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9.27.2012

VOX - Wah-Wah Distortion (Late 60's / Made In Italy)


 前回VOXブランドの「HASTINGS SERIES」という英国カラーサウンド製ファズワウをご紹介しましたが、こちらはそれよりも前の製造による、VOXブランドのファズワウ・ペダルです。製造年は67〜69年、と思わしきブツですが正確な製造年はわかっていません。
 これまでも何度か書いてきたように、VOXブランドは66年末からイタリアの工場で自社製品の製造を初めていますが、以来、イタリアのEME(後にJENとなる工場)、それから同じくイタリアのEL-EFといった製造元でのOEM製品があります。で、こちらはそのEL-EF製造のOEM製品、と思わしきブツでして、ご覧のようにEME/JENでの製造品とはいくつもの違いを散見することができますね(折り曲げ式の四角い鉄製筐体とか、VOXのロゴの形とか)。

 製品名はVOX WAH-WAH DISTORTIONと名付けられているわけですが、勿論これは66年にVOXが開発し、イタリア工場で大量生産されたワウ回路、それから64〜65年頃に開発されたVOX DISTORTION回路をくっつけた複合ペダル、ということになります。
 もうお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、このペダルは雑誌「THE EFFECTOR BOOK」VOL.15にて、ファズワウのミニ特集コーナーに登場した実物なわけですが、ホントならワウの足踏みペダルの上部に「VOX」と書かれた黒い小さなステッカーが貼られていたハズです。しかし当方がこれを入手した時には既になかったので、ご覧のようなルックスでの登場、となったわけです。

 ご丁寧に、このペダルは内部に回路図が貼られており(本稿の一番下のほうに画像を掲載しました)、既にご推察のとおり、ファズ回路はシリコン・トランジスタ2ケのMK1.5回路、そしてその後にVOXクライド・マッコイ・ワウ回路が続きます。ただし、回路図にもありますが、ファズ回路/ワウ回路ともにトランジスタはBC149、という指示になっています。
 なのに、この実機では、FMPS5172が2ケ(こちらがファズ用のトランジスタ)、それからBC209が2ケ(ドーム型/こっちがワウ用トランジスタ)という構成になっています。さすがイタリア。そんな小さなことはおかまいなし、といったところでしょうか(笑)。回路図にもありますが、トランジスタは共にNPNトランジスタです。

 コントロールはDISTORTION(=ファズのATTACKに相当)、VOLUME(ファズのVOLUMEに相当)、そして足踏みペダル(ワウの可変)の3種類となります。また、ここが多少面倒くさい部分なのですが、フットスイッチも3種あります。ひとつはDISTORTIONと書かれた「ファズのON/OFF」、それからWAH-WAHと書かれた「ワウのON/OFF」、そして足踏みペダルの上部裏に配置された「エフェクトのON/OFF」スイッチ、となります。

 つまり、右側2ケのスイッチは「プリセット機能」、そしてつま先スイッチは「バイパス・スイッチ」と考えることができるわけですよね。切り替え方式としては面倒なカンジも否めませんが、これがあることで「ワウだけ」「ファズだけ」「ファズもワウも両方」を使い分けることができる、ということになっています。

 回路自体は単純なもので、ホントにワウ&ファズをくっつけたシンプルなサーキットです。白いProCondo製のキャパシタはもうイタリアン・ワウではお馴染みのパーツですし、500mHのインダクタは、FASEL製インダクタの標準値でもありますし。

 実際の音ですが、デモ動画としてTHE EFFETOR BOOK掲載時にM.A.S.F.のスタッフによって試奏されたデモ動画がアップされてますので、それを貼っておきます。いわゆるTONE BENDER系のファズ・サウンドとは遠いものですが、むしろFUZZ FACE系ファズのバリエーションの1ケとしては面白いサンプルだろう、と思います。ご覧いただけるようにギターはシングルコイルのストラト、アンプはJC120を使っての動画ですが、アンプのスピーカー経由ではなく、ライン出力したサウンドを用いた、と聞いています。
 また、この動画のサウンドは(ファズ部分をOFFにしたときのサウンドでわかるように)アンプ側がややクランチ状態になったセッティングでの演奏となっています。

 ていうか、おそらくファズとワウを一緒に踏む人は、当方を含めて、得てして大げさな(笑)エフェクト効果を期待する人が大半かと思われますので、むしろこのくらい極端な歪みのほうが使い勝手はいいのかもしれませんね。正直言ってしまえば、ファズ単体、ワウ単体としてはあまりカッチョイイサウンドにはならないペダルでもあります。ですが、動画でM.A.S.F.さんが試されているように、アンプ側のセッティングを凝らしてやるとかでいろいろ使えるペダルにもなるなあ、と今更の様に感心させられます。


9.21.2012

VOX - Wow Fuzz (1970's)


 今回はVOXネタです。VOXていうブランドはその長い歴史において、いろいろと面倒くさい経緯がある、ということは何度も書いてきましたが、今回は70年代のお話です。

 1968年、ROYSTON GROUPという投資会社がVOXという楽器ブランドの名前を買い取りました。実はその直後、ROYSTON GROUPが(管理下にあった)別会社の経営不振に伴って、VOXのオリジナルでもあるJMIに「VOXの権利を買い戻すつもりはないか」というオファーをしたそうです。
 以上のことはVOXの公式ヒストリー文に出てくることです。ただし正確に書くのであれば、この時点ですでにJMIという会社はありませんでした。JMIの創始者であったトム・ジェニングスは同年「JENNINGS ELECTRIC DEVELOPMENTS」という新会社をおこしていますが、おそらくその会社を指すのだと思われます。
 そんな話し合いを経て、同年 VOX SOUND LIMITED という会社が作られています。ただし、この会社の代表が誰だったかはわかっていません。トム・ジェニングスが買い戻したかどうか、もわかってはいません。

 ところが、69年には「VOX SOUND LIMITED」という会社はそのまま丸々売りに出されます。この時シュローダー・バンクという銀行投資部門がこの会社を買い取ります。70年にはイギリスの一番南東に位置する海沿いのド田舎、SUSSEX州HASTINGSというところに会社の住所が移され、工場も作られた、とのことです。

 時期としては69年から73年まで、約4年にわたってVOXという会社はここにあったのですが、73年には「VOX SOUND LIMITED」は会社を畳み、全ての権利をCBS/ARBITERに売り渡しています。
 当方がこのブログで「VOXという会社は過去も現在も存在していない。ただし、一時期だけVOX SOUND LIMITEDという会社があったけど」と書いているのは、そういう経緯によるものです。

 さてさて、今回の本題はそんなことではなくて、こちらのペダルのご紹介だったりするわけです(笑)。こちらはVOX SOUND LIMITEDが存在した時期に製造・発売された、VOXブランドのファズ・ワウ複合ペダルで、VOX WOW-FUZZという名前のブツです。

 ご覧頂けるように裏蓋には「MANUFACTURED BY VOX SOUND LIMITED, HASTING, SUSSEX ENGLAND」とありますが、まあ誰がどう見てもこれを作ったのはロンドンのSOLA SOUNDであることは一目瞭然です(笑)。

 その証拠となるような記載は一切ないのですが、筐体はSOLA SOUND/COLORSOUNDのTONE BENDERと同じモノが使用されています。また、回路もSOLA SOUND/COLORSOUNDが発売していたWAH FUZZ SWELLと全く同じモノが採用されています。まあ、SOLA SOUNDがVOXブランドのOEM製品を供給していたことはその何年も前からあったことなので、このペダルに関しても同様の経緯で製造されていたことは容易に想像いただけるかと思います。

 この黒い筐体で、金色+ブルーという、見慣れないロゴ・ステッカーが貼られたVOX製品(他にもTONE BENDER MK3や、純粋なワウ・ペダルもあります)は一部で「VOX HASTINGS SERIES」と呼ばれているようです。もちろんそんなシリーズが当時実際にあったワケではなくて、VOX SOUND LIMITEDがHASTINGSにあった時期の製品だから、そう呼ばれている、ということになるんでしょうね。

 それはともかく、中身は70年代のCOLORSOUND FUZZ WAH SWELLと同じモノです。FUZZ部分は2ケのシリコン・トランジスタ(写真を掲載した当方の所持物は、BC184Lが2ケ)搭載されています。ファズのサウンドとしては、所謂60年代のTONE BENDERの面影は殆どなく、シリコン・ファズ特有のシャリシャリしたトレブリーなファズ・サウンドです。ただし、トランジスタ2ケ使いなので、ギターのボリュームを絞れば、よりカリカリなクランチが生み出せます。

 このVOX WOW FUZZに限らず、COLORSOUNDのFUZZ WAH SWELLでも同様なのですが、初期のモデル(おそらく74年くらいまで)は、ワウ回路とファズ回路が、それぞれ独立した2枚の基板が用いられており、筐体の中に基板が2枚内蔵されている、というモノでしたが、その後これらの2つの回路は1ケの大きな基板にまとめられています。中古で目にするCOLORSOUNDのWAH FUZZは、2ケの基板モノと1ケの大きな基板モノ、両方ありますがどちらも基本回路は同じです。

 余談ですが、二年ほど前にイギリスのD.A.M.がこの「2ケ基板」回路を忠実に再現したワウ・ファズを復刻製造したことがあります。オリジナル同様にシリコン・トランジスタを用いたペダルで、筐体はCOLORSOUNDの長方形の筐体を採用していましたね。

 しかし、ご覧頂けるようにこのVOX WOW FUZZも、COLORSOUND WAH FUZZ SWELLも、どちらも(ワウの足踏みコントロール以外は)ツマミで音色をコントロールすることが出来ません。内部回路にはアウトプット・トリマーのための内部トリムポットが1ケありますが、歪みとか、トーンとか、そういうコントロールは一切できません。なかなか使い勝手はよろしくないエフェクターです(笑)。

 とはいえ、このペダルがFUZZ回路もWAH回路もともに英国製で、VOXのブランドで発売された製品であることには間違いありません。VOX製のファズやワウ、といえば大方がイタリア製であったりしますが、そんな意味でもちょっと珍しい部類に入るだろう、と思われます。
 それにしても、このペダルはファズのスイッチが筐体前面(ツマ先の部分)、ワウのスイッチが筐体後方(カカトの部分)、にあるわけですが、やっぱり使い辛いですねえ(笑)。同様のスイッチ配置のブツは、例えばドイツのSCHALLERのFUZZ WAHとか、他にもあったりはしますが、淘汰されるのも仕方ないなあ、とも感じるワケです。
 

4.22.2012

Vox Tone Bender MK3 with Treble 'n' Bass Boost (1969)


 長い歴史があり、しかも関連製品も膨大な種類があるTONE BENDERというファズ・シリーズにおいては、回路構成上時代的トレンドであったハズの「シリコン・トランジスタを用いる」というアップデートが行なわれたのは、結構遅かった、と言わざるを得ません。当時最先端のエフェクターであったにも関わらず「イギリス製の機材だ」という点が、回路開発において保守的な面を後押ししたのではないか、とも考えてしまうのですが。まあ元々「ジョンブル」なんていう言葉もあるくらいガンコで有名なお国柄ではありますが(笑)。

 これがアメリカの話であれば、簡単に言えば「合理化」というお題目とともにガシガシと新しいトレンドを回路デザインに用いて「ブランニューなファズできましたぁ!」として大規模に売り出せるわけで、そうした点はエレハモの製品を見るとよくわかりますよね。

 恐らくTONE BENDERと名のついた英国製ファズの中で、いちばん最初にシリコン・トランジスタを用いたモデルだろう、と思われるファズを掲載してみます。1969年製造、と思われる、VOXブランドのTONE BENDER MK3 WITH TREBLE'N'BASS BOOST、というモデルです。今のところ、2〜3ケが現存することがわかっていますが、果たして何個作られたか、はまったくの未知数です。

 既に何度も書いているように、この前年68年に、SOLA SOUNDは3度目のフル・モデルチェンジをTONE BENDERに行ないました。その68年モデル(通称MK3)は、自社SOLA SOUNDブランドで発売されただけでなく、VOXブランドで、PARKブランドで、ROTOSOUNDブランドで、等々他社にもOEM製造されていたことは既にご承知かと思います。

 一般に、(わずかな例外を除いて)MK3系のTONE BENDERはノブが3つありますが、それらの殆どはシルバーキャップのゲルマニウム・トランジスタを用いていました。前回までに書いた様に、TONE BENDERが一般的にシリコン・トランジスタを採用したのは1974〜75年頃と思われますが、その際にも大規模なモデルチェンジを行ない、回路も大幅に変更されSUPAやらJUMBOやら新しい名前もついているわけです。

 が、こちらにあるように、実はさかのぼる事5年以上も前の1969年頃には、シリコン・トランジスタを採用したモデルもあるわけですね。ご覧頂けるように、このファズはMK3と書いてありながらも、他のMK3系TONE BENDERとは全く異なる回路を持っています。またノブも2ケしかありません。ノブは「ボリューム」と「トレブル/ベース」にあてがわれているので、歪みの量(MK3での「ファズ」ノブに相当するコントロール)は可変できないことになります。

 回路に目をやると、トランジスタは2N2926というシリコン・トランジスタが3ケ用いられています。当方も回路図を入手しようとヤッキになっているのですが、今の所入手できていません。これは完全に当方の個人的な推測になるのですが、このモデルはおそらくプロトタイプに近いもので、殆ど製造されていないのではないか、と思っています。
 その理由のひとつはまず基板にあります。ご承知のように、一般的なMK3であればプリント基板が用いられていますが、こちらのWITH TREBLE'N'BASS BOOSTではユニバーサル基板を用いており、ワイアリングも手作業であることがわかります。基板の設置方法も通常のMK3とはまったく異なる方法であることも確認できます。わざわざ(MK3の)後発製品に、古い製造方法を用いることはないだろう、と思われるからです。

 理由その2は、もちろん「シリコン・トランジスタ」を使っている、という点です。2N2926はNPNトランジスタなので、これまでの回路(PNP回路)を流用することができず、まったく新しい回路を用意する必要があったわけですね。筐体に堂々とMK3と書いてはあるものの、それらの意味からも回路はMK3ではないと判ります(一見して、キャパシタの数がMK3回路よりも多く、またMK3回路の特徴でもあるダイオードが見当たらない等)。ただし、MK3回路とこちらの回路、どちらが先に「開発」されたかは不明なのですが。

 そしてホントかどうかわからないけど、もしかしてもしかすると、という理由その3は、丁度同じ頃、60年代末に同様の製品が他社から出ていた、ということも考えられます。それはJHS社が発売したSHATTERBOXという金色のファズで、これはシリコン・トランジスタを使ったFUZZ FACE回路に、同じくシリコン・トランジスタを用いたトレブルブースト回路を付け加えたモノ、ということが判っています。それを真似した、というわけではないでしょうが、同じようなことを考えた、というのは十分あり得ますよね。

 写真に掲載した「VOX TONE BENDER MK3 WITH TREBLE'N'BASS BOOST」の固体は、オリジナルではPP4という円柱状の電池用スナップが用いられていたっていうこともわかっていて、60年代末の製造ということは間違いなさそうです。

 ちなみにこのファズ、音を聴いた事も触った事ももちろんありません。どっかにあれば是非とも欲しいブツではありますが、まあ無理でしょうねえ(笑)。以前アメリカの楽器屋さんにてこれが売りに出されたことがあるんですが、その際お店の人に「どんな音なの?」と聞いた事があります。答えは「バランスの取れた倍音」「スムースな歪み」「最高だぞ」とか、そんな文言ばかりで、あまり参考になるようなモノではありませんでした(笑)。そりゃあ、シリコン使えばそんなカンジになるだろうよ、て思うのは当方だけではないと思うのですが。


6.14.2011

JMI - Tone Bender MK3 Reissue


 「スッゴイ気に入っている」とダイナソーJRのJマスシス氏が仰ってたという、JMIの復刻版TONE BENDER MK3をご紹介したいと思います。このTONE BENDERも既に日本に入荷しており、随時出荷中ですので、もし興味をもたれた方がいれば是非お試しいただければと思います。

 まずはおさらいとなりますが、このMK3のオリジナルは1970年代にVOXブランドが発売したVOX TONE BENDER MK3になります。当時、その中身はSOLA SOUNDが製作しており、ゆえにその中身はSOLA SOUNDのTONE BENDER MK3とまったく同じもの、ということは以前もご紹介した通りです。

 ですがこの 真っ黒い筐体とサイケなオレンジのロゴは、インパクトが絶大であるにも関わらずなかなかお目にかかることがないですよね。70年代のMK3は多様なブランドから沢山のOEM製品が発売されたことや、「VOX」のブランド・ライツがウロウロと移動していたこともあって、殆ど有名になることもなく放置されていたモデル、という位置づけなのかもしれません。
 で、昨年イギリスのJMIは、その真っ黒い筐体のMK3を復刻しました。勿論「VOX」の名前は使えませんので、筐体下部にあるロゴは「JMI」と変えられていますが、他のJMIがリイシューするTONE BENDERシリーズ同様に、当時のスペックをそのまま再現して製造されたモデルとなります。

 外見でも判りますが、エフェクターを上から見たときに、左側にギターのインプット(INSTRUMENTジャック)、右側にアウトプット(AMPLIFIERジャック)がある、なんていうのは現在のエフェクター事情からいえばあきらかにオールドファッションで使い勝手がよろしくない(笑)仕様ともいえるのですが、その辺も「オリジナルに忠実に」というワケですね。

 コントロールですが、3ノブのTONE BENDER MK3回路は、FUZZノブ、VOLUMEノブにくわえてTONEのノブ(右上のツマミ)があります。このツマミがまたヤヤコシイんですが、左にひねればトレブリーに、右にひねれば暗い音に、という具合になっています。よってノブの表示は「TREBLE/BASS」となっています。これも、70年代のオリジナルと同様の仕様です。
 ジャックは例のごとく、ではありますが、TONE BENDER関連製品ではお馴染みとなった、MADE IN ENGLANDの黒いプラスティック製のクリフ・ジャックです。

 さてさて、中身を見ていきます。オリジナルのVOX TONE BENDER MK3では茶色のプリント基板でしたが、中身だけは時代を反映してか(?)緑色のプリント基板を使用しています(註:たった今検索して知ったのですが、本来PCB / PRINTED CIRCUIT BOARDは「基盤」ではなく「基板」と書くのだそうです。おそらくいままで多くの箇所で誤記してると思われますが、ご容赦願います。スイマセン)

 ちなみに左の写真の一番左にボンヤリと映っているのは白いスポンジでして、筐体内部で電池をくるむためにあるものです。古いTONE BENDER MK3もスポンジを使って電池をくるんでいたのですが、ヴィンテージものの内部を見るとドロドロにスポンジが溶けているものを見かけますよね。JMIが採用した、この新しくて白いスポンジがどのくらいドロドロに溶けるのか、は現時点では未確認です(笑)。

 裏蓋をあけても基板のプリント面しか見えませんので、回路は容易く確認できません。バラすのはちょっと面倒だったので(笑)、回路に関しては今回はJMIから貰った内部写真を掲載します。まず目につくのは赤いWIMAのコンデンサ「MKS4」ですね。それこそ60年代以降、イギリスのみならずヨーロッパ中では定番で人気の高いWIMA製品ですが、それが採用されていますね。

 そして気になるのはトランジスタですが、JMIのMK3ではNOSのブラックキャップOC75を使用しています。以前書きましたが、60年代後半〜70年代前半のオリジナルTONE BENDER MK3はトランジスタの特定ができません。カタログ・スペック上ではOC75、OC81D、OC71(シルバーキャップ)、完全に型番が無記載のモノ、他いろんなバリエーションが確認できてるのですが、モデルごとに変えたり、もしくは時代で変えられたり、というワケではなさそうです。
 いずれにしろ最初のMK3回路ではPNPのゲルマニウム・トランジスタが採用されてたことに変わりはなく、今回のJMIもゲルマ、しかも贅沢にOC75を3ケ使用してMK3を組み上げてます。

 で、音に関して。今イギリスJMIではこのモデルと、全く同じ中身ですが筐体の色/デザインだけが違う「JMISOUND FUZZ(ROTOSOUND FUZZのクローン)」のデモを制作中、とのことなので、サンプル動画はもうしばらくお待ちいただければと思いますが、MK2とは全く違う独特のMK3のディストーション・サウンドは豪快で楽しいモノです。

 シンプルながらも面倒くさい(笑)60年代のファズ回路とは違い、コントロールも明瞭で判りやすく、操作しやすいペダルです。また、低域は控えめで、中域はプリプリ、さらにTREBLEノブでシャリシャリなトーンにする事もできて、幅の広いサウンドを作ることができます。その辺も、冒頭で書いたようにJマスシスが気に入ったポイントらしいですね。

 なお、オリジナルのTONE BENDERは70年代前期のものまでがゲルマニウム・トランジスタを使用したファズになります。以前も書きましたが、黒い筐体に入ったVOX TONE BEDER MK3には、70年代後半に発売された後期バージョン(ロゴの位置が違う)があり、それはシリコン・トランジスタを採用し、回路も全く別のものに変更されたモデルとなります。

 先日このTONE BENDER MK3の回路図を探してたときに、興味深いネタに巡り会いました。それは(同様にJMIが復刻発売している)英国BURNS/BALDWIN社が発売した有名な「BUZZAROUND」は、このTONE BENDER MK3回路に非常に似ている、という点です。現在BUZZAROUNDの実機も手元にあるので、その辺を次回以降、あらためて検証したいと思います。
 

5.16.2011

Baja Tech Custom - Bone Bender

 
 さあ発売日まで2週間ねえぞ、という時期なのにまだ作業が全部終わってません(笑)。今月末に発売されるTHE EFFECTOR BOOKのことですが、恒例となりましたけど今回も先出しということで、その中身をご紹介しましょう。

 表紙画像にもあるように、今回はオーヴァードライヴ大特集です。まだ「THE EFFECTOR BOOK」が創刊される前のことですが、以前「OVERDRIVE BOOK」というムック本があったんですけど、そちらはTS808とかOD-1のような定番中の定番ともいえるペダルを研究してましたよね。ですが今回のこちらの本では、表紙がKLON CENTAURだということでもお判りのように、コンテンポラリーなオーヴァードライヴに特化した内容となっております(あ、でももちろんOVERDRIVEヒストリーみたいな記事もありますよ)。

 ペダルボードみせろよ、のコーナーでは、ジャパニーズ・ポストロックの雄、Sleepy.ab(.abはアブストラクトの略で、この部分は発音せず、スリーピー、というバンド名なのだそうです。たった今WIKIPEDIAで読んで知りました。笑)の山内憲介氏が登場。またベテラン・ギタリストに御指南いただくインタビュー・コーナーでは、四人囃子の森園勝敏氏が登場。森園氏は昔のこと(それこそ超名盤『一触即発』の頃のこととか)も凄い覚えてる方なんですね。ビックリしました。
 それから、以前ここでチョロっと告知させていただきましたが、当方がJMIのジャスティン・ハリソンにインタビューした記事が、本のケツのほうにババンと3ページも掲載されています。ポール・マッカートニー、ミック・ロンソン、ゲイリー・ムーア、ロバート・プラント、ピート・タウンゼンド、ジョン・エントウィッスル、ジョー・ペリー、そしてJマスシス(ダイナソーJR)といった、JMIと親交のあるミュージシャンの話をあれこれ聞いていますが、(編集長はおそらくあきれたと思いますけど)やっぱりTONE BENDER関連の話題が沢山でてきます(笑)。そんなワケで今月末発売の「THE EFFECTOR BOOK」VOL.12を是非お楽しみに。



 さて、今回のペダルは、アメリカのBAJA TECH CUSTOMというサンディエゴにあるカスタム・ペダル・メーカーのTONE BENDERクローンを取り上げます。公式HPはこちらになりますが、かなり早い時期からTONE BENDERクローンのペダルを作っているブランドで、クラシックなトーンを「コンパクトな」筐体で、というコンセプトでペダル作りを行っているそうです。
 コンパクトな、ということでもお判りのように、基盤はプリント、筐体はMXRのコンパクト・サイズ、ダイオードのインジケーターと、電源アダプターも採用、というアメリカらしい合理的で王道の作りとなっていることは写真で一目瞭然かと思われます。実は値段も大変お求めやすい価格帯のモノでして、150〜160ドル、という値段で直販されています。

 で、ご覧頂いている白いブツはBONE BENDERと名付けられた、このブランド最初のTONE BENDERクローンです。実は現在ではディスコン(廃盤)となった仕様のペダルなのですが、早速中身をチェックしましょう。
 MXR製品のように、基盤に直付けされた2ケのジャック)と、理路整然と配置されたコンパクトな中身のおかげで、たしかにギュギュっと小さいサイズに収まっています。実際に、当方が所持するいろんなTONE BENDERクローンの既製品の中では、このBAJA TECH製品が一番小さいですね、

 気になるのは回路でして、トランジスタはゲルマ2石のMK1.5回路です。ただし、抵抗のパーツ数からみて、おそらくイタリア製のVOX TONE BENDER回路を踏襲したと思われます。ここで使用されているトランジスタは、ひとつは文字がないので不明、もうひとつはRCA製のトランジスタですが、型番が判読できません。回路内部にはトリムポットがひとつ付いているのでおそらくバイアス調整の抵抗かと思われます。

 さてそのサウンドなのですが、当方が所持するTONE BENDER系FUZZの中で、このBAJA TECH製品がもっとも歪みません。そして最も出力も低いです。そしてそして、もっともトレブリーなんですね。
 たとえば以前「VOX TONE BENDER V829」のサウンドについて「カリンカリンにトレブリーで、ゲッソリとやせ細った」と書いた事がありますが、こちらのBONE BENDERではそういうゲッソリ細いという印象はありません。ややまろやかで、ゲルマらしい古くささは十分にある歪みサウンドです。
 それでもやはり、音はパキンパキンなわけです。そこで、これは筆者が勝手に思いついたことですが、実はこのBONE BENDERはいわゆるジミー・ペイジ的なレスポール・サウンドを作るのにヒジョーに手軽で便利なペダルだ、と思っています。
 ジミー・ペイジ本人は通常ファズをそれほど使いませんが、あの独特のパキンパキンなレスポール・サウンド(実際にはアレは特殊なレスポールと最高のマーシャル1959、その他多用なエフェクターがあってこそ、の音ですが)に擬似的に似せるために、これはアリだなと思ってます。つまりこれを通してギターのVOLはチョイと絞って、とすればパキパキなレスポール・サウンドが出来ますよという意味です。

 おそらく本ブログをお読みの方であれば、当方よりもっともっとジミー・ペイジ・サウンドに関してあれやこれやと思案を巡らせ、日々研究されている方がいるのは存じてますが、もうちょっと初歩的といいますか、敷居の低い位置から、こういう使い方もありかな、と思っています。たいていのハムバッカーとたいていのアンプの直刺しサウンドだと、音がモッコモコになるのは至極当然なわけですが、これを挟んでチョイとVOLを絞れば、全然違う世界が見える、というのはVOX TONE BENDER系ファズの魅力のひとつですよね。

 さてさて、現在サンディエゴのBAJA TECHでは上で紹介したBONE BENDERは製造していませんが、その変わりにモディファイ/アップデートされたBONE BENDERシリーズがいくつか発売されています。
 ひとつはBONE BENDER 1.5と名付けられた、MK1.5クローンです。こちらはノブが3つの仕様に変更されていますね。KILLと名付けられたその追加コントロールは「更なるゲイン/ブースト」のためのノブだそうです。上記したような低い出力を、この新しいノブで補っている、という構造になったようですね。

 続いてはBONE BENDER MK2と名付けられた2ノブ仕様。もちろんMK2クローンですね。こちらは当然ながら3つのゲルマ・トランジスタを使用した回路になっています。ちなみにこちらのMK2回路のBONE BENDERには、ごらんのように銀色の塗装が施されたモデルも存在しているようです。

 そして「最新バージョン」と喧伝されているこちらの3ノブのBONE BENDERは「無印」なんですが、上記した「1.5」と何が違うのか、説明されていません。ただしこちらは「VOX TONE BENDERクローン」であり、「1.5」同様にゲイン・ブースト用のKILLコントロールがついた、と書いてあります。見た目も構造も「1.5」と変わらないように見えるんですが、実際どう差別化されてるのかは確認できていません。

 BAJA TECH製品はみなトゥルー・バイパス回路で、インジケーターと9V外部アダプター・ジャック付き、そして塗装はパウダーコートのゴツい塗装が施されています。それから、正直気にする必要はまったくないと思うんですが、BAJA TECHのBAJAとはメキシコとアメリカの国境あたりにある半島の名前で、「バハ」と発音します。バハカリフォルニア半島はメキシコ領ですが、上記したようにこのBAJA TECHはアメリカのサンディエゴにあるブランドです。まあ、この中南米なカンジがバリバリなロゴのフォント(書体)の使い方を見れば、ラティーノの方のブランドだろうな、とは想像できるかもしれませんが。
 

1.30.2011

Phoenix Custom Electronics - Lady Stardust

 
 冒頭からいきなり宣伝で恐縮です。この度、本を1冊作りました。音楽雑誌『GiGS』にて毎月連載されていたギター改造コラムをまとめた、『激変¥1.000 - DO IT YOURSELF! - 』というタイトルのムック本です。

 当ブログ「BUZZ THE FUZZ」でも、当方のフザケた文章が随所にあることはご承知かと思われます(笑)。今回のムック本では、そのフザケた部分のみがギュウギュウに入ってる、とでも言いたくなるような(笑)内容ではありますが、基本的にはいたってマジメな、低予算でギター改造をやらかそう、という本です。もしそういう(ギター改造)方面で興味をもたれた方がいらっしゃいましたら、是非書店でお手にとっていただければ幸いです。

 ちなみに、「予算1000円で、レスポールの中にFUZZ FACE回路をブッ込んでしまおう」なんていう改造も紹介されたりしています。価格は税抜き¥1000円で、絶賛発売中です。



 さて本題に入りますが、実は上の本とちょっとだけ関連もあります。「激変¥1000」のタイトル・ロゴは、日本語のモノ(これも実のところは『ZIGGY STARDUST』のジャケのロゴをイメージして作ったんですが)、それから英文のロゴもありますが、その英文ロゴのほうは、今回紹介するファズ、LADY STARDUSTのロゴにインスパイアされて作ったものだからです。まあ、そんなロゴマークの話はともかく、そのグラム・ロック魂がギンギンに溢れるファズをご紹介したいと思います。
  PHOENIX CUSTOM ELECTRONICS(以下PHOENIXと略)は、アレックス・アネストというビルダーによるアメリカの個人エフェクト・ブランドです。アレックスはナオミさんという奥さんとのデュオで、ルーツ系ロックのデュオとしてアーティスト活動されているプロのミュージシャンですが、今から3年程前に、PHOENIX〜というブランドを立ち上げ、ファズをメインにカスタムメイドでエフェクターを製作しています(こちらのオフィシャルHPで製品ラインナップは確認していただければと思います)。昨年あたりから日本でも流通しているので、ご覧になった方もいるだろうと思われます。

 で、今回の「LADY STARDUST」ですが、そのドンズバな名前からも推察されるように、実は彼もデヴィッド・ボウイ/ミック・ロンソンのファンだそうです。ウフフ。このファズはとあるギタリストからのリクエストを受けて開発を始めたファズだそうですが、完成後、素敵なラベルをまとったこのファズは、PHOENIX製品中一番有名なペダルとなったようです。当然のように当方も入手しました(2ケも。笑)。2年くらい前のことです。

 まず回路ですが、イタリア製 VOX TONE BENDERの回路を元に(2ケのトランジスタにはブラックキャップのOC75と、シルバーキャップのAC152が使用されています)、各種モディファイを加えたものが採用されています。つまりそのサウンドは基本的にVOX TONE BENDER系列の、トレブリーでカリカリ系の音なんですが、筐体に沢山設けられたノブからも推察できるように、ノブが2ケしかないオリジナルと違って、多くのコントロールが可変可能となっています。いわゆる「VOX TONE BENDERクローン」ではなくて、そこからいろいろモディファイされたファズ、ということになりますね。

 オリジナル同様のレベル・コントロール+ファズ・コントロールに加え、インプット・インピーダンス(これによって、ワウに限らず前後に繋ぐ機材とのマッチングが調整できます)、トランジスタのバイアス・コントロール(コーネルのファズやアナログマンのSUNFACE他、多くのファズで採用されてるものと同じです)、それから歪みの音域を可変できるトーン(RANGE)・ノブもあり、こちらは右に振り切った際にはトレブリーなVOX TONE BENDERのサウンドが、左に降ると徐々に低域が加味されていき、ブっといファズ・サウンドになる、という効果をもったモノです。

 それほど出力はデカいわけではないので、アンプとのマッチングを考慮することが重要にはなりますが、それでも「トーン・コントロールが可能なVOX TONE BENDER」として、かなり多くのサウンド・バリエーションを生み出せるわけですね。歪みの質、という意味でも、オリジナルのVOX TONE BENDERと同じタイプだけではなく、インピーダンスの調整で歪み具合は変わりますし、またバイアスをコントロールするだけでも歪み具合は変わります。その辺がより分かりやすく体験できるファズ、と言えるかと思います。

 たとえばZ.VEXのFUZZ FACTORYのような飛び道具的なファズとは真逆の、オールドスクールな類いのファズではありますが、上記のように多くのコントロールをいじることで、好みのファズ・サウンドを追求できるという面は、やはりユーザーフレンドリーという意味で現代的と言えると思います。個人的にもこのファズが結構お気に入りだったので、早速アレックス本人にコンタクトを取り、カスタムオーダーでこのLADY STARDUSTを組み込んだドデカいペダルを作ってもらったりもしました。

 それがこちらに写真を掲載した、横長で銀色のエフェクターです。当方個人のオーダーで作ってもらったモノなので、他のギタリストにはまったく意味のないエフェクターかもしれません。ラベル・デザインも当方がテキトーに作ったモノで、そこにもあまり意味はありません(笑)。ちなみにこちらは3ケのエフェクターをブッ込んだカスタム・ペダルで、初段にワウ(HALOのインダクターとトロピカルフィッシュ・コンデンサを採用したクライド・マッコイ・ワウ回路)、その次にLADY STARDUST、その後にレンジマスター回路(トレブル域だけでなく、フルレンジ・ブーストも可能なようにしてあります)の順序で配列してあります。

 アレックスも「ミック・ロンソンの音はファズが先で、ワウはその後だと思う」と言ってたので、この順序には彼としては納得していないようでした(当方は個人的に「ワウが先」のサウンドの方が好きなんで・・)。とはいえ、それぞれのエフェクトはマルチでアウトプットを取れるようにしてあるので(ジャック穴が沢山あるのはそのためです)、順序を変えようと思えばミニケーブルですぐに変更できるのですが。

 また、ワウ回路ですが、当方は固定で使おうと思ったので足踏みペダルは不要なんですが、もし足でワウワウしたくなった時のために、ということで、筐体の横にジャックを設けて、別の足踏みペダルを接続することで足での可変も可能、という仕様にしてもらってあります。でも、この足踏みペダルを持ち歩くくらいなら、フツーのワウ・ペダルを1ケ持ち歩いたほうがいいですよね(笑)。
 このカスタム・ペダルの製作のために、アレックスとは何ヶ月にもわたって何十往復も(笑)メールのやりとりをしたので、おかげでいろいろと仲良くなりました。

 「日本でも有名になるといいね」なんて話もしてたので、その後PHOENIXのペダルが日本で流通されるようになって、当方も少し嬉しかったりもしたんです。しかしながら、なぜかここ半年ほどはPHOENIXのHPが閲覧できなくなってしまって、アレ、どうしちゃったんだろ、とか心配したりしてたのですが、現在は新しいアドレスで、新しいHPが既に出来上がったようなので、一安心しているところです。

(2/1追記)LADY STARDUSTの色に関してですが、上掲した写真では、青いスパークリング・カラーに見えると思います。ですが実際にはこのペダルは紫色のスパークリング・カラーで、実物の色は、一番上の筐体写真の色、もしくは、4番目に掲載してある「裏蓋の色」に最も近いです。蛍光灯の下で撮影すると、ウチの環境ではどうしても青くなってしまい誤解を招く恐れがあると思われます。その点は予めご了承願いたく思います。