5.24.2011
Fuzz with the Beatles
TONE BENDER使いで最も影響力のあるユーザー例のひとつは、やはり60年代のビートルズなわけです。彼らがギターのみならずベースでもファズを踏んでいたということは以前に書きましたが、TONE BENDER MK1.5、ゲイリー・ハースト、そしてビートルズの関係に関してはこちらでご紹介した通りです。
で、そのビートルズは他にどんなファズを使ってたのか、という視点で今回は検証してみたいと思います。まずビートルズのリード・ギタリスト担当であるジョージ・ハリソンの写真です。ご覧頂けるようにグレッチ・カントリー・ジェントルマンを携えた彼の手元には、マエストロ FUZZ TONEがあります。
それからもう一枚、黒くリフィニッシュされたリッケンバッカー325を抱えるジョン・レノンの足下にも、同じFUZZ TONEが見えます。先に挙げたジョージの写真と共に、これらはすべてスタジオ内の写真なので、実際にどこでどう使われたか、の証拠とはなり得ませんが、このマエストロFUZZ TONEとビートルズの関係に関して、以下のような話が伝わっています。
ビートルズは1963年7月1日におこなわれた「SHE LOVES YOU/I'LL GET YOU」、つまり彼らの最も有名な(註:売れた、という意味です)シングルのレコーディングで、このファズを使用した、と言われています。また、この後同年9月11日の「DON'T BOTHER ME」のレコーディングに際しても、ジョン・レノンがこの曲のデモで同じくFUZZ TONEを使った、とのことです。これらはここにもあるようなスタジオ内の写真から判断される事象なわけですが、実際に最終テイクとして残された音源ではその音を確認することはできません。実際にファズ・サウンドは録音されたようなのですが、プロデューサーのジョージ・マーティンがそのサウンドをお気に召さず、ボツにされた、ということになっています。
「DON'T BOTHER ME」の録音にはあるジャーナリストが立ち会っており、彼が後に言うところによると、ジョンは曲のイントロでこのファズを使ったが、ジョージ・マーティンが『アンプが故障でもしたのか? その酷い音をなんとかしてくれよ』とダメ出しした、とのことです(笑)。
また、ジョージ・ハリソンがこれらのセッションに際してエンジニアと「どうやったらギターの音をオルガンの音のようにできるか」を相談していた、ということも判っています。それらの話は全て書籍『BEATLES GEAR』に掲載されています。
世界初のファズ製品、として広く知られているこのマエストロFUZZ TONEを使った最も有名な曲はローリング・ストーンズの「SATISFACTION」ということになっていますが、63年の段階で意欲的に「ギターらしくないギターの音」にチャレンジしてたビートルズがいた、ということですね。前述のジャーナリストによれば「成功したこともあって、そうしたサウンドの追求という面でもビートルズにはかなりの自由が与えられていた」とのこと。つまり、よっぽど成功したバンドでないと当時はそんな無茶はさせてもらえなかった、ということなんでしょうね。
マエストロFUZZ TONEはTONE BENDER MK1の元となったファズ・ペダルの元祖のような回路を持っています。当方もボロボロのFUZZ TONEを持っているので、そちらの紹介は稿を改めていずれ行いたいと思いますが、続いてビートルズ絡みの他のファズを見ていきたいと思います。
こちらの写真も以前にアップしたことがありますが、1966年に「PAPERBACK WRITER」のレコーディング・セッション中に撮影された写真です。グレッチ6120を抱えるジョン・レノンが、何やら不思議な形をしたペダルのスイッチを押しています。
このペダルはTONE BENDER MK1とならんで「英国で最も初期に開発されたファズのひとつ」と言われているWEM社製のRUSH PEP BOXというファズです。WEM(WATKINS ELECTRIC MUSIC OF LONDON)はワトキンスというブランド名でもしられるメーカーで、PAアンプとか(COPICATという有名な)テープ・エコーでも知られますよね。そのWEMは(WEMという社名になる以前の)60年代初期からファズ・ペダルの開発を開始していたそうです。この写真でジョンが触れているファズはそのRUSH PEPの66年頃のモデル、ということでして、実はそのWEM製RUSH PEP BOXにはいろんなバリエーションが存在します。
その多様なバリエーションはこちらで見る事ができますが、形状、回路、デザインいずれにしろいろいろと種類があって、また加えて非常に入手困難なブツであることも手伝って、これまでなかなかその機種の断定ができませんでした。今はご覧のように、だんだんとそのラインナップや回路の詳細もわかるようになってきています。
簡単にRUSH PEPの歴史をおさらいすれば、初期のRUSH PEPはゲルマニウム・トランジスタを3ケ使った回路で、そのサーキットも回路もマエストロFUZZ TONEとそっくりのものでした。しかし途中からトランジスタが2ケになり、回路もリファインされます。その後にトランジスタがゲルマニウムからシリコンのものへと変更され、そしてその後には筐体がなんだか平べったくてバカでかいモノへ、と変更されています。RUSH PEPは67〜8年には製造されなくなった、とのことなので、バリエーションとしてはその辺りで終了していると思われます。
で、ちょっと前なんですが、66年にジョン・レノンが押していたファズと全く同機種のRUSH PEPが発掘されました。したのは(本稿ではお馴染みの)JMIのジャスティン・ハリソン氏なんですが、遂にその内部の詳細がわかったわけです。上に掲載した「ジョンが使ったモンと同じモデルの」RUSH PEPの写真は、ジャスティンから借りた写真です。
回路にはBC107というシリコン・トランジスタが2ケ使われているんですが、ダラス・アービター社のFUZZ FACEなんかとは違った回路となっています。わりとジージーとガレージ臭ただよう荒々しいファズ・サウンドとなっています。
なんで筆者がその音を知ってるか、といいますと、JMIはこのRUSH PEPをオリジナルと同様の筐体/回路で復刻し、そのリイシュー版を試奏した経験からです。ゆえに、オリジナルと完全に同じ音、とは断言できませんが、その傾向という意味では間違っていないと思われます。
JMIから昨年発売されたこのリイシュー版は「STUDIO 2 FUZZ BOX」という名前になっています。STUDIO 2はもちろん、ビートルズが多用したアビーロード・スタジオのレコーディング・ルームの名なわけですが、豪華な化粧箱に入ったこの復刻版ファズは、やはりビートルズ・マニア向けのブツ、といえると思います。
さて、余談ですが、ビートルズといえばFUZZ FACEも忘れる事ができません。というのも、映画「LET IT BE」で、ジョージの足下にあの丸いファズを発見したファンは多いだろうと思われるからです。しかしその写真では、FUZZ FACEには一切プラグが挿入されておらず、結局未使用であったと思われます。実はそのFUZZ FACEの傍らには珍しいVOXのグレイ・ワウも見えるのですが、こちらもプラグインされておらず、どちらも未使用だったようですね。グレイ・ワウに関しては稿を変えて、これも近いうちに詳しくご紹介しようと思っています。
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