ゲイリー・ハースト・インタビューの続き。今回は「MK1の製作過程の巻」です。左の写真は、多忙な中ロンドンを訪れたゲイリーさんの図、ですね。
G:「JAMES BOND 007 THEME/ジェイムス・ボンドのテーマ」※1 って曲、知ってるだろ? あれのギターを弾いてることで有名なヴィック・フリック(VIC FLICK)っていうロンドンのセッションマンがいてね。
——ジョン・バリー・セヴン※2 のギタリストですよね。
G:そう。彼が私の工房にマエストロ FUZZ TONE※3 を持って歩いてやってきた。そしてこう言うんだ。「これ、どうにかなんないかな。中をいじって、もうちょっとマシな音にならないかな」と。早速パーツを全部バラバラにしてチェックしてみたんだけど、別に故障してるわけでもなく、最初に設計された通りの音しか鳴らなかった(笑)。それでモディファイすることにしたんだけど、その時に私は彼に言ったんだよ。「なんなら作ろうか? もっと使えるものを」って。それで新しいペダルを作ることになった。これがTONE BENDERの一番最初のプロトタイプだよ。木製ケースに入ったものだ。
——なぜ、木製ケースだったのでしょう?
G:簡単だ。沢山作るつもりもなかったし、ロンドンで鉄製のケースを用意するのは簡単じゃなかったからね。60年代の話だからね。木製ケースの試作品は1日で合計10ケ作ったのを憶えてるよ。
——TONE BENDERっていう名をつけたのはどなたでしたか? 名前の由来は?
G:私が付けた。回路の持っている意味、それをそのまま名前にしただけだ。BENDS THE TONE、つまり、歪ませることによってギターの電気信号の波形を変える、って意味だね。
——電気的に、最初のTONE BENDERにおいて最も重要なことは何だったんでしょうか?
G:とにかくその当時、最も新しい、変わったギター・サウンドが出せる、ということだね。
——現在MK1と呼ばれている金色のTONE BENDERといえば、ピート・タウンゼンド(ザ・フー)、ミック・ロンソン、それからビートルズも使用した、ということですが、彼らとのエピソードは何かありますか?
G:奇妙な事に、ピートやビートルズのメンバーとは何度も会ったし沢山仕事をしたんだけど、ミック・ロンソンとは会った事もないんだ。他にも私はジェフ・ベック、ツェッペリン時代のジミー・ペイジ、スティーヴ・ウィンウッド、スペンサー・デイヴィス等、他にも多くのミュージシャンと仕事したんだけどね。※4
——MK1は欧州製のトランジスタ(OC75)と、アメリカ製のトランジスタ(2G381)という組み合わせなのですが、その組み合わせにはなにか特別な意味があったのでしょうか?
G:マエストロFUZZ TONEが、そういう組み合わせだったんだ※5 。歪みの傾向、という意味ではマエストロFUZZ TONEのテイストを踏襲したかったんだ。さっきも言ったようにTONE BENDERを作った時には回路は全部デザインし直したけどね。当時は今のように、あらゆる組み合わせを試せるほどの種類のトランジスタなんて、部品としては出回っていなかったしね。
——当時、イギリスで発売された最も初期のファズで、WEM社のRUSH PEP FUZZというのがありますが、ご存知でしたか? ジョン・レノンが使ったりして(写真右)有名なのですが。回路はこれもマエストロ FUZZ TONEとそっくりの回路だったとのことです。
G:いや、全然知らないな。
——それから、ロンドンではなくリーズにあるJHS社がTONE BENDER MK1とそっくりのファズ、ZONK MACHINEを同じく1965年に発売しましたが、あれもあなたが関わったファズなのでしょうか?
G:いや、たしかに回路はまったく同じだが、関係ない。(この項続く)
■ ※1 映画音楽の巨匠として、007シリーズ他多くの名作を残しているジョン・バリーの一世一代のヒット曲(62年/初出は映画『Dr. NO』/YOUTUBE版はこちら)。余計な事ですが、ジョン・バリーはジェーン・バーキンの最初の旦那さんでもあります。
※2 上記ジョン・バリー率いるバンド。彼の映画音楽はフルオーケストラとロックのバンド編成のサウンドをミックスしたものが多く、TV出演の際等にはバンド編成で出演することも多かったようです。左のジャケ写はジョン・バリー・セヴン名義のベスト盤。
※3 世界最初のファズ・ペダルとして有名なマエストロFUZZ TONE(写真右)は、単3電池1本、つまり1.5Vで作動する回路(後に単3電池2本=3V動作、に変更になります)だったことも影響してか、強烈なその歪みとは反して殆どサスティンが得られない機材としても知られます。ストーンズ「SATISFACTION」のイントロのブチブチ感をイメージしていただければ分かりやすいかもしれません。
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