5.06.2015

Robert Fripp 1981 Interview - Introduction




 さてさて、お待ちいただいた方には本当に長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。そういうワケでもないよっていう方、まったく興味ない方には本当に恐縮ですが、またしてもロバート・フリップ先生のインタビューを、次回以降何週かにわけて掲載していこうと思います。

 1981年の初夏に行なわれたこのインタビューは、その直後の秋にエイドリアン・ブリュー(G, Vo)、トニー・レヴィン(B)、ビル・ブラフォード(Dr/本当は彼の名はブリュフォードと発音します。本人も日本で自分の名が「ブラフォード」と書かれるのを嫌っているのだそうですが、本稿では「昔ながらの表記」に従ってブラフォードと書いています。その方が読む人にピンとくるから。笑)、そしてロバート・フリップ(G)という4人組で再結成することになったキング・クリムゾンの復活アルバム『ディシプリン』の発売直前に行なわれたものです。

 前回当ブログで掲載したインタビューは1974年。それから7年経っています。時代は既に変わっていました。あの後名作アルバム『RED』を出すも、バンドを解散、本人も引退を決意(!)。その2年後にボウイ&イーノから「またギター弾けよ」と引っ張り出されてギタリストに復帰。その後ニューヨークに頻繁に出向くようになり、いわゆるガッチガチの理論的実験音楽(フリッパートロニクス)と、もっともっとポップでウッキウキなダンス・ミュージック(ディスコトロニクス)という、もうワケわかんねえよ先生!としか言いようのない(笑)両極端な音楽を探求し始めた時期です。
 78年にはピーター・ガブリエルのアルバムをプロデュースしたり、ダリル・ホールのソロ・デビュー・アルバムをプロデュースしたり(これ、ホントに不可思議なアルバムですよね。フリップ先生のグチャグチャな音楽の上で、あのダリル・ホールがソロで朗々と歌い上げるという。笑)、とにかくこの時期はフリップ先生なりの「ニュー・ウェイヴ」を必死に探っていた時期だと思われます。で、その実験の延長として生まれた4人組バンド。でしたが、ある日「これってキング・クリムゾンだよな」という思いつきでそのバンドを変名し、クリムゾンが復活することになりました。

 74年のインタビューと比べると、機材のことは一切喋っていませんし、それよりもなによりも、前回のようなガッチガチな理詰めの発言にはなっていません。ニューヨークでの夜遊び(註:70年代後半、ニューヨークのデカいディスコに夜な夜な足繁く通い踊り狂うフリップ先生の目撃談が多数存在します)を経験したせいで、人と喋る時にフランクな所作を身につけたのか(笑)、その辺はよくわかりませんが、とにかく74年インタビューに比べて100倍くらいフランクに喋っています。内容は、今後発売されるクリムゾンの新作に関して、です。

 80年代以降、フリップ先生の発言は極端にフランクか、もしくは極端に理詰めか、の2つに分類されます。前者は今回のインタビューのようなもの、後者は「J.G.ベネット、もしくはそのお師匠さんのグルジェフの神秘思想、それから修練(=DISCIPLINE)の重要性、そんなことに関してトクトクと面倒くさい説明をするもの」に大別されます。どちらもとても(当方のようなヘンテコなフリップ・ファンには)面白いものなのですが、すくなくとも音楽ファンの大半の方にはどうでもいい内容でもあるわけで(笑)。いずれにせよ、フリップ先生は80年代以降そんなカンジとなってしまったので、(パブリック・イメージとして)カルトヒーローの域に完全に閉じこもってしまいます。つまり「知る人ぞ知る」というロック・アイコン、ですね。

 この時期に残された「理詰めの」インタビューとして有名なものは、アルバム『ディシプリン』の日本盤ライナーノーツに転用された、渋谷陽一氏によるインタビューが挙げられるでしょう。抜粋故に短いテキストですが、「なぜフリッパートロニクスなのか」「なぜディスコトロニクスなのか」「なぜ今キング・クリムゾンなのか」を喋ってる先生はまさに凛としたカリスマ(笑)。実は本人は女好きで有名ですけどね(82年、あのジューシー・フルーツのイリア嬢と雑誌で対談をしていますが、しょっちゅうセクハラするフリップ先生のお姿がそのまま誌面に掲載されています)。右の写真は70年代末に仲良くしてたデボラ・ハリーと、それから後の86年に結婚することになるトーヤ嬢との写真です。もちろんフリップ先生は今は愛妻家としてTV番組に出演するほどの「正しい初老」のオジサンですが。

 今回もインタビュアーは例のスティーヴ・ローゼン氏。インタビュー中「初めてあなたに会った時」というエピソードが出てきますが、それは前掲した74年インタビューを指します。フリップ氏は忘れてるようですが、ローゼン氏はその時のことをよく覚えていて、「最高に面白い人だった。さあインタビューを始めよう、となった瞬間にフリップは僕の質問状を取り上げてしまった。そして自分でマイクに向かって質問事項を読み上げ、その後自分で全部答えるんだ。僕の出る幕はなかった。途中チャチャを入れてはみたものの、僕の発した質問には4ワードくらいでしか答えない。質問状の質問には400ワードほどを使って雄弁に喋り続けるのだけど」というエピソードを当方にも改めて教えてくれました。そんなフリップ先生&ローゼン氏の7年ぶりの再会ですが、おそらくローゼン氏も拍子抜けしたであろうことは想像に難くありません(笑)。

 このインタビューでは(それほど詳細に分析した、というものではありませんが)フリップ先生本人がアルバム『ディシプリン』の全曲を解説しています。また、この10数年後に実際にフリップ先生が(音楽活動をそっちのけにするホドに)長い時間を裂いて闘うことになる「レコード会社との闘争」に関しても触れています。そんな意味でも、貴重な時期、ちょうど人生の岐路にいるフリップ先生のインタビュー、ということが出来るかもしれません。

 本稿ではもちろん触れられてはいませんが、『ディシプリン』の後にアルバムを2作発表し、この再結成クリムゾンは84年に休止します。フリップ先生は、実はこのアルバム(『ディシプリン』)を出すためだけにクリムゾンを再結成し、あとの2作はオマケである、と後に公言しています。ヒドイよ先生(笑)。ともかく、結果的に『クリムゾン・キングの宮殿』『レッド』にならぶ大傑作(註:これはフリップ先生自身の作品評価ですが、当方個人も完全に同意します)がこうやってできた、という証として、このインタビューをお楽しみいただければ幸いです。

 最後にオマケ。ギタリストを目指す人へのメッセージとしてフリップ先生が90年代以降に残した主な発言——「プロなど目指さず趣味にしておきなさい」「母親に聴かせて気に入ってもらえなかったらあきらめろ」「私のクリムゾン人生は悲惨の一語につきる」——ヒドイよ先生(笑)。

Young Person's Guide to
ROBERT FRIPP 77 - 85


David Bowie / Heroes (77) イーノ&ボウイに説得されて復活を決めた先生。「毛むくじゃらなロック・ギター」という要望に答え、本作でとんでもない最高の演奏を残しています。使ってるファズはもちろんギルド「FOXEY LADY」。


Peter Gabriel / ST (78) ピーガブのソロ2作目(通称:スクラッチ)はフリップ先生のプロデュース。ここで先生はトニー・レヴィン(b)と共演。


Robert Fripp / Exposure (79) NYパンクへの接近、それと同時に多彩なゲストを迎えて残された先生のソロ作。本作の歌詞はすべて当時の先生の彼女だったジョアンナ・ウォルトンという女性によるもの。


Daryl Hall / Sacred Songs (80) ピーガブの2作目、先生のソロ作と「3部作」という観念で制作されたダリル・ホールのソロ・デビュー盤。シンガーのソロ作なのに先生はフリッパートロニクスのインスト曲をぶっ込んでしまうという(笑)。


Robert Fripp / God Save The Queen / Under Heavy Manners (80) 前半をフリッパートロニクスによるインプロ演奏で、後半をディスコトロニクス手法による楽曲で構成したもの。ホントは先生は「別々に出したかった」ようです。


David Bowie / Scary Monsters (80) 「HEROES」参加以降、どうやら「ツアーに出る・出ない」で一時期ボウイと仲違いしてたようなのですが(笑)、ここでもまた先生との共演が復活。最狂のギターを鳴らしています。


Robert Fripp / The League Of Gentlemen (81) XTCのバリー・アンドリュース、後期ギャング・オブ・フォーのサラ・リー等が参加した、リーグ・オブ・ジェントルメンというバンド編成で録音されたソロ作。ブリブリのニューウェイヴ・サウンドで超オススメ作品なのですが、90年に一度CD化されて以降本作は封印されています。


Robert Fripp / Let The Power Fall (81) 全編フリッパートロニクスで構成された作品。この音楽はなんだ?と聴かれても「これがフリッパートロニクスです」としか答えられないのですが(笑)本人によるライナーノーツが筆舌に尽くしがたい程素晴らしい。


King Crimson / Discipline (81) クリムゾンの復活。ただの復活ではなくて、何もかも完全に新しいクリムゾンです。タイトルを「規律」と訳す方もいますが、当方的にはやはり「修練」としたいところです。


King Crimson / Beat (82) クリムゾン流の「ビート・ジェネレーション音楽」だという「Neal, Jacques and Me」で幕を開ける復活クリムゾンの2作目。ジャケも中身ももの凄くポップです。


King Crimson / Three of a Perfect Pair (84) 本作の隠れテーマはジョージ・オーウェル「1984」。10年経って出来た続編「太陽と戦慄PT3」で幕を閉じる本作で、クリムゾン80年代復活祭りは終わりました。


Robert Fripp / Network (85) 70年代末から80年代にかけて先生が録り貯めた素材を元に構成されたミニアルバム。ダリル・ホール、フィル・コリンズ、トニー・レヴィン、ブライアン・イーノ、デヴィッド・バーン、ピーター・ガブリエルが参加。

(アンディー・サマーズとの共演作に関しては本文中にて別途掲載します)


No comments:

Post a Comment