3.10.2010

Gary Hurst Interview Part.4

 では、ゲイリー・ハースト・インタビューの続編です。MK1.5に関して話してもらっています。
——MK1発売の後、ソーラー・サウンドがシルヴァー・グレー・ハンマートーンの筐体でOC75を2ケ使用したTONE BENDERを発売しています。現在MK1.5と呼ばれているものですが、ほんの僅かな期間だけの発売だったようです。このMK1.5はあなたがデザインしたものですか?
G:そう。最初のMK1の回路を、更に洗練させたかったんだ。もっと安定させたかった。それで2ケのトランジスタの回路を持ったMK1.5がその当時の私の回答、というわけだ。できることなら、私はこっちのモデルをMK2と呼びたいんだよね(笑)。その後に出た3ケのトランジスタ回路になったMK2には「PROFESSIONAL」と入っているんだから、十分に差別化できてるだろう?
——できてないと思います(笑)。ええと、MK1.5の回路はダラス・アービター社のFUZZ FACEとほとんど同じ回路だ、ということは今皆が知っていることなんですが、実際にはどちらが先だったのでしょうか? あなたはFUZZ FACEの回路に何かしらの関わりがありますか?
G:サーキットは全くそっくりだよね。でも関係ない。TONE BENDER MK1.5のほうがFUZZ FACEより1年以上先に完成しているよ。(註:FUZZ FACEが始めて登場したのは66年の終わり頃、とされているので、実際には1年もの開きはないハズです。また正確にはまだダラス社と合併する前の「アービター社」から発売されました。当方がウッカリ「ダラス・アービター」と質問してしまったので、1年以上、という答えをしたのかもしれません)
——ポール・マッカートニーが『RUBBER SOUL』セッションで使ったTONE BENDERについて教えてください。未だにファンは混乱しています。写真で見る限りグレーのハマートーンの筐体で、時期的にMK1.5と考えられるのですが、籍『BEATLES GEAR』(註:アンディー・バビアック著/日本語版はリットー・ミュージックから2002年に発刊)等によれば、VOX/JMIの技師ディック・デニーが「あれは俺が64年頃に作ったもので、65年の年頭にポールに渡した」と言っています。
G:あれは間違いなく私が作ったTONE BENDERで、MK1.5だ。VOXやディック・デニーとは全く関係ない。ある日、ビートルズのオフィスから私のところに電話がかかってきたんだ。いわく「ビートルズが今ケンブリッジ・サーカスでリハーサルをやってる最中なんだけど、そこにTONE BENDERを2ケ持ってきてくれないか」と。そのスタジオは私の工房からわずか100mの場所だったから、早速持って行った。そしてそのまま数時間彼らのリハーサルにつき合ったよ。スタジオの中にいたのは、ビートルズのメンバーと私の5人だけだったよ。
 ディック・デニー(VOX AC30を開発した人物として有名ですね)の証言については『BEATLES GEAR』という本にて、著者が97年にデニー氏本人にインタビューした際の発言として記載されています。ただ64年〜65年初頭という時期は、これまで書いてきたようにまだMK1も完成しておらず、また丸みを帯びたグレイ・ハンマートーンの筐体も存在していない時期にあたります。「THINK FOR YOURSELF」とアルバム『RUBBER SOUL』の録音は65年後半〜66年頭、さらに加えて、音源から伺えるのはトレブリーなファズ・サウンドで、ゲルマ2石のMK1.5的な特徴を持っています。ディック・デニーの言質の真偽を確かめるための質問だったのですが、これで少しスッキリできました。

 ゲイリー・ハーストは最近、自身が手がけた復刻版JMI製TONE BENDERのための販促用PDFに、簡単なヒストリー文を寄稿しているのですが、そこからビートルズに関するエピソードを以下に拾ってみました。上記インタビューと内容がカブりますが、以下翻訳して全文を載せてみましたので、併せてお読みいただければより事情が明快になると思われます。
 TONE BENDERとビートルズの関係。それは思うに、ある日の1本の電話で始まった。電話の主はビートルズのロード・マネージャーだったマル・エヴァンス。いわく「ケンブリッジ・サーカスのシアターまで、TONE BENDERを2ケほど持ってきてくれないだろうか」と。私のいたデンマーク・ストリートから歩いてすぐの場所だったので、直接もっていくことにした。私がVOXのテクニカル・サービスをやっていた頃から、その後会社(JMI)を離れてフリーになっても、いつでもどこからでも何かあると彼(マル・エヴァンス)は私に電話をしてきたものだ。ただ、その時唯一私が抱えていた懸念は、ケンブリッジ・サーカス・シアターの場所を私は正確には知らなかったことだ。
 付近までたどり着いたら、懸念はすぐに解消された。視界に入った側道に、ジョン・レノンのロールスロイス(たしか、ナンバーはFJB111Cだったと思う)が横付けしてあったのを見つけたからだ。そのシアターは既に劇場としては使用されてなかった建物で、ビルの裏口から私は入っていった。グラグラと揺れて異臭がするようなボロっちい階段を昇っていき、小さな木のドアを開けて部屋に入ると、そこにはザ・ビートルズが、彼ら4人だけがそこにいた。他には誰もいなかった。そこでの4人だけのセッションに、私はしばらくつき合うことになった。
 ポール・マッカートニーは『RUBBER SOUL』に収録されている「THINK FOR YOURSELF」のファズ・ベースで、TONE BENDERを使った。1966年のことだ。同じTONE BENDERを、ジョージ・ハリソンは続く66年のアルバム『REVOLVER』の中で使用した。これらの事実はビートルズとTONE BENDERの関係に関して、『BEATLES GEAR』に記載された事柄に修正が必要であることを述べるものである。
 この後、我々(当時のソーラー・サウンドのこと)はVOXの名を冠したTONE BENDER PROFESSIONAL MK2をOEM製造することになるが、まだその頃VOX/JMIは自身ではTONE BENDERを製造はしていない時期である。その後彼らはイタリアでTONE BENDERをOEM製造させたが、それは「TONE BENDER」の酷いコピー品だった。イタリア製のTONE BENDERはコストダウンのため、トランジスタが2ケという回路に改悪されたものだ。もしどこかに「ビートルズが使ったVOX TONE BENDER」という文言があれば、それは95%以上の確率で、VOX製ではなく私、ゲイリー・ハーストが作ったTONE BENDER(MK1.5)を指す。
 とまあ結構ケチョンケチョンな言い回しではありますが(笑)、イタリアンTONE BENDERに関しては後ほど別項にて触れたいと思います。それからディック・デニーに関して付け加えると、彼は確かに60年代中頃にファズ回路の製作にトライしてますが、それはいわゆるペダル・エフェクターではなく、90年代になってからそのファズ回路を再発見したソーラー・サウンド社によってDICK DENNEY FUZZ BOXという形にノックダウンされて発売されました。(この項続く)

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