11.06.2011

Rush Pep Fuzzy (1965) / WEM Rush Pep Box (1966)

 
 1965年、TONE BENDER MK1、そしてそれをコピーしたJHS社製ZONK MACHINE、それと並んでもうひとつ英国産のファズが登場しました。登場、とはいっても大々的に売り出されたモノではなく、しかも後に名前も回路もデザインも、粛々とマイナーチェンジを繰り返しまくったファズなので、正確な商品情報はなかなか掴めない、というものです。

 それは以前にもこちらでチラっと触れたことのある、 FUZZYという名前のファズです。当時の情報としては、ロンドンで1965年に開発された、という事ぐらいしか判っていません。しかし現在おぼろげに判明していることがあるので、まとめてみます。

 ゲイリー・ハーストが作ったTONE BENDER MK1同様、このFUZZYもマエストロFUZZ TONEの回路を元に作られています。赤い筐体に入ったこの最初期のモデルは、色以外は殆ど何もかもFUZZ TONEを下敷きに作られたことがアリアリとわかるというもので、当然ですがトランジスタはゲルマニウムが3石、電池2本(=3V)で動作するファズでした。この段階では商品化されていない、とのことですが(データベースサイト「DISCOFREQ」によれば「試作機」という扱いになってますね)、とにかくこういうファズが65年に登場したのは事実です。発売することになるのは、ワトキンス(WEM)社であり、英国を代表する音楽機材メーカーです。ただしその開発時期に関して、TONE BENDERとどちらが先かは何とも言えません。ゲイリー・ハーストに知ってるか?と聴いても「全く知らない」としか答えてくれませんでした。

 「FUZZYの開発者はペップ・ラッシュ(PEPE RUSH)というイタリア人だ(註:「PEPE」をどう発音するかは正直わかりません。英語の発音的にはピーピーと呼んだ方が良さげですが、PEP、つまり最後のEがないスペルをすることもあるので……)」というウワサは以前からあったのですが、実は近年その本人が某ブログにてコメントをつける、という形で当時の状況を解説している文章があります。いわく、

「65年に俺がこのオリジナル・バージョンを作成した」
「66年に俺がその改訂版を作成した」
「俺(ペップ・ラッシュ)はイタリア人じゃない」

 ……さてさて、果たしてこの発言をそのまま真に受けるかどうかはネット・リテラシーという面倒な要素をはらむわけで(笑)なかなかウノミには出来ませんが、一応ペップ・ラッシュという人物がこれを開発し、その回路の権利をWEM社にライセンスし、更に66年にはアップデート・バージョンが発売されており、その際に名前は「RUSH PEP BOX」となった、ということは、先に挙げた「DISCOFREQ'S DATABASE」や、英国のワトキンス/WEMの機材研究サイト等多くの場所で既に事実として記載されています。

 このFUZZYのコントロール部分で、ゲインを調整する場所には「PEP」と書かれています。英語でPEPは「元気ハツラツ」といった意味もあるので、そういう意味でここにその文字を入れた、という意図が伺えます。で、もちろんそのPEPはビルダーの名前(PEPE RUSH)とのダブルミーニングで付けられた文字だ、ということも同時に判るワケですけれど、先ほど書いたようにその開発者の出身(国籍)が誰にも判っていないこととか、ブログにコメントを付けた「本人」を名乗る人がなんら証拠を示してくださらない事なんかもあって、未だに「ホントかなあ?どうなんだろう?」と謎の多い物件であることも間違い有りません。

 そんなわけで、一般に知られる説を元に、年次に沿ってこのファズがどう変化していったかを以下でまとめてみます。
 1965年、ペップ・ラッシュ氏がマエストロFUZZ TONEの回路をコピーして自作したのが、最初のモデルFUZZYです。赤い塗装が施された「FUZZ TONEそっくりの」モデルです。写真でも判るとおり、回路はラグ板でPtoPで組んであるので見た目は異なりますが、ゲルマ・トランジスタが3ケ用いられた回路であることも判別できます。果たして何個作られたか、というあたりも不明なママですが、とにかくその回路がFUZZ TONEに酷似していることはすぐに判ります。

 翌1966年、イギリス大手の楽器ブランドであるWEM(WATKINS ELECTRIC MUSIC OF LONDON)が、このファズ・ペダルの権利をペップ・ラッシュ氏から譲り受けます(買い取りではなく、ライセンスという形でした)。そして何故か理由は不明ながらも、回路と名前を変更してWEM版の「RUSH PEP BOX」として発売されました。それはグレーの筐体で、トランジスタがゲルマ2石のものでした。
 ほどなくこのWEM版RUSH PEP BOXはトランジスタがシリコン2石に変更になります。このWEM版グレーで、シリコン・トランジスタを使ったものの内部を見ると、BC108Cが使われている事が確認できます。ジョン・レノンが66年4月の「PAPERBACK WRITER」セッションでポチってるRUSH PEP FUZZは、どうもこのモデルだったことも確実なようです。ただしジョンがそのファズを使った音源は結局レコードに収録されることはなかったようですが。

 そしてその後、またしても理由は不明ながら、WEM社はこのRUSH PEP BOXをモデルチェンジします。左に同社が出した広告の画像を張りましたが、WEMのブランド・ロゴがババンとでかくレイアウトされ、そして何よりもババンとデッカくて細長い筐体に収められたモデルです。そして掲載した広告によれば、このモデルは「ベース用もあるよ」とのことなのですが、そちらの詳細は不明です。

 この後期モデルは回路的にはシリコン2石ベースのモデルを踏襲していますが、ご覧のように基板はよりスッキリと量産を考えてデザインされたものに変更されています。ところが筐体上部はなんと木製だったり、というように、なかなか荒々しい(笑)作りでもあります。中身を見ても、なぜこんなにデカい筐体が必要なのかはまったく理由が思いつきません。まあ、WEM社はアンプ製造がメインの業務だったので、そういう発想でいけば、確かに少しは納得できる部分もありますけど。
 後にこのバカでかい筐体のファズは、回路を大幅に変更し(シリコン・トランジスタを8ケ使用したものになる)、名前も「PROJECT V」となって改めてWEM社から発売されたようです。ただしそのモデルに関しては、ペップ・ラッシュ氏が関わったものなのかどうか、は全く判っていません。実は「PROJECT V」は単体エフェクターではありますが、WEM社が製造したエフェクター内蔵エレキギター「PROJECT IV」に搭載されたエフェクターの中身(のファズ部分)でもありました。

 RUSH PEP FUZZに関しては以上になります。アメリカで生まれ、大西洋を渡ってイギリスで独自の発展を遂げたたファズ・エフェクターですが、やはりその創世記にはマエストロFUZZ TONEの影響が全体的に強く伺えるのも、まあ当然かと思われます。(この項続く)
 

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