10.31.2011

History : 1964 - 1965 (Pre Tone Bender)

 
  1965年はもちろんイギリスでTONE BENDERが生まれた年にあたるわけですが、実は1964年の年末に、TONE BENDERとちょっと関連深げな(?)製品が開発されてますので、まずはそれから触れてみたいと思います。

 イギリスのJMI/VOXはV816 DISTORTION BOOSTERという小さくて四角い鉄製ケースに入ったエフェクターを64年の終わり頃に製造しています(同時期に開発されたのは「V806 TREBLE BOOSTER」と「V810 BASS BOOSTER」でした)。これがどの国の工場で製造されたかは確認のしようがないので不確かなママなのですが、中身のデザインは一応JMI/VOXのディック・デニーが行った、ということになっています。四角い鉄製のケース、と先ほど書きましたが、これは同時期製造の「V806 TREBLE BOOSTER」がオレンジ色に塗られた鉄製ケースのもの、ということが確認できてるので、おそらく同じシリーズの筐体だろう、という推測で書いています。製造数も全くの不明ですが、これらは翌65年にかけて出荷された模様で、「歪み系」という意味でのエフェクターは、これが英国初の市販製品だった可能性もあります。

  ところでこのVOXの「DISTORTION BOOSTER」はその後、1966年にVOXのプラグイン・シリーズの1製品としてイタリアのEF-ELという工場で生産されリファイン/リビルドされています(写真左)。プラグイン・シリーズは銀色の鉄の小さな筐体に入ったモデルで、ギターやアンプに直刺しするタイプのものです。その際にはVOXのカタログにも掲載されています(註:なんとこのモデルには赤いモノがあることが、最近判明しました)。しかし先に挙げた1964年製の「DISTORTION BOOSTER」とは見た目も回路も異なります(回路の変更は若干、でしたが)。さらにこのV816は翌年には最終段にレベルコントロールが加えられ、モデルナンバーもV8161と変更されました。

 しかしその初期の64年製モデルの製品写真はどこにもなく(当方も見た事がありません。何故か回路図だけはネットで拾えるんですが。笑)また1967年にVOXは今度はイタリアの工場で「V8162」という「DISTORTION BOOSTER」(写真右)を製造したことで、余計に混乱してしまうエフェクターなんですよね(世界中でV816/V8161/V8162の区別がついていない人も多いことも事実です)。この製品はJENのブランド名でも販売されています。しかし製造日から言えば一番最初のV816が1964年末に作られている事は確かなようです。

 ただし、このVOX DISTORTION BOOSTERが「貴重」なモデルであることは、「英国初の歪み系市販製品」だったことのみならず、実は一番上にも掲載したその回路がいわゆるTONE BENDER MK1.5の回路に似ているということからも推し量れます。この回路はVOX T60アンプのインプット回路を元にデザインされている、というのは以前にも触れましたけど、同様のことをD.A.M.のデヴィッド・メイン氏も言っていますが、要は1年以上後に登場することになるTONE BENDER MK1.5、FUZZ FACE、そしてイタリア製VOX TONE BENDER等の回路の大元がこれだった、という可能性は否定できません。ちなみにその大元となったVOX T60は1962年製のベースアンプで、その入力段回路にはOC44というゲルマニウム・トランジスタが使われていましたが、V816、そしてV8161のDISTORTION BOOSTERでは回路図にもあるようにシリコン・トランジスタを使用した回路になっています。V816/V8161の音はファズという概念からはおよそ遠いもので、いわゆるブースターといいますか、まろやかなオーヴァードライヴ的サウンドのエフェクターでした。

 さて、1965年。英国ファズにとってエポックな年ですね。
 この年の5月12日、米ハリウッドのRCAスタジオにて、ローリング・ストーンズが「(I CAN'T GET NO)SATISFACTION」を録音。実はバンドにとって同曲の録音は2回目でした。最初のセッションは2日前にシカゴのチェス・スタジオで行われ、その時には例のイントロのリフにはブライアン・ジョーンズのハーモニカがあてがわれていました。言うまでもなく、採用テイクではイントロでマエストロFUZZ TONEが使用され、世界的にファズ・サウンドを有名にした1曲です。

 キースの考えでは「最初の録音での、自分のギターの音に満足できなかった(なんという出来すぎた話でしょうか!笑)」ため、「なんか探してこい」と道路向かいの楽器屋までローディーのイアン・スチュワートをパシリに行かせたところ、「今日こんなの入ったんだよ。持っていきな」という楽器屋の店員さんのセールストークにマンマと乗せられて(笑)、マエストロFUZZ TONEをめでたく導入、となったわけです。

 この2回目のセッションは、キース・リチャーズにとっては「ちょっとファズってのがどんな効果になるのか試したかっただけ」という心積もりだったようです。本人の発言が残されているのですが、本人によれば「おそらく最終的にはリフ(ファズを使った部分)には、ブ厚い管楽器のリフが入ることになるんだろう、と思っていた」とのことです。
 結局プロデューサーの判断で、2回目のファズ・テイクが採用になります。この曲が大ヒットを記録したことで、65年の年末まで、ギブソン社が在庫していたマエストロFUZZ TONEは全部売れてしまった、ということは先述の通りです。

 しかし残念なことにキースがFUZZ TONEを持ってる/使ってる写真、ていうのは一度も見た事がありません。どなたかご存知の方がいればご教示いただきたいものです。ところで上の「カジノを持ったキースの写真」なんですが、これはクレジットによると1966年の写真とのこと。なんでこの写真を載せたかといえば、このカジノに刺さってるケーブルが、どう見てもマエストロFUZZ TONEのケーブルに見えるなあ、あ、もしかして… という当方の妄想のなせる業です(笑)。先ほど65年の「SATISFACTION」の動画を漁ってみたのですが、ライヴでファズを踏んでると確認できるものはありませんでした。こちらももし詳しい方がいらっしゃればご教示いただけると幸いです。


 追記です。上の原稿をアップした直後に、Tさんという方からメールにて御指南いただきました。1966年2月13日、エド・サリヴァン・ショウにストーンズが出演したときに「SATISFACTION」を生演奏していますが、この時キース・リチャーズはファズを踏んづけていますね。あまり動画の解像度がよろしくないですが、遠目でみてもやはりキースの足下にある三角のコレはマエストロFUZZ TONEですよね。最初のほうはあんまりファズの音が埋もれてよく聴こえませんが、途中以降はちゃんとFUZZ TONEらしい音のリフも聴けます。ともかく、Tさん情報提供有難うございました。かなりスッキリしました(笑)。


 そして1965年、イギリスに於いても音楽シーンでのファズのニーズに伴い、ファズ製品が英国の会社から登場します。面白いことに、65年製造のそれらの新製品はみなマエストロFUZZ TONEの回路をコピー(&一部改変)したものばかりです。前回触れたロジャー・メイヤー製のカズタムファズも、基本的にはFUZZ TONE回路を踏襲したもののようですし、FUZZ TONEこそが「ファズの教科書」でもあったわけですね。

 まず1965年夏、初めてイギリス製のファズが発売されます。それがゲイリー・ハーストが作ったTONE BENDER MK1です。FUZZ TONEの回路をもとに、ゲイリー・ハーストがどういう経緯でそれを作る事になったか、は以前のこちらのインタビュー記事を参照願いたく思います。65年製のTONE BENDER MK1は後ほど改めて再度ご紹介しようと思ってます(なんたって、持ってますからね、エヘヘ。笑)ので、そちらは今回はひとまず置いておきます。

 それからもうひとつは、以前こちらでも紹介したJHS社のZONK MACHINEというファズになるわけですけど、これは回路の見た目もまあハッキリ言えばゲイリー・ハーストの作ったTONE BENDER MK1マンマなわけでして、色以外は同じじゃん、といえるモノです。そしてゲイリー・ハースト本人が「俺は全く関係してない」というように、これはコピー品だったわけですね。

 そしてもうひとつ、マエストロFUZZ TONEの回路を参考にしてこの年に開発されたファズがあります。それは一般に「FUZZY」と呼ばれる赤いファズのことです。このファズは開発以降いろんな変遷、紆余曲折を経ながら68年ころまで製造されたもの、とのことです。次回はこの赤いファズを詳しく検証してみようと思います。(この項続く)
 

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