8.24.2010

JEN - Fuzz (1970's) Part.1

 
 久しぶりになっちゃいましたが、TONE BENDERネタに戻ります。60年代から70年代にかけてイタリアのJEN社で製造されたTONE BENDERに関して、2回ほど続けて書きたいと思います。
 以前VOX TONE BENDERの紹介の中で、「70年頃に製造されたのJEN FUZZ」という個体を掲載したのですが、最近全く同じ筐体を持つJEN FUZZを購入しました。売り主いわく「60年代末の製造だろう」とのことですが、残念ながらポットとスイッチは既に交換されており、正確な年代を特定できない状態での入手でした。とはいえ、誰がどう見たって前回写真をのせたJEN FUZZと色も形もロゴも同じことは明らかなんですが。

 何故改めて購入したかというと、こちらのJEN FUZZはシリコン・トランジスタを使用したものだったからです。以前から「筐体が真っ黒なTONE BENDERはシリコン・トランジスタだ」などというまことしやかな話は耳にしたりネットで拝見したりすることもあったのですが、コレを入手して判明したこともあるので、実機を踏まえてここでまとめてみたいと思います。

 外観はこの通り、もう何も言う事がありません(笑)。で、問題は中身です。ご覧のように、黒いシリコン・トランジスタが3ケ搭載されています。つまり、黒い筐体のJEN製のFUZZ(もしくはTONE BENDER)には、ゲルマ2石版とシリコン3石版と両方あることになります。今回入手したシリコン版のトランジスタは、うち2つは型番が印刷されていないので判読不可能なのですが、ひとつにはBC170Bと書かれていました。

 正体探りの前に、先にこのシリコン版ファズの音に関して触れます。トランジスタ3ケ使いということもあって、最初はMK2〜MK3的なサウンドなのかなー、とか想像しましたが、違いました。激トレブリーで激歪みまくり、のファズでした。ギターのボリューム・ポット等にはあまり反応もしてくれません(笑)。ただしマフ系とかオクターブ・ファズのような歪み具合ではなくて、TONE BENDER的な歪みを極限までトレブリーに激しくした、という印象がありました。ガリガリでパリパリなTONE BENDER、というカンジでしょうか。

 以前もご紹介したように、イタリアのEME社(後のJEN社)でVOX TONE BENDERが製造されるようになった時に、回路は1966年初春に開発されたゲルマ2石のMK1.5回路(つまりアービター社のFUZZ FACEにそっくりな回路)を採用していました。その後、外観は少ーしずつ変遷を重ねますが、それでも70年代初頭まではJEN社製造のTONE BENDERは、PNPゲルマニウム・トランジスタを2石用いたファズであったことは間違いありません。

 それらと同じ筐体、同じモデル名なのに、ある時期を境にしてシリコン・バージョンも存在するのはなんでだろう? と考えるのが自然な流れだと思われます。もしかしたら(誰かユーザーの手によって)回路基板ごとまるまる新しいモンに交換されちゃったモノなのかなあ?とか思ったりもしたんですが、その後ネットで検索しまくったおかげで、おぼろげながらその背景が見えてきたようです。それは、イタリアのJENが独自にシリコン3石のファズを開発した、という背景です。

 ご承知のように、イタリアのJEN社は当初主に英国の楽器ブランドのOEM製品を作るための「工場」としての機能を持った会社でしたが、後に自らがオリジナル・ブランドとしての商品開発にも着手しています。当初はVOXブランド(イギリスではJMI社が、アメリカではトーマスオルガン社が流通させたブランドですね)のための商品を作る工場でしたが、後にVOXとは関係ない会社の製品も担うようになっています。

 同社製造品中最大のヒット作といえるVOX TONE BENDERは、後にJENのオリジナル・ブランドを冠してJEN TONE BENDER/JEN FUZZとして発売されています。ゲルマニウム回路時代のものは、すべて前述したようにMK1.5回路を元にしたサーキットだと思われます。「TONE BENDER」という名前の使用に圧力がかかったのかどうなのか、その辺はちょっと定かではありませんが、ある時期からJENは「TONE BENDER」の名ではなく、独自の製品名を付けています。中身も外身も全く同じなんですけど(笑)。ちなみに「JEN FUZZ」の名が付いた黒い筐体のものには、JENのロゴデザイン違いのもの(写真左下)もあります。

 さらに後に、JENはこの製品にユニコード社のブランドを冠した同様のFUZZも製作しています。ユニコード社は60年代初期にアメリカのNYにできた楽器ブランドで、もちろんジミヘンが愛用したあのUNI-VIBEを発売した会社として有名かと思われます(このユニコード社の楽器ブランド名が「UNIVOX」という名前です)。そのUNI-VIBEや、SUPER-FUZZといった製品は日本の工場(シンエイ)で生産されていた、ということも有名な話ですね。それと時期がかぶるかどうかは不確かなのですが、写真にもあるように、JEN FUZZとほぼ同じ外観をもったファズ「UNICORD FUZZ」がイタリアのJEN社にて製造されています。

 正直、これらの黒い筐体に入ったJEN製TONE BENDER、もしくはFUZZに冠して、ゲルマ・ファズなのかシリコン・ファズなのかは中身を開けるまで判別できない、と思われます。ある時期を境に、とは前述しましたが、それが何年で、とか、外観の差があるとか、そういった明白な境界線は確認できないからです。
 さて、では何故JENはシリコン3石バージョンを作ったか。その話は次回に譲ります。(この項続く)
 

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