8.10.2010

Manlay Sound - The Aladdin

 
 実はMANLAY SOUND製作によるこのカスタムメイドのファズ THE ALADDIN が出来上がったのはもう半年以上前の話なのですが、完成以来、海外で少しだけ認知されてしまったので、製作経緯を含めこのファズをご紹介したいと思います。

 前回「ミック・ロンソンの音は謎だらけ」という話を書きました。勿論日々その詳細は研究されてきてはおりますが、まだまだ判ってないことは多いです。
 ほぼ毎日のように当方とROMAN GIL氏の間でメールでそんなボウイ/ロンソン絡みの情報交換に余念のなかった時、ちょっと試してみようか、というアイデアがひとつありました。既にその頃にはMK1回路のファズ、65 BENDER(=RONNO BENDER)も完成しており、MK1研究をさんざんし終えた後の話ですが、簡単にまとめると以下のようなポイントを再現できるファズ・ペダルを新たに作ってみよう、ということになりました。
1. ファズの後にワウをセッティングし、ワウを低域側に踏んだセッティングという状態であっても、ロンソンのギター・サウンドのように十分な歪みと音量、サステインをキープできること。

2. ライヴ盤『ZIGGY STARDUST LIVE』収録の「CRACKED ACTOR」のエンディングのロング・トーンのように、長いサステインを持つ音質成分が思いっきり鼻ツマミな歪みサウンドになること。


 簡単にいうとこれだけです。何故この2ポイントにこだわったか、というと、MK1ファズの後ろにワウを繋いだ場合、勿論フツーに「ファズ〜ワウ」なサウンドにはなるんですが、上記(つまり73年のロンソンのライヴ・サウンド)のようにはならないんですね。

 上記 1.に関して。MK1の後ろにワウを繋ぐと、思いっ切り音量レベルが下がります。ソロ・トーン時にワウを踏むロンソンにしてはあり得ない、というサウンドになってしまうんです(実はこのポイントが、『ZIGGY STARDUST LIVE』時点でもワウのほうが先の順なんじゃないか、という当方の推測の根拠でもあったりします)。確かにワウの効きはバッチリなんですが、ちょっとあり得ないんじゃないかなあ、というくらい聴感上の音量が下がります。

 さらに上記 2.について。「CRACKED ACTOR」の終盤ではファズもワウもON状態でのロングトーン(しかもワウはかなり低域より)ですが、サステインがガンガングングングイグイと生まれています。しかも、最後の減衰部分でもハウリングを起こすほどに音量もバッチリ(まるでワウを高域側に踏んだかのように、です)。その事はライヴ音源を聴けば誰でも確認できるのですが、MK1〜ワウの順でのセッティングだと、上述のように音量もさることながら、ワウのフィルタリングによって歪み成分が十分にサウンドに反映されません。

 そこで、じゃあそういう音の出るファズを新しく作ってみようか、ということになったのが、このシリコン・ベースのファズ THE ALADDIN です。大変申し訳ないのですが、ここまで書いてきたように、その製作過程というものは、極めて当方とスペイン在住のミュージシャン ROMAN GILの趣味丸出し、極めてパーソナルなファズなんです(笑)。上記 1.と2.、それだけを追求するために作ってみたファズですから・・・

 完成後、早速ROMANがそのデモを録ってYOUTUBEにアップしたところ、世界中のロンソン・マニアから興味を持たれたらしく、いくつかは既にカスタムメイドで追加製作し、発売されています。本国スペインのMANLAY SOUNDのHPでも、見る事はできますが詳細には触れていません。それは「オーダーがあれば作る」というスタンスだからです。

 中身を見ると、シリコン2石のシンプルなファズ回路です。トランジスタはBC5502N5088を組み合わせて製作しています。上記したような「思い切り鼻つまみ」サウンド(余談ですがROMAN GILはその音を「HONKY」と呼んでいますね)を再現するため、回路はエレハモ初期の名作(といいますか、あのBIG MUFFのひな形FUZZとして名高い)AXISという2ノブ/2石の回路をベースに、新たにカスタマイズされたものを使用しています。

 ジャックのある面には、COLOR と書かれた小さなトグル・スイッチが付いています。これは簡単にいえばローを強調するかしないか、を切り替えるスイッチです。詳しくは別の機会に触れたいと思いますが、オリジナルのエレハモAXISのサーキットは、ON時に思い切りロー成分がカットされるサウンドなんですね。なので、それでは蚊の鳴くような音になるので、スイッチで切り替えられるようにしてあります。

 今現在、日本でこのペダルを所有しているのは偶然このペダルを購入されたある有名なミュージシャンの方、それと当方、の2人だけになりますが、機会を見て日本でも需要があるようであれば、いくつかカスタムメイドし販売しようかな、とも思っています。

 そして更なる余談にはなりますが、当初このペダルはROMANが作ったラベル・デザインで試作品が製作されたのですが(ビデオに映っている、丸いロゴが中央にあるもの)、「これ、ダセエよ」という当方の酷く冷たい一言で(笑)、ご覧のようなイナズマのラベルに変更しました。実はこのラベルは2色刷りなのでちょっとだけ高くつくのですが、当方のワガママでこれにしてもらっています。海外のロンソン・ファンにもけっこう評判のいいラベルで(まあ、俺ではなくてボウイ様が偉いだけなんですけど。当然スね。笑)安堵しております。

 ROMAN本人もなかなかこのファズを気に入っている、とのことで現在YOUTUBEにはデモ動画が2種類アップされています。片方はミック・ロンソン・サウンドに特化したもの、もうひとつはファズのみでセッティングをいろいろ試しているものです。前者のビデオではロンソン本人のセッティングを再現するため、ブースターがわりのODをファズ〜ワウの後ろに加えて繋いでいます。

 正確を期すために一応ここで言っておきたいのは、このファズさえあれば73年のアルバム『ALADDIN SANE』のサウンドがお手軽に手に入る、という類いのファズでは決してありません(ROMANのデモ・サウンドも、ロンソンに似てるところ、似ていないところの両方あります)。ただしそれは65 BENDERを筆頭にMK1回路のファズに関しても同様のことでして、結局はギタリスト一人一人がどういうサウンドを出したいかによって、いいファズか悪いファズかは異なる、と思われるからです。

 そんなイワク付きのファズではありますが、もし興味を持たれた方がいらっしゃるようであれば、リクエストのメールでもいただけたらと思います。
 

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