3.22.2010
VOX Tone Bender (Made in Italy / 1966-)
おそらく世間で一番有名なTONE BENDERであると思われますが、それと同時に「TONE BENDERってちょっとメンドクセーなあ」という印象をファズ・マニア達が持つことに貢献(?)してしまったであろうモデルをご紹介します。既に書いたように、65年に開発されて翌66年にはリニュアルを2度もしたTONE BENDERですが、同じく66年に、それらとは全く別にTONE BENDERという名前のファズ・ペダルが大々的に世間に登場しました。それがこのイタリア製のVOX TONE BENDERです。
VOX/JMIはほんのわずかな期間だけ英国のソーラーサウンド社にてTONE BENDERを作ってもらってた訳ですが、そのOEM製品とは別に独自でTONE BENDERの大々的な大量生産に乗り出したというワケですね。回路を更に見直し、2ケのゲルマニウム・トランジスタ(数種類のヴァリエーションが存在しますが、主に使用されたのはSFT337、SFT363等です)を持つ回路に再構成され、製造をイタリアのEME社(詳細は後述します)に委託し、大々的に66年末から発売されました。
ゲイリー・ハーストがこのイタリア製TONE BENDERをケチョンケチョンにけなしているのは前にご紹介したインタビュー等でも明らかですが、おそらく「イタリア製」に至ったその経緯というか、道義的なモンが多分に関係してると思われます(註:さすがに『なんでそんなにボロクソに言うんですか?』とは本人には聞けなかったもので……スイマセン)。なぜなら「ゲイリー・ハースト・デザインではない」TONE BENDERがデカい顔して、しかも自分が昔働いた馴染み深いVOX/JMI社から登場してしまったわけですから。
CRY BABYというワウに関しても似たような現象があったと思われますが、TONE BENDERもそういう開発者とか発売元とか、いろんな人がいろんな利害関係で結ばれたり破局したり、という悲しい歴史をたどっています。Aさんに話を聞けば「いやアレは……」、Bさんに話を聞けば「ウソこくでねえ、実はあれは……」ということになりがちなんです。そういうのをなるべくフェアに史実に則してまとめよう、と思ったのがこのブログだったりもするわけですが。
前置きが長くてすいません。そのイタリア製VOX TONE BENDERを検証してみましょう。ここに4つのイタリア製TONE BENDERを載せていますが、上から順に「66年製」「68年製」「69年製」それと「JEN FUZZ(70年製)」です。色や筐体が異なってはいますが、これらはすべて同じ回路で構成されています。それぞれの内部写真も掲載しましたが、使っているトランジスタもキャパシタも(色こそ違えど)数値も同じもののようです。
66年のものはグレー・ハマートーン塗装で黒いパネル、という、最も有名なTONE BENDERですね。68年のものは、同じくグレー・ハマートーンですが、パネルのデザインが変更されています。筐体がグレーだったころのTONE BENERには、どこにも「MADE IN ITALY」とは書いてありません。裏のパネルはグレーの塗りつぶしが施されているだけです。
それから69年の黒いモデルですが(このデザインのまま、70年代初期までTONE BENDERは発売されていたようです)、形は同じですが実は筐体の型が異なります。内部のネジ受けのシェイプを見ると、丸くなっているのが確認できると思います。この黒い筐体はそのまま同じものが製造元JENが自らのブランド名で発売したJEN FUZZにも流用されています(ただし、JENのものはバックプレートに白いゴムのトリミングが追加されます)。写真に掲載してあるのは「JEN FUZZ」とだけ書いてありますが、全く同じ中身/デザインで「JEN TONE BENDER」とプリントされたものもあります。あまり名前に関して、その辺のこだわりはJENには無かったかもしれませんね(笑)。
ちなみにこれ以降(つまり70年代に入ってから。おそらく72年頃)、黒い筐体で黒いパネル、という真っ黒ケなTONE BENDERもあるのですが、持っていないためその詳細をここで紹介できません。真っ黒なのはシリコンだ、という噂もあるのですが、いまだ確認には至っておりません。申し訳ありませんがご了承願います。
内部に関して、66年のものは「右側のほうのキャパシタが一個足りないんじゃないか」と思われた方もいらっしゃると思います。左に66年のもの(上)と69年のもの(下)を別角度で撮影した比較写真を掲載しましたが、実は66年製は基盤裏にオレンジ色のキャパシタが配線されています(こんな位置にあるので、メーカーが読み取れませんでした。スイマセン)。このオレンジのパーツは68年製では青いARCO製のキャパシタに、69年製のものではPROCOND製の白いキャパシタに変更されたわけですね。ARCO、PROCOND共に、イタリア製ワウの重要なパーツとして既に有名だと思われます。
肝心の音に関してですが、これまでの(英国製)TONE BENDERファミリーとの比較でも、もっともトレブリーな位置に歪みがセットされたこのイタリア製のTONE BENDERは、デイヴィッド・A・メイン氏の考察によれば「マーシャルやVOXといったダークな色合いの英国製アンプにマッチさせるためだろう」とのこと。たとえばレスポール+マーシャルのスタック、といったような最もヘヴィー・ボトムなギター&アンプの組み合わせであっても、このTONE BENDERを間に挟みVolを少し絞るだけで(まるでシングル・コイルのような)カリカリのクランチ・サウンドが生み出せる、という特徴を持っています。
だからこそ、その逆を考えたのだと思いますが、デイヴィッド・メイン氏はD.A.Mでこのイタリア製VOX TONE BENDERのクローン・ファズ1966を製作した際に、「イギリス製っぽいダークなヘヴィー・ボトム(低音)も出せるように、SUPER BEEというスイッチを付加したのだと語っています。D.A.M製品に関しては、別の機会にその詳細を譲りたいと思います。
後々日本製で復刻されたソーラーサウンドのMK2復刻品などがオリジナルとは異なる「2つのトランジスタ回路」にしてしまったのは、間違ってMK1.5の回路を参照にした、というデイヴィッド・メイン氏の考察も納得できますが、その一方で「最も有名なイタリア製VOX TONE BENDERの回路を参考にしてしまったから」という推論も成り立つんじゃないか、と思っています。
実はゲイリー・ハーストがボロクソに言うのとは反対に、当方はこのイタリア製TONE BENDERもすごく好きだったりします(笑)。適度なファズの暴れ具合と、適度なマイルドさ、その両方がありながらも、MK2のようにやたらに図太い音ではない適度の痩せ方(枯れ方)があるので、これはこれで十分に素晴らしいTONE BENDERだと思っています。MK1、MK1.5、MK2、イタリア製、それぞれが違うサウンドを持っていて、それぞれに美味しいポイントがあるので、是非いろいろと試してみることをお勧めしたいと思います。
そういうわけで、ちょっとだけまとめるなら「VOX TONE BENDER」はごく初期のみイギリス製(ソーラーサウンド製でMK2回路)ですが、そのほとんどはイタリア製です。作っていたのはEME社の工場で、後にJENとなる会社です。VOXのワウもごく初期のプロト・モデルのみがイギリス製で(作ってたのはソーラーサウンド社)、実際に製品になったのはイタリア製のCLYDE McCOYだ、というのは有名な話ですが、VOXのTONE BENDERもそれと同じ道を辿った、と考えるとわかりやすいかと思われます。
(2011年11月加筆)実はこれまで当方は本サイトにて、JENという会社に関して記載を曖昧にしてきた部分があります。それは何かというと、実際にそのイタリアの工場というのは(これは「THE EFFECTOR BOOK」、もしくは海外のサイト等で既に書かれていることですが)1960年代後半までは、EME(EUROPEAN MUSCIAL ELECTRONICS)という社名だった、ということです。このEMEはイギリスのJMI社、アメリカのTHOMAS ORGAN社、そしてイタリアのEKO社の合弁企業であり、ようは既存の体勢ではまかないきれなくなった需要に対してイタリアで大量生産するために興された企業でした。この会社は1958年からオルガンの製造を行っていました。
もちろんその事は当方も承知していたのですが、このEME社は初代社長が亡くなり、2代目の社長が誕生後すぐにJENと名前を変えています。そこで、何年までがEMEで何年からJENか、というのが曖昧だったこともあり、これまでは全部まとめてJENと書いてきました。先日とある方から「JENは1968年から」という指摘をいただき、そのソースも確認したので、本サイト内にあるJEN関連の記載は順次修正していきたいと思います。実質その中身はJENと社名が変わって以降も何も変化していなこともあって「JMI/VOX関連製品のイタリアの工場」という役割だったことには違いありませんが、一応「史実に基づく」ために随時記載を修正したいと思います。写真はJMIのボス、トム・ジェニングス氏(左)と、EKOの社長オリビエロ・ピッジーニ氏(右)がEME設立に伴い握手する、という図です。
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