G:ファズを使うギタリスト達は、もっともっと長いサステインを欲していたんだ。特にソロ・ノートのためにね。だから、MK1.5回路の前段にインプット・ブースト用のトランジスタを1ケ付け加える事にした。それがPROFESSIONAL MK2となって発売されることになった。最初に「そうしてくれ」と私に言ってきたのはトム・ジョーンズのバック・ギタリストだったミック・ジー(Micky Gee)*1 だった。彼はエレキ・ギターでブラス・セクション(管楽器)のようなサウンドを再現したがっていたからね。レコーディングでも彼はMK2を使ってそういうサウンドを出してるよ。
——丁度そのMK2と同じ頃だと思うのですが、イタリアの工場に製造委託をしてVOXブランドがTONE BENDERを発売し始めています。それにもあなたは何らかの関与があるのでしょうか? 回路のデザインとか。
G:いや。あれはソーラーサウンドがVOXの名を付けて発売したPROFESSIONAL MK2、つまり私のデザインした回路を持った英国製のTONE BENDERのバッド・コピーだよ。なぜかトランジスタを2ケ、という回路に戻してしまった。
——ソーラーサウンドが手がけたファズで、1ノブで青い筐体に入った、FUZZ BOXというファズがあります。90年代に一時期リイシューされたりもしたのですが、そのオリジナルは、ちまたではジェフ・ベックやデイヴィッド・ギルモアのためにあなたが60年代の終わり頃にカスタムメイドしたものだ、と言われています*2 。それは本当ですか。
G:いや。違う。
——今、世界中でTONE BENDERのクローン・ペダルが沢山ありますが、オリジネイターのあなたとしてはどういったご感想をお持ちなのでしょう?
G:まったく心配していない。誰だってコピーしていいんだ。もし誰かが「ゲイリー・ハースト本人が作ったもの」がどうしても欲しい、というならば、私にコンタクトをとればいいだけだ。そしてコピーはコピー。それだけだよ。
——60年代以降、音楽シーンであなたが開発したファズ・ペダルが大人気になって以降、どういう気持ちでそれらの新しい音楽を聞きましたか?
G:ヴィック・フリックが最初のファズを使って以来、ヤードバーズやデヴィッド・ボウイのアルバムで私の機材が実際に使われていたんだからね。この音に「私は大きな貢献をした」という事実。そりゃあ、嬉しかったよ。
*2 これは90年代にソーラーサウンドFUZZ BOXが再発売されたとき宣伝文句として使われた説明文です。現在ソーラーサウンドのオフィシャルHPを読めばわかりますが、FUZZ BOXはもともとVOX/JMI社のディック・デニーがテープエコー・マシンに内蔵するために開発したファズ回路をもとに、それをノックダウンしてペダルとして再構成されたファズ、とあります。つまりゲイリー・ハーストとは関係ないだろう、と思ったので、その真偽を知りたくて聞いた質問だったのですが、回答はやはり予想通りでした。ただし、このディック・デニーのファズ回路は63〜64年頃に開発されたらしく、ゲイリー・ハーストのTONE BENDER MK1が世に出るよりも早い時期にあたります。
おそらく前述したビートルズのTONE BENDERに関するディック・デニー氏の誤解は、このFUZZ BOX回路を自分が早い時期に作ったことに起因するもの、と思われるのですが、既にオリジナルのFUZZ BOX回路がどういうものだったかは現在では知る術がありません。90年代に復刻されたFUZZ BOXは、シリコン・トランジスタのBC109(もしくはBC108)を2ケ使用した回路になってました。それから、おそらく世界で最も単純なファズ回路のひとつだろうと思われるこのFUZZ BOXの基盤は 1cm × 5cmくらい、という小ささです。
余談になりますが、横浜・元町にあるギター・ショップCRANE GUITARSが昨年VOX KENSINGTONという激レアなVOX製ギターのレプリカを製作したのですが、その内蔵エフェクターのファズ部分には、このFUZZ BOXの回路が組み込まれています。やはりビートルズ&VOXといえばディック・デニーでしょ、というわけで、製作の際に当方が助言させていただいた次第です。(この項続く)
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