6.08.2011

JMI - Justin Harrison Interview (Part.3)

 
 ジャスティン・ハリソン・インタビュー、最後のパートになります。日本にいる我々にとっては、なかなかロンドンの楽器店事情なんてモノには触れる機会もないわけですが、いざ話を聞けばいろいろと面白いネタが出てくるモンですね。ちなみに右の写真はもちろんゲイリー・ハースト氏なわけですが、イタリア在住の彼は今も年に数度ロンドンを訪れて、実際にこうして商品の検品や打ち合わせに従事しているんだそうです。



——JMIのエフェクターに関してなんだけど、クラシック・スペックを忠実に再現して出来上がる本物のクラシックなブリティッシュ・サウンドを目指してるよね?(註:左の写真は英語版のJMIエフェクター・カタログですが、表紙にもそのまま書いてあります)ジョー・ペリーとかゲイリー・ムーアのような達人の域にいる人ではなくて(笑)、例えばギターを始めたばかりの若いギタリストなんかにとっては、ある意味では“簡単な”機材ではない、と言い換えることもできるマニアックな製品だとも思うんだけど。そういう若いギタリスト/ユーザーに向けて、なんかメッセージみたいなモンを貰えるかな?
JH:単純な話で、我々JMIのエフェクターは、オリジナルとまったく同じ手法で作っている、それだけなんだよ。近代的なエフェクターなら、ツマミに「LEVEL」と書いてあれば、それは純粋に音量レベルを調整するためだけのツマミだろう(笑)。でもさ、さっきのジョー・ペリーの話と同じだよ。例えばたった2つしかツマミがない古いスペックの機材でも、時間を費やして、その効能を確かめれば、今まで他の機材を使ってどんなに頑張っても届かなかった本物のクラシック・トーンがついに得られるんだ。試してみる価値は十分にあると思うし、そういうクラシックなサウンドが好きなギタリストなら、間違いなくハッピーになれるよ。
——デンマーク・ストリートを「英国の“ティン・パン・アレー”(*1)」と呼ぶ人も多いけど、イギリスのミュージック・シーンに凄く影響のある通り、とも言えるよね。60年代から今日に至るまで、その街並みはどんなカンジで変わっていったのかな?
JH:そう、歴史のあるこの通りでいまだにウチの店は営業できているのがラッキーだしハッピーだ。この通りは60年代にはもう有名になってた場所だからね。多くのバンド、ミュージシャンがここから生まれたり、ここで伝説のライヴをやったりね(*2)。でも、イギリスに限らず世界中どこでも同じようなカンジだけど、この2〜3年は深刻な不況で、ロンドン中の老舗がパタパタと店を閉じてるのが現状だ。あの有名なマーキー・クラブも遂になくなった(*3)。でもこないだロンドンの評議会はデンマーク・ストリートの歴史と意義を尊重して、ここにはむやみな都市開発を入れずに楽器店が末永く残るべきだ、という声明を出してたよ。素晴らしい声明だ。
——素晴らしい。ところで、どうでもいいことだけど一応聞いておくべきかな、と思って質問するね。ネットの世界ではいろんな人が憶測だけであることないこと好き勝手に発言してる、って状況は目にしてると思うけど(笑)。
JH:ああ、何を聞きたいかもう判ったよ(笑)。
——昨年の春に、MUSIC GROUNDが破産して会社と店舗を全部閉鎖した、とか噂が流れたよね。一説では親子揃って起訴された、とか(笑)。今も実際にお店がオープンしてるのは知ってるけど、一応どういう状況なのか、改めて教えてもらえるかな?(*4
JH:イギリスでもいろんなネット掲示板に、あることないこと書かれまくった(笑)。真実を言えば、ここ3年ほどのイギリスの経済事情を反映して、ウチの会社も経営方針を変えざるを得なかった、というのは確かだ。イギリスの北部にあった3つのチェーン店は閉じた。その3店舗は家賃もすごく高くて、採算が取れなかったんだ。その3店舗の運営を手放して、その代わりにロンドンでの数店舗、それからインターネット通販、そしてHIWATTやJMIの製品開発と販売、それらに集中する、というビジネスに軌道修正したわけだ。
——なるほど、OK。さて今後のJMI製品に関してだけど、最近もあらたにDEL CASHER WAH(*5)が発売されたよね。さっきJマスシス・ファズの話は聞いたけど、今後いろいろ企画してるモノがあれば教えて貰えるかな。
JH:今は詳しく言えないけど、いろいろと新製品の開発は常日頃やってる。実現するかどうかはわからないけど、例えばベース用ファズとかね。今考えてるのは、ジョン・エントウィッスルのシグニチャー・ファズとか出したいなあ、と。「THE OX」て名前でね(*6)。それから、これは既に発売が決定してるけど、ゲイリー・ハーストが70年代に開発したオクターブ・ファズ(註:Octavedivider、という名前になるそうです)とかね。他にもいくつか面白い企画があるから、待っててくれよ。



*1 本来はNY州マンハッタンにある通称「音楽村」のあだ名。古くからブロードウェイ等に楽曲を提供する音楽家(ジョージ・ガーシュウィン等)や会社が多く居住していたことから、この通称がその一角につけられましたが、以降転じて「音楽の集う場所」をこう指すことがあります。70年代の日本の同名バンドも、ここからバンド名を頂戴していますね。
*2 デンマーク・ストリートはロンドン中央部の小さな細い道ですが、数多くの楽器店が古くから軒を連ねていることで有名な一角。また、それらの楽器店が経営するスタジオも沢山あり、64年にはローリング・ストーンズのデビュー盤がこの通りのスタジオで録音され、また70年にはエルトン・ジョンがあの有名な「YOUR SONG」をここで作曲、76年にはセックス・ピストルズがこの通りのスタジオで初のスタジオ・レコーディングを行っています。また正確なスタジオ名はわかっていなませんが、ジミ・ヘンドリックスが渡英後初めてレコーディングしたスタジオも、この一角にあったとのこと。
*3 1958年にオープンし、当初英国のジャズ・ブームの発祥地として有名になったマーキー・クラブですが、その後60年代から70年代にはビート〜サイケ〜ハードロック〜パンクに至るまで文字通りブリティッシュ・ロックを象徴し、長い歴史を見守ってきたロンドンの名クラブ。10年間隔くらいで移転を繰り返しつつ近年までクラブは存続していたのですが、2008年に遂に閉店しました。
*4 この部分の質疑は、雑誌に掲載した文章ではスペースの都合でカットしましたが、当サイトでは全文を載せます。ジャスティン・ハリソンも「隠すことは何も無い」と言っており、当方とて別に隠し立てすることもありません。というのも、質問文にあったように近年イギリス北部のいくつかのチェーン店を閉店して以来、MUSIC GROUNDに関するデマがイギリスのネット上ではびこったんです。イギリスやアメリカの楽器系掲示板にマルチポストを繰り返す輩もいたわけですが、その噂をどう受け取ったか知りませんけど、検証することもなく悪意ある憶測をネット上で流す人は残念ながら日本にもいました(むしろ欧米の人のほうが慎重な反応でしたね)。そこで当方も昨年来何度かこの話題の確認を、ジャスティン本人にも、更には彼を知る別の人々にもメールで行っています。「何なに?今度はどんなオレの噂があるって?」なんていうノンキな返事をジャスティンからもらったりしたわけですが(笑)、まあ結果的にいえば「風評被害」だったわけですけど、日本に向けて公式に声明を、というわけでこの質問に答えてもらっています。
*5 1967年、VOX/JMI社がギター用エフェクターとして英国SOLA SOUNDに試作品を製造させたものが、世界初のワウ製品、とされています。これは銀色の筐体に入ったワウで、当時デル・キャッシャーというギタリストによるデモ演奏がVOXのために残されたことから通称「デル・キャッシャー・ワウ」と呼ばれました。2011年JMIはそのワウ・ペダルを限定生産で復刻しており。近日日本にも入荷予定です。このワウに関しても、改めて別項にてご紹介します。
*6 OXは雄牛の意。ザ・フーのステージで派手に大暴れするロジャー・ダルトリーやピート・タウンゼンドと比べて、地味でアクションが少なかったベーシストのジョン・エントウィッスルに対して付けられたあだ名。彼のオフィシャルHPの名も「THE OX」ですね。
 

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