11.28.2011

J Mascis - Part 5


INTERVIEW BY KIT RAE. AUGUST 2, 2011
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An image of J from FUZZ: The Sound that Revolutionized the World. DVD available from Brink. Image © Brink Films, Inc.
JM:あ、そうなんだ。BIG MUFFのコピー品で好きなものはどれ?
KR:んーーーーー、6ヶ月ごとに趣味が変わるんだよね(笑)。ホントに「やたらと」試しているんだ。言うのは難しいなあ。好きになれない、っていうモデルはそんなに多くないし(笑)。やっぱりどれもこれも「違う」ペダルだからね。でも、そうだな、僕の73年製ラムズヘッドをクローンしたSTOMP UNDER FOOTのものとか、BYOCのLARGE BEAVERとか、ピート・コーニッシュのP-1、あと最近見つけた古いホーナー製のTRI DIRTY BOOSTERとか、FOXEY FUZZとか、そんなところかな。いいのは沢山あるよね(註:インタビューの直後、Jは速攻でSTOMP UNDER FOOTのVIOLET RAM'S HEADと'73 RAM'S HEADをオンライン注文した。また、ほどなく彼のお気に入りであるラムズヘッドBIG MUFFを送ることにもなったようだ。最終的にSTOMP UNDER FOOTにてそのラムズヘッドのクローンを、TYM GUITARSのクローンペダルよりも小さな筐体に収納して製作してもらい、3ケ程購入することになりそうだ、とのこと)
JM:どこが製作してるの?
KR:FOXEY FUZZはMJMっていうメーカーが作ってる。あ、僕が一番多く使ってるのは、ROYAL BEAVERっていうモノで、これはBIG TONE MUSIC BREWERYっていうところが作ってる。ここの人が、さっき僕が言ったBYOC(BUILD YOUR OWN CLONE)をやってるんだよ。なんていうか、BIG MUFFのトーン生産工場、っていうかな。歪み、ミッド・トーン、EQ、っていう3つの独立したゲイン・ステージが1列に並んでいるんだ。それぞれのゲイン・ステージを自分でカスタマイズできるようになっていて、ようはいろんなバージョン/種類の歴代BIG MUFFのサウンドを、それ1つで再現できる、っていうカンジ。おおまかに言えば、ね。あまりレンジが広いわけじゃないし、見た目はダサい(笑)。でも楽しいペダルだよ。
JM:おー、そうなんだあ。
KR:もういろんなブツがいろんなブティック・メーカーで出てるから、今から(クローン選びを)どれにしようかな、なんて考えてたら、そりゃ混乱するよね。もはやBIG MUFFは「FUZZ FACE化した」とも言えるのかも。FUZZ FACEクローンなんて、一体今いくつあるのか誰もわからないだろうしね。エフェクト・ビルダーなら誰でも一度は必ず作るし。今やBIG MUFFに関しても同じだね。でも、知っての通り、音は全部ちょっとずつ違う。オリジナルのBIG MUFFがそれぞれ全部違うサウンドを出してたんだから、それをトレースしてクローンを作って、各々が小さなモディファイを追加してたりしたら、違う音のペダルになって当然だけど。最近ではミッド・コントロール・ノブを追加したものも多くなってきてるね。通常のトーン回路を、例えばトレブルとベースとか、そういう2つにスプリットして、それぞれ2つのノブでコントロールするっていうモディファイなんだけど、それは最近のトレンドって言えるだろうね。ごく最近のトレンドだね。たしかにこうすると、ユニークなサウンドを作る事が出来る。でもなんとなく、中域にクセのあるトラディショナルなBIG MUFFのサウンドはやや失われてしまうっていう傾向にある。あのキャラが失われるのは、ちょっとね。
JM:ああ、わかる。それは「正解の」サウンドではないんだろうね。いつも僕は、小さくで、頑丈な、持ち運びしたすい、っていうモデルを探してるんだけど。
KR:FUZZ MUNCHKINが出たら、どうするの?


(写真左)TYM GUITARSのFUZZ MUNCHKIN試作品と、JのオリジナルBIG MUFF。(写真右)限定版となる、Jのアートワークが施されたもの。FUZZ MUNCHKINが製造されたことにより、Jはやっと自分のお気に入りのBIG MUFFサウンドを、小さな筐体に入ったもので実現でいたことになる。しかしティムはJに少数生産で、市場にはあまり出回らない、と伝えていた。それゆえ大量生産されることはなく、TYM GUITARSのウェブサイトを通じて少量だけが販売された。製造数はトータルで300ケ。ティムが言うには、Jは最初「どうせいつもフルにしているんだから」ということで、ゲインとボリュームのコントロールはなくてもいい、と思っていたようだ。しかしティムとしては、それだとコントロールの幅があまりにも少なくなるので、同レプリカ・ペダルの売れ行きを心配してそれらを排除することは結局しなかった。Photos © Tym Guitars

JM:決めてない。ティムはそんなに沢山アレを作るつもりはないだろうし、作ったとしてもティムが自分用に持ってるだけだろうね。
KR:たしか300ケ作る、ってことだったと思うけど(註:初回生産分300ケはすでに完売している)
JM:そうだね。
KR:ティムはJのアンプとかペダルとかを調整したりリペアしたりすることは?
JM:あるよ。何かしらオカシな症状が出てしまったモノが常にあるんで、オーストラリアにいるときはティムにそれらの面倒を見てもらってる。
KR:以前、アナログマンのマイク(・ピエラ)に調整とかやってもらってたよね?彼が大量のエレハモ・ペダルをJのために弄ってたのを知ってるよ。

(写真)2003年と2009年、J所有のいくつかのBIG MUFFが、アナログマンによって修理されているところ。映画「FUZZ〜」の中で、アナログマンのマイクがプロデューサーの質問に答える形でJのMUFFコレクションに関して喋っている。この撮影は2007年に行われた。Photos © Analogman

JM:そうそう。ところで、BIG MUFFのリペアをやってもらうなら、誰が一番いいと思う?
KR:クローンを製作してるビルダーの何人かは、もちろんいいと思うんだけど、でも彼らはMUFFの修繕・修理というよりは、むしろ自分の仕事、クローンを作って販売することのほうに執心してるからなあ。回路を追っかけていって、ダメなコンデンサを見つけて、別のパーツに取り替える、みたいな作業にあまり魅力を感じてはいないんだよね。僕の場合は、簡単な場所であればもう自分でやっちゃうことにしてるんだ。でも僕も、そういう調整とかに時間をかけるよりは、「使えるペダル」の棚の中からペダルをガっと掴んでそれを使っちゃう、ってタイプなんだよね。まあ僕も誰かいいリペアマンがいないかな、といつも探してるところなんだけど。
JM:ロジャー・メイヤーはどうかな? なかなかいいBIG MUFFのクローン・ペダルを、以前僕のために作ってくれた事があるんだけど。
KR:え、ホントに?
JM:もうなくしてしまったんだけど、あの例の宇宙船みたいな形のモノで。ノブは2つ。彼は「ボリューム・ノブなんていらねえだろ」っていう人だったからね。「どうせそこはフルアップで使うんだろ?知ってるぞ」って言われた(笑)(註:もちろんロジャー・メイヤーはジミ・ヘンドリクスのためにデザインしたファズ、特にOCTAVIAファズで有名な人物のこと。後に彼が製作したペダルの大半は、宇宙船のような筐体に収められている)

これがJがなくしてしまったというロジャー・メイヤー製カスタムBIG MUFF? ……いや、写真は実際にはロジャー・メイヤー製OCTAVIAで、Jはこのシェイプの筐体のことを指して「宇宙船」と言っている。
KR:うわ、それスゴイねえ。もう持ってないの?
JM:多分、なくしちゃったと思う。たまにロジャー・メイヤーが作ったMUFFクローンをeBAYで探してみたりもするんだけど、もう数千ドルとかになっちゃっててね。「あ?ありえねえよ」とか思っちゃう。間違いなく以前は持ってたんだけどねえ。
KR:あー、でも確かにビンテージのBIG MUFFも値段はどんどん上がっていってるねえ。トライアングルBIG MUFFが、何度も2000ドル以上の値段でeBAYで売られてたのを見た事あるよ。最近ではラムズヘッドも2000ドル・オーバーっていう世界になってきた。
JM:最近も青のラムズヘッドが売ってたね。1600ドル、だったかな。
KR:eBAYで?
JM:そう。
KR:多分、それを売りに出した人は、僕に以前「どのくらい価値ありますかね?」ってメールで質問してきた人だ。その時はだいたいの落札相場を教えたんだけど、でも最終的な値段、価値を決めるのは、結局お金を払う人次第だからねえ。僕はそんなに破格の値段を払ったことは一度もないんだけど。だって「もっといいものがもっといい条件であるかも」って思って待っちゃうタイプだから。
JM:うん、そうだよね。わかるよ。僕が持ってる赤のラムズヘッドは、全部500ドル前後だし。
KR:今なら500〜600ドルってあたりがラムズヘッドのだいたいの落札相場の平均値かな。まあ上下はするけど。
JM:そうだね。以前、赤のラムズヘッドで、下のほうに小さな丸いロゴが書いてあるものを落札したことがあるんだ。ほら、紫とかブルーのラムズヘッドにある、小さい円のロゴ。あれが赤なのにあるっていう。
KR:ウワー、それすっごくレアだよ。あ、でも紫がJのお気に入りのカラーなんだよね。紫でそのサークル・ロゴのものも、もう結構集めてるんじゃない?


(写真)こちらもJのBIG MUFFコレクションの一部。初期バージョン2で、レアな丸いロゴのラムズヘッドのものは73〜74年の製造、と思われる。特にこのロゴでインクが赤のものは貴重。右のほうにある個体のチキンヘッド・ノブはオリジナルではないが、それ以外の個体のノブは全てエレハモ・オリジナルのノブ。エレハモ社は(写真の左にあるような)例の大きく黒いDAKA-WAREのノブを採用する以前は、様々な形状のノブを採用していた。Photo © J Mascis

JM:いや、2ケだけだね。何度か見かけて、4度くらいだったかな、買うチャンスもあったんだけど、実際に買ったのは2ケのみ。
KR:ホントにレアなんだよね、それ。eBAYだけじゃなくて、掲示板で売りに出してる人も含めて、1年に1〜2度くらい見かけるかどうか、ってカンジ。
JM:掲示板?どこの?
KR:いくつかあるんだよ。THE GEAR PAGEもそのひとつだけど。イギリスで、誰かがD.A.M.の掲示板の中でトレードを持ちかけてたっていうのも見た事がある。あともちろんエレハモの掲示板とか。今じゃ有名なコレクターの人達は、みなどこかの掲示板で告知だして、あとは直接メールでやりとりする、っていうカンジ。もしくは僕に「こんなコレクション売りたいんだけど」っていうメールをよこすこともある。でも一番メジャーな方法はeBAYで売ることだろうね。
JM:やっぱりね。ところで一番最初のトライアングルBIG MUFFで、ON/OFFスイッチがなくて、ロータリースイッチになってる、っていうモデル、持ってる?
KR:ちょうど今、2ケ持ってる。今僕が持ってるトライアングルBIG MUFFのほとんどはもちろんスイッチ付きなんだけど。超初期のモノはプリント基板じゃないんだよね。PERF基板にハンドワイアードで配線されてて。場所によってはPtoP配線だった。
JM:そう、それ。
KR:あれって、モノにもよるんだけど、ゼッンゼン違う音するよね。
JM:そう。僕は1ケだけ持ってるんだけど、でもどんな音だったかは今ちょっと思い出せないなあ。
KR:10年前なら、あの超初期モデルって、100〜200ドルとか、そんなモンで買えたんだけどね。
JM:僕の友人もアレを1ケ持ってるんだけど、なんとかして彼からソレを買えないかなー、っていつもツツいてみたりはするんだけどね(笑)。今はもう熱心に探しまくる、ってカンジではなくなっちゃったんだけど、もし紫で安く入手できるのであれば欲しいな。もしくは、自分が全然知らないようなペダルで、でも持っておいた方がいいかな、っていうものがあれば買うだろうけど。
KR:わかった。Jのために僕がかわりに目をヒン剥いてチェックしとくよ。えーと、沢山質問させてもらって、ホントにありがとうね、J。すっごく貴重な時間だった。Jのファンも、これを読めば喜んでくれると思う。これからも頑張ってね。
JM:オッケー、嬉しいよ。それじゃ、ね。

Thanks to Amy at Red Light Management. Thanks to T for proofing. Article written in 2011
Interview by Kit Rae. Translated by Tats Ohisa. ©2011 Kit Rae / Buzz the Fuzz

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Shown above: J Mascis' massive vintage Electro-Harmonix Big Muff Pi collection (Photo © J Mascis)
 Jマスシス・インタビュー、いかがでしたか? 個人的にも『GREEN MIND』とその後の初来日公演(もう何年前のことかさえ忘れてしまってますが)にエラく感動したことをフツフツと思い出しますねえ。長文にも関わらずおつき合いいただいた方、有難うございます。慣れない英語、しかも口語の翻訳というのもとても疲れましたが、一応全文を(省略なく)訳してますので、皆様の今後のファズ人生(笑)に役に立てたら幸いです。ていうか、さすがにこれだけ語られてしまったら、誰でもBIG MUFFにも興味持ってしまいますよね。当然ですが当方も同じでして(笑)。んー、なんか1ケくらいラムズヘッドのクローンが欲しくなってきたな、なんて思った方は、おそらく当方だけではないだろうと思うのですが。あ、そういえばスペインのMANLAY SOUNDには、俺があげた2N5133がまだ余ってるハズだな…… あそこに作ってもらう手もあるなあ(笑)、などと勝手極まりない妄想がまた膨らんでしまいます。

11.27.2011

J Mascis - Part 4

INTERVIEW BY KIT RAE. AUGUST 2, 2011
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KR:エレハモ製品はたしかにあらゆる(ペダルの)種類の中でも、トップ・ランクだったからね。他社製品を脇に追いやるほどに。
JM:そうね。僕はそんなに繊細に選定して選んだワケじゃないけどね(笑)。ペダルをオンにした時に、何が起こったか。それが重要なわけで、ビミョーに音がどうかわるか、とかじゃなくて。わかるでしょ?
KR:今まで出たBIG MUFFのクローン・ペダルって、アレコレと試してみた? BIG MUFFの回路、っていうフレコミのペダルだけで30以上のクローンがいろんなメーカーから出てるよね。何年か前だけど、僕の知り合いのひとつのSTOMP UNDER FOOTていうメーカーが、Jの所にSCREAMING PANDAっていうペダル(*1)を送ったでしょう? それから他のメーカーの人も、MUFFのクローンペダルを作って、Jの住所に送った、って言ってたよ。

(写真)D.A.M.のRAMHEAD(左)と、ロンサウンドのHAIRPIE(右)。ロンサウンドのロンはペダル・ビルダーというだけではなく、エレハモの歴史研究家でもある。
JM:うん、試した。最初に試したのはD.A.M.のヤツ(註:D.A.M.「RAMHEAD」のこと。現在は廃盤。イギリスのD.A.M.製の同モデルは、ラムズヘッド・クローンとして最も賞賛されたモデルのひとつ)。なかなかいいよね、これ。それからHAIRPIEも結構好きだ(註:アメリカのRONSOUNDというメーカーが作ったクローン・ペダル。ビルダーのロン・ニーリーという人は元エレハモのスタッフで、現在もHAIRPIEは生産されている)
KR:それらはスタジオ録音で使ったの? それともたまたま周りにあったから使ってみた、ってカンジ? もしくはライヴで試してみた、ってことかな?
JM:最後にBIG MUFFをレコーディングで使ったのがいつだったのか、ちょっと覚えてないなあ…… でも今はレコーディングでマフを使うことはないね。マフはもう、僕の「ライヴ・サウンド」のためのアイテムだから。丁度今、いろいろ実験するためにスタジオの中にこもってるんだけど、バッキングのためにはたいていアンプ直でやることが多いね。フェンダーのTWEED DELUXE、もしくはVOXのAC15あたりでね。基本的にスタジオではこの2つのアンプを殆どの場合使ってる。で、その環境でいろんなペダルを試してみてるんだ。
KR:新作『SEVERAL SHADES OF WHY』ではどんなペダルを使ったの? これ、僕の超お気に入りのアルバムなんだよね。多分毎日ってくらい聞きまくってる。音もスゴくいいし、曲も最高だし(註:アコースティック路線の作品をもっと出してもらいたい、と思うようになった程、このアルバムを愛してる僕にとっては、これでも自分のオタク心を極力押さえ込んで質問したつもりだ)。

最新作『SEVERAL SHADES OF WHY』はサブポップ・レーベルからのリリース。ソロ名義のスタジオ・アルバムとしてはこれが初の作品となる。
JM:あ、そう? ありがとう。あのアルバムでは、BUILT TO SPILLっていうバンドのジム・ロスが作ったTONE BENDERのクローン・ペダルを使った。アコースティック・ギターではなかなかいい味を出せてると思う。そのTONE BENDERクローンが、MK1なのかMK2なのか、どの時期のバージョンをコピーしたものかは知らないんだけど(註:ジム・ロスに確認したところ、このモデルはTONE BENDER MK1をベースにした、と言っていた。実際のペダルは下の写真のもの。ジム・ロスはBUILT TO SPILLのギタリスト。自分たちで使うペダルを片っ端から自作してしまう人で、過去にJと一緒にツアーしたこともある。ジムはJERMSというコテハンで度々DIYペダル系のネット掲示板に顔を出し、その正確なペダル製作スキルはいつも賞賛されている)
KR:あ、たしかにTONE BENDERっぽい音だよね。間違いなくファズの音がする、って判ったんだけど、アコースティック・サウンドのときに何をどうやったのか、すごく興味があったんだ。エレキギターのサウンドは「WHAT HAPPENED」「CAN I」あと2〜3曲くらいでしか出てこないよね。でもあのファズ・ギターのサウンドは、完璧に曲にフィットしてる。
JM:でしょ? アコースティック作品なのに、ね。ほんのちょっとファズ・ギターを付け足した、っていうだけなんだよね。手にしたペダルは、何かしら必ず後でトライしてみることにしてるんだ。もちろん様々な組み合わせでね。理由があったわけじゃなく、なんとなく、なんだけど、今回はBIG MUFFではないな、という気がしてた。最近はスタジオでBIG MUFFを使うことも殆どなくなったんだけどね(註:知る限りでは、Jが最後にBIG MUFFをスタジオで使用したのは、2000年のJマスシス+フォッグのアルバム『MORE LIGHT』と思われる。この時Jは50年代後半のビンテージ・テレキャスター、フェンダーのツイードBANDMASTER 310の間に、ラムズヘッドBIG MUFFを挟んでいる)

(写真)JERMSことジム・ロス氏がJの為にカスタムメイドしたTONE BENDER MK1のクローン・ペダル。Jの最新ソロ作で使用された。Photos © Jim Roth
KR:アコースティックで使うには、マフでは「歪み過ぎ」って感じ?
JM:いや、スタジオでもまだまだファズを使ったアイデアとかあるし、やりつくしたって感じはないね。ライヴでは、いつもの僕の音、なんだけど。
KR:ライヴでは、BIG MUFFと他のペダルを組み合わせてるよね。
JM:そういう場合もあるね。時々だね。いつもBIG MUFFはオンにしっぱなし。もし他のファズ、たとえばオーストラリアのMC-FXが作ったSUPER FUZZクローンなんかのことだけど、それがオンになってたとしても、ね。それから、たまになんだけど、DRサイエンティストが作ったFRAZZ DAZZLERもそうやって使う。これ、使ったことある? MUFFと組み合わせると、RANGEMASTER+MUFFっていう感じの音になるんだよ(註:Jは他にもアナログマン製の、RANGEMASTER回路とFUZZ FACE回路を組み合わせたSUN-LIONというペダルも使っている)


(写真)Jは自分の使うファズを熟知している。これは最近の彼のペダルボードの中身から。左上はDRサイエンティストのFRAZZ DAZZLER。右上はZ.VEXのDOUBLE ROCK(カスタムメイド)。左下はアナログマンSUNLION(RANGEMASTER+FUZZ FACE)、そして右下がMC-FXのSUPER FUZZクローン。FRAZZ DAZZLER+DOUBLE ROCK+SUNLIONはJオススメのセッティング。JはSUPER FUZZのノブはいつも11時で固定している。
KR:MUFFユーザーの大半の人がそうしてるように、Jも他のファズ、もしくはオーバードライブ・ペダルをブレンドさせて使うんだね。TYM GUITARSが作った、J所有のラムズヘッドをクローンしたFUZZ MUNCHKINの場合はどう? どうやって使うつもり?
JM:ティムともちょうどそんな話をしてたんだ。僕らがオーストラリアにいるときは、彼はほんとにいろいろと助けてくれるんだよ。ティムは自分でもいろいろと試したがっていたね。僕のラムズヘッドの回路をマジマジと眺めたあと、いろんな組み合わせで、どういう音の違いが生まれるか、とかをね。
KR:オリジナルのラムズヘッドとFUZZ MUNCHKINを比べてみて、どうだった?
JM:なかなかいいよ。もちろん完全に一致するわけなんてないけど、でも今まで自分が所有した物の中では、一番オリジナルに近い。今まで代用してきたどのペダルよりも気に入ってる。想像できると思うけど、一番最初にティムが完成したレプリカを試したときは、何故かわからなかったけど、あまり歪まない、ラウドじゃない、ってことに彼も気付いた。もう一度作り直したら、ちょうどオリジナルと同じくらいに十分な歪みと音量が出た。
KR:レプリカをライヴで試してみたことはもうあるの?
JM:いや、ライヴではまだだね。こないだまではD.A.M.のクローンと、HAIRPIEをライヴで使ってた。この2つもどっちもいい感じなんだよね。

(写真)Jが自分で手がけたFUZZ MUNCHKINのラベル。70年代のBIG MUFFバージョン2で用いられた、アーノルド・ベックリンの例の書体が使われている。art © J Mascis
KR:たしかFUZZ MUNCHKINのラベルは、Jが自分でデザインしたのがあるよね。
JM:そうそう。ティムが、彼の友人がデザインしたっていう案を僕に送ってきたんだけど、あんまりそれが僕には好きになれなかったんだ。それで…… まあ結局自分で、というわけで。だいたい僕は小学2年以来美術なんてものには縁遠かったし、それ以降上手くなったわけでもないけど、でもまあ、自分の思うようにはだいたいなったと思うよ。
KR:ラベル・デザインを見てすぐに、「これはJのペダルだぞ」ってことを主張してる、って思ったよ(笑)。とにかくいつもTYM GUITARSのカスタム・ペダルのデザインは最高なんだけど、このFUZZ MUNCHIKINは一風変わってていいよ。
JM:ティムには会った事ある?
KR:彼が作ったバージョン3のクローンとか、そういうカスタム・ペダルのラインナップをネットで見て知ってはいたんだ。で、随分前のことだったけど、彼が僕に一度メールをくれたことがあってね。ナイスガイっていう印象がある。僕がやってるBIG MUFFのウェブサイトを彼が見つけたらしくて、そこにはJのペダルボードの写真を何枚か載せていたから、彼が僕に、Jのラムズヘッドの写真を何点か送ってくれたんだ。おそらく彼がJのラムズヘッドのリペアを施したときの写真だと思う。それ以来、何度もレプリカのプロジェクトに関しては話し合いをしたよ。
(写真)TYM GUITARSのティムの作業場にて、Jが最もお気に入りのラムズヘッドBIG MUFFが解析されている模様。JのBIG MUFFは何年にもわたって多くのモディファイが既に施されているが、その殆どの作業はティムの手によるもの。
 サーキットはすべてオリジナルのままだが、唯一パワー・サプライのジャックにはDC(直流)ノイズのフィルタリング・パーツが追加されている。3つのノブはすべて交換されており、回路基板は保護のためにマウント・ポストの上に固定されている(筐体の上面から、その追加ポストのためのネジが見える)。ON/OFFスイッチも交換済み。オリジナルのDAKA-WAREノブはチキンヘッドのノブに交換されている。回路に搭載されたパーツの定数は、76〜79年頃にエレハモが採用していたものと同じもののようだ。
 Jのラムズヘッドのトーン・ポットは(昔のオリジナルBIG MUFFの仕様のような)一番上から真下まで可変するものではなくなっていて(*2)。この時入れ替えで交換されたポットは右側に回すにつれて可変する(最も一般的なポットの可動範囲)というものになっている。
Jはトーン・ポットを11時で固定して使用しているが、ポットの配線は内部で(通常のBIG MUFFとは)逆の向きで配線されているので、トレブル側/ベース側、の向きも逆向きで作用する。Jはボリューム・ノブとサステイン・ノブをフルで使用、これによって強烈な飽和サウンドを得ている。
 ティムは自身のブログの中で、このレプリカの製作経緯を公開している。Photos © Tym Guitars


*1 文字通りパンダ・カラーのフィニッシュが施されたSTOMP UNDER FOOTブランドのSCREAMING PANDAは2009年製造。現在は廃盤となっているが、その代わりにSTOMP UNDER FOOTと本インタビューの主、KIT RAE氏の共同開発でラムズヘッド・バイオレット・バージョンをクローンした(名前もモロの)RAM'S HEADというペダルがリリースされている。公式HPでデモ演奏を披露してるのはKIT RAE氏本人。
*2 今回当方のつたない英語力でこのインタビューを訳してみて、一番意味不明だった部分がここです。上記では英文をなるべくそのまま日本語にしましたが、これでは(当方を含め)誰もその意味がわからないと思います。そこでTHE EFFECTOR BOOK編集長に助けを乞い、概ねの意味を以下に記してみます。初期(トライアングル期〜ラムズヘッド期)のBIG MUFFのトーン・ポットは基本的にハイパス/ローパスのミックス・ポットとなっていて、理論上真上の位置で50:50、となるハズなんだそうです。しかしその初期のMUFFのトーンポットはモノによってその配置位置(向き)が異なり、50:50になるハズの場所が真上、つまり12時方向を向かない、というブツがあるんだそうです。おそらくJのラムズヘッドもそれに該当し、また更に上記で触れられているようにポットは交換されていて、ファクトリースペックとは異なるポットの作用/設置、となっていることは間違いなさそうです。。



11.26.2011

J Mascis - Part 3

INTERVIEW BY KIT RAE. AUGUST 2, 2011
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KR:もしまったく同じサーキットのラムズヘッドを2ケ発見できたとすれば、それはすごいレアなケースだよ。ただし、紫と青のラムズヘッドの中には、全く同じ回路を使ったっていうモノがあるっていうのは良く言われてることだけど。一般に「バイオレット・バージョン」って呼ばれるもので、Jが持ってる#2のラムズヘッドがそれに該当するかどうかは判らないけど、それらは凄くいい音が出る、といわれてる回路なんだよね。もちろん、もしどこか回路になんかのミスがあれば、その特例からは外れるわけだけど。


(写真)ダイナソーJRのジャケ3枚。バンドのロゴは、70年代にエレハモの(そしてJが愛するBIG MUFFの)商品ラベルに採用されたあの有名なアーノルド・ベックリン書体と全く同じに見える。偶然の一致?(*1)
JM:確かにね。
KR:コレクションって、いま全部で何個くらい持ってるの?
JM:わかんないなあ。BIG MUFFの数のこと?
KR:そう。
JM:40ケくらいかなあ、多分。
KR:思ってたより少ないね。映画(『FUZZ: THE SOUND THAT REVOLUTIONIZED THE WORLD』のこと)の中で、なんだか凄い量があったのを見たことがあるんだけど。
JM:あー、そうね。
KR:ネットで検索すると、Jのコレクションが写ってるその映画のスクリーンショットがいくつかあるんだよね。みんなJこそが地球上で一番エレハモ製品をコレクションしてる人物に違いない、って思ってると思うよ。
JM:エレハモが他の会社のために作った製品って沢山あるよね。全部で何社あったか知ってる?
KR:えーと、ちょっと待ってね。OEM製造したのは4社くらいあったのかな? Jも何個か持ってたよね。マーベルトーンとか……
JM:ああ、マーベルトーン持ってるよ。
KR:ウォバッシュとか……
JM:ウォバッシュ、持ってる持ってる。
KR:あと、なんだっけ、名前思い出せないけど他にOEM供給してた会社あったなあ。凄いレアなことで有名なブツなんだけど(註:ライル社のDISTORTION SUSTAINERのこと(*2))。
JM:ギルドとか……
KR:初期ギルドのFOXEY LADYはBIG MUFFのリ・ブランド製品だよね。エレハモがギルドに供給したFOXEY LADYは、3種類のバージョンがあるんだよね。

(写真左)こちらもJのコレクションより。エレハモ社がマーベルトーンやウォバッシュなど、他社のためにOEM(ORIGINAL EQUIPMENT MANUFACTURERの略)提供した製品群。それとリ・ブランド(中身は全く同じで、名前だけ違う)製品の数々。Photo © J Mascis



(写真上)Jが持っているギルドFOXEY LADYのコレクション。70年〜75年頃にかけて、エレハモ社はギルド社のためにいくつかのバージョンを提供していたのだが、それらは当時のBIG MUFFと中身が同じものだった。とてもレアな2ノブのエレハモAXIS(前列一番右のペダル)は、1968年頃に同社がギルドのために初期FOXEY LADYとして提供してたもの(その左隣のペダル)と同じもの。Photo © J Mascis


KR:マフにどっぷりハマる前って、他にも古いファズとか使ったりしてた? もしくは、もうずーっとBIG MUFFだけが、Jのメイン・ディストーション・ペダルだったのかな?
JM:あまり沢山試してないね。もう「クリーン・サウンドかBIG MUFFか」っていう頭だから。あ、でも、TUBE DRIVERは使ってるな。
KR:BKバトラーのTUBE DRIVER?
JM:そうそう。あれが僕の「クリーン」サウンドなんだよね。僕はいつも「BIG MUFFの音量を下げるため」のペダルを一個使ってる。リズムを刻む時なんかのためにね。で、リードを取る時には切り替えて、ワイド&オープンな音にする。だからTUBE DRIVERみたいなペダルをいつも、轟音ではない時用、音量を下げる時のために使うんだよ。まあTUBE DRIVERはそんなにクリーンな音ではないけど(笑)。知ってると思うけど、アンプを通すとBIG MUFFのボリュームだけで音量をコントロールするのって難しいでしょ? いつも音量は最大ってカンジになっちゃう。どういう仕組みでそうなってんのか、全部調べたりもしたんだよ。BIG MUFFをオンにした時にもっとデカい音量で出音を出したかったんだよね。これって、MUFFユーザーもあまり理解してなかったことだよね。この場合、ブースター・ペダルを使うのは不向きなんだよね。アンプがただブーストされるだけで。だから、もしBIG MUFFをよりアッパー&大音量で鳴らしたい時は、それ以外の全てのセッティングを「静かに」してやる必要があるんだ。
(写真)BKバトラーのデザインによる、TUBE DRIVER2種。Jはライヴで「クリーン」サウンドを得る際にこれを使うという。片方は初期5ノブのTUBE WORKS製品。もう片方は現行の4ノブ版。共に現在もJのペダルボードには搭載されている(2011年現在は、いずれも4ノブ・バージョンに変更されている)。Photos © Kit Rae
KR:逆に言えば、どれだけ多くの人がセッティングをどうやればいいか今だ悩んでるか、ってことなんだろうね。Jはそのペダルを「歪みを減らす」のではなくて、「音量を下げる」ために使ってる、ってことでしょう?
JM:BIG MUFFの、ってこと?
KR:リズム・プレイに際してBIG MUFFのボリュームを下げたい時、って意味。
JM:ああ、ただのボリューム・ノブ代わりだよ。マスター・ボリューム扱い、ってこと。
KR:文字通りマスター・ボリューム・スイッチとして使ってる、と。リズム・プレイのときはそれをオンにして音量を下げて、リード・プレイになったらそれをバイパスさせて最大の轟音を得る、と。
JM:その通り。BIG MUFFをクリーンでも使いたいときにね。えーと、同じ音質のままでも、そんなに音量も出てないときは、コントロールしやすいんだよね。まさにリズム・プレイ向き。だから、TYM GUITARSのペダル(註:オーストラリアのTYM GUITARS製FUZZ MUNCHKINのこと。2つのフット・スイッチがついている)には、そういう機能を最初からつけたんだ。それがもう1個のフットスイッチの意味。マスター・ボリューム機能だね。だからそれさえあれば、1ケのペダルでリズムでもリードでも使えるようにした。
KR:あ、てっきり僕はあのTYMのペダルのスイッチは、トーンをバイパスするためのモノかと思ってた。ほら、70年代後期のBIG MUFFには、トーンをバイパスさせる機能のスイッチっていうのがあったから。だけど、ライヴもスタジオ・ワークも含めて、ダイナソーでのJのサウンドを聞いてると古いBIG MUFFで「トーン・バイパスさせた」音、とは思えなかったんだよね。それの意味がやっとわかったよ(註:TYM GUITARSのティムに確認したところ、そのもうひとつのスイッチは文字通りボリューム・ポットをバイパスさせるスイッチだ、ということを教えてくれた。スイッチを入れればリズム・プレイ用に低い音量に設定、スイッチを切れば、完全にボリューム・ポットはバイパスされて、リード・プレイのために最大で出力される、とのこと。ようはボリューム・ポットをフルにしたのと同じ効果、という意味)
JM:そういうこと。1ケのペダルでできるようにしたかったんだよね、リズムもリードも。つまり、基本的には僕はBIG MUFFのボリュームはいつも最大にしてる、ってこと。音を下げるときは、スイッチ機能を使う。
KR:ダイナソーの初期の頃って、どんなアンプ使ってたの?特に最初の3枚のアルバムで。
JM:最初のアルバムの時は、60Wの初期のメサブギーMK1だった。だれかがスタジオに持ち込んでたアンプだったんだよね。音はなかなか良かったよ。あと、ちょっとだけマーシャルも使った。でも殆どはブギーのMK1。他のアルバムはねえ、『BUG』と『YOU'RE LIVING ALL OVER ME』では50Wのマーシャル1987ヘッドを使った。『BUG』以降のアルバムでは、たしか殆どマーシャルの1959 SUPER LEADだと思う。わかるでしょ? お金を沢山貰うようになってから、プレキシとか、そういうのに興味を持つわけだよ(笑)。
KR:BIG MUFFと組み合わせる時の、お気に入りの組み合わせってある?
JM:いや、もうなんでも全部100Wのプレキシ。最近ではハイワットのアンプもよく使うんだけどね。僕はマーシャルの100Wヘッドとハイワットの100Wヘッドを一緒に鳴らした音が好きなんだ(註:2009年以降、JはハイワットのCUSTOM 100W2つとマーシャルのヘッド1つを並べて使っている。しかし2011年には、マーシャルのヘッド2ケに挟まれてハイワッドのヘッド1ケ、というセッティングになった。彼はREEVESというハイワット・クローンのヘッドアンプも所持している)


(写真)2011年現在の、Jのスタック・アンプの模様。ハイワットCUSTOM 100、ビンテージのプレキシ100Wヘッドが2つ、それらを全てマーシャルのキャビに接続している。Jはいつも、マーシャルでは「右上」のインプット(=CH2のBASSインプットのこと)を使い、ノブの位置は、トーン=10、ボリューム1=2、ボリューム2=6、にセッティングしている。そのマーシャルのサイドチェーンを使い、左(CH1)からハイワットのノーマルCHインプットにチェーン。こちらのノブの位置は、ボリューム=2時半、ブリリアント・ボリュームはオフ、ベース=12時、トレブル=1時半、ミドル=1時半、プレゼンス=1時半、マスターボリューム=1時、というセッティング。(*3)

KR:アンプ、スゴイねえ。僕もハイワット使ってるよ。ハイワットとBIG MUFFって、もうお互いを生かし合うために生まれた、と思うくらい相性いいよね。そういえばJは、MUFF以外のエレハモのペダルも使ってたよね? ELECTRIC MISTRESSとか、SMALL CLONEとか、CLONE THEORYとか……
JM:うん、そうだね。MISTRESSは僕が2番目に買ったエフェクターだった。だから、MUFFとMISTRESSは、ギターを弾くようになって以来ずーっと僕のメイン機材の2ケ、ということだね。それからCLONE THEORYをどっかのタイミングで入手した。その後にMEMORY MAN、だね。
KR:初期の時期から、エレハモ製品にハマっていったっていうのは、何か理由があったのかな?
JM:あー、ただ試奏してみたら、なんだか考えられないようなエクストリームな音が出たオンリーワンのモデル、って気がしたんだよ。他に試したペダルは、どれもビミョーな印象しか残らなくて、僕のテイストには不十分って気がした。それが一番の理由だね。

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*1 アーノルド・ベックリンはフォント(書体)の名前で、1904年に創作された、ということになっています。実はそのフォントのデザインには元ネタがあり、19世紀のスイス出身の象徴派画家アーノルド・ベックリン(独語読みだとアルノルト・ベックリン/Arnold Böcklin 1827-1901)という人の作風からインスパイアされた書体だったため、そのまま画家の名が書体の名前になったのですが、書体を作った人と19世紀の画家は直接の関係はありません。この書体は60〜70年代に「アールヌーヴォー再発見」ブームに相まって再評価された書体なんですが、おそらく音楽ファンに一番馴染みがあるのは、ロジャー・ディーン(イエスとか、プログレ系の名作ジャケを多数デザインした人)が使用したものだろうと思われます。
*2 マーベルトーン、ウォバッシュ、ライル、いずれもエレハモ社からOEM供給を受けていたブランドです。前2つはJの写真の中にでてきますが、ライル・ブランドのブツは右の写真のものになります。ライル社はギターも売ってたブランドですが、そのライル・ギターは60〜70年代にかけて日本のマツモクが製造していた、というブランドでもあります。Photo © Gino Mazzocco
*3 ちょっと写真が見当たらなかったんですが、実はJはモニタリング用にもうひとつ、フェンダーと思われるコンボアンプを使用しています。エフェクトの出力は基本的にモノアウトで、後ろのスタックアンプは全部チェーンで鳴らしていると思われますが、それとは別にもう1系統の出力がコンボアンプに刺さっている模様です。このネタ元はTHE EFFECTOR BOOK編集長が自分で見て確認したことなので、間違いないと思われます(笑)。


11.24.2011

J Mascis - Part 2

INTERVIEW BY KIT RAE. AUGUST 2, 2011
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KR:やあ、J。まず予め言っておくと、今日は君にBIG MUFFのことについて、いろいろ聞きたいんだよ。それから、ダイナソーJRなんかの作品で長年BIG MUFFを多用してるっていうだけでなくて、Jは凄まじいコレクターでもあるわけで、そんな話をしたいんだ。もちろん、TYM GUITARS(*1)からもうすぐお目見えする事になってるJの愛機ラムズヘッドのレプリカ「FUZZ MUNCHKINS」に関してもね。
JM:いいね。
KR:おそらく今でも、BIG MUFFにどっぷり、だよね?
JM:うん、もうね、その中でグチャグチャになってる。ってカンジだね。最近はどうしても欲しいっていうペダルもあまりないんだけど。
KR:今持ってるBIG MUFFコレクションって、写真に撮ってある?
JM:ああ、全部クローゼットの中にしまってあるハズだよ。写真に撮って、後で送るよ。
KR:一番最初にBIG MUFFをプレイした時のことなんだけど、いつの事かな?
JM:んー、多分ギターを弾き始めたとき、だね。丁度ダイナソー(バンド)を始めようって熱心だった頃。すぐに自分にはファズ・ペダルが必要だ、ってわかったんだ。どうやって入手したかはあんまり覚えてないなあ。たしかショッピングモールかどこかで買ったのかな。その時に出会ったDELUXE BIG MUFFはすぐ購入した。最初に買ったBIG MUFF、だね。
KR:それは初期のダイナソーのアルバムでも使ってたの?
JM:うん。最初の2枚のアルバムではそれ。だけどその後、ある夜に盗まれちゃってね。で、自分が持ってたMUSIC MANの100Wのアンプ・ヘッドとのトレードで、新しくBIG MUFFを入手した。その人物が持っていたことを前から知ってたし、僕はそのMUSIC MANのアンプの音が好きになれなかったしね。相手は「アンプとファズ1ケの交換なんて、馬鹿じゃねえの?」と思ってたようだよ(笑)。でも……
KR:それもDELUXE BIG MUFF?


(写真左)エレハモSOUL PREACHER COMPRESSORにも採用されたICチップが搭載されている基板を持つ時期のDELUXE BIG MUFF。(中央)黒地で白ヌキロゴという珍しいカラーリングのDELUXE BIG MUFF、それと70年代中期のビンテージLITTLE MUFF2つ。(右)1971年製造と思われるビンテージのLITTLE MUFF。いすれもJの所持するコレクションより。Photos ©Kit Rae(left)/©J Mascis(middle, right)

JM:そう。でも、そのMUFFは以前のモノとは音が違ってた。
KR:DELUXE BIG MUFFは2〜3度くらい回路が変更されてるし、ヴァージョンもいくつかあるし。
JM:え、そうなの?
KR:うん。小さな変更点もあった。確かに音は、ビミョーに違うんだよね。
JM:マジか。そのとき僕が入手したのは、オフにしても奇妙なファズの音が残る、っていう幽霊ファズだったんだ(笑)。オフでもほんの少し歪みが残ってるカンジで。
KR:ああアレ、知ってる知ってる。同じ現象がおこるMUFFを僕も持ってるよ。アレ、回路のせいで自然とそうなってしまうんだよね。スイッチをオフにした時、信号はトゥルーバイパスされずにひとつだけICチップを経由してしまうんだ。そのICチップがちょっとだけ信号を増幅させてしまって、それから出力される。だからどうしても少しファズっぽい音になってしまう。
JM:あー。
KR:トランジスタ仕様のBIG MUFFに移ったのは、いつ頃?
JM:おそらく最初にアメリカ・ツアーをした頃だったかなあ。アリゾナで、このラムズヘッドのBIG MUFFを見つけたんだ。それは今でも使ってるよ。


(写真左)1997年にボブ・ブラッドショウ(CAE)がラックにセットアップした時のJのエフェクター。使いまくった(がオリジナルのノブが幸運にも残っている)70年代ラムズヘッドのBIG MUFF Pi、それから70年代初期のものと思われるトライアングルBIG MUFF。#1と#2のステッカーはボブ・ブラッドショウが添付したもので、スイッチング・システムの繋ぎ場所を把握するためのもの。(写真右)ラムズヘッドのBIG MUFF、DELUXE ELECTRIC MISTRESS、そしてMEMORY MAN。Photos © Hank Reynolds



(写真)インタビューの時にJが丁度持っていたラムズヘッドのBIG MUFF。テープの張り跡がかなり残ったままで、使い込まれた跡が伺える。#2のステッカー、それと交換されたノブが付けられている。Photo © Tym Guitars
KR:あ、これが#2?
JM:そう。たしかボブ・ブラッドショウがラックにマウントする時に、#2って番号を付けたんだと思う。ラックにはもうひとつトライアングルBIG MUFFも入ってたからね。そっちには#1ってラベルが付けられた。理由はよくわかんないけど(註:1997年「HAND IT OVER」ツアーに際して、ボブ・ブラッドショウはそれら2ケを同時に、スイッチング・システムを含めてJのラックにセッティングしている。その後Jはエフェクトをフロアに置くスタイルに戻したが、CAEのスイッチング・システムは今もそのまま使用している)(*2)
KR:それはスタジオでもツアーでも両方使ってるの?
JM:うん、その通り。そのセットにして以来、メインのエフェクト・システムとして使ってる。もちろん残りのツアーでもこれを使ったし。もうこれにしてからはこのセッティングに夢中で、すっかりDELUXE BIG MUFFのほうは諦めて、ラムズヘッドの方に移行したってカンジ。ラムズヘッドのBIG MUFFだけでも大量に持っているんだけど、これだけ好きになったのはこの1ケだけだね。TYM GUITARSのティムが言ってたんだけど、エレハモは間違った回路とか、どこかしら違う回路を使ったこともある、ってことだから、だから僕の持ってる他のものもそうなのかな、と……
KR:エレハモは、初期のMUFFにはホントに沢山の変更とかパーツ違いとかあるからねえ。
JM:彼(ティム)は「ワイアリングが間違ってれば、偶然音がよくなる、なんてことは絶対にない」と言ってたね。
KR:エレハモは一貫して、定数やパーツを一定に定めてたことがないんだよね(笑)。でもそのせいで、これだけ沢山のBIG MUFFがあって、全部音が違う、なんていうことにもなった。ワイアリングが間違ってたなんてことは滅多にないとは思うんだけど、もしワイアリングが間違ってたらどんな音になるのか、ちょっと想像できないな。

註:私もこの件に関してティム本人に聞いてみた。彼は「正常なパーツで正確にワイアリングされていたとしても、パーツの定数が間違っていれば、過去のビンテージBIG MUFFとあまりにもかけ離れた音になる。僕がJに言ったのは、おそらくJが持っている他の(酷い音のする)BIG MUFFは、エレハモがどこかで間違った定数のパーツを使用してしまった個体なんではないか、ということ」と説明してくれた。しかしながら、Jが使っているBIG MUFFの回路は実際には現代的バージョンで、76年〜79年あたりに製造されたBIG MUFF(バージョン2後期、もしくはバージョン3と呼ばれるモデル)としてはいずれも一般的な定数を持っていたもの。私も同じものを2つ所有しているが、エレハモが製品構成にかなり律儀に一貫性を持たせていた頃のモデルであり、この頃のMUFFは皆かなり同一のサウンドが約束されるものなのだが。

JM:ああ、だからティムは僕にそう言ったのか。僕が言いたかったのは「全部音が違う」ってことなんだよ。僕は過去、どれひとつとして「全く同じ音が出るMUFF」ってのを経験したことがないね。
KR:僕は長い事自分が持ってるあらゆるMUFFの回路を研究しまくってるんだけど、ラムズヘッドは12ケくらい持ってるかな。あ、いや、22ケだったな。で、そのうち20ケは回路が異なっていたね。構成とか、定数とか。
JM:ああ。
KR:当然音は皆違う。ところで、その後あらゆるBIG MUFFを集めていくようになったワケだけど、どういうカンジで最初のラムズヘッドから卒業することになったのかな?
JM:ツアーをやり出して、お金が沢山入るようになってからだね。タコマに、GUITAR MANIACS(*3)ていうお店をみつけてね。ここは膨大な数のエフェクターを売ってる店で、そんなに沢山売ってる店はそれまで見た事もなかったよ。ここならもっと古いBIG MUFFもあるだろう、と思った。ラムズヘッド以前のものとか。ここには青のラムズヘッドもあって、それは速攻で購入した。それからはもうビンテージものをディールしてるような(エフェクターに)詳しいショップに行くようになった。もう、見に行くだけで、いつだって欲しくなるんだよ(笑)。で、ちょっとしたらまた束で買ってくるような。青のラムズヘッドは持ってる、次は紫の……ってカンジで。

(写真)J所有のトアイアングルBIG MUFFコレクションの一部。Jは97年頃おおむね10ケ程MUFFを持っていたが、今では40ほどにまでコレクションは膨れあがっている。真ん中にあるスライドスイッチのないモデルは、極めて初期の(おそらく1970年製造と推察される)バージョンのBIG MUFF。Photo © J Mascis


(写真)Jが所有してる「赤黒」カラーのラムズヘッドBIG MUFFコレクションの一部。真ん中の「ON」の文字が消えてしまってるものは、これが赤いラベリングが施されたBIG MUFFヴァージョン2初の赤カラーの個体であることを示している。これらはエレハモが70年代の中盤〜後半にかけて、初めてDAKA-WARE(*4)のノブを採用したモデルでもある。Photo © J Mascis

KR:ほとんどがビンテージのアメリカ製BIG MUFFだよね? いままでJがたくさんのトライアングルとかラムズヘッドのMUFFを持ってるのを見たけど、ロシア製MUFFにハマったことは、過去一度もないの?
JM:ないねえ。トライアングルにハマったことはちょっとの期間だけあった。でも大半の時間はラムズヘッドに夢中だった。ねえ、いろんなカラー・バリエーションのラムズヘッド、持ってる?
KR:おそらくエレハモが使ったことのあるカラー・バリエーションは全部持ってるよ。多分、エレハモは全部で5色か6色、使ってる。
JM:僕が持ってるのは、紫、青、赤、あと黒、だなあ。

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*1 オーストラリアのブリスベンにあるギター・ショップ(ですがレコードやCDも売ってます。他に楽器レンタルやスタジオ運営、リペア業等も)。オリジナル・ギター・エフェクターの制作・販売も行っています。HPはこちら。「Jのラムズヘッドのレプリカ」に関してはインタビューの後半で詳しく紹介されています。
*2 97年頃のJのラック・エフェクト・システムに関しては、CAE(CUSTOM AUDIO ELECTRONICS)の公式HP内にあるJ MASCISのコーナーで、他の写真も数点見る事ができます。現在とはいくつかペダルが入れ替わってますね。
*3 アメリカ北西部の端のほう(シアトルのすぐ下)ワシントン州タコマにあるギターショップ。自前のHPは持っていないようなので、品揃えとか店の雰囲気なんかはちょっとわからないママなんですが、同店はFACEBOOKやMYSPACEのページを持っているようなので、そこからアクセスは可能かもしれませんね。
*4 DAKA WAREは米シカゴにある老舗の「ノブ・パーツ」ブランドの名前(会社名はデイヴィス・モールディング社という名前)で、チキンヘッドとかあらゆる形状の多種多様なノブを作ってるブランドなんですが、どうもインタビュー中ではこの「DAKA WARE」という単語を黒くて丸いノブの形状、という意味で使っているフシがありますね。世間的には「ポインター・ノブ」と呼ばれているようですが。余談ですけど、大昔、まだハンドシフトだった時代のハーレー・ダヴィッドソンのシフト・ノブもDAKA WARE製でした。