3.12.2012

Masayuki Mori Interview - Part 4



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——TONE BENDERに限らず、ゲルマニウム・トランジスタを使ったファズって「もの凄くアンプを選ぶ」と思うんですけど、いつもアンプ側はどうセッティングされてるのかなあ、と。
M:特にこの季節(冬)、鳴らない日は鳴らないですからねぇ。
——イギリスも冬は寒いですけど、知り合いに聞いた所、みんなドライヤーとかであっためるそうですね。
M:まあ僕は最近はすっかり自宅ギタリストですから、盆栽を楽しむ感覚でしかギターに触ってないですけど。
——なんか、スッゴイ高級な盆栽が目の前にゴロゴロと置いてありますが(笑)。
M:いえいえ(笑)、何年もかけて結果的に集まった、というだけなんでね。一気に集めたわけでもないですし。
——TONE BENDERクローンも色んな所からいろいろ出てますけど、どの辺りをお持ちですか?
M:もちろんJMIのは持ってて、それからD.A.M.のも持ってます。あとMACARI'S(現行のSOLA SOUND製品)も。あとね、個人製作家のモノもかなり持ってますね。OC75を使ったTONE BENDERクローンは割と手に入りやすいですよね。
——そうですね。とはいえ、楽器屋さんに行って手軽に買える、ってモノではないですけど(笑)。
M:D.A.M.のは試してみて「あー、いいじゃない」と思ってたんだけれども、OC81Dていうトランジスタはどこか神格化された部分があるでしょう? D.A.M.のクローンでもOC81Dを使ったものがあるんだけど、それはなかなか手に入らないし、あってもメチャクチャ高いし(笑)。それでそれ以降意識していろんな製作家のMK2でOC81Dを使ったモノを集めたりしたんですよ。
——SMITTY PEDALSとかLUMPY'S TONE SHOPとか、ですかね?
M:んー、名前は覚えてないんだけど、フランスの製作家もいたり、イギリスの人もいたり。でも、音はたいてい似通ったようなモノですけどね。
——あー、それはやっぱりD.A.M.フォーラムの影響が大きいでしょうね。今ブティック系ビルダーは皆あそこで情報共有しちゃうので。パーツとか定数とか全部ディスクローズしますからね。
M:MACARI'SのTONE BENDERで、D.A.M.が作ったのがあるじゃない?あれは石は何だったっけ?
——いまMACARISから出ていものは、ムラードのOC84を使ってますね。
M:でもカスタムメイドかなんかでOC81Dを使ったのもあるんですよ。
——あ、それは知りませんでした。お持ちなんですか?
M:うん。でもね、D.A.M.が作ったそのOC81DのMK2は、全然抜けなくて、コンプがかかったような抜け切らない、埋もれた音なんですよね。他のD.A.M.のTONE BENDERは、それなりに抜けのいいファズなんだけどね。そうは言ってもD.A.M.のファズは、たとえどんな石を使っててもやっぱり「D.A.M.の音」がするんだよね。
——あ、そうですよね。一定のカラーがありますよね。
M:あと安定してる。でも今MACARI'Sから出てるMK2っていうのは、D.A.M.製なんだけどあんまり安定してない。どうしてなんだろうね。やっぱり石の問題なのかな。それとも作る方向性を変えてきたのかな。
——どうでしょうね。彼はいまだに延々と試行錯誤してる、というカンジですもんね。トランジスタに関しては、今はMAGNATECのAC128をよく使うようですけど。
M:D.A.M.が最近作ってる小さくてカラフルなペダルって、「日本のエフェクター」、それこそBOSSとかマクソンなんかのコンパクトなエフェクターに対する憧れがあって、ああいう色にしたんだって聞いたよ。ああいうBOSS的な体裁にしてみたい、っていう。
——へー、そうなんですか。森社長はJMIのTONE BENDER PROFESSIONAL MK2のMULLARD OC75版を既にお持ちとのことですが、今回入手されたMULLARD OC81D版は実際に音出されてみて、いかがでしたか?(註:写真は左から、ムラードOC75を使ったJMIのMK2、OC81Dを使ったJMIのMK2、それからD.A.M.製造のSOLA SOUND MK2復刻版)
M:なんて言うんだろう、ほとんどもうニュアンスの違いくらい、ですよね。どっちがどう、とは言いきれるものではないですよね。
——ええ、それはその通りですね。それでもほんの僅かですが、僕が試した印象ではOC75版のほうは埋もれずにスッキリと抜けてくれる、という印象だったんですが。
M:少〜しね、OC81Dのほうは若干おとなしい、というカンジがしましたね。
——あ、そうですか。暴れるカンジではない、と。
M:そうね、OC81D版はよくも悪くもまとまってるというか。個体差もあるから一概には言えないんだけど、とても「整ってる」という印象ですね。メーカーはもちろん「音をまとめよう」として作ってるんだろうけど(笑)。 
——ちなみに森社長は、乾電池なんかもいろいろ試されるタイプですか?
M:あ、いやそこまでこだわりがあるわけじゃないです。基本的にデュラセルに統一してますけど、他をアレコレ試すことはないですね。
——ウチのHPでファズを購入されるお客さんには、結構電池にこだわる方もいらっしゃるんですよね。〜〜が一番いい、とか〜〜ボルトまで電力の落ちた状態が一番いい、とか研究されてる方が。さっきのオリジナルのTONE BENDER MK2 OC81Dに話が戻りますが、入手は大変だったんじゃないですか?
M:でも、どこまでがオリジナルか、は保証できないですよね。売る方は「オリジナルだ」って言いますけど。まあご丁寧にダメになったゴム足まで付けてくれた、ってことは「ほら、嘘じゃないぞ」っていう売り手のアピールなんでしょうね。でもヘンな位置に小さい穴が開いてたり、裏蓋がビミョーにずれてたり、「え?ホントにこんなにいい加減な作りなのかなあ?」って疑心暗鬼にはなりますよね。
——僕の知る限りでは、この位ならよくある、ってレベルでいい加減だったようです、当時は。作った本人(ゲイリー・ハースト)に聞いても覚えてない、っていうことも多いんですよね。
M:まだFUZZ FACEのほうが、TONE BENDERよりは判ってる事が多いでしょうね。TONE BENDERに使われてるトランジスタに関してもね、たとえばD.A.M.なんかがよく解説してるようなトランジスタの特性は、まあ一応僕もその通りだとは思うんだけど、実際にオリジナルのOC81DのMK2を買ったら、そんな細かいことなんて関係ねー、ってくらい音もバカでかくて。
——例えばジミー・ペイジ本人は、石がOC81Dかどうかとか、おそらく気にしてなかったと思うんですよね。
M:絶対気にしてないでしょう。ジミヘンのFUZZ FACEも、シリコンかどうかを気にしてなかったでしょうね。
——これは聞いた話ですが、ジミヘンが使うギターを選ぶ方法っていうのは「その日一番チューニングが合ってるギターを手に取る」だったそうなんですよ(笑)
M:(笑)。でも「奥が深い」てのはそういうことなんですよね。いいモノかどうか、いい音かどうか、っていうのは使われてる石とか、スペックとかでは判明できないですからね。
——TONE BENDER以外のファズで、いろいろ研究した、というのは?
M:やっぱりエレハモ関係(BIG MUFF)かなあ。トライアングルとラムズヘッド。その初期のほうが面白いですね。今でもエレハモは面白いモンが出すんですけどね。グラフィック・ファズとかね。
——ラムズヘッドの頃までは、全く同じ回路のBIG MUFFはひとつもない、ってことなんですが。当然音も違って、マフもホント難しいですね。
M:トライアングルもそうだし、当然TONE BENDERなんて全部一個一個音が違うんですけど、開発者がどういう音を目指してたんだろう?とかよく考えちゃいますよね。
——トレブルブースターなんかはどうでしょう?
M:一時ハマりましたね。今もOC44を使ったのを1ケだけ持ってるんですけど。トレブルブースターもフルレンジ・ブースターでもそうなんですけど、最初は僕もブースターの使い方がよく判ってなかったですね。プリアンプ的な使い方がおそらく一番多いパターンなんでしょうけど。僕がピート・コーニッシュのブースター(註:右の写真はTB-83TM。同機種はフットスイッチのついたカスタム版もある)を入手した時に、「これは一体どうやって使うモンなんだろう?」って悩んだんですよね。あれはフットスイッチもついてないし。で、そんなことを考えてたときに「これは全部ギターのボリュームで調整するモンなんだよ。トレブルブースターてのは、本来はそういう使い方をしたモンなんだ」と聞いて。あ、なるほど、と思ったんですよね。以前はそういうことを楽器屋さんも知らなかったですし。楽器屋さんならたいていブースターを「ソロでオンにして歪みや音量を増やして〜」って説明することが多いと思うんですけど。
——そうですね。
M:ブースターも結局本来は、「ソロになったら音をブワーとデカくする」というエフェクターではないんだぞ、ということですね。それに「トレブル」ブースターっていうくらいだから、アンプ側のトレブルをどうしとくかも重要なわけで。
——ロリー・ギャラガーもブライアン・メイも、AC30のノーマル・インプットを使いますもんね。
M:そう。そしてロリー・ギャラガーもギターのツマミをこまめに気にしてる。だから、TONE BENDERもトレブルブースターもそうなんですけど、使ってみて教えられること、っていうのが非常に多いですね。オーバードライブを使い続けていたら、知る事はなかっただろう、っていう知識。
——なるほど(笑)。オーバードライブの方がたしかに明解で判りやすいすもんね。
M:ましてや今はデジタルの時代ですからね。私はもの凄いアナログの人間ですから、その便利さはわかりますけど、あまり持つ気にはなれないですねえ。
——まあ、デジタルのマルチをドライヤーであっためるなんて人は、世界中のどこにもいないでしょうねえ(笑)。
M:今日はエフェクターの機嫌が悪いぞ、とか(笑)。デジタルではあり得ない、っていう。

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森社長のコレクション その4 PARK FUZZ SOUND (1968)
 1968年にSOLA SOUNDが他社ブランドのために製造したTONE BENDER MK3のOEM製品のひとつが、このPARKのFUZZ SOUND。既に有名ですが、PARKはマーシャル社のサブ・ブランドとして機能していたブランドなので、考えてみればマーシャル・ブランドのSUPA FUZZの後継機種としてこのFUZZ SOUNDを売り出した、と言えるのかもしれません。写真を一見してわかるように、SOLA SOUND製MK3との違いは表の塗装だけです。が、個体差の問題や製造時期による細かな定数/パーツの違いもあってか森社長いわく「音は違う」とのこと。PARKのFUZZ SOUNDには、こちらのようにSOLA SOUND製品と同じ筐体/コントロール(3ノブ)のものと、それとはちょとだけ違う2ノブ(こちらは筐体がVOXのTONE BENDER MK3のような形のもの)とがあります。どちらも回路はMK3回路で、2ノブのほうは「TRABLE・BASS」のノブがありません。そちらは機会を見てまた改めてまとめて紹介するつもりです。



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