ワウ・ヒストリーのお話の続き、です。1967年、イギリスのJMI社(=VOX)がなんで英国製ワウを作らなければならなかったか、は前回に当方の推測を書きましたが、あくまでも推測でしかありません。とにかくイギリスJMIは、アメリカで開発されたその新しいエフェクター「ワウ」の回路を元に、イギリスのソーラーサウンド社に製造委託して英国産ワウの製造に着手します。
右の写真ではジョージ・ハリソンの前にワウが鎮座していますが、この写真は69年「LET IT BE」セッション時と思わしき写真です。そのワウは銀色で、筐体前面にはデカデカとVOXという文字が刻印されています。つまりこれが英国産のVOX製ワウなわけですね。以下、その細部を見ていきたいと思います。
既にその外観からして、以前紹介した「デル・キャッシャーのプロトタイプ・ワウ」とは異なります。ロゴの刻印も浮き彫りになっており、そしてラバーのデザインもシンプルに(というかなんら素っ気ない)滑り止めのラインのみ、となりました。

しかし実はデル・キャッシャー本人が所有してるアメリカ/トーマス・オルガン製のプロトタイプ・ワウは、右が入力、左が出力、という、いわゆる「現行品と同じ」オーダーになっています。

それはともかく中身を見てみます。米製プロトタイプとは違って、細長い基板が筐体内部の中央にタテに配置されていて、そしてインダクターはその基板中央にデデンと居座っていますね。実はこのインダクターが何なのか、そのブランド等は現在も不明なのですが、後にソーラーサウンド社が制作したマーシャルSUPA WAHや、カラーサウンドのワウでも採用されていたものにそっくりなパーツであることは見ただけでわかります。ただし確証はありません。推測です、スイマセン(註:一説では、イギリス製のワウに採用されたインダクターは、アメリカのトーマスオルガンから提供されたパーツ、という話もあります。ただしその説もウラは取れませんでした)。
ワウ用のインダクターに関しては、HALOとか、FILMCANとか、赤/黄/白/緑のFASELとか、ちょっと調べるだけでいろいろと種類が出てきますよね。ただし今挙げたものに関しては、実は殆どその構造/中身はかわらない、というのが一般的です。ただし「VOX製のワウは当初コストダウンのために“安物の”ドーナツ状磁性体(トロイダル)インダクターを採用したので、そのことがかえって出音に影響を及ぼし、それが結果的に人気を集めた」という面白い話もあります。後に70年代になってから、VOX製ワウでは高級なコアキシャル・インダクターを採用することになりますが、何故かそれ以降はあまり評価が芳しくない、という不可思議な結果も生んでいます。
67年のVOXグレー・ワウで採用されたインダクターの数値は(現在のワウ製品で使われるものは300K、もしくは500Kが多いと思われますが)250Kのものが採用されています。また、これは既に有名ですがトランジスタには2N3707というものが2ケ。ジャックは英国製のクリフ・ジャク。ポットは100K、というスペックです。
また、当方の所有ブツではすでに剥がれてしまっているのですが、本来この英国製VOXグレー・ワウには、筐体の裏にステッカーが張ってあり、DESIGNED AND CREATED BY JENNINGS MUSICAL INDUSTRIES LTDというクレジットがされています。




しかしイギリス製VOXワウは、あっという間にその短い歴史を終えることになります。というのも、67年秋以降イタリアで大々的にVOX WAHが大量生産されることになったからです。その辺のいきさつは、丁度VOX TONE BENDER MK2(英国製)と同じ運命、ということができるかもしれません。
いずれにしろ、60年代中頃に開発されたワウという新しいギター・ウェポンは、当時の先鋭的なミュージシャンであるクラプトン、ジミヘン、ジミー・ペイジ、ミック・ロンソン、そして勿論ビートルズをも巻き込んで、当時全盛だったブリティッシュ・ロックとともに世界中へと広まっていったわけですね。
ワウ史に関してはここで筆を置きます。「ワウの歴史」などと偉そうなことを言っておきながら、クライド・マッコイの名が一度も出てこないという、ありえない(笑)文献であることは承知しています。が、それにもちょっとだけ理由があって、それは次回で触れたいと思います。(この項続く)
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