11.06.2010

VOX Tone Bender (model V829)


 VOXという楽器ブランドの商標権をKORG社が獲得した後、90年代に入っていにしえのファズTONE BENDERが復刻されました。80年代の(例えばディストーション系の歪みサウンドや、レクチ系アンプの細かい歪みのような)ギター・サウンドのブームも一通り落ち着きをみせ、その後温故知新とばかりに、昔のイナタい歪み系が脚光を浴びた、というのも納得の話ではあります。

 そこでKORG/VOXは、60年代の香りをプンプンまき散らすような、新しいデザインのファズ・ペダルを90年代に製作・発売しました。それがこのV829 TONE BENDERです。90年代の終わりくらいまで新品で購入できたハズなので、結構息の長いファズ・ペダルではありますね。

 とはいえ、過去にいくつかバリエーションがあった「VOX」のブランド名を持つTONE BENDERとは構造的には殆ど関連もなく、基本的には何もかも新しいデザインがほどこされたペダルとなっています。
 外見はマーシャルGUV'NORかよ、と思わずにはいられない(笑)、真っ黒で質素で四角い鉄製の筐体となりました。横にあるネジ6本を外して、カパッとフタ部分を全部外して電池交換を行うわけですが、(当方のようなオールドファッションな人間はともかく)当時は皆面倒くさがったものです(笑)。

 たしかこの当時、まだVOXアンプがイギリスで製造されていた時期ですが、「VOXのアンプはマーシャルのアンプと同じ工場で製造されている」というウワサがありました。マーシャルの工場は(数多のマーシャル関係の本やカタログにも写真が掲載されているように)住所から工場内部までほとんどが公開されていましたが、そこでVOX製品も製造されていた、という確証のような写真は見た事がありません。ですが、可能性は結構高いんじゃないかな、とは思ったりしてますが。

 とはいえ、エフェクターに関して、このVOX V829 TONE BENDERとマーシャルGUV'NORは作りも全然違いますし、なにせ製造国も違います。有名な話ですが、GUV'NORは最初はイギリスで、後に韓国で製造されましたが、こちらのVOX V829はアメリカ製です(註:ただし、ハッキリと断言はできませんけど、当時の大量生産品は結構「製造国」の表記がテキトーだったりするので、MADE IN〜とプリントされてても、文字通りに信用するわけにもいかない、ということも、本ブログをお読みの方であればご納得いただけるかとは思います)

 話をTONE BENDERに戻します。表にデカデカと「ゲルマニウム・チャージド」とプリントされているように、90年代の当時としてはレトロ感丸出しの「ゲルマ」をうたい文句にしたわけですね。余談になりますが、英語圏の人は当然ながら「ゲルマニウム」を「ジャーメニアム」と読みます。
 筐体前側面に配置されたコントロールは当然のように(時代遅れの)チキンヘッド・ノブです。また、当時としては時代錯誤も甚だしい(笑)電池駆動のみ。潔いといえば潔いです。まあ、PNPトランジスタ内蔵なので、アダプタを使用するのが若干面倒、という面はあったとは思いますが。

 ではそのゲルマニウム・トランジスタは何なのか、と言えば、SK3004とプリントされた、シルバー・キャップのPNPトランジスタが2ケ、内蔵されています。基盤のシンプルさから見てもお判りとは思いますが、基本的にはMK1.5回路を踏襲したファズ回路となっています(オリジナルのMK1.5回路に加えて、ひとつだけキャパシタが加えられているようです)。その意味では、66年の秋頃に発売された、イタリアEME(後のJEN)工場の製造によるVOX TONE BENDERを復活させようとした、という意図がよく判りますね。

 で、肝心なのは音です。これがなぜか、あまり60年代TONE BENDERぽくない音だったりします。まずONにすると、思い切りロー成分がカットされます。ハッキリ言って、シングルコイル系のギターでは使い物にならないかも、と思うほどゲッソリとした音になります。
 歪み成分はキメが荒く、それほど歪み量もありません。そのテイストはたしかに60年代風ファズ・サウンド、といえるのかもしれませんが、過去のTONE BENDERとの比較において言うならば、あまりTONE BENDERらしいと思える音ではありません。やはりこれは、たとえばグループサウンズ系とか、フルアップさせてジージー言わせるネオ・サイケ系といった使い方のほうが、このファズを上手く使いこなすコツなのかもしれません。

 MK1.5回路なので、ギターのボリュームにはよく反応します。ただし上述したように、元々あまりにもキンキンしたサウンドですから、ギターのVOLを絞ってしまうと「キラキラ」どころか「チンチン」と言いたくなるほどに痩せたトレブリー・サウンドになるので、ギターやアンプを思い切り選んでしまう性格を持っていると感じます。

 正直に言って「このファズが大好きか?」と聞かれたら「・・・いや」と答えると思います(笑)。ですが、そうはいってもゲルマニウム・トランジスタを用いたのMK1.5系ファズであるのは事実であり、歴代TONE BENDER特有のパツパツなコンプレッション感は十分に得られます(ピッキングのアタックをこれでもか、という程に拾ってくれる、あのカンジです)。また、昔のTONE BENDERの印象としてありがちな「フルアップするとただモーモー言うだけで使えない」という方には、別な印象を与えるであろうファズだとは言えると思います。

 ブティック系ペダルがそれほどなく、同時にやっと再びファズに脚光が集められたという頃の製品なので、今の時代と同じ目線では語れませんが、それでもゲルマ・ファズ/TONE BENDERが再び大手ブランドから大量に発売された、ということは画期的だと言わざるを得ません。なお、当方の持ってるこのV829の外箱はもうすっかりタバコのヤニで真黄色になってしまいましたが、もの凄く久しぶりに説明書を今日読んでみました(笑)。まったく意味のないことが書いてありましたが(『このファズは、電気的にファズサウンドを生み出します』といったカンジです。笑)。

 以前も書きましたが。このVOX V829 TONE BENDERを発売するために、90年代にKORG社はTONE BENDERという商標を登録し、保持していました。しかし今はそれも手放し、現在商標はイギリスのデイヴィッド・メイン氏が権利保有者になっています(追記:2011年にその権利はSOLA SOUNDブランドを保有するMACARI'S社に移譲された模様です)。
 

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