3.09.2010

Tone Bender MK1.5 (1966)

 金色のファズ、TONE BENDER MK1の歴史は発売後半年と経たずに65年末には終了しますが、ゲイリー・ハースト製作のMK1はこの間恐らく50個程しかトータルで出荷されなかった、と言われています。なぜそんな短期間の少数生産だったのか。MK1に予想以上の手応えを感じたソーラー・サウンド社が、ファズ・ペダルの量産を計画したためTONE BENDERにフル・モデル・チェンジが施されることになったからです。
 1966年の年頭、ソーラー・サウンド社はそれまでと全く異なる筐体、全く異なる回路を持ったTONE BENDERを発売します。現在、ファズ・マニアの間でMK1.5と呼ばれるモデルなのですが、このMK1.5に関しては、現在TONE BENDERを語らせたら/クローンを作らせたら右に出るものはいない、と思われる程のカリスマ・ビルダー、デイヴィッド・A・メイン氏(D.A.M)がその存在にスポットライトを当てたことによって再評価されたモデル、と言えるでしょう。

 このMK1.5は後に続くTONE BENDER PROFESSIONAL MK2のプロトタイプ的存在、というのが恐らく正確な位置づけだと思われますが、実際に製品として出荷された事実もあるために、試作ではなく製品としてカウントせざるを得ないのです。そのため「1」でも「2」でもなく「1.5」などというハンパな立ち位置をあてがわれている訳で(MK1.5と名付けたのはデイヴィッド・A・メイン氏)。つまり発売当時はこのモデルは「ソーラーサウンド社製TONE BENDER」という呼称でしかありませんでした。

 フル・モデル・チェンジ、とはいいながら、このMK1.5は66年の頭から春あたりまで、ほんの2〜3ヶ月のみ出荷された激レアなモデルで、総生産数はあまりわかっていません。筐体は丸みを帯びたグレー・シルバーのハンマートーン塗装(極まれに真っ黒くペイントされたものが出荷されたことも確認されています)の砂型鋳造、回路はムラード製OC75を2ケ(極初期のみ米Ampex製S3-1Tを2ケ)のゲルマニウム・トランジスタによるヴォルテージ・フィードバック回路と呼ばれるものでした。この「ヴォルテージ・フィードバック回路」てのは、TONE BENDERと同様にイギリス製ファズとして2大名機とも言える、ダラス・アービター社のFUZZ FACEにも採用されていた回路であり、「TONE BENDERとFUZZ FACE、いったいどちらが先だったのか」という疑問がファズ・マニアの間では長らく論議されていた話題でした(しかしこの回答が、今回のゲイリー・ハーストのインタビューで明らかになります)。ちなみにTONE BENDERとFUZZ FACEの関係、そしてヴォルテージ・フィードバック回路に関しては、雑誌「THE EFFECTOR BOOK」の創刊号にてデヴィッド・A・メイン氏の解説原稿が載っていますのでそちらも参照していただければと思います。

 さて、では誰がこの新しいTONE BENDER MK1.5を開発したのか、といえば、MK1と同じくゲイリー・ハースト氏でした。そのいきさつは後ほどインタビュー原稿で紹介しますが、本人いわく「洗練された」ファズ回路、ということでこのデザインになったというわけです。
 たしかにパーツ数がものすごく少ないこの回路構成は洗練、とも言えますが、逆に言えば、MK1の回路はリ・デザインされたとはいえ「マエストロFUZZ TONE回路の焼き直し」であった感は否めない(だからクローンを作るのがものすごく難しいモデルなんでしょうね)ということになります。そのためのモデル・チェンジ、とも考えられますね。ゲルマニウム・トランジスタ2ケ、という回路のため、音の傾向はやはりFUZZ FACEのソレに大変近いものです。
 MK1.5は極短期間しか市場流通していないため、代表的ユーザーを列記するのが困難ですが、唯一ビートルズのポール・マッカートニーが「THINK FOR YOURSELF」のレコーディングに際してこのファズをベースに通したことがわかっています。この件に関してはゲイリー・ハーストのインタビューを参照願います。
 

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