
イギリスのBARNES AND MULLINSという会社は実は楽器の輸入代理店会社です。1894年創業、というやたら歴史のある代理店さんなわけですが、たとえばドイツの有名楽器ブランドのヘフナー(HOFNER)をイギリスで販売していたのはこの会社だったりもします。そんなBARNES AND MULLINS社が、70年代中頃に自社ブランドのエフェクト・ペダルを発売しました。同じくイギリスのSOLA SOUND社に製造を委託し、まずファズが発売されています。それがこちらのFUZZ UNITとなります。


また面倒臭いことに(笑)、OEM製品であるこのB&M FUZZ UNITも、時期によって細かい違いがいろいろあります。基本回路はまったく変わっていませんが、ある時期は商品名が「CHAMPION FUZZ UNIT」となったり、ある時は筐体の色が黒になったり、という具合です。また写真で確認できるように、ある時期は基板が薄い茶色で、ある時期は濃い茶色だったり、キャパシタが緑のものだったりトロピカル・コンデンサだったり、という具合です。基本的なファズとしては全く同じなので、まあどうでもいいことではありますが。


回路的にはこれまでも何度か触れてきたように、シリコン・トランジスタを使用したJUMBO TONE BENDER回路と同じもので、基本的にはトランジスタはBC184Cが使用されていました。いわゆる「BIG MUFFにそっくりな回路になった時期のTONE BENDER」と言われるモノです。
さてさて、昨2011年、ジョエル・リードさんというビルダーが主催するスペインのハンドメイド・エフェクト・ブランドFAUSTONEが、このB&Mのオレンジ色のファズ・ペダルのクローンを製作・販売しました。その「FAUSTONE FUZZ UNIT」は現在日本でも販売されているため、目にする機会も多いだろう、と先ほど書いたわけです。
ただしこのFAUSTONE FUZZ UNITはオリジナルのB&M製品とは若干の違いがあります。製作にあたってはビルダーさんが所持する(黒い色で、1977年4月製造とのスタンプがある)B&M CHAMPION FUZZ UNITをクローンした、とのことで、そのモデルのトランジスタはBC184CではなくZETEというブランドのトランジスタ(型番不明)が用いられていたとのこと。だからクローン・ファズにもそのZETEXのトランジスタを使用した、ということです。
最大の違いはワイアリングでして、FAUSTONEのクローンはラグ板を使いPtoPで手配線されています。ここまでパーツの多い回路であれば、本来ならプリントにしたほうが楽だし音も安定するとは思うのですが、まあPtoPというのは作る側にとっても醍醐味のひとつではありますもんね(笑)。代理店さんの説明文では「オリジナルと同じようにタグボードにPtoPで配線」と書いていますが、おそらくここは単純な誤訳です(英語の原文にはその文言がないので)。
とはいえ現在入手できる唯一の「JUMBO TONE BENDER」クローン、ということにもなるわけですから興味深い製品ではありますよね。そして面白いことに、FAUSTONEの宣伝文句の中にはこうあります。「オリジナルのB&M FUZZ UNITは、エドウィン・コリンズのヒット曲 “A GIRL LIKE YOU” でフィーチャーされたファズ・ペダルだ」と。
さて、今日本の洋楽ファンでエドウィン・コリンズの「A GIRL LIKE YOU」を知ってる人はどれだけいるのでしょうか?(笑)。僕は勿論知ってますよ。何と言ってもネオアコ世代の人間なので(笑)。この曲はネオアコのカリスマ・バンドだったオレンジ・ジュースの美形ヴォーカリスト、エドウィン・コリンズがソロになって唯一放ったヒット・シングル曲なんですが、バンド時代から10数年も経た後の95年の曲で、時代に不似合いなシンセ・エレポップ曲なんですよね。


実は現在COLORSOUND製品の復刻を行なってるMACARI'SのHPにおいて、TONE BENDER MK3(銀色の筐体のペダル)の説明文の中に「エドウィン・コリンズが “A GIRL LIKE YOU” で使用した」という文章があります。この文章は実は「半分正解だけど半分間違ってる」んですよね。というのも、上記したようにエドウィン・コリンズが使ったのはオレンジ色のB&M製品なわけです。しかしながら、現在MACARI'Sが復刻発売している銀色のTONE BENDERは「中身がシリコンを使ったJUMBO TONE BENDER回路である」ため、間違いとも言いきれない、という複雑なことになってしまってるんですね。
そしてどうでもいいことですが最後に2つほど。ここでドラムを叩いているのはポール・クックという人。そう、セックス・ピストルズのドラムだった人ですよ、ということがまずひとつ。それから、大変残念なことではありますが、現在エドウィン・コリンズは髪の毛もちょっと寂しい事になっており、オレンジ・ジュース時代の麗しい姿は見る影もない、ということです(笑)。
No comments:
Post a Comment