10.07.2015

Tone Bender MK1 (1965) - early Dry Lettering era

 
 久しぶりにTONE BENDER MK1のオリジナルに関して書いてみようと思います。製品版TONE BENDERがこの世に登場したのが1965年の夏。その当時のお話です。

 以前も書きましたが、開発者ゲイリー・ハーストは、木製の試作品10ケを経て、製品版として金属のケースに入れたTONE BENDERを作ります。これはゲイリー・ハースト個人で作ったもので、それが世に出た後に「じゃあウチで売ってあげるよ」とサポートを願い出たのがSOLA SOUNDS社でした。
 さすがに何度も同じことを書くのはためらわれるので、その辺のイキサツはゲイリー・ハーストのインタビュー、もしくは「SOLA SOUNDのタイムライン」あたりのポスティングをご参照いただきたいのですが。で今回のネタは「丁度その前後で、MK1にも些細なモデルチェンジがあった」ことです。

 金属ケースに入れられて発売された最初のTONE BENDERは、ドライレター・トランスファーで文字が印字されていました。ドライレター。ええ、日本語として馴染みのない言葉ですよね。簡単にいえばインレタ(インスタント・レタリング)というやつでして、文字ひとつひとつを切り貼りしてペタペタっと貼付けるものです。ごく初期に製造・出荷されたTONE BENDER MK1はそのために「文字の位置が全然揃ってない」「文字が(今では)ほとんどはがれ落ちてしまってる」というものが多いのは、そのためです。この「インレタ仕様」のMK1には、「SOLA SOUNDS LIMITED」の文字は入っていません。

 また、インレタ時代のラベリングは書体(いわゆるフォント)にも統一性がありません。現在復刻版等で見る事の出来る、縦長で太いゴシック系書体のものが一番多いことは事実ですが、ほんの少しだけ「細い書体」のMK1も見つける事ができると思います。この「細い書体」のものは「TONE BENDER」という文字が2段に(改行されて)ラベリングされてるので、一発で違いが分かるとおもいますが、いずれもTONE BENDER MK1という製品の歴史においては「ごく初期に」作られたものであることも間違いありません。

 インレタ仕様のMK1は数ケくらいしかないと言われていますが、ネットやらなんやらで検索すると、今も数ケ現存することが確認できるので、実際には当時もう少し作られたのかも、と個人的には考えています。ここに掲載した5枚の「初期型」TONE BENDER MK1はいずれも先日eBayにて販売されたものの画像なのですが、ラベルの“食いつき”をよくするために、レタリングの下の部分だけ削ってありますよね。さすがに50年以上経過した製品なので、今となってはこんなカンジでちょっとブサイクな見た目になってしまうのですが、まあこれもまた歴史の重み、ですよね。

 その後、例の太くて縦長の書体になったMK1ですが、そこには「SOLA SOUNDS LTD.」の文字も小さく入っています。そちらは手作業のレタリングではなく、シルクスクリーン印刷になりました。つまり現在エフェクター製品でよく見る印刷方法とほぼ同じものです。上からクリアの塗装を吹くので、文字が消えにくくなっているわけですね。シルク印刷なら、小さな文字も容易く印刷できますし。

 さてさて、以下はD.A.M.のデヴィッド・メインが以前言っていたことの受け売りになりますが、まだTONE BENDER MK1の印刷方式がインレタだった時代は、その回路の数値も違っていた、という説があります。これも以前触れた事がありますが、簡単に言えばインレタ時代のものは「出力が小さい」というものです。

 実は当方はこのインレタ時代のMK1を実際に手にしたり見た事がありません。持ってる人を2人ほど知っていますが、2人とも「音が小さい」こと=回路の数値が一部異なっている、と教えてくれました。実際に回路を確認してもらって事実であることは間違いないです。しかし、その確認は2ケしかできていないので、インレタ時代が全部「音が小さい」かどうかはちょっと断言できません。

 そのひとりがPAISLEY TUBBY EFFECTSというエフェクターブランドをやっているイギリスの人なのですが、彼は自身の所持機(=出力が小さいMK1)をそのまま復刻してクローン・ペダルを発売した、というのは以前書いた通りです。

 当方が所持する65年製のオリジナルMK1はシルク・スクリーンのラベルがあるものなので、出力は普通にデカいです。「65年頃にジェフ・ベックが使ったMK1はおそらく出力の小さいもの(前期型)」「ミック・ロンソンが70年代に使ったMK1は出力が大きいもの(後期型)」というのは、その出音でしか判断できないので、説としてはかなり有力ですが、写真他の証拠がある話ではありません。でも当方も多分その説は当たってるだろうと思うのですが。

 さて、余談を2ケ程。TONE BENDER MK1の回路はもう50年も前に作られたもので、いささか、いや、確実に「時代遅れ」です(笑)。当ブログでお馴染みのMANLAY SOUND製復刻品(限定版のほう)とか、JMI〜BPCが現在も作っている復刻品は、その時代遅れの回路をそのまま現代でも踏襲しています。つまり、現代のエフェクター回路製作の常識としては危なっかしい(笑)作り方なわけで。その回路を先日某クラフトマン(アンプなんかも作る方だそうです)が見たところなんだこれはと仰天してしまった、というエピソードを聞きました。楽しいですよね(笑)。

 そして最後に、MK1を使ってる72年当時のミック・ロンソンの写真を1枚張っておきます。彼が使用したMK1がかなりズタボロなのがご確認いただけると思います(この時はまだかろうじて塗装が残っていますが)。日本公演のころ(73年春)にはもう殆ど塗装なんて残ってない、という状態になってますが、その後これをどっかから落として壊してしまい、一度全部作り直した、という話も以前書きましたよね。1973年夏以降、ロンソンがTONE BENDER MK1を使わなくなったのは、アンプを変えたことにプラスして、壊れて修理したいえども、MK1の音も構造も「もう時代遅れになったから」だろうと思われます。何と言っても上記したように、その回路の構造上、過酷なツアーとか持ち運びにはとても不向きな、危うい構造だからです。
 

1 comment:

  1. Fake Tone Bender on fake pinstripe cloth. The Harrisons did it again.

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