これまで「VOX」のブランドの名がついたTONE BENDERをいくつかご紹介しましたが、VOX TONE BENDERにはまだまだ続きがあります。以下、これまでのものも含めて、整理していきたいと思います。
まず、最初にVOXの名のついたTONE BENDERは1966年、イギリスのSOLA SOUNDが製造したTONE BENDERで、中身はゲルマ3石を用いた、当時出来たばかりのMK2回路でした。
続いてその直後には、イタリアのEME(後のJEN)社の製造によって、VOX TONE BENDERが発売されました。こちらは中身はゲルマ2石を用いたMK1.5回路(多少修正あり)です。以上は、これまで紹介してきた通りです。
さて、70年代も半ばにさしかかると、なぜかまたイギリスのSOLA SOUNDの製造で VOX TONE BENDERという商品が発売されています。写真に掲載した、オレンジのサイケなロゴがデザインされた真っ黒い筐体のファズがそれです。70年代は「VOX」という楽器ブランドの商標保持者がコロコロと変わった(当初はアメリカのテリトリーに限ってTHOMAS ORGAN社が、その後イギリスではVOX LTDという会社が新たに興され、またその後はROSE MORRIS社が商標権を得たり、という具合です)時期なので、多くの人が権利を行使したんだろうなあ、とは考えられます。
そんな最中にSOLA SOUNDが作ったVOX TONE BENDERには「MK3」という文字が入っています。文字通り、当時SOLA SOUNDが(自社のCOLORSOUNDブランドから)発売していたTONE BENDER MK3をそのまま転用したモデル、ということになります。
中身は言うまでもなく、ご覧の通りMK3そのままで、トランジスタは初期のものにはゲルマニウム・トランジスタが3ケ使用されています。ただし、そのトランジスタの銘柄は、一切のプリントがないので不明なままです。コントロールもそのままで、ファズ、ボリュームに加えて、トレブル/ベースのコントロール(以前も書きましたが、左に回せばカリカリのトレブリーなサウンドになります)はMK3そのままです。
恥ずかしながら当方も最近までこのモデルのことは全く知らなくて、MY BLOODY VALENTINEのケヴィン・シールズがこれを持っていることを知って、その存在を初めて知りました。最初「なんだこりゃ?」と思ったのですが、調べてみたら、実際にこれは「VOX TONE BENDER」だったわけです(笑)。
話がちょっとそれますが、ケヴィン・シールズのこの有名なペダルの大群写真はZ.VEXの大将、ザッカリー氏が撮影したものですが、やはり世界中のペダル・フェチは驚愕したようです。勿論当方もドビックリでした(笑)。
まさかマイブラ効果、というわけではないと思いますが、このSOLA SOUND製VOX TONE BENDER MK3は、近年イギリスのJMIから復刻版がリリースされています。JMI版も、ゲルマ・トランジスタ3石を使ったMK3回路を踏襲しています(ちなみにJMIはその復刻MK3を、「JIMMY PAGE SPEC」とうたって発売していますが、それはおそらく、以前こちらで紹介した通りにペイジ先生はMK3を使った事があったから、と思われます。ですが、正直ジミー・ペイジのTONE BENDERといえばその殆どはMK2を指すことが多いと思われるので、ちょっと誤解を生む恐れのあるJMIの宣伝文句、とも言えるかもしれません)。
で、このMK3回路だったころのVOX TONE BENDER MK3には、上に載せた黒/オレンジのサイケなロゴ、という筐体以外にも、ご覧のようにシンプルな筐体のモデルもあったようです。ただ、基盤のレイアウトや回路をマジマジと見ると、全く同じ回路でもないようで、ワケわかんないですね(笑)。トランジスタもやっぱり違うモノのようですし、正直にいえば、どちらが先でどちらが後か、もう既に判断できません。申し訳ありません。とりあえず写真でもわかるように、イン/アウトのジャックは筐体横に移動されていることも確認できます。
さてそのVOX TONE BENDER MK3モデルには続編があります。黒×オレンジのほぼ同じ筐体(とはいえデザインはチラっとだけ変更されていますが)で、後にシリコン・トランジスタ・バージョンが出ているんです。サイケデリックな「TONE BENDER」の文字は筐体下に移動、さらに「TREBLE/BASS」のコントロールは、名前が「TONE」に変わっていますね。また、ゲルマ版の時代とは、基盤上のポットの設置の向きが逆になり、ご覧のように裏蓋を開けると回路が丸出しで見えるようになりました。
ちなみにここに掲載した写真は、1978年7月29日の製造日スタンプがあり、70年代も随分後半に入ってからも、VOXのブランドからTONE BENDERというファズがリリースされていた、ということがわかります。
ただ、回路の写真をご覧いただいてもお判りのように、このシリコン版VOX TONE BENDERの回路には(数えるのもイヤになるほど)沢山の抵抗/キャパシタが配置されており、TONE BENDERのファズ回路としては、すでに「MK3回路」とは呼べないものになっています。
本家SOLA SOUNDのTONE BENDERは、後にMK4と呼ばれる回路(JUMBO TONE BENDER等に使用された回路のこと/ほとんどBIG MUFFのようなシリコン4ケ使いのファズ回路で、60年代のTONE BENDERらしさは殆ど失われていますが)を生みますが、それに近いもの、と推察されます。
以上が70年代に発売されていたVOX TONE BENDER MK3になりますが、実はこの10年以上あとに、また更にVOXはTONE BENDERを新しく発売します。それに関しては次回にて。
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