12.30.2011

Jennings - Fuzz (1969)


 TONE BENDERの「裏歴史」というわけではありませんけれど、関連の深いファズをひとつ掲載してみたいと思います。それがこちらのJENNINGS FUZZです。まずはこの製品が世に出るまでの経緯を検証してみます。

 以前も書きましたが、元々トム・ジェニングスという人が興したJENNINGS MUSIC INDUSTRIESという会社は、言うまでもなく世界的に有名なVOXというアンプ・ブランドを持っていた会社ですが、1964年にその社名/ブランド名を世界中でバラ売りしています。イギリスではそのブランド・ライツはROYSTON GROUPという投資会社が購入しました。それ以降ももちろんイギリスでVOX製品がバンバン発売されていますので、ブランドが消滅したわけではなく、母屋が変わった、というだけの話です。

 しかし、当初ボスだったトム・ジェニングス、それから彼と共同運営していた技師のディック・デニー(VOX AC30の開発者でもあります)、そして、一時期JMI/VOXに入社し共に働いていた技師ゲイリー・ハーストは64年以降はバラバラになります。ゲイリー・ハーストがTONE BENDER(MK1)を開発したのは、彼がフリーランスだった時期の話、というのは以前に書いた通りです。

 ところが1968年、そのトム・ジェニングス氏は旧友ディック・デニーと共に新たにエフェクター会社を興します。JENNINGS ELECTRIC DEVELOPMENTSという会社です。蛇足ですが、たまたまこれと同じ時期に、イタリアのEME(英JMI/VOXとイタリアのEKO等が作った合弁会社)は組織変更があり、二代目社長のエンニオ・ウンチーニ氏は社名をJENに変更しています。JENNINGS ELECTRIC〜社は1973年には早くも会社を畳んでしまっているので極めて短命な会社だったのですが、この会社は1969年にいくつかの新製品を発売しています。そのひとつがこのJENNINGS FUZZです。

 内部写真でもわかるように、とてもシンプルな回路/構造をしたこのファズは、ディック・デニーがデザインしたものです。外見からもすぐわかる構造的な特徴として、このファズはノブが1つで、しかもそれを足でグリグリとまわす、というちょっと珍しいコントロールを持っているのですが、シリコン・トランジスタを2石使ったこのファズの回路は、ディック・デニーが62年頃に開発したVOX T60ベースアンプの入力回路を元にしています。つまり、この回路は1965年のVOX DISTORTION BOOSTERとか、1966年のSOLA SOUND TONE BENDER MK1.5とか、同じ66年のイタリア製VOX TONE BENDERにそっくりな回路、ということになります。

 某所、というか、ハッキリいえばBSMというドイツのエフェクター・ブランドのHPに書いてあるんですが、このJENNINGS FUZZは60年代末に「ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、デイヴ・エドモンズ、ポール・マッカートニー等が使用した」とあります。ほー、そうなんですか。当方が調べた限りでは、ベックやペイジがこれを使ったと思わしき形跡は全く見つからないのですが、もしかしたらどこかで実際に使ったことがあるのかもしれませんね。ジミー・ペイジはインタビューで「僕のディストーション・サウンドの75%はゲイリー・ハーストが作ったTONE BENDER」というような話を残してるんですが、ペイジの歪みに関してはまた別の機会にまとめたいと思います。

 さてさて、それだけであれば、まだ話は判りやすいんですが、また面倒臭いことにこのファズにもちょっと因縁が絡みます(笑)。まず最初の因縁は、このシンプルな回路の1ノブのファズが、90年代に復刻されたことがある、という話です。
 以前にも書きましたが、現在のMACARI'Sが生前のディック・デニーとタッグを組み、ディック・デニーが「60年代の頭に開発した」というファズ回路を、青いケースに入れてCOLORSOUNDブランドから発売したことがあります。その時の商品名はCOLORSOUND FUZZ BOXというものでした。このファズの回路が、上記したJENNINGS FUZZとほとんど同じモノであることは一見すれば疑う余地もないものですし、同じデザイナーによる開発品ですから何ら問題はありません。

 が、しかし何故か、90年代にこの製品がSOUND CITY JAPANによって製造、販売されたときに、全く違う説明がなされていました。日本語の説明書に「世界で200ケのみの生産」と書かれているこのファズの名前はGARY HURST FUZZ BOXと書かれていました。以下に、その説明書の記載を抜粋してみます。

 「トーンベンダーの生みの親、サウンド・エフェクターのルーツを作った男、それがゲイリー・ハーストです。(中略)そんな彼が1969年に、当時の有名ミュージシャンのために、ごくわずかな量だけハンドメイド生産したのが、今回限定で復刻された『ゲイリー・ハースト/ファズ・ボックス』です。ピンク・フロイド、フー、プリティー・シングス、ヤードバーズの手元に渡ったこの幻のアイテムは……(後略)」

 ハッキリ申せば、上記に書いてあるゲイリー・ハーストの説明とかFUZZ BOXの解説は、どこもかしこも誤解だらけで理解に苦しみます。このファズは現在では廃盤ですが、最近までMACARISのHPにもディック・デニーのくだりを含め、このファズの出所に関しては記載があったのですが、何故か日本発売に際しては全く関係のない文章が記載されてしまっていた、ということになります。そしてその真偽をゲイリー・ハースト本人に聞いてみた所、「全く関係していない」と本人が発言しているのは、このブログをご覧になっている方であれば既にご承知かと思います。

 今も中古とかでこの青いファズを目にする機会は時折あります。で、その商品説明に「ゲイリー・ハーストが……」と書いてあるのを目にします。まあ、しょうがないんですよね。だって説明文にそう書いちゃってあるんですから。店員さんとか購入者はそう思ってしまいますよね。別にここで当方が「真実はこれだあ!」と偉そうに言うつもりは全くありません。知ってる人は知っている、というだけでいいんじゃないかな、と思ってます。

 ちなみに上でBSMというドイツのブランドのことに触れましたが、BSMはトレブル・ブースターばかりをパカパカと発売している、というなにげに恐ろしい(笑)ラインナップを誇るエフェクター・ブランドですが、最近(2009年)このBSMが、JENNINGS FUZZ BOXのクローン・ペダルを発売しています。JENNINGS FUZZ同様ノブは1ケですが、さすがに足ではなく、手で回すようなノブになってますね(笑)。



追記 記事の真ん中あたりにある、90年代の復刻版「FUZZBOX」の写真を入れ替えました。ご覧頂けるように、なんだかちょっとだけ違うルックスのものが並んでいますが、両方とも現在のMACARI'S/COLORSOUNDによる復刻版です。左側に掲載したものが復刻初期のFUZZ BOXで、回路はトランジスタ2ケ、ノブは大きくて黒いものがドカンと設置されているのがお判りいただけると思います。実はこのモデルは現行品としてMACARI'Sのラインナップに今も残っているものですが、右の写真はその現行品です。実は(その変更時期は正確に判らないのですが)今販売されているFUZZ BOXは回路がシリコン3石のものに変更になり、基板もご覧のようにデカいものに変更されています。これはPOWER BOOSTの回路をプチ・モディファイしたものであり、既にオリジナルの面影がない回路、となっていますね。よく見ると、筐体のペイント・デザインもちょっと変更になり、ノブも銀色でシャープなものに変更されていることも判ります。


2 comments:

  1. はじめまして。いつも楽しく拝見させていただいています。

    本当にどの記事も参考になります!

    先日、復刻版の“Fuzz Box”を購入したのですが、確かに説明には“ゲイリー・ハースト”と書かれていました(笑)

    このブログを読んでいたので分かっていて購入したのですが、とても不思議だなと思いました。

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  2. コメント有難うございます。
    実はCOLORSOUNDのFUZZ BOXにもいくつか種類があって
    「ノブが銀色のもの」「ノブが小さいもの」「基板が別なもの」等が
    あるんですよね。恐らく基本の回路は同じだとは思うのですが。
    今後ともご愛顧いただければ幸いです。よろしくお願いします。

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