5.20.2015

Robert Fripp 1981 Interview - Part 3

INTERVIEW BY STEVE ROSEN, 1981
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※問答無用で最高・最強の演奏を披露する再結成キング・クリムゾン、テレビ番組出演時のライヴ。曲は「ELEPHANT TALK」。こういう音楽ですし、ピコピコと跳ね踊りながらニコニコと演奏するこのメンバーを見て、やはり当時さすがに「プログレ・ファン」と呼ばれる人からはかなりの疑問視を投げかけられたことも事実です。ご覧のように80年代のフリップ先生はROLAND GR300というギターシンセ・システムを多用(ここではノントレム仕様ですが、後にケーラー・トレモロ搭載の同モデルを使用)、アンプもROLAND JAZZ CHORUSということが殆どです。
——曲に関して教えてもらえるかな?
RF:もちろん。何が知りたい?
——それぞれの楽曲がどんなものか、順におさらいしてもらえる?
RF:わかった。「エレファント・トーク」——これは言葉を用いることの困難さ、言葉を使って何かを伝えることの困難さ。「フレイム・バイ・フレイム」——これは演奏するのがとても難しい。「マッテクダサイ」——日本語で「また会いましょう」という意味だ(註:原文ママで訳してます。が、もちろんフリップ先生はちょいと日本語を間違って覚えている模様。ちなみに先生はその後90年代に数ヶ月程日本語を学んだ、という本人証言アリ)。もし最愛の人物があなたから離れて行ってしまうという時に、あなたは何をするか? という曲。
——物理的な距離で、離れて行ってしまう時?
RF:そう、地理的に離れるという時。もし君がロック・ミュージシャンで、君が留まりたいと思う地域にはいられなくなった時。そんな時できることのひとつは「曲を作る」ということだ。これはエイドリアンが彼の妻に向けて作った曲だが、他のメンバーにとっても大きく共感できる部分があるだろう。
——アルバムの中の他の曲は?
RF「インディシプリン」——これは「ディシプリン」と対になるもの。「ディシプリン」はドラマーが曲を維持・持続しようとするときに見えてくるもの。楽しいよ。「インディシプリン」は多くの不安に苛まれている最中から脱出しようという時の、音楽的な外郭を私にもたらしてくれる。私は人間というものは「恐怖心から逃れることの出来ない囚われの身」だとは考えていないんだ。君もトーマス・ハーディーを知っているだろう?(註:イギリス出身の小説家/詩人。いわゆる「宿命論」を代表する作品を多数残した) ウィンボーンに住んでいて、私もその同じ地域にいた。人間の一生というものはそんなに簡単なものではない、なんて上っ面だけで考えてしまうことは誰にでもよくあることだが、そんな時に、こういった音楽的な外郭(Framework)を用いるのだ。どうしようもなく生成されてしまう文字通りの「不安」というものから逃れるために。
——あなたはいつもそうしてきた、と。
※インタビュー中色々と語られていますが、エイドリアン・ブリューの身に一体何が起こったのかはこの「THELA HUN GINJEET」のスタジオ音源を聴くとすぐお分かりいただけると思います。下のライヴ動画は、上の「ELEPHANT〜」と同じ日に収録されたTVライヴ映像。ちょっと暗いのが残念ですが、演奏シーンはガッツリ拝めるので嬉しいですね。
RF「セラ・ハン・ジンジート」——時代錯誤、アナクロだね。都会でのバイオレンスに関する歌だ。都会の路上でおこる暴力と犯罪に関して、面白いストーリーが描かれている。歌詞の中の一節は、「一体何があったんです?」とインタビューした人物が強盗犯人本人だったという話だ。歌ってるのはエイドリアンだが、彼はその強盗犯の共犯としてインタビューされている、という役だ。エイドリアンが録音ブースに入って、マイクの前でその役を演じてみたが、あまり面白くなかったのでダメ出しした。「エイドリアン、これカセットで録音してみたらどうだろう? 実際に路上の1ブロックくらい歩きながらカセットテープで録音したら雰囲気でるんじゃないかな」と。
——路上の男の話、なんだね。
RF:それで1ブロックほどカセットレコーダーを持って彼に歩き回って演技を録音してもらった。「ここら辺りは一番アブナい場所なんだ、アッ誰かが銃口をこっちに向けてる!」ってね。そうやってスタジオの周辺の1ブロックをウロウロしてるだけだったが、本物のギャングや強盗に大量に出くわした、というワケだ。
——ホントなの?
RF:(大声で)「オイお前!そこで何してる!」って言われたのでエイドリアンは「いえ何も、何もしてないッスよ」ってね。ギャングの連中はエイドリアンのカセットレコーダーを掴んで録音されたものをプレイバックしてみた。すると「ここら辺りは一番アブナい場所なんだ、アッ誰かが銃口をこっちに向けてる!」なんて録音されてた。彼らは「オイお前、ピストルがどうしたって? 何があったって? ア? お前警官か?」ってことになり、ストリート・ギャングにエイドリアンもすっかり囲われてしまった。こういう話って、今丁度ロンドンでも問題になっている事態なんだがね。最終的にはエイドリアンは今これこれこういう事情でこんなことをやってたんです、という話をして理解してもらい、その通りを抜け出すことに成功した。カセット・レコーダーに「あいつら絶対オレを殺すつもりだったに違いない」とか入ってたよ。思いがけず急に歌詞の内容が目の前で現実になった、ということだ。だから曲を聴くと、役者として演技をしている部分と、実際に強盗に巡り会ったリアルな部分の境目を見つける事ができる。
——芸術ってのは人生を模倣するもの、だね。
RF:その後警官が2人やってきて、エイドリアンに「今ここで何があった? ん? なんだこれ?」とか言ってきた。で「私はミュージシャンなんです。スタジオで働いています」と。警官は「ん? お前ドラッグとか持ってんのか?」なんて言い出して急に身体検査をし始めた。そしてポケットの中全部、カセットレコーダー、あらゆるものをチェックしまくって、その後その区画の別方向へ去って行ってしまった。その区画を一周するのには5分かそこらで済むハズだが、そんなイザコザに巻き込まれてエイドリアンは14分かかって戻ってきた。ブルブル震えながらね。皆「エイドリアン、一体どうしたんだ? どこ行ってたんだ? 何があった?」と言ったが、私は「どうだいエイドリアン、いいものが録音できたか?」って訊いてみた。エイドリアンは「出来なかった」と。で私は「どういうことだ?」と。彼がスタジオを出ていた間に何があったか、そのカセットレコーダーを廻してみて分かった。それからエイドリアンが全体の話をし始めた。それをカセットに録音し直して、レコードでは採用した。
※掲載順がバラバラで恐縮ですが、上が「FRAME BY FRAME」のライヴ演奏。イギリスBBCのTV番組「OLD GREY WHISTLE TEST」出演時のもの。下がスタジオ録音の「DISCIPLINE」。ともに変拍子を組み合わせたポリリズム楽曲で、しかもフレーズも難解極まります。
——その話が全部「セラ・ハン・ジンジート」で語られている?
RF「セラ・ハン・ジンジート」を聴けば今言った事、そこで何が起こったのかが全部エイドリアンによって語られているよ。
——いいね。
RF「シェルタリング・スカイ」——このタイトルはポール・ボウルズの書籍から引用したものだ。私にとって、このアルバムの中ではおそらく音楽的に最も満足いく結果を残せた1曲だろう。私個人の観点から見ると、私の友人にあてたメッセージ・ソングでもある。あるインプロビゼイションから発想を得た曲だ。ある日、テープを廻し続けながらただただ演奏していた時、その後にそのテープを聞き直してみて「これをやってみよう」ということになった。曲も演奏も、全て、ただその場で起こったこと、自然発生で起こったことを記録しただけだ。我々はただシンプルにその場で演奏し、それを曲の外郭として使用した。
——タイトル曲は?
RF「ディシプリン」——“修練”はまさにプレイするために必要なものだ。曲の始まりとしてリズム・セクションは8分の17拍子でスタートする。そこにギターが8分の15拍子で合わせる。そう、簡単な曲ではない。これこそがこのアルバムの基本となるものだ。
——この曲は録音するまでどのくらいかかった?
RF:実質19日かかったね。リミックスとオーバーダビングを含めて。基本的にはスタジオでライヴ演奏したものを録音するだけで、オーバーダブは最小限しかしていない。一般的に、レコーディングには2つの王道というべきアプローチがある。スタジオに入ってから曲を書き、それを覚えて、プレイして完成するという方法。私のやり方というのは「予習ありき」というもので、楽曲を書き、それから出向いてプレイする。プレイしてる間に覚えてしまって、それで録音作業に入る。
——あなたにとって最も親しみのある方法、ということだね?
RF:先にスタジオに入ってしまう、ということもある。何をどうするか、によるが。バンドでプレイするという場合、バンドの1員であるという場合、楽曲は先にツアーに出てライヴで習得することをおすすめするよ。
——プロデューサーはあなた?
RF:プロデューサーはキング・クリムゾンとレット・デイヴィス。楽曲はすべてバンド全員で書いた。
——バンド全員?
RF:そうだ。全員が作曲に携わった。
——そのレコードはいつ発売になるのだろう?
RF:公式には9月11日に発売されると発表されている。今も9月11日だという予定のまま変わりはないが、新しいアイデアはいつも思い浮かんでしまうものだからね。10月7日に世界発売しようか、とも考えている(註:実際にはアルバム『DISCIPLINE』は81年9月22日に世界同時発売された)
——キング・クリムゾンでツアーに出る?
※82年発表作に続いて、フリップ先生はアンディー・サマーズともう一枚共演盤を制作。84年9月に発表されています。動画は同作冒頭曲「PARADE」。まるでジグジグ・スパトニックかよと思うようなシンセ・ポップで面食らいます(笑)。前作と異なりこちらではゲスト・ミュージシャンが多数参加。本作ではフリップ、サマーズともにギター・シンセを多用しているのですが、2人がギター・シンセを使って練習している模様がドキュメンタリー映像として残されています(下の動画)。


RF:ああ。丁度ロンドンでそのリハーサルを始めたところだ。一番最初のライヴは、ロンドンのバースにあるベジタリアン・ワイン・バー兼レストランで、客席はスタンディングで120人とかそんなくらいの広さのところでね。それからウィルトシャーでもプレイする。その後ロンドンで2日ライヴをやって、その後オランダで2日、ドイツで5日間、という予定だ。10月22日にはカナダのトロントで、それからアメリカの東海岸をツアーする。それからアトランタ、テキサス、感謝祭(アメリカでは11月の終わりのほう)のあたりになればカリフォルニアに行く。そしてシアトル、ポートランド、カルガリー、エドモントン、12月5日にはヴァンクーヴァーでのライヴが決定してる。その後日本に行って、12月17日の日本でのライヴでそのツアーは一段落。その後私はニューヨークに行って、3日間友人達と過ごす。それからイギリスに戻って、家族とクリスマス、だ。
——凄く忙しいスケジュールだね。
RF:1月の最初の2週間は、アンディー・サマーズとのアルバムのミキシングが予定されてる。2月の第1週にはクリムゾンのリハーサルが再開する。
——あなたはソロ活動とか他のプロジェクトをやるつもりはないの?
RF:えっと、それはアンディー・サマーズとの共演になるだろう。アイデアはいろいろあるが、今決まってるモノは何もない。


※完全な余談となりますが、フリップ先生の妹さん、パトリシア・フリップさんは米国在住で「会話術」の講師をしているという人。大学他で講演活動を行なっているのですが、時たま兄のフリップ先生もこの妹さんの活動に参加して講義を行っている模様(今回のインタビューの時点で、この妹さんとの講義活動を指しているとはあまり思えないのですが)。http://www.fripp.com
——その他の活動での予定は?
RF:今私が勤しんでいるのは、ローチェスの3人をイジメ倒すことだ。彼女達の次のアルバムをプロデュースすることになってるから(註:女性3人組のフォーク・トリオ、ローチェスは79年デビュー。79年の1枚目と、82年の3作目はフリップ先生のプロデュース)。ああ、それからマックス・ローチと共演することになるかもしれない。バンド形式で、アンディー・サマーズと、マックス・ローチと、私と、それからもう1人ベーシストを加えてね。でも今の所、私もアンディーもマックス・ローチとは一度ディナーを一緒したことがある、というだけなんだ。ニューヨークで私がフリッパートロニクスの演奏をしていた時にそれを見に来てくれてた時にね。アンディーにはポリスの活動があり、私にはクリムゾンの活動がある。その上また別なプロジェクトをやるのはとても難しい。とはいえ、それとは別で、大学で講義をやりたいとは思ってるんだ。アメリカ中を講義で回るんだ。
——ポリスとクリムゾンが一緒にツアーでまわる、なんていう可能性は?
RF:ないな。
——1982年のキング・クリムゾンはより大きな成功をするだろうと考えてる?
RF:いや、83年のクリムゾンのほうがそれよりも成功しているだろうね。なんといってもこのバンドの契約は3年間だから。それじゃ、これで。

Interview by Steven Rosen in 1981. / Article written in 1981, revised in 2015.
Translated by Tats Ohisa. ©2015 Steven Rosen / Buzz the Fuzz

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