4.22.2012

Vox Tone Bender MK3 with Treble 'n' Bass Boost (1969)


 長い歴史があり、しかも関連製品も膨大な種類があるTONE BENDERというファズ・シリーズにおいては、回路構成上時代的トレンドであったハズの「シリコン・トランジスタを用いる」というアップデートが行なわれたのは、結構遅かった、と言わざるを得ません。当時最先端のエフェクターであったにも関わらず「イギリス製の機材だ」という点が、回路開発において保守的な面を後押ししたのではないか、とも考えてしまうのですが。まあ元々「ジョンブル」なんていう言葉もあるくらいガンコで有名なお国柄ではありますが(笑)。

 これがアメリカの話であれば、簡単に言えば「合理化」というお題目とともにガシガシと新しいトレンドを回路デザインに用いて「ブランニューなファズできましたぁ!」として大規模に売り出せるわけで、そうした点はエレハモの製品を見るとよくわかりますよね。

 恐らくTONE BENDERと名のついた英国製ファズの中で、いちばん最初にシリコン・トランジスタを用いたモデルだろう、と思われるファズを掲載してみます。1969年製造、と思われる、VOXブランドのTONE BENDER MK3 WITH TREBLE'N'BASS BOOST、というモデルです。今のところ、2〜3ケが現存することがわかっていますが、果たして何個作られたか、はまったくの未知数です。

 既に何度も書いているように、この前年68年に、SOLA SOUNDは3度目のフル・モデルチェンジをTONE BENDERに行ないました。その68年モデル(通称MK3)は、自社SOLA SOUNDブランドで発売されただけでなく、VOXブランドで、PARKブランドで、ROTOSOUNDブランドで、等々他社にもOEM製造されていたことは既にご承知かと思います。

 一般に、(わずかな例外を除いて)MK3系のTONE BENDERはノブが3つありますが、それらの殆どはシルバーキャップのゲルマニウム・トランジスタを用いていました。前回までに書いた様に、TONE BENDERが一般的にシリコン・トランジスタを採用したのは1974〜75年頃と思われますが、その際にも大規模なモデルチェンジを行ない、回路も大幅に変更されSUPAやらJUMBOやら新しい名前もついているわけです。

 が、こちらにあるように、実はさかのぼる事5年以上も前の1969年頃には、シリコン・トランジスタを採用したモデルもあるわけですね。ご覧頂けるように、このファズはMK3と書いてありながらも、他のMK3系TONE BENDERとは全く異なる回路を持っています。またノブも2ケしかありません。ノブは「ボリューム」と「トレブル/ベース」にあてがわれているので、歪みの量(MK3での「ファズ」ノブに相当するコントロール)は可変できないことになります。

 回路に目をやると、トランジスタは2N2926というシリコン・トランジスタが3ケ用いられています。当方も回路図を入手しようとヤッキになっているのですが、今の所入手できていません。これは完全に当方の個人的な推測になるのですが、このモデルはおそらくプロトタイプに近いもので、殆ど製造されていないのではないか、と思っています。
 その理由のひとつはまず基板にあります。ご承知のように、一般的なMK3であればプリント基板が用いられていますが、こちらのWITH TREBLE'N'BASS BOOSTではユニバーサル基板を用いており、ワイアリングも手作業であることがわかります。基板の設置方法も通常のMK3とはまったく異なる方法であることも確認できます。わざわざ(MK3の)後発製品に、古い製造方法を用いることはないだろう、と思われるからです。

 理由その2は、もちろん「シリコン・トランジスタ」を使っている、という点です。2N2926はNPNトランジスタなので、これまでの回路(PNP回路)を流用することができず、まったく新しい回路を用意する必要があったわけですね。筐体に堂々とMK3と書いてはあるものの、それらの意味からも回路はMK3ではないと判ります(一見して、キャパシタの数がMK3回路よりも多く、またMK3回路の特徴でもあるダイオードが見当たらない等)。ただし、MK3回路とこちらの回路、どちらが先に「開発」されたかは不明なのですが。

 そしてホントかどうかわからないけど、もしかしてもしかすると、という理由その3は、丁度同じ頃、60年代末に同様の製品が他社から出ていた、ということも考えられます。それはJHS社が発売したSHATTERBOXという金色のファズで、これはシリコン・トランジスタを使ったFUZZ FACE回路に、同じくシリコン・トランジスタを用いたトレブルブースト回路を付け加えたモノ、ということが判っています。それを真似した、というわけではないでしょうが、同じようなことを考えた、というのは十分あり得ますよね。

 写真に掲載した「VOX TONE BENDER MK3 WITH TREBLE'N'BASS BOOST」の固体は、オリジナルではPP4という円柱状の電池用スナップが用いられていたっていうこともわかっていて、60年代末の製造ということは間違いなさそうです。

 ちなみにこのファズ、音を聴いた事も触った事ももちろんありません。どっかにあれば是非とも欲しいブツではありますが、まあ無理でしょうねえ(笑)。以前アメリカの楽器屋さんにてこれが売りに出されたことがあるんですが、その際お店の人に「どんな音なの?」と聞いた事があります。答えは「バランスの取れた倍音」「スムースな歪み」「最高だぞ」とか、そんな文言ばかりで、あまり参考になるようなモノではありませんでした(笑)。そりゃあ、シリコン使えばそんなカンジになるだろうよ、て思うのは当方だけではないと思うのですが。


1 comment:

  1. Hi there , I have a original vox tonebender mk 3, two knob, I bought it new in 1967. They are now extremely rare, even Macaris , the orginal makers of the Sola Sound range do not have one in there archive . are you interested in buying it, apart from cosmetic wear and tear , it stills great !! Ashley

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