6.03.2012

Selmer - Buzz Tone (1966)


 随分とブランクを開けてしまいました。ちょっとばかり本業でドタバタしておりまして、なかなかファズに耽る時間を取ることが出来ず、申し訳ありません。さて、今回はあまりTONE BENDERとは関係ありませんが、ちょっとだけ面白い(?と個人的には思っている)古いファズのご紹介です。

 これまでも書いてきたように、ローリング・ストーンズ「SATISFACTION」の大ヒットに端を発して、1965年という年はイギリスの「ファズ元年」と言えるわけで、この年にゲイリー・ハーストが制作したTONE BENDER MK1、その他にもWEMのRUSH PEP FUZZとかJHSのZONK MACHINEとかが世に出てる事は既に書きました。で、ここでもうひとつ英国製ファズを1ケご紹介しようと思います。翌66年SELMER社が発売した BUZZ-TONEというファズ・ペダルです。

 そう、セルマーです。管楽器の老舗として有名な、もしくはビートルズ・ファンにとってはHOFNERの英国代理店として、もしくはジャズ・スウィング・ファンにとってはジャンゴ・ラインハルトが使ったあのギターの……… という沢山の顔を持つ楽器ブランド、セルマーです。詳細を書くと本2冊分くらいになりそうなので、ここではテキトーに(笑)省略しますが、セルマー社はもともとフランスでアンリ・セルマー氏によってパリに興された会社です(だからジャンゴのギターはフランスのセルマー製、です)。

 そのアンリの弟アレキサンダーが渡米し、セルマーUSAを興します。ここはサックスとか木管楽器が世界的に有名になります。
 時を経て1930年代、英国ロンドンのチャリング・クロス通り114番地に、セルマーはショールームを作りました。ここは欧州の楽器やアメリカの楽器を輸入し販売していた楽器店でした。ここは通称「SELMER LONDON」と呼ばれています。ロンドンの若きミュージシャンがよく集まった場所としても有名で、あっちのほうで下手糞なギター弾いてたのが(無名時代の)ポール・コゾフで、向こうのドラム・センターでドカドカうるさいドラムの試奏してるのが(無名時代の)ジンジャー・ベイカーだった、なんていう話も残っています(詳しくはこちらを参照して下さい)。掲載したお店の写真は1930年代の同店舗のものなので、道路を走る車もやたらクラシックですが。

 実はこのSELMER LONDONのあった場所は、ゲイリー・ハーストとかディック・デニーとかラリー・マカリのいたお店、つまり例の MACARI'S MUSICAL EXCHANGE の(道路を挟んで)真向かいにありました。そして、それまでSELMER LONDONは「イギリス向けに改良した」ヘフナー製品やエピフォン製品等を輸入/販売していたのですが、60年代半ばに、自社ブランドでエフェクターを発売しています。

 1966年9月に発表したのがこのセルマーのBUZZ TONEでした。先にバラしてしまうと、このファズはマーケットからは無視同然で殆ど売れずに早々に製造中止になった、とのこと。
 このファズは(なんとオリジナルの回路図も残っています)例のマエストロFUZZ TONEの回路をさらに単純化させたようなプリミティヴな3トランジスター回路で、簡単に言ってしまえばFUZZ TONEのコピー品でした。
 しかし、これまでも何度も書いてきたように、既に65年にTONE BENDER MK1が発売、66年にはMK1.5やMK2が、そしてFUZZ FACE等も登場していたこの時期に、一番原始的な回路のファズを登場させても誰も見向きもしなかった、という話もごもっともなことかと思われます。何と言っても当時の「ファズ」とは、最先端の歪みでなければいけなかったわけですから。

 回路は初期FUZZ TONE FZ-1をコピーしたもので、単三電池2本の3Vで動作する模様です。回路のみならず、基板の組み方とか、筐体とか、直で延びてるケーブルとか、もうFZ-1そのまんま、と言いたくなりますよね。

 残念ながら当方はこのファズを試したことはありません。が、このセルマーBUZZ TONEをリアルタイムで購入し、後の数年間愛用した、という有名なミュージシャンがいます。それはピンク・フロイドシド・バレットです。
 フロイドといえばギルモアがマフで〜という話をしたほうが王道、ってモンなんですが、実は当方は個人的にシド・バレット期のフロイドのほうが大好きだったりします(笑)。そんなこともあって、このファズを是非一度弾いてみたいとも思ってるのですが。

 66年の秋、メジャー・デビュー直前のピンク・フロイドのライヴを長々と(笑)収録した英国のマニアック・サイケ・ムーヴィーで「TONITE LET'S ALL MAKE LOVE」という映画(公開は67年)があるんですが、シド・バレットがギシギシとダンエレ/もしくはテレキャスを弾きまくるシーンが映されます。残念ながら足下は確認できないので確証はありませんが、この音がBUZZ TONEかなあ、と推測されます。
 初期のピンク・フロイドは前述のSELMER LONDONから機材の提供を受けていたので(ギター・アンプ、ベース・アンプも全部SELMERブランドのものでした)、シド・バレットがこのファズを同時に導入した、ということは容易に想像がつきますよね。

 そして、シド・バレットの研究に余念がないこちらのサイト(ここスゲエっす。メチャすげえッス)で、以下のような文献を見る事もできます。いわく「シドはBUZZ TONEのセッティングをフルテンにして、ギターのボリュームを下げて使用していた」「ジミヘンやギルモアがやったのと同じように、シドはギターのボリュームで歪みをコントロールしていた」。この後延々と「多分シドのアンプのセッティングはこんなカンジ」といったようなマニアックな説明も書かれていますが(笑)、「セルマーのTREBLE'N BASSアンプはクリーンなアンプ」ともあります。TREBLE'N BASSは同社の有名なアンプで、当方も音を出した事がありますが、たしかに歪まないアンプです。やっぱりシド・バレットの歪みの音はこのBUZZ TONEをコントロールして作っていたんだなあ、と理解できるわけです。

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