替えると、ファズのレンジが中域〜低域により、ファットなボトムが加わります。デイヴィッドによれば「こちらはオリジナルのSOLA SOUND TONE BENDER MK1.5のサウンドを再現した」モード、とのこと。
 ちなみに、この切り替えスイッチはエフェクト・オンの状態で切り替えるとバッチン!というデカいノイズが入りますので、注意が必要かと思われます(アンプ痛めますので)。

 前回のPROFESSIONAL MK2の項でも触れましたが、この頃のD.A.M.製品が採用していた電池ボックスが、この「1966」にも採用されています。

 さて、それでは中身です。基本回路は、ゲルマニウム・トランジスタ2石を用いたTONE BENDER MK1.5の回路。ということはつまり、このファズは「SOLA SOUND製TONE BENDER MK1.5」、「イタリア製VOX TONE BENDER」、そして「ARBITER製FUZZ FACE」の3つのサウンドを期待させるモノ、ということになるわけですが、基本的にはD.A.M.としてはこのファズを「VOX TONE BENDERのレプリカ」として打ち出しているようです。

 1966に採用されたトランジスタは固定されておらず、AC125、SFT353、OC75、SFT317、OC76から選ぶ、というアナウンスがされています。当方が所持するこの1966では、初段にSFT353、後段にSFT317を用いています。

 そしてゲルマ2石の回路の重要なポイントでもある、内蔵トリム・ポットによるバイアス調整機能、がこの1966にも付加されていますね。ついでではありますが、前回にも紹介したクリフのプラスティック製ジャック・パーツはイングランド・メイドです。

 前述した「モード切り替え」ですが、2点切り替えのロータリー・スイッチが内蔵されていて、こんな具合でセットされているんですが。正直デカ過ぎなパーツですね(笑)。ちなみにこの1966が発表された数年後、東京の楽器店、HOOCHIESからのカスタム・オーダーとして、この1966の「SUPER BEEモード」だけを追求したファズ(名前はそのまま「SUPER BEE」でした)がD.A.M.から発売されています。SUPER BEEはたしかシリコン・トランジスタ版もあったと思いますが、そちらはHOOCHIESのMさんの強い要望で実現した、とのことです。つまり、1966をさらに発展させて、D.A.M.の手によってFUZZ FACEのクローンを完成させよう、という企画意図だったと聞いております。

 さて音です。とはいえ、当方はオリジナルのTONE BENDER MK1.5を持っていないので、その直接の比較はできません。更に言えば、一個一個全部音が違う、とまで言われてしまうほどの、ゲルマ版オリジナルFUZZ FACEとの音比較も出来ません。その点はご容赦願います。
 前回のPROFESSIONAL MK2でも書きましたが、D.A.M.のファズはトップエンドがまろやかで耳障りがいい、という点は、この1966にもあります。その辺がもしかしたらD.A.M.の人気の秘密なのかもしれませんね。
 当方の持っているイタリア製TONE BENDER3機種との比較においても、この1966の方がゲイン(歪み、の意味です)は高めで、強烈な歪みを生む事ができます。
 MK1.5回路なので、もちろんギターのボリュームにどのように追従するのか、は凄く気になるところではあります。が、たまたま当方の所持するこの1966では、それほど美しいクランチが出るわけではありませんでした。これは当方の個人的な感想であり、実際に「ある程度は」ギターのVOLに反応するので、回路が間違っているとは思えず、純粋にトランジスタの個性なのかな、と思います。

 MK1.5回路は出力レベルがそれほどデカくはないので、アンプ側のボリュームをそれなりに上げて使うことが多いかと思います。つまり、アンプの特性がモロに出るファズ、と言えるのだと思います。

 ファズ、と言えばどんなギターでどんなアンプを通しても結局ビービージャージャーとギンギンに歪む、というイメージをお持ちの方も少なからずいるとは思いますが、ジミヘンの音やベック/ペイジの音を比較に出すまでもなく、実はそういうイメージの対極にあるような、繊細なエフェクターでもあると思います。その一番の例がこの1966ではないでしょうか。

 繊細、とか書いておきながら、それとは真逆ともいえる余談をひとつ。この1966には裏蓋に(いつものように)デイヴィッド・メイン氏のサインと、ちょっとしたリリックが手書きされています。この1966を買ってから「なんだこりゃ?」とずーっと思ってたんですが、なにやらそのポエムは原始宗教めいたフレーズが並んでます。

 で、この項を書くにあたって、改めてそのフレーズをググってみたのですが、アメリカ東海岸のマッチョなヘヴィー・メタリック・ドロドロ系(笑)バンド、モンスター・マグネットというアーティストの「SPACE LORD」という曲の歌詞だということが判りました。正直、D.A.M.とこのバンドの接点があんのかねえのか、一切何もわかりませんが、まあとりあえずこちらでビデオでもお楽しみいただけたら、と思います(実は当方は爆笑してしまいました。特に踊ってるオネエサン達に。笑)。
 

10.05.2010

D.A.M. Professional MK2

 
 そんなわけで、今回はイギリスのD.A.M.(DIFFERENTIAL AUDIO MANIFESTATIONZ / D*A*Mとも表記されますね)が発売したMK2クローン・ファズ、その名もマンマ「PROFESSIONAL MK2」をご紹介したいと思います。
 そんなわけとはどんなわけか、は前回のエントリーを参照いただければと思いますが、とにかくTONE BENDERクローンといえば、D.A.M.製品を外すワケにはいかない、という程に有名なペダルですよね。ロゴ・プリント内に「レプリカ」という文字が印刷してありますが、そんなところからも律儀なデイヴィッド・メイン氏らしいなあ、と思ったりもしました。
 出来うる限りオリジナルに忠実に、そして最高のサウンドを目指して、というわけでして、マス・プロダクツでは再現できないハンドメイド、イングランド・メイドにこだわった極右TONE BENDER、とでも申しましょうか(笑)。そんな性格のクローン・ファズであります。

 D.A.M.製のTONE BENDERクローンはこのMK2の他にも、MK1.5クローンである1966、MK1クローンの1965、MK3クローンのFUZZ SOUNDの4種類あるのですが、そのうち3つでこの大きな長方形の筐体が採用されています(FUZZ SOUNDのみ、小さくて平べったい別な筐体を採用)。そしてそれらの右サイドには黒い電池ボックスのフタが見えております。ようするに、ここをグイと押す事で電池が(エヴァのエントリープラグのように)ポロンとはずれ、ワンタッチで電池交換ができる、というワケですね。この電池ボックスを採用しているペダルは他社製品にも見かける事が出来ますが、実はこのパーツには接点的にちょっとだけ弱点があるらしく、ここ最近ではこの電池ボックスを採用したペダルを見かける事は少なくなってきました。D.A.M.の現行品ペダルも、これを使うことはほぼなくなったようです。

 さてその中身です。実は、66年のオリジナル・スペック同様に、このD.A.M製PROFESSIONAL MK2もトランジスタには3ケのムラード製OC75という選択で製作されたのですが、今回写真を掲載したものは、その限定版カスタム品ということで、トランジスタにはOC82DMが3ケ使われたもの、ということになります。
 D.A.Mはデイヴィッド氏とルイジさんという麗しい女性、の2人でペダル製作をしているブランドですが、このペダルはデイヴィッドのサインが入っていることから彼がアセンブリを担ったことが判りますね。そして、D.A.M.製品はカスタム・オーダーをした人の名をいつも記述するのですが、このPROFESSIONAL MK2は日本のキタハラ楽器の為に製作されたことが、同じく中のサインから判読できます。

 キタハラ楽器さんはD.A.M.製品の日本代理店ですが、とある情報筋から聞くところによると社長のキタハラ氏はなんと1973年7月4日のジギー・スターダスト引退ライヴを実際に会場で見た(!)、という恐るべき方(笑)なのだそうです。当方は直接の面識がないのですが、いつか機会があれば、是非お会いしてその話をお聞きしたいところではあります。それはともかく、デイヴィッド・メイン氏とキタハラ楽器さんの間にそんな「ミック・ロンソンを通じた関連性」があると知って、第三者のクセに当方はなんだか嬉しくなったりもしました(笑)。

 話を戻しましょう。なぜOC75に変えてOC82DMを使用したか。これはデイヴィッド本人の弁によると、60年代の終わりに若干数だけ作られたオリジナルTONE BENDER PROFESSIONAL MK2のOC81D版のサウンドを目指した、とのこと。
 回路が全く同じであっても、トランジスタの違いによるファズの歪みがどう変わるか、に関して、デイヴィッドによればOC75は「コンプ感とゲート感が強く、荒くて濃密な歪み」OC81Dは「オープンで滑らか、ダイナミックな歪み」と分析しています。ただし、彼が「THE EFFECTOR BOOK Vol.7」の連載原稿の中で強調していたのは「その型番よりも、歪み値の選定、バイアスの調整、そして回路の理解こそ重要」とのこと。電気に詳しくない当方でも、このことには強く同意せざるを得ません。
 ジミー・ペイジが使用したTONE BENDER PROFESSIONAL MK2にはOC81Dが採用されていた、というもっぱらの噂ではありますが、既にその真偽を確認する術はありません。それよりも、ペイジが実際にどんなサウンドを出していたか、そのほうが重要なのは、言うまでもありませんよね。
 ムラード製のゲルマニウム・トランジスタOC81Dは、既にOC75を上回る激レアっぷりで評判ですが、その銘柄よりもやはり実際のサウンドを確認したほうがファズのあるべき姿を調べるのに有用だろう、とは思います。

 さて、それではこのD.A.M.製PROFESSIONAL MK2はどんなサウンドか。前述したようにトランジスタはOC82DMで、デイヴィッド氏が「OC81D」のサウンドを狙った、ということは既に書きましたが、以下、当方の個人的なインプレッションになります。
 まず気づくのは、実はこれはD.A.M.製のファズ全てに関していえることですが、トップエンドがほんのちょっとだけ控えめで、耳障りがすごくいい、ということです。

 それからトランジスタに関して。JMIがOC75を3ケ使用したPROFESSIONAL MK2クローンを、またわがMANLAY SOUNDもOC75を3ケ使用した「SUPER BENDER(限定版)」を発売していますが、いずれも殆ど回路は同じです。故に純粋にトランジスタの違いを比べるのに都合がいいわけですけど、その比較でいうと、やはりOC82DMはデイヴィッドが言うように、若干キメの細かいマイルドさを伴ったMK2サウンド、と言う事が出来るかと思います。逆の目線で言うならば、OC75を3ケ使った回路のファズは、より激しくで荒々しいMK2サウンド、と言えますね。

 そして補足情報。D.A.M.製品に採用された英国製の黒いジャック。これはデイヴィッド自慢の一品(笑)、ほぼメンテフリーのパーツだとのこと。抜き差しするたびにプラグの接点を磨いてくれる、という効果を持っていて、マーシャルのアンプで長らく採用されていたパーツなんだそうです。
 それからこのデカい筐体に関して、その大きさの比較写真を撮ってみました(写真右上)。左からSOLA SOUND製MK2、D.A.M.製MK2、MANLAY SOUND製「SUPER BENDER」、そしてMXRの「MICRO AMP」です。これを見ると、D.A.M.の筐体がかなり大きいということがお判りいただけるかと思います(実は高さも結構あって、4cm以上あります)。とはいえ、さすが本家SOLA SOUND製。こちらは馬鹿馬鹿しい程にやっぱりバカでかいスねえ(笑)。
 D.A.M.製品は袋、説明書、ステッカー等、すべてハンドメイドの付属品(写真左)がついてくるんですが、その家庭的なところも当方の心をワシ掴みにしてくれたりします。

 最後に、実はJMIも、OC81Dを3ケ使ったTONE BENDER MK2のリイシュー・ペダルを2010年に発売してますが、こちらは英国ムラード製ではなくハンガリーの老舗TUNGSRAM製の再生産品ゲルマニウム・トランジスタ(DSIというブランド名が付いてます)を使用したものです。DSIのOC81Dは今も入手は割と容易ですし、値段もお手頃で、音も悪くないです(当方の比較だけでの判断ですが)。ただし見た目がムラード製のようなメタル・キャップではなくブラック・キャップなので、いまイチ人気薄なのかな、という印象です。