3.19.2012

Castledine Electronics - MK One Bender


 イギリスにて「wah-wah.co.uk」というアドレスで、ワウのモディファイに関する研究をしていたサイトがあります。まだVOXのグレー・ワウとかクライド・マッコイの中身の変遷等がそれほどメジャーではなかった頃からあったサイト(2002年にスタートした模様)です。当方も以前から何度も訪れたことがあったのですが、今はすっかりオリジナル商品を販売するサイトとなっております。

 ここのサイトはスチュワート・キャッスルダインさんという方が運営してるんですが、彼はTONE BENDER他英国産のファズの研究でも有名な方で、今は自分のブランド「CASTLEDINE」でワウやファズを通販にて発売しています。商品数は多くありませんが、ヴィンテージ・ペダルを研究しまくってる人なので、レア&マニアックなラインナップは今後も少しずつ増えていくだろうと思われます。CASTLEDINEの現在のラインナップは後ほどちょっとだけ触れます。

 で、今回ご紹介するのはそのスチュワート・キャッスルダイン氏が制作した、TONE BENDER MK1クローンです。しかも、当ブログにていろいろこれまで掲載してきたMK1とはちょっとばかり違う中身となっております。その事を検証してみたいと思います。

 MK ONE BENDERと名付けられたこのクローンは、極少数だけ制作されたモデル(4ケか5ケ、だったと思います)なので、ラインナップには含まれていないカスタムメイド品なのですが、これを制作した意図や狙いを本人が以下のように説明しています。

 彼が所持しているオリジナルTONE BENDER MK1は極初期の製造品(註:本人いわく)で、ラベリング他、見た目の違いもいろいろありますが、何よりも回路のデザインが異なっています。回路基板は真っ黒に塗りつぶされており、使用トランジスタやスイッチ他のパーツも通常のMK1とは結構ことなっています。で、CASTLEDINEでこれを完全コピーしたクローン・ペダルを作ってみた、というのが今回のMKONE BENDER、ということになるのだそうです。その証拠として氏はそのオリジナルのMK1も同時に写真を公開しています。

 さてさて、今回重要なのは、この「回路が黒く塗りつぶされた」オリジナルMK1です。果たしてこれがいつどのように製造されたモノなのか、イマイチ判別はできません。パッと見て筐体上にあるロゴの文字が全然違う事が誰にでもわかると思われますが、この書体を使ったMK1は65年のオリジナルのソーラー・サウンド製のブツに実際にあります。なのでその点はいいのですが、他の点がどうもよく判りません。

 ワイヤーやスイッチを含め、かなりの部分のパーツが新しいものに変更されていること、基板上に搭載されたトランジスタがすべてブラック・キャップのOC75を使用していること(一部キャパシタは最近のものに変更されていますね)、蛇の目基板を使って回路が組まれていますが、これは65年のオリジナルTONE BENDERではなかったこと、等、他にもいろいろと不思議な点が存在します。

 本人に「その辺ドーなの?」と聞いてみたんですが「オリジナルだと思う。手に入れたときからこうだった」とのことでした。本人は「木製プロトタイプの直後に作られた、鉄製筐体版のプロトタイプじゃないか」と言ってましたが、個人的にはそうは思えません。というのも、基板は木製プロトタイプのものも金色の製品版も同じレイアウトだったからです。蛇の目基板ではなく、タコ足配線でポットに直に付けられていたという、原始的なものだったことはご承知の通りです。

 オリジナルのTONE BENDERが発売されたのが65年ですが、その翌年、SOLA SOUNDはマーシャル・ブランドのためにTONE BENDERのOEM製造をスタートさせた、という話を以前こちらで書きましたが(その結果出来上がったのが、67年に発売されたMARSHALL SUPA FUZZなわけですけど)、そのSUPA FUZZの初期プロトタイプにはMK1回路が搭載されたものがあった、ということは現在既に確認されています。その初期MK1回路ってのが、実はここで載せたOC75を3ケ使った蛇の目基板のMK1回路にそっくりなんですよね。

 66年には既にSOLA SOUNDでは自社製品としてMK1を作っていない時期にあたります。ですが他社向けOEM製造品としてわずかながら生き残っていた、ということになります。そんなこともあって、実はこのCASTLEDINE MK ONE BENDERのモトになったオリジナルのMK1は、66年かそれ以降に作られたものではないか、と推測しているのですが、いかがでしょうか。

 CASTLEDINEが制作したクローンはデモ映像がアップされています。音は例の「中域に思い切り偏った」MK1独特の歪みですね。テレキャスを使ってこれなので、かなり信号がブーストされていることもわかります。見た目やトランジスタは結構違いますが、回路はおそらく通常の(基本的な)MK1と同じもの、と思われます。

 CASTLEDINEではこの金色の筐体に入ったモデルはすでに作っていませんが、今購入できる製品ラインナップとして、VOXのグレー・ワウのクローン、VOXのクライド・マッコイ・ワウのクローン、それからTONE BENDER MK1回路をモディファイした「SUPA MK1」というファズ、シンエイUNI-VIBEのクローン・ペダル「SPURA-VIBE」、そして(ちょっと珍しい企画だと思います)ビートルズが60年代中期にレコーディングで使ったVOXのトランジスタ・アンプの音を再現するために作ったというプリアンプ「MAGICAL MYSTERY BOX」なんていうものを現在発売しています。今後もCASTLEDINEからはそういう「一風変わった」ブリティッシュ・ペダルのクローンを期待したいところですね。


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