8.02.2010

Manner of Mick Ronson (part.2)

 
 ミック・ロンソン・サウンドのお話の続きです。興味ない、という方は勿論スッ飛ばしてくださって構いません(笑)。

 これまでもご紹介した通り、オリジナルのTONE BENDER MK1のファズ・サウンドはかなり強烈・強力なモノだと思っているのですが、そのサウンドを完全に自分のモノにし、独自のサウンド・メイキングをしたギタリストがミック・ロンソンでしょう。余談ですが、イギリス・ヨークシャーに居を構えるD.A.Mのデヴィッド・メイン氏も(当方よりもかなり若いお年なのに)、ことあるごとにTONE BENDERとミック・ロンソンを話題に出していますね。彼のその記事を読むたびに、当方的には嬉しくてしょうがありません(笑)。

 さて、ロンソンといえば68年製LPカスタム、アンプはマーシャルMAJOR、そしてワウとTONE BENDER MK1、なわけですが、一番上に掲載した写真は1969年の写真で、まだレスポールの塗装も剥ぐ前です。この頃は文字通りギターとワウ(VOXのプロトタイプ・ワウ)、そしてTONE BENDER MK1のみをマーシャルにブッ込んでいることが画像からも確認できます(注目なのは、ワウがファズの前に接続されている、ということでしょうね)。
 最近もMANLAY SOUNDのカスタマー様からワウとファズの接続順に関してお問い合わせをいただきましたが、本稿ではその詳細に関しては割愛します(近いうちに、そのことにも実験を踏まえて触れたいとは思いますが)。

 今、ロンソンと同じ機材を全て揃えるのはかなり難しい、という状況なのは事実ではありますが、筆者が実機を体験したり、情報を集めた限りでわかっていることは、まとめると以下のようになります。
・マーシャルMAJORは、マーシャル・アンプの中でも最も歪まない(ヘッドルームにかなり余裕があります)部類のアンプです。もしシミュレートするならフェンダー系のクリーン、もしくはマーシャルのJTM45のようなアンプでのクリーン・セッティングを使用するといいと思われます。
・MK1回路のファズは、(MK1.5やMK2と違って)ワウの直後につないでもそれなりにワウ効果があります(ただしATTACKのツマミは控えめに設定する必要がありそうですが)。

 基本的なロンソン・サウンドはこれだけです。あとはもうギターのスキルとセンスと、という話にはなりますが、それでも(筆者を含め)多くのロンソン/ボウイ・マニアが悩み続ける問題は山のようにあります。そのひとつには、ミック・ロンソンのサウンドは、1973年を境に大きく変わったように聴こえるというものがあります。
 これは確かにその通りで、機材自体にはそれまで(72年まで)とほとんど違いがないのですが、実はミック・ロンソン・サウンドは、1973年に大きなセッティング上の変化が3つありました。

 ひとつは前にも記載しましたが、マエストロECHOPLEX EP3をアンプの直前に接続するようになったことです。ECHOPLEXのブースト回路を通っていることは間違いなく、その差は(直後のマーシャルをプッシュする、という意図においても)歴然とします。
 ふたつめは、ワウとファズのセッティング順を逆にしたこと、が挙げられます。この「ワウ〜ファズ」から「ファズ〜ワウ」の順に変えると、経験者なら誰でもお判りだと思いますが、ギターの音は激変します。
 世界中のロンソン・マニアが当方に「ファズ〜ワウの順だろう」と結構断定的に教えてくれますし、この「ファズ〜ワウ」セッティングに変えたことが確認できる写真が存在(左の写真がその1例です)していることも事実でして、1973年のどこかの段階で「ファズ〜ワウ」だったのは疑う余地のない事実ではあります(実は、それでも当方は、例えば『ZIGGY STARDUST LIVE』の音なんかを聴いてて「んー、これはやっぱりワウ〜ファズの順での接続なんじゃないかしらん?」と思ったりもしています。未だ確証は得られていませんが)。
 さて、話を戻して最後の3つめの変化。それは、TONE BENDER MK1のフル・レストア、です。これはあまり知られていなかった事でしたが、最近ネットでの研究も進んできて、明らかになった事実です。

 実はそのロンソン本人が使用した(かつてはTHE WHOのピート・タウンゼンド所有機でもあった)MK1は、1973年の夏前にどこかで一度大破し、レストアされていることがわかっています。これは当時デヴィッド・ボウイのツアー・エンジニアだったロビン・メイヒューさんという方が証言していることで、D.A.Mのデヴィッド・メインと共にTONE BENDER研究を続けるオーストラリアのジョン・ジャスティンさんという方が調べたことです。
 いわく「73年のツアーの途中で、MK1を(どこかから)落っことしてしまい、バラバラに大破させてしまった。ロンソンも僕(メイヒュー氏)も『だったら同じファズを新しく作ってしまおう』と考えて、何度もMK1クローン・ファズを作ってみたけど、オリジナルのMK1と同じサウンドには決してならなかった。だからやはり元のMK1をレストアして、新しい筐体に移し替えて、以降はそれを使用した」というものです。

 真っ正直に考えれば、この時回路はオリジナルのままだ、と思うのがフツーだとは思うのですが、誰も断言は出来ません。だって何個もクローンを作った後で、しかも結局筐体は新しいものにしてしまったのですから、もしかしたらどこかのパーツは変わってしまった、ということもあり得る話ではあります。

 ボウイとロンソンの最後のコンサートとなった73年7月4日の『ZIGGY STARDUST LIVE』の映像でもこの「中身だけMK1」というファズを確認できます(上2つと右の写真はいずれもその日のもの)。その2ヶ月前、73年4月終わりに日本に来た際には、まだ金色の筐体に入ったMK1を使っている写真があるので、この「大破/レストア」はその後の2ヶ月の間のどこかで起こった、ということになりますね。

 ネットが普及する近年まで長らくロンソンの使用していたファズは確証がありませんでした。『ZIGGY STARDUST LIVE』で確認できるファズは、写真のようになんだか見た事もない形をした正体不明のファズだったからです。また、以前も書いたように、ロンソン本人がこれを「アメリカン・トーンベンダー」とか(笑)呼んだりしてたこともあって、確証という意味で確固たるものはありませんでした。

 今ではその中身もMK1だということまで、判っています。しかししかし、それでもロンソン・サウンドには謎が多く残されたままなんです。長くなってしまったので次回にその話題は続けることにしますが、その「謎」の研究から出来たシリコン・ベースのオリジナル・ファズが、MANLAY SOUNDから既に発売されている「THE ALADDIN」というファズです。(この項続く)
 

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