1962年に世界にお目見えしたエフェクター「FUZZ」。とはいえ、なかなかリアルタイムでどう使われたか、その記録を見つけるのは難しいです。探せば他にもいくつもあるとは思われますが、62年〜63年あたりのアメリカの曲で、ファズを使った曲を、ブルーグラスものからサーフ・ガレージものまでサンプルとして、4曲ほど貼っておきます(クリックでYOUTUBEに飛びます)。
・ゴードン・テリー「WILD HONEY」(62年)
・カール・バトラー「WONDER DRAG」(62年)MP3版はこちら
・ジミー・ゴードン「BUZZZZZ」(63年)
・ジミー・グリマー&ファイヤーボールズ「GOOD SOUL」(63年)
で、以下は話の場所をイギリスに移します。米ギブソン社の出荷記録等とは対照的に、この時期のイギリスの機材の記録や、ミュージシャン達の発言内容は、いっつもいい加減です(笑)。なので、多分に推測を含むことにはなりますが、以下、時系列でまとめてみます。ちなみに左の写真の右上の人物はジミー・ペイジ先生20歳のお姿です。詳しくは後述します。
1962年。この前後にJMI/VOXの技師ディック・デニーがファズ回路を企画・開発していたことがわかっていますが、これはこの時点では製品化されませんでした。一説にはその回路はマエストロFUZZ TONEを元にデザインされた、とも、また別の説によれば、VOX T60というベースアンプのインプット回路を元にした2石のトランジスタの回路だ、とも言われていますが、定かではありません(このファズに関してはこちらも参照願います。それからVOX T60の回路に関しては次回で詳しく触れます)。また、VOXの社員がその回路図と初期段階の試作回路をディック・デニーの元から盗んで会社をとび出した、という噂もあるんですが、そちらも真偽の程は定かではありません。

1963年7月1日、それと同年9月11日、ビートルズがアビー・ロード・スタジオにてマエストロFUZZ TONEを使って録音してみるも、本番テイクでは使用されず。その詳細は以前のこちらのポストを参照願います。それにしても「早い」ですねえ。さすがです、ビートルズ。



多くの方はご承知と思いますが、当時はセッションマン達が「どの曲で自分が演奏したか」は機密事項として口外することが予め契約で禁じられていました。そのために、本人が、もしくは当事者が何を言ってても、話半分として理解するしかないわけですね(笑)。いずれにせよペイジ先生は既にこの時、英国ロック的にも、ファズ史的にもキーマンだったんです。というわけで、右の4人組の写真、それと最初に上の方で掲載した6人組の写真はともに64年のジミー・ペイジの写真です。右の4人組はカーター・ルイス&サザナーズで、この時19歳。上の方で掲載した6人組はミッキー・フィン&ブルー・メンというバンド。この2バンドは共にペイジ先生が(セッション参加ではなく)短期間ですが正式に在籍したことになってます。ちなみに「ミッキー・フィン」とはあのTレックスでボンゴ叩いてた人ではなく、純粋な「バンド名」です(リーダーはミッキー・ウォーラーという人)。

それは何故か。1964年、技師ロジャー・メイヤーが、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、ビッグ・ジム・サリヴァン等のためにカスタムメイドでファズを作った、と言われているからです。これはメイヤーにとって初めての自作エフェクターだったとのことですが、つまりこのファズこそ、実際に録音に使われた初のイギリス製ファズだった可能性がかなりの確率で高いわけです。メイヤー本人の弁によれば「それは彼らが若い頃に参加した多くのヒット曲で使用されたものだ」とのこと。


ただし、このファズのオリジナル・スペックに関してはほぼ文献がありません。上記の本人の説明はロジャー・メイヤー・ブランドで「PAGE-1」というファズが発売されたときに宣伝文句として使われた文言ですが、2007年に発売された「PAGE-1」は沢山の新機構がブッ込まれたものなので、そこからオリジナルの回路/体裁を見つけることが不可能、というか回路図を見るまでもなく全然違うファズなのは誰でもすぐに判りますよね。
ロジャー・メイヤーは60年代中期、ヤードバーズの追っかけをしてた(笑/ちなみに若き日のセイモア・ダンカン氏もそうでした)くらい彼らと仲が良かったので、あながちウソとは思えないのですが、今のところ写真などから裏付けを取る事ができません。
実は元々ロジャー・メイヤーさんは昔話の詳細を話すタイプの人物ではないんですけど、2008年のロジャー・メイヤー本人のインタビューで、その64年製ファズについてある程度本人による解説がなされていました。以下、その内容を抜粋します。「64年にファズを作ったのは間違いない」「ジミー・ペイジから、ヴェンチャーズの "THE 2000 POUND BEE" のような音を出したい、と言われて作ってみた」「それは自作のケースに入れられたモノで、今時のエフェクターとは見た目も違う」「本体とは別にフットスイッチが外付けで付いていた」「マエストロFUZZ TONEをちょろっとだけイジった回路のファズで、6Vで動作する」「もちろんベックやペイジからはお金を貰ってはいない」「実は俺は、マエストロFUZZ TONEの音が好きじゃない」。最後の発言はまあご愛嬌としても、この幻のロジャー・メイヤー製カスタム・ファズはその見た目も音もなかなか謎が多いままです。ジェフ・ベックがこれを使った形跡が見つからないこともあって(先ほどベックがヤードバーズに参加する以前の音源をひと通りバババッと聞いてみたのですが、ファズらしい音は確認できませんでした。ベックがヤードバーズに入ってからはいきなりTONE BENDER MK1を使い出しますし)、ちょっとメイヤー氏の発言は不確かな点も残ります。

1964年3月、先ほども名前を出したカーター・ルイス&サザナーズというマイナーなビート・バンド(19歳のころにペイジ先生はこのバンドに一時在籍しています)のセカンド・シングル「SKINNY MINNIE」が発売されてます。そのサウンドはバリバリのファズ・ギターです。上でキンクスの「YOU REALLY〜」が英国初の歪んだギター云々、と書きましたが、リリースデイトが正しければ、こっちの曲のほうが遥かにはやく、しかもファズをバッチリ使った曲、ということになりますね。



そして、せっかくストーンズ・ネタが出てきたのでこの辺で「SATISFACTION」ネタを、と思ってたのですが、今回の文章は我ながらクドい&長いですよね。すいません(笑)。そういうわけで次回は1965年のストーンズあたりから続けようと思います。(この項続く)
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