何度も触れているように、「MK1.5ともいうべき回路」を発見したのは、イギリスのファズ・ビルダー、デイヴィッド・メイン氏です。とはいえ、誰だって「あ?なんだよMK1.5てのは?」と思うのも極自然な成り行きなわけで、一般的に判りやすい表現だとは思えません。
しかしながら、(65年夏の)MK1と(66年初夏の)MK2があって、その中間に実は更に別なバージョンが実際にあったのですから、それをなんとか判りやすく表現するには「MK1.5」が適切だったんだろう、と同意せざるを得ません(まあ、エヴァンゲリオンにも「ver2.22」なんていうバージョンが存在する現在ですから、今なら納得する方も多いのだとは思いますが)。
さらに面倒くさいことに(笑)、そのMK1.5回路は、TONE BENDERとは縁もゆかりもないハズの他社メーカー、アービター社の名作ファズ、FUZZ FACEの回路とほぼ同じ、というのですから、話は更に複雑です。
さて、ではデイヴィッド・メイン氏は自身の作ったレプリカでそれをどう再現したか、を見たいと思います。「1966」と名付けられ、「TONE BENDER REPLICA」とサブタイが付いたこのファズは、D.A.M.のヒット作のひとつです。ただし、ピュアなクローンではなくて、現代的にモディファイが施されたファズでもあります。
回路の話は後述しますが、このファズには2つのモードがあり、その切り替えは筐体の横に付いたスイッチで行います。ひとつは「66」と名付けられたモードで、こちらを選ぶと66年〜68(註:当方の知る限り、66〜69年、だと思うんですけど)年に、イタリアのEME(後のJEN)社が製造したVOX TONE BENDERのサウンドを得られる、とのこと。
そしてもうひとつ、「SUPER BEE」と名付けられたモードに切り替えると、ファズのレンジが中域〜低域により、ファットなボトムが加わります。デイヴィッドによれば「こちらはオリジナルのSOLA SOUND TONE BENDER MK1.5のサウンドを再現した」モード、とのこと。
ちなみに、この切り替えスイッチはエフェクト・オンの状態で切り替えるとバッチン!というデカいノイズが入りますので、注意が必要かと思われます(アンプ痛めますので)。
前回のPROFESSIONAL MK2の項でも触れましたが、この頃のD.A.M.製品が採用していた電池ボックスが、この「1966」にも採用されています。
さて、それでは中身です。基本回路は、ゲルマニウム・トランジスタ2石を用いたTONE BENDER MK1.5の回路。ということはつまり、このファズは「SOLA SOUND製TONE BENDER MK1.5」、「イタリア製VOX TONE BENDER」、そして「ARBITER製FUZZ FACE」の3つのサウンドを期待させるモノ、ということになるわけですが、基本的にはD.A.M.としてはこのファズを「VOX TONE BENDERのレプリカ」として打ち出しているようです。
1966に採用されたトランジスタは固定されておらず、AC125、SFT353、OC75、SFT317、OC76から選ぶ、というアナウンスがされています。当方が所持するこの1966では、初段にSFT353、後段にSFT317を用いています。
そしてゲルマ2石の回路の重要なポイントでもある、内蔵トリム・ポットによるバイアス調整機能、がこの1966にも付加されていますね。ついでではありますが、前回にも紹介したクリフのプラスティック製ジャック・パーツはイングランド・メイドです。
前述した「モード切り替え」ですが、2点切り替えのロータリー・スイッチが内蔵されていて、こんな具合でセットされているんですが。正直デカ過ぎなパーツですね(笑)。ちなみにこの1966が発表された数年後、東京の楽器店、HOOCHIESからのカスタム・オーダーとして、この1966の「SUPER BEEモード」だけを追求したファズ(名前はそのまま「SUPER BEE」でした)がD.A.M.から発売されています。SUPER BEEはたしかシリコン・トランジスタ版もあったと思いますが、そちらはHOOCHIESのMさんの強い要望で実現した、とのことです。つまり、1966をさらに発展させて、D.A.M.の手によってFUZZ FACEのクローンを完成させよう、という企画意図だったと聞いております。
さて音です。とはいえ、当方はオリジナルのTONE BENDER MK1.5を持っていないので、その直接の比較はできません。更に言えば、一個一個全部音が違う、とまで言われてしまうほどの、ゲルマ版オリジナルFUZZ FACEとの音比較も出来ません。その点はご容赦願います。
前回のPROFESSIONAL MK2でも書きましたが、D.A.M.のファズはトップエンドがまろやかで耳障りがいい、という点は、この1966にもあります。その辺がもしかしたらD.A.M.の人気の秘密なのかもしれませんね。
当方の持っているイタリア製TONE BENDER3機種との比較においても、この1966の方がゲイン(歪み、の意味です)は高めで、強烈な歪みを生む事ができます。
MK1.5回路なので、もちろんギターのボリュームにどのように追従するのか、は凄く気になるところではあります。が、たまたま当方の所持するこの1966では、それほど美しいクランチが出るわけではありませんでした。これは当方の個人的な感想であり、実際に「ある程度は」ギターのVOLに反応するので、回路が間違っているとは思えず、純粋にトランジスタの個性なのかな、と思います。
MK1.5回路は出力レベルがそれほどデカくはないので、アンプ側のボリュームをそれなりに上げて使うことが多いかと思います。つまり、アンプの特性がモロに出るファズ、と言えるのだと思います。
ファズ、と言えばどんなギターでどんなアンプを通しても結局ビービージャージャーとギンギンに歪む、というイメージをお持ちの方も少なからずいるとは思いますが、ジミヘンの音やベック/ペイジの音を比較に出すまでもなく、実はそういうイメージの対極にあるような、繊細なエフェクターでもあると思います。その一番の例がこの1966ではないでしょうか。
繊細、とか書いておきながら、それとは真逆ともいえる余談をひとつ。この1966には裏蓋に(いつものように)デイヴィッド・メイン氏のサインと、ちょっとしたリリックが手書きされています。この1966を買ってから「なんだこりゃ?」とずーっと思ってたんですが、なにやらそのポエムは原始宗教めいたフレーズが並んでます。
繊細、とか書いておきながら、それとは真逆ともいえる余談をひとつ。この1966には裏蓋に(いつものように)デイヴィッド・メイン氏のサインと、ちょっとしたリリックが手書きされています。この1966を買ってから「なんだこりゃ?」とずーっと思ってたんですが、なにやらそのポエムは原始宗教めいたフレーズが並んでます。
で、この項を書くにあたって、改めてそのフレーズをググってみたのですが、アメリカ東海岸のマッチョなヘヴィー・メタリック・ドロドロ系(笑)バンド、モンスター・マグネットというアーティストの「SPACE LORD」という曲の歌詞だということが判りました。正直、D.A.M.とこのバンドの接点があんのかねえのか、一切何もわかりませんが、まあとりあえずこちらでビデオでもお楽しみいただけたら、と思います(実は当方は爆笑してしまいました。特に踊ってるオネエサン達に。笑)。
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