10.15.2011

History : 1960-1962 (Pre Tone Bender)



 今までも本ブログでは、TONE BENDER誕生のいきさつに加え、その前後のファズの状況なんかもバラバラと書いてきましたが、この辺で再度その歴史をまとめてみようかな、と思います。過去に自分で書いたことをあまりダブって書くのも芸がないので、ここでは年次、つまり時間軸に沿ってTONE BENDERを中心としたファズ・ヒストリーを書いていこうと思います。 
 TONE BENDERに関しては、今だに誤解が多いことも事実です。当方とて、完璧に歴史と背景を把握してるわけではありません。だからこそ、今判ってる事だけでも整理して今のうちにまとめておこうかな、というワケです。


 早速話が逸脱して恐縮ですが(笑)、最近アメリカのプロ・オーディオ・ブランド、RETRO CHANNELがTHE FUZZというファズを発売しています。日本でも代理店を通して日本中の楽器店に供給されています。このファズ、もの凄く工夫された中身と音でして、簡単に申せば「ソリッドステイトの集積回路(ICチップ)でTONE BENDER MK2の音をシミュレートしてみた」というまさに現代的なアプローチをしてるファズです。

 で、その日本語版HPの商品解説の中に、細かいことですがTONE BENDERの歴史に関してちょっと誤認があるようです。今までも日本の楽器業界の宣伝文句としてはそういうことは沢山ありましたし、その代理店さんが当ブログから写真を2点ほど流用(笑)してることも、こちらとしてはまあ無問題です(ちなみにその写真は、90年代の復刻版MK2です。どうせなら66年のオリジナルの写真にしたほうが……)。折角当ブログを閲覧いただけたのであれば、中身も読んで把握していただけると嬉しかったんですけど(MK2は、MK1.5に増幅回路を追加したもので、MK1回路とは全く異なります)。何が言いたいかといえば、当方/当ブログは、オカダ・インターナショナルさんとはまったく関係ありませんよ、ということです。


 さて本題、ファズの歴史です。その始まりからいきたいと思いますので、最初のほうはTONE BENDERとは関係ありません。予めご了承願います。

 確認できうる一番最初のファズ・トーンは、1960年発売、翌61年にかけて大ヒットしたカントリー・ポップ・シンガーマーティー・ロビンス「DON'T WORRY」における、曲中のギター(正確には6弦バリトン・ギターを使ったようですが)ソロのサウンドです。これはもちろん“エフェクター”によるものではなく、ミキシング・コンソール内部のLANGEVIN製真空管増幅回路がぶっ壊れてしまい(トランスがフッ飛んでいたそうです)、起こった現象でした。その歪んだサウンドは使えるぜ、と睨んだそのセッションのギタリスト、グラディー・マーティン(ビグスビーのソリッド・ギターを持った人/この人はロイ・オービソン「OH PRETTY WOMAN」でギターを弾いてたことでも有名ですね)が“意図的に”使用した歪みサウンドだった、ということです。

 1960年以前の他の録音物にも、歪んだギターサウンドというのはありましたが(例えば1958年録音のリンク・レイの音源等)、明らかにエフェクト効果として意図を持ってギター信号に電気的な仕掛けを追加したのは、この「DON'T WORRY」が最初ということになっています。この時、そのブっ壊れたミキシング・コンソールを操作していたのは、エンジニアであるグレン・スノッディーという人でした(この人に関しては後述します)。

 ちょっとだけ話が前後しますが、「DON'T WORRY」でギターを弾いていたグラディー・マーティンは翌1961年、自分名義でインストのシングル「THE FUZZ」をデッカからリリースしています。こちらもたしかにファズっぽい音が聞こえますが、これはおそらく60年に「DON'T WORRY」で使用した機材(=つまり、ぶっ壊れたミキシング・コンソールのこと)を使ったのではないかと思われます。歪み具合、そっくりですよね。一部では「このグラディー・マーティンのファズ・サウンドは、マエストロFUZZ TONEだ」という人が時々いますが、製造時期/録音時期的に符合しません。そしてそのサウンドも、後に発売されたマエストロFUZZ TONEよりもダークで奇妙な歪み方だからです。

 1960年に話を戻します。この年、もうひとつ面白い出来事がありました。当時西海岸のセッションギタリストであり、電気技師でもあったレッド・ローズという人(机に腰掛けている人/この写真はもっと後年の彼の写真のようですけど、彼はスライド・ギタリストとして結構多くの客演が残されています)が、その「DON'T WORRY」のギター・ソロのサウンドを聴いて、そのサウンドを再現すべく自作で数個、ファズ回路のペダルを作ったそうなのです。もちろん販売されたものではなく、仲間内で分け合ったのみで終わったプロジェクトのようですが。その時のファズの回路の中身や形状に関しては、一切不明です。

 1961年、ビリー・ストレンジさんというイケメンのギタリスト(作曲家としても有名ですが、俳優業もしていたそうです)が、上記したレッド・ローズ氏製作のカスタム・ファズ・ボックスを使用して録音に参加したのが、アン・マーグレットという美人女優さん(当時「女エルヴィス」として売り出された人)のシングル曲「I JUST DON'T UNDERSTAND」でした。
 この音源のプロデュースを担当したのはチェット・アトキンスですが、曲はもの凄くドス黒い(笑)R&Bソウルです。この曲は後にビートルズがカヴァーしたのでご存知の方も多いかもしれませんね。ストーンズ「SATISFACTION」よりもギンギンにドス黒く、ファズがビービー言ってるこのイカレた新しいサウンドを、後の英国のR&Bマニアがこぞって真似っこした、というのは、十分に頷ける話です。実際はご覧のように、イケメン白人美男美女による盤だったのですが。

 このイケメンのビリー・ストレンジさんは、このアン・マーグレット嬢での客演のみならず、他でもファズ・サウンドを披露していることが確認できます。例えば1962年11月に発売された、ボブBソックス&ブルージーンズというコーラス・グループのシングル「ZIP A DEE DOO DAH」でも、ビリー・ストレンジによるファズ・ギターが収録されています。このヘンテコな曲のタイトルでも想像できる方もいらっしゃるかもしれませんが、この曲はフィレス・レコードからのシングル・リリースで、もちろんプロデュースはフィル・スペクターでした。

 そして1962年、上述したレッド・ローズさん製作のカスタム・ファズが、ヴェンチャーズのメンバーの手に渡ります。最初に書いたマーティー・ロビンス「DON'T WORRY」を聴いたヴェンチャーズが、自分たちでもあの音を出してみたいと思い、レッド・ローズ氏に相談したことが契機だそうです。そして受け取ったレッド・ローズ製作カスタム・ファズを使って、ヴェンチャーズは「THE 2000 POUND BEE」を録音します。まさにサーフ/ガレージのお手本のような(笑)60s チープ・ファズ・サウンドの最高峰ですよね。リードギターではなく、リズムのほうでファズを使ってる点も面白いです。

 1962年、もうひとつ大きな出来事がありました。2年前「DON'T WORRY」録音中に偶発的に生まれたあの「ファズ・サウンド」が、その後瞬く間にポップ・ミュージック界に広がっていくのを眺めていた、当時の録音担当エンジニア、グレン・スノッディー氏(オープンリールを手に持った人)が、自ら新たにトランジスタを組み合わせて、あの「ファズ」なサウンドを生み出す回路を作りました。
 スノッディー氏はその回路を手に、シカゴのGIBSON本社に出向き、商品化できないか、というミーティングを持ちました。先に結論を書いてしまえば、これが同年世界初の商品化ファズとして世に出ることになるMAESTRO FUZZ TONE(FZ-1)となります。
 一説では、まず最初にこの回路は「ベース・ギターの中にビルドインされるための回路」として開発が進められるも、すぐにスタンドアローンのエフェクターとして方針変更して開発が進められたそうです。

 今回は以上で止めますが、次回で(後の英国産TONE BENDER MK1のひな形ともなった)マエストロFUZZ TONEの話を続けます。(この項続く)
 

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