3.13.2012

Masayuki Mori Interview - Part 5



 1   2   3   4   5 

——今思い出しましたけど、TUBE SCREAMERのモディファイものを片っ端から試してる、っていう森社長の写真をネットで以前拝見したことがあります。オーバードライブもやっぱり気になりますか?
M:ああ、楽器屋で、って写真ね。そんなに懸命に試したんではなくて、あの楽器屋さんにはフラっと入ったカンジですけどね。たしかにTS系はマーシャルとの相性はいいとは思いますけど、TS系っていっちゃえばランドグラフもその系統ってことになっちゃうし。でもさあ、たとえばオーバードライブの名器といわれるBOSSのOD-1だけど、そんなに有名な使用者が海外にはいないですよね。DS-1とかも。
——んー、僕が知ってる中では、カート・コバーン(註:BOSS DS-1を使用)くらいですかね。
M:単体のエフェクトとしては、オーバードライブもディストーションも中途半端なカンジがするんですよね。それだったら、もっと潔いファズのほうが楽しいジャン、って(笑)。
——潔い、つまり不器用なってコトですけどね。
M:ところがさっき言ったように、「巧み」が使うと素晴らしい音をヒネリ出すんですよね、ファズって。そのファズの中でも、例えばさっきのシンエイ(UNIVOX)のファズなんかは、海外の人には作れないだろうっていう、変わったモデルですよね。低い音だとディストーションなのに、12フレット以上の音だと発振しまくる、っていう(笑)。日本人もスゲエだろ、ってカンジですよ。
——「日本をなめんなよ」と(笑)。でも森社長のエフェクターは、みんなスゴイ奇麗ですねえ。
M:ギターもそうなんですけど、出会った時が買うとき、なんですよね。「おっ、いいねえ、じゃあ今度考えよう」とか思ってると、もう次がない、というブツばかりですから。
——余談ですけど、今森社長はギター何本お持ちですか? あのー、その中身が凄いのは今までの雑誌やなんかで承知の上なんですが、どうやって管理とかしてるのかなあ、と思いまして。
M:随分ギターも減らしたんですけどね。でもギター用の部屋を設けてます。空調2台入れてますね、そこには。
——2台(笑)。
M:でもねえ、空調がどうだろうが湿度をどう管理してようが無理なモンは無理(笑)。ほとんど諦めてますね。
——オーダーでギター作ったり、なんてことは?
M:いえ、僕はオーダーをしないんですよ。僕はね、楽器職人が「楽器としていい音」を目指して作ったギター。それを使い倒したいっていう考え方なんですよ。
——なるほど、楽器職人さんとの勝負、ですね。
M:いやいや、そんな偉そうな話じゃないですけど(笑)。関係ない話だけど、マスタービルダーのジョン・イングリッシュ(1970年からフェンダー社でギターを製造したビルダーで、カスタムショップにおける「マスタービルダー」のトップに位置した人物。2007年逝去)と偶々話をする機会があって、その時に聞いたことがあるんですよね。あなた方マスタービルダーは、材のチョイスとか作り方とか、そういうスキルが素晴らしい方々ばかりなのに、なぜみな「ビンテージ」のギターを再現するのにこだわるのか、と。つまり50年代はパートのオバチャンが決められたネジの数と行程だけでオートコンベアで出来上がったギターなハズでしょ。マスタービルダーはネックの材をひとつひとつ選び、行程も理想に近いものを毎回試行錯誤して作る、という、全然別な方法でギター作りをする人なのに、なぜ「自分の理想のギターを新しく作らないのか」ときいたんですよ。
——ほぉー。
M:そしたらね、彼が言うには「大変いい質問だ」と(笑)。「だが、我々とあなたではひとつだけ誤解がある。ベルトコンベアで何万本か作られたギターなのはたしかだけれど、古ければ全部ビンテージ・ギターというわけではない。その何万本の中で、いまの時代、現在に求められるプレイヤビリティーとサウンドに応えるギターは数本か数十本しかない。我々はそれを求めているんだ」と。「ワインと一緒だよ。何年に製造されていようが、今飲んでマズイものはマズイ。ウマイものはウマイ。自分たちは今飲んで旨いワインを作りたいんだ」と。それとね、ジョン・イングリッシュがこれまた面白いことを言ってたんだけど、「我々は製作家ではあるが、その前に演奏家なんだ」と。
——えっ、そうなんですか。レオ・フェンダー(1909年生まれの電気技師。フェンダー社の創業者だが、自身はギターが弾けなかったことは有名。1991年逝去、92年にロックの殿堂入り)とは大違い、というか真逆ですね(笑)。
M:「プレイヤーが何を求めているか、その汎用性を兼ねそなえた現代のギターを作るのが我々の仕事なんだ」とね。でもね、そこでもうひとつ質問したんだけど「じゃあ形は?あのストラトの形から離れないのは何故?」って。
——そうですよね。可能性は他にも探るべきですよね。
M:そしたら「テレキャスターが出来上がったことが、まず最初の奇跡。あれはレオ・フェンダーの理想だったハズだ。次に生まれたストラトキャスター。これは最初の奇跡を越えた奇跡中の奇跡。もうひとつの奇跡があって、それはギブソン社で生み出されたレスポール。その後の試行錯誤はもちろんあり得るかもしれないけど、その3つの奇跡を越える奇跡を生むのは、計画しても生まれないだろう、というくらいの完成度がある」と。
——んー、確かに人体工学とか素材とか新しい試みで出来たシェイプのギターが、過去のストラトとかテレキャスを凌駕するようなことは、今の所ないですもんね。アラン・ホールズワースが「スタインバーガーはストラトが発明されて以来の革命だ」と言ってましたけど、今はもう彼はスタインバーガーを使わないですからね(笑)。
M:たしかに昔のギターに関して言えば、パっと見て「〜〜の〜〜年製だ」とわかるくらいにはなりたいと思ってたこともあるんですけど、「あそこのネジが何個かだけマイナスだ」とか、だんだんドーデモイーヤ、と思うようになってきてね(笑)。使えないペグとかサビたマイナスネジとか、どうでもいいじゃんか、と。僕とは関係ない話だ、と思ってますね。だから個人的にはコンバージョンものでも大歓迎、ってカンジだし。
——森社長はバーストをお持ちでしたよね。
M:ええ、58年と59年。60年は持ってないんだよね。太いネックのほうが好きなんで、あの60年の平べったく薄いネックを握ると、もうどうしていいかわかんない(笑)。SGなんかも一緒。ボキっと折れちゃうんじゃねえか、と。
——クラプトンはスリムネックになった60年製こそがすべて、って言いますし、ジミー・ペイジのもあんだけ薄く削っちゃってますよね。女子高生向きなんじゃねえか、っていうくらい(笑)。どっちがいいかは置いといても、ネックの太さってギターの音にダイレクトに直結しますよね。
M:ジョン・イングリッシュはね、「ギターはネックだ」って断言してましたよ。ネックがしっかりしてないとしっかりした音は絶対でないって。だからねえ、GIBSONでもレスポール・ジュニアとかのネックは、侮れないんですよね。ナンダこりゃ!ってくらい凄い太い音だもんね。1マイクで、ブリッジもあんな原始的なモノなのに(笑)。
——これは僕の個人的な見解なんですけど、あの時代のホンジュラス・マホガニー材って最強だあ、って思ってるんですよね。重さはもちろん重いのも軽いものありますけど。今のモノとは音が全然違うなあ、と。
M:あ、それはもちろんそうですよね。今の製品をあんまり批判するつもりはないけど。ただ「同じか?」と言われれば「違う」としか言い様がないよね。
——他にもレスポール、沢山お持ちですよね。
M:うん。56年のゴールドトップとか。TOMになった最初の年のもの、ね。マイクはP90で。
——森社長のバーストは、やっぱり虎杢に惹かれてほしくなった、ということですか?
M:いや、僕の59年はほぼプレーン。58年の方はちょっと虎も入ってるけど、フレットはフェンダーものより細いんじゃねえか、ってくらい細い。
——バーストの伝説のひとつに、トップのメイプルの厚さが全部バラバラで違う、っていうのがありますけど、森社長はメイプルの厚さ測ったりしたことありますか?
M:いや、そこまで確かめたことはないですね。僕のはそんなに重いギターじゃないけど。ダブルホワイツ(57〜60年頃に生産されたPAFピックアップでも、59年中頃以降に製造された、ボビンが両方ともクリーム色のもの。PAFの中でも最もレアなものとされる)のせいかもしれないけど、他のギターに比べてとにかく音はバカでかいですね。あのー、僕もいい加減なので偉そうなことは言えないんですけど、最近は「音を追求する」ってことのプライオリティーが下がってきてる、と思うんですよ。エフェクターの場合でも、安いオーバードライブがダメっていう意味じゃなくて、安いオーバードライブでなんでもかんでも出来るわけじゃない、ってところを考えちゃうんですよね。
——んー、なるほど。同時に「値段が高ければいいわけでもない」に通じますよね。まあ、最近の音楽という意味では、ギターソロの需要さえ少ない時代ですし…
M:最近の音楽…… こんな言葉使うと「またジジイがなんかいってらー」とか思われるんだろうけど、たとえば「歌が上手い」っていうのは「カラオケが上手い」ってことと意味が違いますよね。そういう点がね、今はどんどん曖昧になってると思うし。
——あ、それはそうかも知れませんね。今の時代は、ギタリストっていう存在意義も変わってきたとは思うんですよね。たとえばツェッペリンってバンドには、大暴れするリズム感の悪いギタリストと、暴走しまくるドラムがいますが(笑)、それなのにちゃんとボトムもリズムもキープさせるベースがいますよね。彼がいるから、ペイジもボンゾもひっくるめてツェッペリンの「音」は凄まじいものになったのかも、と思うんです。
M:ジョン・ポール・ジョーンズがいないと、成り立たないバンドなんだよね。ロバート・プラントってギターとの掛け合いのアドリブの時「ah yeah」「a-ha」くらいしか言わないで、あんまりダラダラとつき合わない、ってのもよく判るんだよねえ。そんないつまで続けるのか判らないペイジ&ボンゾのデタラメな掛け合いに、そんなに従順につき合ってらんねえよ、みたいな(笑)。
——(笑)ツェッペリンはあの時代だからこそ成立したのかもしれませんね。
M:でも、ジェフ・ベックの場合は今でも昔のままのジェフ・ベックで、あれはあれで笑っちゃいますよね(笑)。もうサイコー。まさに円熟期。ベックはムラが酷い人だから、気分次第でメロメロになることもあったんだけど、今はすごい安定してるし。ベースの彼女(タル・ウィルケンフェルド)つれて世界回るのが楽しいのかなあ、とか(笑)。
——今はドラムの彼女(ヴェロニカ・ベリーノ)ですね。しかもどうやらベックはあの娘をYOUTUBEで見つけた、っていう(笑)。
M:えっ、そうなんだあ(笑)。ったく、何やってんでしょうね(笑)。

special thanks to Office Kitano and The Effector Book. ©2012 Tats Ohisa / Buzz the Fuzz

 1   2   3   4   5 




森社長のコレクション その5 CARLSBRO SUZZ + UNIVOX SUPER-FUZZ

 CARLSBROといえば、TONE BENDER MK3と同じ青いファズで知られると思いますが、70年代に入ってからはSOLA SOUND以外でもOEM製造を委託して別なペダルも発売しました。こちらの「SUZZ」はその名の通り「FUZZ+SUSTAIN」をうたったもので、よりディストーションに近いファズ。71年以降に製造されたもので、その初期モデルはシリコン・トランジスタ、70年代後半にはオペアンプを使用したものが製造されています。筐体を見て思い出した方もいると思われますが、このペダルの製造はおそらく(以前紹介した)WEM(ワトキンス)社の後期型RUSH PEP FUZZと同じ工場だと思われます。
 最後のUNIVOX SUPER-FUZZは、既にファズの世界では有名なペダルですよね。日本のシンエイという会社がOEM製造を行なっていたもので、ピート・タウンゼンドが70年代に使用したことでも有名です。ただし同機は時代によってスペックが変わり、写真にある初期モノはノブ2ケが筐体横に配置。後期モノはラバーパッドのついて、ノブの位置も筐体前面に移動されてます。歪みを増やせばアッパーオクターブ成分が徐々に追加される、という仕組み。この初期型のSUPER-FUZZは日本のHONEYというブランドが出した「BABY CRYING」というファズと見た目も中身もほぼ同じ、とのこと。



No comments:

Post a Comment