7.05.2010

circuit of Tone Bender (MK1/MK1.5/MK2)


 TONE BENDER回路のお話、その2です(前回のものはこちらを参照願います)。何度も書いていますが、筆者自身は電気の回路にそれほど詳しい訳ではありません。が、やはり大変興味のあるジャンルなので、詳しい人に(つまり主にMANLAY SOUNDのエフェクターを作っているROMAN GIL氏に)聞いたりして教わっているわけですが、アソコをああすればアアこうなるのね、等と皮膚感覚で理解できているというわけではありません。

 さて今回も、回路図(いずれもクリックにて拡大表示します)を元に似てる/似てない、を検証するわけですが、まずはTONE BENDERの元となった基本のファズ、米GIBSON傘下のMAESTROブランドから発売された世界初のファズ製品FUZZ TONE FZ-1です。前にも書きましたが、このFZ-1には一番最初の「単三電池2本(3V)で稼働するもの」と、後にリファインされた「単三電池1本(1.5V)で作動するもの(FZ-1A)」があります。ここではTONE BENDERとの比較をするためなので、初期モデルである「単三電池2本ヴァージョン」のFZ-1の回路図を掲載しました。ちなみに、今ネット上にいろいろと存在するFUZZ TONEの回路図には、現代ビルダーが自主制作するために「9V稼働」にリファインされたものもありますね。

 で、そのFZ-1ですが、語弊を承知の上で書けば、赤い丸部分のゲルマニウム・トランジスタが横一列で配置されています(もちろん回路図の上では、の話ですが)。これを「直列」と表記するのはさすがに間違いでしょうが、とにかくこういう回路です。真ん中上のほうにある1.5K(15K)と書いてある部分は、(ピックアップの出力によって)もしいい音にならなかったらこっちに変えた方がいい、と世界中で推奨されている数値の変更を示しています。

 そのMAESTRO FZ-1回路を英国人技師ゲイリー・ハーストが「もっと使えるように新たにデザインしなおした」回路、それがこのTONE BENDER MK1の回路です。細かい数値の違いはもちろんあるんですが、パッと見て、これは誰にでも「ああソックリだな」とお分かりいただけると思います。ゲイリー・ハーストは「歪みのトーンはMAESTRO FUZZ TONEと同じにしたかった」と言っていること、「ただしもっとサステインを増やしたかった」とも言っていることから、回路のレイアウト自体はほぼ同じものを使い、数値の変更を研究しまくった、と考えるのが自然ではないでしょうか。なんといってもオリジナルのFZ-1は、ブチブチとゲートがかかりまくったその音が独特すぎて、今の目線で見ればギターのエフェクターとして使うのはかなり難儀なペダルでもありますし。ゲイリー・ハーストならずとも「サステイン」にこだわったのは当然とも思われます。(9/11追記:これまで掲載していたMK1の回路図に一部間違いがあった事に気づきました。既に訂正したものに画像を修正してありますが、申し訳ありませんでした)
 上の写真ではミック・ロンソン・シグニチュアのMK1を載せましたが、それよりもMK1をリアルタイムで使用した有名人はやっぱりヤードバーズ時代のジェフ・ベックだと思います。左の写真は共に、テレビ番組に出演した際のベックですが、足下にちゃんとTONE BENDER MK1が映っていますね。前述したように「HEART FULL OF SOUL」でMK1を使用していることは確実ですが、アルバム『ROGER THE ENGINEER』(レスポールを持っているジェフ・ベックの上のほうに飾ってあるジャケ写)でもMK1を使用したかどうかは、定かではありません。

 さて続いて、残りの2つのオリジナルTONE BENDER、つまりMK1.5とMK2の回路を比較したいと思います。MK1.5の回路図は以前も載せましたが、その際に書いたように、これはもうDALLAS ARBITER FUZZ FACEとそっくりの回路なわけで、更に加えて後にイタリアで製造されたVOX TONE BENDERともそっくりな回路、というものです。ゲイリー・ハーストが「洗練された回路にしたかった」と言っていたのは、おそらく「もっと単純な回路でファズの効果を生み出せる」というプリミティヴな構成を狙ったであろうことがうかがえますね。

 ところが、これも前述したように、MK1.5のTONE BENDERは発売から数ヶ月ですぐにモデルチェンジされます。ゲイリー・ハーストによれば「ギタリスト達はもっともっと多くのサステインを欲していた。そのリクエストに答えた」という形での仕様変更だったわけですが、回路図でもわかることは、MK2は「MK1.5の回路の一番頭の部分に増幅箇所を一カ所付け加えた」という構成であることがわかります。回路図の、オレンジの点線部分より左側が付け加えられた増幅部分で、点線より右側が、ほぼMK1.5と同じ構成であることがわかります。

 こうして見れば、同じ「ゲルマニウム・トランジスタ」を3ケ使ったTONE BENDERのMK1とMK2でも、その回路構成が全く違っている事がわかりますね。そして何度か既に書いていますが、同じ「TONE BENDER」の名がついたファズでも、MK1もMK1.5もMK2も、どれも全然違う歪みを生み出す、ということもおわかりいただけるのではないでしょうか。

 余談になりますが、実は日本同様バルセロナも夏はクソ暑い地域なわけでして、MANLAY SOUNDのビルダー、ROMAN宅もクソ暑いんだそうです(笑)。で、作業中に「昔(冬の時期に作っていた時)のような音が出ない」と、彼が頭を抱えてしまいました(笑)。そのため、MANLAYから発売されているTONE BENDER MK2クローン・ペダル「SUPER BENDER」は、現在出荷されているものにはすべてトリムポットを中に組み込むようにしてあります。

 ゲルマニウム・トランジスタは温度に敏感なのはご承知のことかと思いますが(温度の差で性能に誤差が生じてしまい、そんなパーツだから軍用ミサイルの制御装置には使えない、ということになってゲルマは世の中から廃れていき、シリコンがその座を受け継いだ、というのは有名な話ですね)、日本もスペインに負けず劣らずクソ暑い地域ですので、このトリムポット採用を喜んで享受することにしました。SUPER BENDERに関していえば、バイアスを15Kから33Kの間で調節する、という機能になりますが、もし暑い部屋、もしくはその逆でキンキンに冷えた部屋で使用される場合は、トリムポットでのバイアス調整をお試しいただければと思います。
 

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