8.01.2015

Saying goodbye to an old friend… introduction

 
 ミック・ロンソンのお話です。ええ、またしても、です。申し訳ありません。今まで彼の使用機材に関して、エフェクター、それからアンプ、と順を追って書いてきました。で、今回はあのギターに関して、しかもその最新情報に関してです。ちょっと長くなりますが、お好きな方は、ほんのひとときお時間を拝借できれば幸いです。

 まずはおさらいです。彼がスパイダース・フロム・マース時代(70〜73年)に使用したギターは、1968年製GIBSONレスポール・カスタムであったことはもう言うまでもありませんね。エレキギターに関していえば、ジギー時代のロンソンはほぼこれ1本で通しましたし、ボウイと別れてからも、彼はこのギターがダメになるまで使い倒しました。

 ちなみに72年ボウイのアメリカ・ツアーにてニューヨークを訪れたときに、ミック・ロンソンはサブ・ギターとしてチェリー・サンバーストのレスポール・デラックス(72年製/2ハム仕様)を入手していますが、それほどこのギターの使用頻度は多くありません。

 68年製GIBSONレスポール・カスタムはPOOR MAN'S BURSTという異名を持つ程に特別なギターです。50年代のテンプレートを使って作られた最後のモデルということもありますが、1Pマホネック/ディープジョイント/2Pメイプルトップ/1Pマホバック/スクエアウィンドウ・ボビンのステッカー・ナンバードPAF/ABRブリッジ。いずれもこの68年(実際には68年末〜69年初頭、という半年未満の期間しか作られていません)同様の仕様は、それ以前もそれ以降もGIBSON社では作られたことがありません。唯一の例外としてGIBSON社が「このスペックとまったく同じ」と謳ったギターは、90年代末から発売したCS製カスタム・コレクション(後に同シリーズはヒスコレに合流することに)の68リイシューですが、ホンジュラス・マホを使ったオリジナルとアフリカン・マホを使ったリイシューを同じ目線で語ることはできません(いや別にいいんですよ。いいんですけどね・・・)

 以前、当ブログにて掲載したロンソン・インタビューでも語られているように、本人はこのギターをリアルタイムで新品で入手しています。ちょっとだけ珍しい仕様として、彼が入手したそのギターはファクトリー・オリジナルでグローバー・チューナー仕様だった、ということが挙げられます(68カスタムでは殆どの場合クルーソン製ワッフルバック・チューナーが採用されていたのですが)。購入したのはおそらく69年の頭頃、と推測されます。

 70年の年頭までは塗装もオリジナルのママでしたが、70年の頭頃にミック・ロンソンはギターのトップの塗装を剥いでいます。これまでも数多く語られてきたように、マイク・チャップマン(プログレッシヴ・フォークのハシリのような英国出身のSSW)のアルバム『FULLY QUALIFIED SURVIVOR』の録音に参加した69年末、チャップマンが所持していたアコギのトップの塗装が剥がされているのを見て「そのほうが音がよりオープンになる」と聞かされたロンソンは、早速自分のレスポールにも同様の処置を施すことにしました。こうやってあの「グラムロックのアイコン」として有名なギターが出来上がりました。

 細かい仕様変遷を一応書いておきます。トップの塗装を剥いだあと、ミック・ロンソンはピックアップ・エスカッションを白に塗り替えています(上の写真参照)。白いパーツを用意したのではなく、色を塗っていました。うん、可愛いですよね(笑)。おそらく「レスポール・スタンダード」的なルックスに近づけようと考えたのだと思われます。72年頃のロンソンのギターの写真を見れば、エスカッションが白なのが分かります。またそのエスカッションの塗装がどんどんと禿げていく様子も以降の写真(左の写真参照)に残されてますよね。で、73年頃になるともうすっかり(元通りの)黒いエスカッションになっています。

 また、73年頃にはピックアップの金属カバーを取り除いています。つまりボビンむき出し状態というわけです。エレキギターの「エッジのある音」が大好きだったというミック・ロンソンですから、この改造は納得できます。なんといっても「エッジ」が好きなので、その後テレキャスターの音に目覚めてしまったという人ですから。
 ギターのコントロール、その4つのツマミは時期によってマチマチなものが付けられています。一番最初はオリジナル通りのトップハット(フェンダー・アンプのツマミに近い、ギザギザのあるもの)でしたが、ゴールドのソーサーノブになっていたり、2ケだけトップハットで2ケだけソーサーだったり、なんていう時期もあります。

 それからこれは余談に属する話ですが、73年から74年にかけて、このレスポール・カスタムのフロント・ピックアップはポールピースが内側を向く方向にて搭載されていることがわかっています。アルバム『PLAY DON'T WORRY』のジャケ写で確認できますね。つまり、一般的な向きと逆に配置しているワケです。こうすることでフェイズ効果が生まれるわけですが、ロンソンがこれを意図的に行なったか、ただ間違っただけなのかはわかっていません(おそらく後者だと推測しますが。笑)。

 これは奇跡と言うしかありませんが、73年7月、ジギー・スターダストが引退するまで、レスポール・カスタムはトラブルもなく使用できていました。あの荒っぽい性格を考えると、もうホントに奇跡でしかないです。で、案の定ですが、74年以降このギターはトラブルに見舞われまくります(笑)。

 本人がインタビューで語っているように、74年の自分のソロ・ツアーの際に、ネックが逝ってしまいます。その程度はうかがい知ることもできないのですが、ネックにヒビが入った後、本人はそれでもこのギターを使い続けましたが(!)、日々不具合は大きくなり、遂にはガムテープでネックをグルグル巻きにするという信じられない事態(笑)になります。この頃からロンソンはこのレスポール・カスタムを使わなくなります。

 70年代の末頃、このギターは修理に出されます(やっとかよ。笑)。この時の修理は文字通りの大修理で、まずネックはすべて新しいものへと差し替えられました。この新しいネックは一応レスポール・カスタムの仕様そのまま(つまり1Pマホ、エボニー指板、ブロック・インレイ)ではありますが、ヘッドのロゴはGIBSONの筆記体ロゴ(戦前のGIBSON社が使っていたロゴ)になりました。本来黒であるハズのヘッドストックも、木目のナチュラルになりました。この「新しいネック」「新しいヘッドストック」は共にGIBSON製品のシェイプをしていない(ロッドカバーも3点止めのヘンな形のもの)ので、この修理がGIBSONの工場で行なわれたのではないこともわかります。
 ヘッドやネックだけではなく、このリペアの際にギターの塗装はすべて剥がされ、全体をナチュラルにてリフィニッシュされています。1980年のイアン・ハンター&ミック・ロンソン・バンドによるライヴ映像『ROCKPALAST』がDVD化されていますが、このライヴで登場するこのレスポール・カスタムにてこの「修理後」の仕様を確認することが出来ます。実はこの頃、既にミック・ロンソンの興味はこのレスポール・カスタムからは離れていたようで、同ギターはイアン・ハンターが使ったりする場面もあります。

 そして(本人の音楽活動の頻度も関係したとは思いますが)このギターは1982年に現役引退します。某所に記載された一説で「またネックが折れたから」という文献を見つけることができます。実は正確な撮影日が不明ながらも、その事を裏付けるこんな写真があります。ヘッドがポッキリと逝ったあのレスポールを抱えるイアン・ハンターの素敵なお写真です(笑)。ギターの状態からもわかるように、これは前述の「リペア&リフ」後のレスポールが映っていて、そのせっかくの大修理の後にも更にネックが折れてしまったことを示しています。つまり、あのギターは過去に2度以上ネックを折ってしまったという歴史を持つことになります。

 さてさて、ミック・ロンソンが実際に使ったギターはその後どうなったのか、というのが今回の主題です。つまり上記した長ったらしいウンチクはすべて前文となるわけです(笑)。スイマセンね。

 1988年、ミック・ロンソンはそのレスポール・カスタムをオーストラリアのシドニーにあるハードロック・カフェに自ら寄贈しています。主だった理由はもちろん知る由もありませんが(どうせ理由などないに決まってます。ロンソンはそういう人なので——これはあのイアン・ハンターも同様の発言を残しています)、寄贈された時にはもうこのレスポール・カスタムがズタボロの状態であったことが、当時のハードロック・カフェのスタッフの証言で残されています。

 そしてその12年後、2000年にアメリカのGUITAR HANGARというお店のリック・テデスコ氏がこのギターを入手します。リック・テデスコ氏に関しては次回以降に詳しく記載しますが、オーストラリアからアメリカにやってきた時点=2000年の時点で分かっているこのギターの状態を記載しておきます。

 木部とピックアップに関しては、82年当時の姿(つまり修理後の姿)をそのまま残しています(ハードロック・カフェに寄贈された際に、ロンソン自身がこのギターのトップにサインを入れていますが)。ただしポットやキャパシター(ブラックビューティーX2)は交換されてしまったようです。エスカッション、ブリッジ、テイルピース、コントロールノブ4ケも全て新しいヒスコレ用のパーツに交換されています。
 で、このギターがその後どうなったか。次回に続きます。
 

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