8.09.2015

Saying goodbye to an old friend (Part.3)


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 その動画はもう今から1年か2年か、たしかそれくらい前に作ってYOUTUBEにアップしたものだった。しかしまったく予想もしてないある日、「YOUTUBEで動画を見ました。最高です。ロンソンって最高ですよね。ところでそのギター、どうやったら僕は入手することができますか?」という質問をある人物から受け取った。

 実は私の元には毎日のようにそんなメールが舞い込んでくる。私の返事はいつも決まっていて、「そのつもりはないし、売ろうと考えたこともない」。莫大な金額を手放すことと同じだと考えればいいだろう。莫大な・・・いや、間違いなく馬鹿げた金額といえる。何年も何年も、沢山の人物から「ギターを売ってくれ」という質問を受け続けてきた。そのオファー額は得てしてアホみたいに安い金額提示だった。ボブ・ロックは「5万ドルでどうだ?」とオファーしてきた。ボブ、無理だよ。

 だが今回、「あのギターとマーシャル・メジャー、2つでいくらですか?」と連絡してきたその彼が実際どのくらい真剣に考えているのか、私のほうでも調べてみることにした。そして、彼が本気だったということを知る。彼は本当に裕福な人物で、(モナコの)モンテカルロにあるとんでもない家に住む人物だった。彼にとって支払う金額それ自体はあまり問題ではないようだ。またそれと同時に、この彼は私にコンタクトしてきた人々の中で唯一「あ、まるでオレみたいだな」と感じることの出来る人物でもあった。私が夢中になって探し、入手したあの時。それとまったく同じ動機・理由で、彼もロンソンのギターを探し出し、コンタクトしてきた人物だった。

 交渉が始まると、話は早かった。私は彼に自分の提示額を伝えた。その金額を知っても、まるで長年の顔なじみである隣人と挨拶でもするかのように、何事もないスムースさでその提示を受け入れた。私はふと我に返り、別な金額を提示した。やはりマーシャルのアンプは今回のディールからは外そうと考えたのだ。彼は「交渉成立ですね。お金は指定の口座に振り込みます」と言った。
 その日の晩、私は荒れ狂った。

 その時私を襲った酷く激しい落胆と絶望感を、上手く説明することはできない。まるで溺愛する恋人と死別したかのような絶望。空虚で暗黒の空間。今、自分はなんてことをしでかしてしまったんだろう? こんな風に書いてしまうと、多くの人から見れば「あら、シンミリしちゃったんだね、ドラマチックに思えたんだね、思い上がりだね」なんて思われるであろうことも分かってる。しかし、何であっても・・・ もしあなたが私の変わりにこの立場になることが出来たとしても、あなたは決してその役目を引き受けることはないだろう。私が受けた絶望感・・・ とにかく読み続けてくれ。私の目からダラダラと垂れるもの、そんなものは誰も見たくないだろう(笑)。とにかく・・・おお神様・・・

 たしかに私は自分の店舗を大きくするために新規物件の契約をしたばかりだった。この取引が終われば私の状況は変わる——すべての借金は今回の金でカタを付けられる。すべての出来事は、起こるべきタイミングを見計らったかのように起こるものだ。しかし私はもうケースをあけてあのギターを見ることすら出来なくなる。私はこのギターを裏切った、そんな感慨さえよぎる。どんな言葉を使ってこのギターのことを語っても私の擁護にはならない。私は涙を流しながら、イアン・ハンターに電話し、彼に今回の取引に関して伝えた。するとイアンは笑いながらこう言った——「どうしたオイ、気でも狂ったか? 売っちゃえ売っちゃえ! そして2度とそのギターのことを考えるな。今までお前はそうやって来ただろう? これは投資なんだ。そんな投資行動がお前に沢山の金をもたらしてきたんだろう? なあアンチャン!」
 イアンは私の行動に同意してくれた、そのことに深く感謝しながらも、「もし自分がこのギターを手放さなかったのなら」、そういう思いがよぎる。ただ、今回ギターを買った彼が「正しい人物」であったことは自分も分かっている。正しい金額に同意し、正しいタイミングで購入してくれた。私が言いたいのは「タイミング」それに尽きる。それでもまだ私は絶望の縁をもがいている。

 すべての出来事には、今回の出来事のようにひとつの「窓」が用意されているものだ。そして今、ひとつの窓が静かに閉じようとしている。ミック・ロンソンのようなアーティストに関するアイテムを所有するという行為に対する情熱の扉が、今静かに閉まろうとしている。70年代に少年だった人間が成長し大人になり、子を持ち、またその子は子を持つだろう・・・ 果たしてその子孫たちはミック・ロンソンからの贈り物を(私同様に)崇めてくれるのだろうか? その子孫達はミックが使用した機材に大金を払って所持したいと考えるのだろうか?

 実は今回の購入者がコンタクトを取ってきたその数週間前に、私はスージー・ロンソンと会って話をする機会があった。実は彼女も、ミック・ロンソンが使っていたブルーのテレキャスターを手放そうかどうしようか悩んでいたとのことで、どうすべきか、一体どれくらいの価値があると思うか、と私に相談してきたのだ。彼女もまた、ひとつの「窓」が閉じようとしていることを理解していた。そんなこともあったせいで、私も自分が何を如何にすべきか、その時が来たのではないか、と思うようになった。なんといってもあのスージー・ロンソンでさえそうなのだから! それまでスージーは「もしあなたがあのレスポールを売ろうと思った時が来たのなら、真っ先に私に知らせてね」と何度も何度もお願いしていた人なのに。そのお願いをされる度に私は「ああもちろん。わかってる」と返事をしてきた。そうすべきだし自分もそのつもりだった。だが今回の購入者と同意した金額と、スージーが提示してきた金額には大きな開きがあった——ミック・ロックが5万ドルで買い取りたいと言ってる、という話を持ってきたのはスージーだった。彼女はもちろんそのギターの「在るべき場所」の正解を知っている人物だということは分かっているし、今回の取引が彼女の予測のおよぶエリアから完全に離れた場所で行なわれた取引でもあった。もし仮に彼女を介して誰かと取引しても、もしくは(ミック・ロックと)直接やり取りをしたとしても、その金額には大差なかっただろう。今でも私はこの件のことを考えるだけで凄まじい恐怖にかられるのだが、私が「ある人物にギターを売ろうと思う」とスージーに話したとき、彼女は同意すると同時に、私の置かれた状況をも理解してくれた。そのことに、安堵した。

 数日経って、私の銀行口座に代金が振り込まれた。私の銀行口座の履歴では経験したこともない大金だった。確かにとても印象的な出来事であり、これで私個人が金銭的な問題から解放されるという多少の安心感を知りながらも、正直に言って、嬉しくもなく、お祝いする気にもなれなかった。「私は一体何をしでかしたのか」。そればかりが頭をよぎった。代金が届いたその週の終わりには、発送に際しての保険をどうするかという交渉を購入者とすることになった。いままで誰もその点には触れなかった。1本のギターを発送するのに、どの会社がそんな(代金通りの巨額な)輸送保険を引き受けるというのだろうか? 結果、私は「旅行中に起きたことは、受取人が責を追う」という条項を加えることにして、保険をかけることができた。

 そして日曜の午後、私は地下のスタジオルームに降りて行き、部屋の真ん中へとそのギターのケースを運び出した。さよならを言う時がやってきた。ビデオカメラをセットし、ギターをアンプにプラグインし、私は最後の「ZIGGY STARDUST」を弾いた。曲が終わりにさしかかろうとすると、私はもう泣き出していた。ギターにお別れのキスをして、ケースにしまい、ケースを閉じた。もはやこれを開けることもない。翌月曜日にはもうそのギターはFEDEXによって引き取られていった。大西洋を越えたところにある、新しい家の元へ。このギターは良い嫁ぎ先を見つけた、と信じている。

 そう、私はある期間、この名誉あるギターを実際に所持していた。このギターに関して多くを語ることができる数少ない人物であった、という事実も私の名誉だった。ギターに関してよかれと思うことをやってきたし、そう扱ってきた。時が来て、私はこのバトンをリレーすることにした。私がこの取引を終えて得ることが出来たものは、新しいオーナーがこのギターを手に入れて本当に喜んでいるという事実。彼は新しい家に到着したそのギターの写真を私に送ってくれた。私が実家の地下の部屋でオーストラリアからの荷物をオープンしたあの記憶を、まざまざと思い出すことになった。
 この文章の最後に追記として。私からこのギターを購入したその新しい所有者は、自分が何者であるかを隠す必要はない、と言ってきた。もちろん彼もまた、熱心なミック・ロンソン・ファンでもある。彼の名はサイモン・ドラン。私の知る限り、とてもクールな人物だ。あのギターは良い伴侶を得た。

2015年4月29日 リック・テデスコ




(後記)ちなみにサイモン・ドランさんは1969年生まれ、英国出身モナコ在住の投資家/会計士で、ルマン24時間耐久レースにも参加するレーサーでもあります。ご自身がツイッターでこの件を先に公表しましたが、ネット上で「ホントかどうか」と騒がれて、それを受けてリック・テデスコ氏が上記文を公表した、という経緯になります。文中に細かな註釈を入れようかなとも思ったのですが、それをする気にもなれませんでした。「最後のZIGGY STARDUST」の動画をみて、深く入れ込んでしまったもので。音楽を通して得られる夢とか現実とか人生とか、この動画にはいろいろなものが凝縮されてますよね。

Text by Rick Tedesco (Guitar Hangar) / Translated by Tats Ohisa. ©2015 Rick Tedesco / Buzz the Fuzz

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2 comments:

  1. 素晴らしいziggy stardustでした!そしてこのエピソードをよくぞ紹介してくださって感謝致します。
    いちBowieファンとして日本にこのようなサイトが存在していて嬉しく思います!

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    1. コメントありがとうございます。おかしな翻訳箇所も多々あるかと思いますが、お目こぼし頂ければ幸いです。

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