11.26.2011

J Mascis - Part 3

INTERVIEW BY KIT RAE. AUGUST 2, 2011
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KR:もしまったく同じサーキットのラムズヘッドを2ケ発見できたとすれば、それはすごいレアなケースだよ。ただし、紫と青のラムズヘッドの中には、全く同じ回路を使ったっていうモノがあるっていうのは良く言われてることだけど。一般に「バイオレット・バージョン」って呼ばれるもので、Jが持ってる#2のラムズヘッドがそれに該当するかどうかは判らないけど、それらは凄くいい音が出る、といわれてる回路なんだよね。もちろん、もしどこか回路になんかのミスがあれば、その特例からは外れるわけだけど。


(写真)ダイナソーJRのジャケ3枚。バンドのロゴは、70年代にエレハモの(そしてJが愛するBIG MUFFの)商品ラベルに採用されたあの有名なアーノルド・ベックリン書体と全く同じに見える。偶然の一致?(*1)
JM:確かにね。
KR:コレクションって、いま全部で何個くらい持ってるの?
JM:わかんないなあ。BIG MUFFの数のこと?
KR:そう。
JM:40ケくらいかなあ、多分。
KR:思ってたより少ないね。映画(『FUZZ: THE SOUND THAT REVOLUTIONIZED THE WORLD』のこと)の中で、なんだか凄い量があったのを見たことがあるんだけど。
JM:あー、そうね。
KR:ネットで検索すると、Jのコレクションが写ってるその映画のスクリーンショットがいくつかあるんだよね。みんなJこそが地球上で一番エレハモ製品をコレクションしてる人物に違いない、って思ってると思うよ。
JM:エレハモが他の会社のために作った製品って沢山あるよね。全部で何社あったか知ってる?
KR:えーと、ちょっと待ってね。OEM製造したのは4社くらいあったのかな? Jも何個か持ってたよね。マーベルトーンとか……
JM:ああ、マーベルトーン持ってるよ。
KR:ウォバッシュとか……
JM:ウォバッシュ、持ってる持ってる。
KR:あと、なんだっけ、名前思い出せないけど他にOEM供給してた会社あったなあ。凄いレアなことで有名なブツなんだけど(註:ライル社のDISTORTION SUSTAINERのこと(*2))。
JM:ギルドとか……
KR:初期ギルドのFOXEY LADYはBIG MUFFのリ・ブランド製品だよね。エレハモがギルドに供給したFOXEY LADYは、3種類のバージョンがあるんだよね。

(写真左)こちらもJのコレクションより。エレハモ社がマーベルトーンやウォバッシュなど、他社のためにOEM(ORIGINAL EQUIPMENT MANUFACTURERの略)提供した製品群。それとリ・ブランド(中身は全く同じで、名前だけ違う)製品の数々。Photo © J Mascis



(写真上)Jが持っているギルドFOXEY LADYのコレクション。70年〜75年頃にかけて、エレハモ社はギルド社のためにいくつかのバージョンを提供していたのだが、それらは当時のBIG MUFFと中身が同じものだった。とてもレアな2ノブのエレハモAXIS(前列一番右のペダル)は、1968年頃に同社がギルドのために初期FOXEY LADYとして提供してたもの(その左隣のペダル)と同じもの。Photo © J Mascis


KR:マフにどっぷりハマる前って、他にも古いファズとか使ったりしてた? もしくは、もうずーっとBIG MUFFだけが、Jのメイン・ディストーション・ペダルだったのかな?
JM:あまり沢山試してないね。もう「クリーン・サウンドかBIG MUFFか」っていう頭だから。あ、でも、TUBE DRIVERは使ってるな。
KR:BKバトラーのTUBE DRIVER?
JM:そうそう。あれが僕の「クリーン」サウンドなんだよね。僕はいつも「BIG MUFFの音量を下げるため」のペダルを一個使ってる。リズムを刻む時なんかのためにね。で、リードを取る時には切り替えて、ワイド&オープンな音にする。だからTUBE DRIVERみたいなペダルをいつも、轟音ではない時用、音量を下げる時のために使うんだよ。まあTUBE DRIVERはそんなにクリーンな音ではないけど(笑)。知ってると思うけど、アンプを通すとBIG MUFFのボリュームだけで音量をコントロールするのって難しいでしょ? いつも音量は最大ってカンジになっちゃう。どういう仕組みでそうなってんのか、全部調べたりもしたんだよ。BIG MUFFをオンにした時にもっとデカい音量で出音を出したかったんだよね。これって、MUFFユーザーもあまり理解してなかったことだよね。この場合、ブースター・ペダルを使うのは不向きなんだよね。アンプがただブーストされるだけで。だから、もしBIG MUFFをよりアッパー&大音量で鳴らしたい時は、それ以外の全てのセッティングを「静かに」してやる必要があるんだ。
(写真)BKバトラーのデザインによる、TUBE DRIVER2種。Jはライヴで「クリーン」サウンドを得る際にこれを使うという。片方は初期5ノブのTUBE WORKS製品。もう片方は現行の4ノブ版。共に現在もJのペダルボードには搭載されている(2011年現在は、いずれも4ノブ・バージョンに変更されている)。Photos © Kit Rae
KR:逆に言えば、どれだけ多くの人がセッティングをどうやればいいか今だ悩んでるか、ってことなんだろうね。Jはそのペダルを「歪みを減らす」のではなくて、「音量を下げる」ために使ってる、ってことでしょう?
JM:BIG MUFFの、ってこと?
KR:リズム・プレイに際してBIG MUFFのボリュームを下げたい時、って意味。
JM:ああ、ただのボリューム・ノブ代わりだよ。マスター・ボリューム扱い、ってこと。
KR:文字通りマスター・ボリューム・スイッチとして使ってる、と。リズム・プレイのときはそれをオンにして音量を下げて、リード・プレイになったらそれをバイパスさせて最大の轟音を得る、と。
JM:その通り。BIG MUFFをクリーンでも使いたいときにね。えーと、同じ音質のままでも、そんなに音量も出てないときは、コントロールしやすいんだよね。まさにリズム・プレイ向き。だから、TYM GUITARSのペダル(註:オーストラリアのTYM GUITARS製FUZZ MUNCHKINのこと。2つのフット・スイッチがついている)には、そういう機能を最初からつけたんだ。それがもう1個のフットスイッチの意味。マスター・ボリューム機能だね。だからそれさえあれば、1ケのペダルでリズムでもリードでも使えるようにした。
KR:あ、てっきり僕はあのTYMのペダルのスイッチは、トーンをバイパスするためのモノかと思ってた。ほら、70年代後期のBIG MUFFには、トーンをバイパスさせる機能のスイッチっていうのがあったから。だけど、ライヴもスタジオ・ワークも含めて、ダイナソーでのJのサウンドを聞いてると古いBIG MUFFで「トーン・バイパスさせた」音、とは思えなかったんだよね。それの意味がやっとわかったよ(註:TYM GUITARSのティムに確認したところ、そのもうひとつのスイッチは文字通りボリューム・ポットをバイパスさせるスイッチだ、ということを教えてくれた。スイッチを入れればリズム・プレイ用に低い音量に設定、スイッチを切れば、完全にボリューム・ポットはバイパスされて、リード・プレイのために最大で出力される、とのこと。ようはボリューム・ポットをフルにしたのと同じ効果、という意味)
JM:そういうこと。1ケのペダルでできるようにしたかったんだよね、リズムもリードも。つまり、基本的には僕はBIG MUFFのボリュームはいつも最大にしてる、ってこと。音を下げるときは、スイッチ機能を使う。
KR:ダイナソーの初期の頃って、どんなアンプ使ってたの?特に最初の3枚のアルバムで。
JM:最初のアルバムの時は、60Wの初期のメサブギーMK1だった。だれかがスタジオに持ち込んでたアンプだったんだよね。音はなかなか良かったよ。あと、ちょっとだけマーシャルも使った。でも殆どはブギーのMK1。他のアルバムはねえ、『BUG』と『YOU'RE LIVING ALL OVER ME』では50Wのマーシャル1987ヘッドを使った。『BUG』以降のアルバムでは、たしか殆どマーシャルの1959 SUPER LEADだと思う。わかるでしょ? お金を沢山貰うようになってから、プレキシとか、そういうのに興味を持つわけだよ(笑)。
KR:BIG MUFFと組み合わせる時の、お気に入りの組み合わせってある?
JM:いや、もうなんでも全部100Wのプレキシ。最近ではハイワットのアンプもよく使うんだけどね。僕はマーシャルの100Wヘッドとハイワットの100Wヘッドを一緒に鳴らした音が好きなんだ(註:2009年以降、JはハイワットのCUSTOM 100W2つとマーシャルのヘッド1つを並べて使っている。しかし2011年には、マーシャルのヘッド2ケに挟まれてハイワッドのヘッド1ケ、というセッティングになった。彼はREEVESというハイワット・クローンのヘッドアンプも所持している)


(写真)2011年現在の、Jのスタック・アンプの模様。ハイワットCUSTOM 100、ビンテージのプレキシ100Wヘッドが2つ、それらを全てマーシャルのキャビに接続している。Jはいつも、マーシャルでは「右上」のインプット(=CH2のBASSインプットのこと)を使い、ノブの位置は、トーン=10、ボリューム1=2、ボリューム2=6、にセッティングしている。そのマーシャルのサイドチェーンを使い、左(CH1)からハイワットのノーマルCHインプットにチェーン。こちらのノブの位置は、ボリューム=2時半、ブリリアント・ボリュームはオフ、ベース=12時、トレブル=1時半、ミドル=1時半、プレゼンス=1時半、マスターボリューム=1時、というセッティング。(*3)

KR:アンプ、スゴイねえ。僕もハイワット使ってるよ。ハイワットとBIG MUFFって、もうお互いを生かし合うために生まれた、と思うくらい相性いいよね。そういえばJは、MUFF以外のエレハモのペダルも使ってたよね? ELECTRIC MISTRESSとか、SMALL CLONEとか、CLONE THEORYとか……
JM:うん、そうだね。MISTRESSは僕が2番目に買ったエフェクターだった。だから、MUFFとMISTRESSは、ギターを弾くようになって以来ずーっと僕のメイン機材の2ケ、ということだね。それからCLONE THEORYをどっかのタイミングで入手した。その後にMEMORY MAN、だね。
KR:初期の時期から、エレハモ製品にハマっていったっていうのは、何か理由があったのかな?
JM:あー、ただ試奏してみたら、なんだか考えられないようなエクストリームな音が出たオンリーワンのモデル、って気がしたんだよ。他に試したペダルは、どれもビミョーな印象しか残らなくて、僕のテイストには不十分って気がした。それが一番の理由だね。

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*1 アーノルド・ベックリンはフォント(書体)の名前で、1904年に創作された、ということになっています。実はそのフォントのデザインには元ネタがあり、19世紀のスイス出身の象徴派画家アーノルド・ベックリン(独語読みだとアルノルト・ベックリン/Arnold Böcklin 1827-1901)という人の作風からインスパイアされた書体だったため、そのまま画家の名が書体の名前になったのですが、書体を作った人と19世紀の画家は直接の関係はありません。この書体は60〜70年代に「アールヌーヴォー再発見」ブームに相まって再評価された書体なんですが、おそらく音楽ファンに一番馴染みがあるのは、ロジャー・ディーン(イエスとか、プログレ系の名作ジャケを多数デザインした人)が使用したものだろうと思われます。
*2 マーベルトーン、ウォバッシュ、ライル、いずれもエレハモ社からOEM供給を受けていたブランドです。前2つはJの写真の中にでてきますが、ライル・ブランドのブツは右の写真のものになります。ライル社はギターも売ってたブランドですが、そのライル・ギターは60〜70年代にかけて日本のマツモクが製造していた、というブランドでもあります。Photo © Gino Mazzocco
*3 ちょっと写真が見当たらなかったんですが、実はJはモニタリング用にもうひとつ、フェンダーと思われるコンボアンプを使用しています。エフェクトの出力は基本的にモノアウトで、後ろのスタックアンプは全部チェーンで鳴らしていると思われますが、それとは別にもう1系統の出力がコンボアンプに刺さっている模様です。このネタ元はTHE EFFECTOR BOOK編集長が自分で見て確認したことなので、間違いないと思われます(笑)。


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