
おそらく世間で一番有名なTONE BENDERであると思われますが、それと同時に「TONE BENDERってちょっとメンドクセーなあ」という印象をファズ・マニア達が持つことに貢献(?)してしまったであろうモデルをご紹介します。既に書いたように、65年に開発されて翌66年にはリニュアルを2度もしたTONE BENDERですが、同じく66年に、それらとは全く別にTONE BENDERという名前のファズ・ペダルが大々的に世間に登場しました。それがこのイタリア製のVOX TONE BENDERです。




66年のものはグレー・ハマートーン塗装で黒いパネル、という、最も有名なTONE BENDERですね。68年のものは、同じくグレー・ハマートーンですが、パネルのデザインが変更されています。筐体がグレーだったころのTONE BENERには、どこにも「MADE IN ITALY」とは書いてありません。裏のパネルはグレーの塗りつぶしが施されているだけです。




肝心の音に関してですが、これまでの(英国製)TONE BENDERファミリーとの比較でも、もっともトレブリーな位置に歪みがセットされたこのイタリア製のTONE BENDERは、デイヴィッド・A・メイン氏の考察によれば「マーシャルやVOXといったダークな色合いの英国製アンプにマッチさせるためだろう」とのこと。たとえばレスポール+マーシャルのスタック、といったような最もヘヴィー・ボトムなギター&アンプの組み合わせであっても、このTONE BENDERを間に挟みVolを少し絞るだけで(まるでシングル・コイルのような)カリカリのクランチ・サウンドが生み出せる、という特徴を持っています。

後々日本製で復刻されたソーラーサウンドのMK2復刻品などがオリジナルとは異なる「2つのトランジスタ回路」にしてしまったのは、間違ってMK1.5の回路を参照にした、というデイヴィッド・メイン氏の考察も納得できますが、その一方で「最も有名なイタリア製VOX TONE BENDERの回路を参考にしてしまったから」という推論も成り立つんじゃないか、と思っています。
実はゲイリー・ハーストがボロクソに言うのとは反対に、当方はこのイタリア製TONE BENDERもすごく好きだったりします(笑)。適度なファズの暴れ具合と、適度なマイルドさ、その両方がありながらも、MK2のようにやたらに図太い音ではない適度の痩せ方(枯れ方)があるので、これはこれで十分に素晴らしいTONE BENDERだと思っています。MK1、MK1.5、MK2、イタリア製、それぞれが違うサウンドを持っていて、それぞれに美味しいポイントがあるので、是非いろいろと試してみることをお勧めしたいと思います。
そういうわけで、ちょっとだけまとめるなら「VOX TONE BENDER」はごく初期のみイギリス製(ソーラーサウンド製でMK2回路)ですが、そのほとんどはイタリア製です。作っていたのはEME社の工場で、後にJENとなる会社です。VOXのワウもごく初期のプロト・モデルのみがイギリス製で(作ってたのはソーラーサウンド社)、実際に製品になったのはイタリア製のCLYDE McCOYだ、というのは有名な話ですが、VOXのTONE BENDERもそれと同じ道を辿った、と考えるとわかりやすいかと思われます。
(2011年11月加筆)実はこれまで当方は本サイトにて、JENという会社に関して記載を曖昧にしてきた部分があります。それは何かというと、実際にそのイタリアの工場というのは(これは「THE EFFECTOR BOOK」、もしくは海外のサイト等で既に書かれていることですが)1960年代後半までは、EME(EUROPEAN MUSCIAL ELECTRONICS)という社名だった、ということです。このEMEはイギリスのJMI社、アメリカのTHOMAS ORGAN社、そしてイタリアのEKO社の合弁企業であり、ようは既存の体勢ではまかないきれなくなった需要に対してイタリアで大量生産するために興された企業でした。この会社は1958年からオルガンの製造を行っていました。
もちろんその事は当方も承知していたのですが、このEME社は初代社長が亡くなり、2代目の社長が誕生後すぐにJENと名前を変えています。そこで、何年までがEMEで何年からJENか、というのが曖昧だったこともあり、これまでは全部まとめてJENと書いてきました。先日とある方から「JENは1968年から」という指摘をいただき、そのソースも確認したので、本サイト内にあるJEN関連の記載は順次修正していきたいと思います。実質その中身はJENと社名が変わって以降も何も変化していなこともあって「JMI/VOX関連製品のイタリアの工場」という役割だったことには違いありませんが、一応「史実に基づく」ために随時記載を修正したいと思います。写真はJMIのボス、トム・ジェニングス氏(左)と、EKOの社長オリビエロ・ピッジーニ氏(右)がEME設立に伴い握手する、という図です。
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