10.21.2011

Maestro Fuzz Tone FZ-1(1962) / FZ-1A (1965)

 


しわがれ声で/メロウで/やかましく/優しくて/生々しい


THE FUZZ EFFECT:今までにはないセンセーショナルな新しいサウンドを、どんなギターアンプででもクリエイトできます。
 それが「ファズ」エフェクト、今この国を席巻しているサウンドです。トップ・プロが録音の現場で使用しています。あらゆる国のギタリストが、エレキギターが発明されて以来最も新しくてビックリするようなサウンドを生むこの「ファズ』サウンドをモノにしています。
 フットスイッチのついたこの奇妙なペダルをあなたのギターとアンプの間につなげ、ただツマ先でスイッチに触るだけで、いままで得る事ができなかった音が生まれます。このコンパクトなユニットにはボリュームとアタックのコントロールがついています。完全なトランジスター回路を持ち、内蔵電池で作動します。
 日々、トップ・プロ達がFUZZ TONEの登場を歓迎しています。すでに(コロムビア・レコードの)レス・ポール&メアリー・フォード、(デッカ・レコードの)グラディー・マーティン等は既にこのFUZZ TONEを使ってシングルやアルバムをリリースしています。「ファズってのはギターにとって信じられないくらい新しいサウンドだ。全てのギタリスト達はトライすべきだ」、レス・ポール氏はそう語ります。そう、見て、聴いて、お試しいただいて、マエストロFUZZ TONEを確認してください。GIBSON社(ミシガン州カラマズー)の電子部門の製品です。


 あんまり大した内容ではありませんが(笑)、上記は1962年に出されたマエストロFUZZ TONEの雑誌広告の文言を、今当方がササっと訳したものです。それでも当時はとにかくセンセーショナルな新しい商品だったことには間違い有りません。この広告にも有りますが、そして言うまでもありませんが、マエストロとは米ギブソン社の電子機器ブランドの名前で、このファズの他にも60〜70年代にアンプやエフェクター等(世界初のフェイザー、と言われているPS-1はマエストロから発売されましたが、その回路デザインは後にシンセ界で有名になるトム・オーバーハイム氏でした)を発売していたブランドであることはご承知かと思われます。

 グレン・スノッディー氏がギブソン社に持ち込んだFUZZ TONE回路のデザインは、このときギブソン社に所属していたエンジニア、リーヴァイスV.ホッブスがリファインし、最終的なマエストロFUZZ TONEの仕様が決定しています。
 この回路は「(音楽で使われる)電子音声信号を変化させる案」として、1962年5月3日に米特許庁に実用新案登録が出され、最終的に1965年10月19日パテントが取得されています。登録はグレン・スノッディー氏とリーヴァイス・ホッブス両氏の名で出願されています。この時に回路図もパテントには盛り込まれています。
  発売されたのは62年の春で、発売初年に5458ケ出荷されています。残念ながら初年度の売り上げはギブソン社の期待した販売目標には遠く及ばなかったようで、以降63年、64年の2年間は3ケしか出荷されてない、という記録があります。つまり、FZ-1のほぼ全ては初年度にドサっと作ったモノだけ、ということになりますね。ところがその絶望的な(笑)販売状況も、後ほど激的に改善されます。それは65年、ストーンズの「SATISFACTION」の世界的ヒットを受けて、余りまくってたFZ-1は4ヶ月程で全部売り切れた、ということです(ストーンズに関しては別途後述しますが)。

 在庫が無くなってしまったギブソン/マエストロは、1965年、マエストロFUZZ TONEがFZ-1(最初機型/3V動作)から、FZ-1A(リファイン型/1.5V動作)に変更して、再度FUZZ TONEを売り出します。65年年末に3454ケのFZ-1Aを出荷、翌年の年末までに(初年度からのトータルで)15540ケが出荷された、という記録がギブソン社に残っています。完全に余計なお世話なんですけど、1万5千個も出荷されたファズですから、いくら古いとはいってもそんなにレアなブツじゃないんですよね。

 そんなワケで、62年のFZ-1と、65年のFZ-1A、その比較をしていこうと思います。ちなみに写真ですが、上のほうにある4つが初期型のFZ-1、そして下のほうにある4つが後期型のFZ-1Aになります。ご覧頂いてるように、後期型のほうがやけにボッロボロですが、ご容赦ねがいます。これは当方の所有物でして… スイマセンね。

 何度も書いてますが、FZ-1は単3電池2本の3V、FZ-1Aでは単3を1本だけ使用する1.5Vになります。FZ-1Aになったときに、回路的に若干の変更、それから一部抵抗の定数も変更されています。もちろんこれは電池が1.5Vになったことが一番関係すると思われますが、同時にそれまで使っていたRCA製2N270というトランジスタが、同じRCA製の2N2614(もしくは2N2613)に変更となっています。どちらも数値的にはほぼ一緒の、PNPゲルマニウム・トランジスタですが。
 外観上の違いはほぼありません。唯一の違いとしてあるのは、コントロールのついた面にある商品名が「FZ-1」から「FZ-1A」になったことくらいです。ですが、開けてみればその違いはすぐ判ります。なんと言っても電池の数が違うわけですから。しかし、このファズの筐体から直で延びたケーブル。ようはこれをギターに刺すわけですけど、なんとかならなかったんでしょうか(笑)。今だからそう思うのかもしれませんが、使いにくいったらありゃしない、という(笑)。中古で売りにでるFUZZ TONEの大半が、このケーブルを「本体に直付けのインプットジャックと交換」もしくは「ケーブルの先のジャックをメスに交換」してあるワケですが、ファズのオリジナリティ云々よりも、その改造動機はもの凄〜く理解できます。

 そして音に関してですが、これはもう言うまでもなく60年代ガレージ系ファズそのまんまの音を想像してもらえば判りやすいかと思います。思い切りフィルタリングがかかり、ローエンドはバッサリと切られます。また同時に強烈に(というか無謀なほどに)ゲートもかかるわけで、音はズバズバっとブチ切れてしまいます。常にガシガシと強いピック・アタッキングする人なら使いこなせるかもしれませんが、細い弦でテロテロっと弦をはじくタイプの人には明らかに向きません(笑)。

 そんな当方の勝手な感想を並べるよりも、やはり動画を参照したほうがいいに決まってますので、ひとつ紹介します。これはアメリカ西海岸のギター・ショップ(ここはビンテージ・ファズ、特にTONE BENDER系に滅法強いお店です)が製作したデモ動画なんですが、いろんなセッティングで音を出してくれているので、YOUTUBEデモ動画の中では一番参考になる、と思われます。ちょっとリバーブがかかりすぎてて気持ち悪いと思う方もいるかもしれませんが(笑)。

 また、さすがに有名なファズ・エフェクターですのでネット検索すればいろいろと検証したサイトもでてきます。その電気的な回路構成、それから効果に関して、素晴らしいサイトが日本にありますので、勝手ながらリンクさせてもらいます。こちらのサイトです。ご自身で自作されたFUZZ TONE回路を元に、あらゆるデータを波形で取って検証しておられます。いわゆる理系面での分析・検証だけでなく、プレイヤー目線での効能、という点でもいろいろご教示されています。今から8年ほど前に検証された結果のようですが、今もって凄く勉強になるサイトです。

 さて、そうした電子製品としての歴史や中身もさることながら、歴代のTONE BENDERをいろいろと紐解く当ブログとしては、やはりマエストロFUZZ TONEは、あのTONE BENDER MK1のひな形となったファズである、という点は見逃せません。実は回路図を見比べるとわかることなんですが、TONE BENDER MK1のサーキットは、FZ-1というよりはFZ-1Aのほうがより近いモノです。

 もちろん本国アメリカでもこのファズは大活躍したのですが、次項ではブリティッシュ・ロックにおける影響等を特に踏まえて、このマエストロFUZZ TONE以降のファズの歴史を見ていきたいと思います。これこそがアメリカからイギリスに渡ってきたファズという新しい概念であり(当然ですよね。世界初のファズ製品なんですから)、以降イギリスのみならずヨーロッパ中のプレイヤーはその「新しい概念」に夢中になったわけです。(この項続く)
 

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