11.28.2010

Paisley Tubby Effects - Paisley MK1

 
 TONE BENDER、更にその中でも一番最初の「MK1」の世界は、ホントに深くて険しいですね。それを今更ながらに痛感させられたのですが、その契機となったMK1クローンをご紹介したいと思います。
 今、当方は色んなMK1クローン・ペダルをポチポチと買い漁ってるのですが、そんな中で出会ったのがこのイギリス産のファズで、見た目そのまんまのPAISLEY TUBBY EFFECTSというブランドから発売されている「PAISLEY MK1」です。

 PAISLEY TUBBY EFFECTSはレオン ・クックさんというイギリスのエフェクト・マニアの方が始めたブランドで、オフィシャルHPはこちらです。現在TONE BENDERクローンはMK1の1種のみですが、他にもRANGEMASTERクローンを初め、数種類のエフェクターを発表しています。

 ではまずそのMK1クローンですが、外見はご覧の通り、コンパクトな筐体で色はゴールド(ハンマートーン塗装ではなく通常のゴールドなので、見た目はただの黄土色に見えます)。プリントは全てのPAISLEY TUBBY EFFECTS製品共通(一番下の写真参照)となるペイズリー柄のデカール・プリントのみで、何ら文字は書いてありません。

 当方が入手したのはシリアルNo.6なので、まだそれほど沢山作ったのではない、ということが判りますね。ですが、中身をご覧いただければ、まるでD.A.M.製品よろしく、すごく丁寧に製作されていることが判ります。

 回路ですが、トランジスタにはOC76を3ケ使用しています。2番目と3番目にくるトランジスタのバイアスを調整するために、内部にトリム・ポットが2カ所に付いていることがご確認いただけると思います。

 で、その肝心の音に関してです。いろんなセッティングでトライしたんですが、かなり難儀しました。まず出力レベルが低く(他のMK1モノの半分くらいしかありません)、さらに歪みはハイミッド寄り、サスティンは十二分にあるのですが、歪み量はほとんど変化できませんでした。また(これは他のTONE BENDERクローンにもままあることですが)インプット・インピーダンスの関係で、ファズの前にワウを繋ぐことができませんでした。

 他のMK1クローンに比べて、エフェクトから出る出力が低い(LEVELツマミを最大にした時に、バイパス時の音量と同じくらいです)ので、アンプ側の音量を上げてやる必要があること、ワウとのマッチングはかなり難しいので、ちょっと諦める必要がありそうなこと、等が真っ先に思い浮かびました。

 早速このPAISLEY MK1の意図、といいますか、その中身の正体を確認すべく、検索しまくり、メール送りまくりで調べてみました。そしてビルダーのレオン・クック氏本人から明快な回答を得ましたので、それをまとめてみたいと思います。

 まず、彼は「自分が持っていたオリジナルのMK1の回路をそのまま復刻した」とのこと。何?本物を持ってる?「うん、2ヶ月前に売ってしまったけど」。あらー(笑)。実はクック氏はファズ・コレクターとしてとても有名な方で、D.A.M.のデイヴィッド・メイン氏等とも交流をお持ちとのこと。今回初めてわかったんですが、D.A.M.のHPに掲載されているいくつかのビンテージ・ファズの写真も、このレオン・クック氏の所有品なんですね。今までネットや雑誌で見た事のあるレアなTONE BENDER等のペダルが、実は彼の所持品だったんだ、ということも今回初めて知りました。

 そして、その謎の回路に関して。これはD.A.M.のHPでデイヴィッド・メイン氏が指摘している箇所がありますので、以下そのポイントを要約して抽出してみます。
 金色の筐体で、ドライ・レター・ラベリングが施された極初期のオリジナルのMK1モデルは、サウンドが(その回路の大元となった)マエストロFUZZ TONEにより近く、丁度ジェフ・ベックが「HEART FULL OF SOUL」で奏でたサウンドを連想させるものだ。その後、ラベルがシルクスクリーン印刷になったMK1は、よりタイトなサウンドを生む回路にリファインされていて、こちらのサウンドはミック・ロンソンのサウンドを彷彿させるものだ——アウトプットのレベルは以前の倍以上もあり、正確なセッティングで出力された時は、驚く程のサステイン量をもたらす。

 つまり、PAISLEY MK1は、ビルダーが所持していたオリジナルMK1をそのままコピーしたペダルで、その彼が持っていたオリジナルMK1は極初期の「出力レベルの低い」モデルだった、ということです。そして、推測の域を出ませんが、おそらくジェフ・ベックが所持したMK1はその極初期の(レベルの低い)MK1で、ミック・ロンソンが所持したMK1は、後期の「音のバカでかい」仕様だろう、ということになりますね。
 実は、その「極初期仕様」は現在確認されているモノがレオン・クック氏が持っていたその1ケしか確認されていないので、1965年当時、どのくらいの量がそれだったのかは不明なママです。

 そして、これはすべてのMK1の特徴でもありますが、元々ギンギンに歪みまくるMK1回路では、ギターのVOLを低めに設定する事に加え、ファズのATTACKノブを低めに設定してやることで、いわゆる「埋もれない」ギリギリの歪みポイントを探し出すと同時に、ギターのトレブル成分を調節する、という(使用するギターに合わせた)セッティングが必要になります。MK1.5回路(=FUZZ FACE回路)のように「ギターのVOLを絞れば簡単にキラキラなクランチになる」というハッキリとした違いではないですが、微妙なコントロールだとはいえ、MK1でもそういった細かいセッティングを探し出す必要があります。
 ですが、この「極初期のMK1回路」を踏襲したPAISLEY MK1では、そのセッティングを探すのがもの凄く難しいです。もともとドM体質なファズ・マニア向けのMK1だとは思うのですが、さらにドMな方向け、と言えるかもしれませんね(笑)。

 話をPAISLEY TUBBY EFFECTSに戻しますが、他にもユニバイブ・クローン(とはいえ、かなりモディファイされてるようですが)のVIBRA FUZZ、ロータリー・シミュレーターのTUBBY SWIRLといった揺れモノ系もリリースしていて、そのラベル・デザイン同様にやはりサイケデリックなテイストのサウンドにこだわったブランド、といえるのではないでしょうか。
 

11.20.2010

Manlay Sound - Baby Face (BC183L prototype ver.)

 
 気がつけば、もう創刊から2年以上経ってることに驚かされますが(2年とはいえ、まだVOL.10ですけど)、今月末にはTHE EFFECTOR BOOKの最新号が発売になります。恒例の先出し、というカンジになりますが、いち早くその内容をご紹介したいと思います。

 今号はモジュレーション系の第2回、ということでコーラス大特集号です。日本が世界に誇るROLAND CHORUS ENSAMBLEを大研究。また、単なる機材誌の枠を越えて、「コーラス名盤100」と題してコーラス・エフェクトが印象的/面白いアルバムをドドンと100枚紹介しています。時代的に、やはり80年代モノはAOR〜フュージョンからニューウェイブ、HRにいたるまで、コーラスってのはハズセないですねえ。アンディー・サマーズ(THE POLICE)もジョニー・マー(THE SMITHS)も、コーラスなしには語れない、てカンジのギタリストだと思いますし・・・
 それから裏目玉として、長年謎のベールにつつまれた、廉価エフェクトの大定番、ARION(当方も高校生の時、かなりお世話になった記憶があります)の社長インタビューまで掲載。なにげに今もプロでも愛用者の多いアリオン製品を研究しています。
 その他、PERSONZのギタリストであり、近年は氷室京介のバック・ギタリストとしても知られる本田毅氏のインタビューも掲載。11月末にシンコーミュージックより発売になりますので、お楽しみに。



 さて、今回はいったんTONE BENDERネタから離れて、FUZZ FACE関連のネタをひとつ書きます。

 1966年の終わり頃に、DALLAS ARBITER社が(TONE BENDER MK1.5の回路をそっくり用いて)FUZZ FACEという有名なファズが出来上がったことはこれまでも度々書いてきた通りですが、そのFUZZ FACEに使用されたトランジスタは、いくつものバリエーションがあります。
 一番最初に使用されたのがNKT275だ、というのも有名ではありますが、これまで「〜年頃から〜年頃までは○○が使われた」と断定的に書かれた文献がないのは、文字通り最初の数年はいろんなパーツが混在して使われた形跡があるからです。
 登場から1年強経たあたりから、トランジスタにはシリコン・トランジスタが使われたこともよく知られていますが、1968年あたりにはBC183Lが、翌年頃にはBC209BC108BC109あたりが使用されたということが判っています。
 写真に掲載したものは1970年製、とされている青い筐体のDALLAS ARBITER FUZZ FACEで、トランジスタにはシリコンのBC183Lが使われたものです。ロゴが(シルク印刷ではなく)デカールで張られたものは70年代初期製、とのことなのですが、正確な製造年を推し量るのが難しいことは致し方ありません。第一この頃のFUZZ FACEは、モノによって抵抗値なんかも違ったりする事が日常茶飯事のようなので、おおまかな時代性、と言ってしまえばそれまでかもしれません。

 で、話が一気に現代に帰りますが、スペインのMANLAY SOUNDにて、FUZZ FACEクローンを作ろう、という話になったときに、そのシリコン版に使用してみたらいいんじゃね?と考えたトランジスタはBC183Lでした。それは「一番最初のシリコン版FUZZ FACEはBC183Lだったらしいから」という、ちょいとヒストリックな意味合いを込めて考えたものでした。
 結局、現在商品化されたBABY FACEはBC337というトランジスタを使用してるワケですが、これは今までも御説明させていただいた通り、実際の音といいますか、十分なゲインとサスティン、それから入力レベルに反応するクランクの具合、そして歪みのトーン等を総合して選んだものです。

 そのBC337に決定する以前に、BC183Lで実際にプロトタイプを製作しました。これは今ウチにある現物で、同じトランジスタを使用したモノはこれしかないのですが、そのプロト版=BC183Lを使用したBABY FACEは、最終製品版(BC337)と比べて、やや(本当に若干、ではありますが)歪みは控えめでマイルド、という印象です。もともとFUZZ FACEはゲルマ版/シリコン版ともに、そんなにギンギンに歪むファズ・ペダルではないですが、それでもややマイルドな印象を持ちました。

 ただ、以前もチラっと書きましたが個人的には「これはこれでいいなあ、アリだなあ」と当方が思ったことも事実でして、語弊を承知の上で書けば、体で感じるテイスト、という意味では、ゲルマ版(BABY FACE青)とシリコン版(BABY FACE赤/BC337)の丁度中間的なサウンド、と感じました。

 ワザと悪く表現するとBC183Lは「中途半端」とも言えるわけで(笑)、MANLAY SOUNDとしてはシリコン版としてはよりシリコンらしいスムース&ストロング、な印象を持ったBC337を最終的に採用した、というワケです。よりマイルドでオーガニックなカンジをお求めの場合は、ゲルマ版BABY FACE青の方をお試しいただければ、と思った次第ではあります。

 TONE BENDER系とは違ったブっといミッドロー、またギターのボリュームを絞った際のクランクの鈴なり、というポイントがFUZZ FACEクローンであるBABY FACEの特徴、と言えると思いますが、是非お楽しみいただければ、と思います。
 

11.14.2010

Smitty Pedals / Smitty Bender MK1 Replica


 最近、TONE BENDER MK1の研究に没頭してしまっております。というのも、近々MANLAY SOUNDにて限定で製作する予定の「65 BENDER」スペシャル・バージョンのサーキットのためなのですが、そんな日々の最中、比較対象用、てことでいくつか個人製作モノのTONE BENDER MK1を入手しました。これまでもMANLAY SOUND「65 BENDER」を筆頭に、JMIのリイシュー等いろんなMK1を掲載してきましたが、それらとの比較も含めて、最新のMK1ブティック・ペダルをご紹介したいと思います。

 今回掲載したのはアメリカの個人製作家マーク・スミス氏の製作によるMK1クローンです。彼はSMITTY PEDALSというブランド名で商品を発売(しかもかなり廉価で、おサイフに優しいです)しているので、その名前をご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、このMK1クローンは2つしか作ってないとのこと(シリアルNo.2ですね)。

 で、なぜこれを入手したかというと、トランジスタには1965年のオリジナルTONE BENDER MK1と同じ、OC75/2G381という組み合わせでの3ケのゲルマ・トランジスタが使用されていたからです。JMIのリイシュー品(ミック・ロンソン仕様や、木製ケースのプロト・モデル含む)や、当方がカスタム・オーダーで作ってもらったABRAXAS SOUNDのMK1クローンくらいしか、このオリジナル通りの「OC75/2G381という組み合わせ」を体験することがなかったので、ドレドレ、SMITTYさんのはどんな具合かな?という興味がありました。

 中身を見てみると、スッキリとユニバーサル基盤にまとめられた回路が美しくみえますね(笑)。というか、オリジナルMK1のあの配線方法が、あまりにも非合理的だから、そう見えてしまうんですが。

 本人によるサンプル・ビデオがYOUTUBEにアップされているので(ただしこのデモ・ビデオはおそらく小さなスピーカーのアンプを通したために、あまり純粋なサウンド・サンプルとは思えません。アンプの特性が凄く強くて、ファズの特性が見えにくい、という意味です。そういった点も差し引いて考えてもらえればと思います)、そちらもあわせて確認の上、以下当方の個人的な感想を参照願いたく思います。まず歪み成分が思い切りトレブル寄りで、シャーシャーと歪む、といった印象があります。当方が経験したことのあるMK1系の中では、一番ドンシャリと言えるかもしれません。

 それから、サスティンのディケイ成分、要するに音が減衰する際のトーンが、ちょっと汚く減衰してしまう傾向があるようです。このMK1クローンは、減衰が始まると途端にブツブツとコマ切れになり(聴感上の)ノイズが目立って増える印象があります。
 もともとファズ・ペダルは歪ませてサスティンを電気的に無理矢理延ばす、とも言える回路ですから、減衰が始まってしまってからの音成分はあまり重視しない傾向があるのかもしれません。それに、ファズなんてのは「ノイズと友達になれるかどうか」で好き嫌いがハッキリ別れる類いのエフェクターだ、と個人的には思ってますので、こんなコマケエことは気にしないほうがいいかもしれませんが(笑)。

 D.A.M.のデヴィッド・メイン氏を筆頭に、多くのペダル・ビルダーがサジを投げ捨てる(笑)程の難易度を誇るMK1回路ですが、それでも個人的に当方はMK1を愛してやまないので、どうしてもコマケエ部分にも注目し比較してしまいます。スイマセン。

 ちなみに、いつも65 BENDERやJMI MK1の特徴を紹介する際に「ツマミは9時で爆音」と当方は書きますが、このSMITTY PEDALのMK1はさらに歪みが強くて、「ツマミは8時でもう爆音・爆歪」といったカンジです。ただでさえ歪み量を調整するのに気を使うMK1回路ですが、このペダルはさらに大変そうです(笑)。
 ただし、これも比較上での話でしかありませんが、SMITTY PEDALのMK1は凄く歪むけど、音量はそこまでデカくない、と感じます。逆に言えば、JMIやMANLAY SOUNDのMK1は、そんなに激しく歪むわけではないけど、音が馬鹿デカい、と(笑)。

 なんだかグチばかりを書いてしまった感もありますが、作りはしっかりしてますし、回路も正確で、eBay等を通じて既に結構な人気を得ているSMITTY PEDALではあります。今回当方は上記のMK1だけを買いましたが、SMITTY PEDALでは他のバリエーションのTONE BENDERクローンも製作しているので、以下、簡単にご紹介します。
 まずはゲルマ2石のMK1.5クローン SMITTY BENDER MK1.5。ご覧のように、ラベルには手書きでマーク・スミス氏本人が文字を書くんですが、これは正直好き嫌い別れそうですよね(笑)。トランジスタにはOC76とOC75、という組み合わせで、定番ですが内部にはトリマーを組み込みバイアス調整が可能となっています。

 それからMK2クローン SMITTY BENDER PRO MK2。こちらは幅広の大きな筐体を採用し、トランジスタには日本製2SB77を初段に、後段には無印(おそらくロシア製でしょうね)のゲルマ・トランジスタを採用しているそうです。こちらの回路にもトリム・ポットが採用されてますね。
 ちなみにMK1.5クローンとMK2クローンの2つは、トランジスタの固定方式がソケット式になっていて、交換が容易になっています。これを買って、色んなトランジスタをアレもコレも、と片っ端から試すっていう使い方も楽しいかもしれませんね。マニアックな楽しみですけど(笑)。

 最後に、SMITTY SUPPA BENDERと名付けられたシリコン・ファズ。これは(マーシャルSUPA FUZZクローンではなくて)、70年代のカラーサウンド製SUPER TONE BENDERのクローン・ファズのようです。BC546Bというシリコン・トランジスタを4ケ使用した回路で、よりBIG MUFFに近づいた時期のTONE BENDERサウンドの復刻、ということになると思います。
 

11.06.2010

VOX Tone Bender (model V829)


 VOXという楽器ブランドの商標権をKORG社が獲得した後、90年代に入っていにしえのファズTONE BENDERが復刻されました。80年代の(例えばディストーション系の歪みサウンドや、レクチ系アンプの細かい歪みのような)ギター・サウンドのブームも一通り落ち着きをみせ、その後温故知新とばかりに、昔のイナタい歪み系が脚光を浴びた、というのも納得の話ではあります。

 そこでKORG/VOXは、60年代の香りをプンプンまき散らすような、新しいデザインのファズ・ペダルを90年代に製作・発売しました。それがこのV829 TONE BENDERです。90年代の終わりくらいまで新品で購入できたハズなので、結構息の長いファズ・ペダルではありますね。

 とはいえ、過去にいくつかバリエーションがあった「VOX」のブランド名を持つTONE BENDERとは構造的には殆ど関連もなく、基本的には何もかも新しいデザインがほどこされたペダルとなっています。
 外見はマーシャルGUV'NORかよ、と思わずにはいられない(笑)、真っ黒で質素で四角い鉄製の筐体となりました。横にあるネジ6本を外して、カパッとフタ部分を全部外して電池交換を行うわけですが、(当方のようなオールドファッションな人間はともかく)当時は皆面倒くさがったものです(笑)。

 たしかこの当時、まだVOXアンプがイギリスで製造されていた時期ですが、「VOXのアンプはマーシャルのアンプと同じ工場で製造されている」というウワサがありました。マーシャルの工場は(数多のマーシャル関係の本やカタログにも写真が掲載されているように)住所から工場内部までほとんどが公開されていましたが、そこでVOX製品も製造されていた、という確証のような写真は見た事がありません。ですが、可能性は結構高いんじゃないかな、とは思ったりしてますが。

 とはいえ、エフェクターに関して、このVOX V829 TONE BENDERとマーシャルGUV'NORは作りも全然違いますし、なにせ製造国も違います。有名な話ですが、GUV'NORは最初はイギリスで、後に韓国で製造されましたが、こちらのVOX V829はアメリカ製です(註:ただし、ハッキリと断言はできませんけど、当時の大量生産品は結構「製造国」の表記がテキトーだったりするので、MADE IN〜とプリントされてても、文字通りに信用するわけにもいかない、ということも、本ブログをお読みの方であればご納得いただけるかとは思います)

 話をTONE BENDERに戻します。表にデカデカと「ゲルマニウム・チャージド」とプリントされているように、90年代の当時としてはレトロ感丸出しの「ゲルマ」をうたい文句にしたわけですね。余談になりますが、英語圏の人は当然ながら「ゲルマニウム」を「ジャーメニアム」と読みます。
 筐体前側面に配置されたコントロールは当然のように(時代遅れの)チキンヘッド・ノブです。また、当時としては時代錯誤も甚だしい(笑)電池駆動のみ。潔いといえば潔いです。まあ、PNPトランジスタ内蔵なので、アダプタを使用するのが若干面倒、という面はあったとは思いますが。

 ではそのゲルマニウム・トランジスタは何なのか、と言えば、SK3004とプリントされた、シルバー・キャップのPNPトランジスタが2ケ、内蔵されています。基盤のシンプルさから見てもお判りとは思いますが、基本的にはMK1.5回路を踏襲したファズ回路となっています(オリジナルのMK1.5回路に加えて、ひとつだけキャパシタが加えられているようです)。その意味では、66年の秋頃に発売された、イタリアEME(後のJEN)工場の製造によるVOX TONE BENDERを復活させようとした、という意図がよく判りますね。

 で、肝心なのは音です。これがなぜか、あまり60年代TONE BENDERぽくない音だったりします。まずONにすると、思い切りロー成分がカットされます。ハッキリ言って、シングルコイル系のギターでは使い物にならないかも、と思うほどゲッソリとした音になります。
 歪み成分はキメが荒く、それほど歪み量もありません。そのテイストはたしかに60年代風ファズ・サウンド、といえるのかもしれませんが、過去のTONE BENDERとの比較において言うならば、あまりTONE BENDERらしいと思える音ではありません。やはりこれは、たとえばグループサウンズ系とか、フルアップさせてジージー言わせるネオ・サイケ系といった使い方のほうが、このファズを上手く使いこなすコツなのかもしれません。

 MK1.5回路なので、ギターのボリュームにはよく反応します。ただし上述したように、元々あまりにもキンキンしたサウンドですから、ギターのVOLを絞ってしまうと「キラキラ」どころか「チンチン」と言いたくなるほどに痩せたトレブリー・サウンドになるので、ギターやアンプを思い切り選んでしまう性格を持っていると感じます。

 正直に言って「このファズが大好きか?」と聞かれたら「・・・いや」と答えると思います(笑)。ですが、そうはいってもゲルマニウム・トランジスタを用いたのMK1.5系ファズであるのは事実であり、歴代TONE BENDER特有のパツパツなコンプレッション感は十分に得られます(ピッキングのアタックをこれでもか、という程に拾ってくれる、あのカンジです)。また、昔のTONE BENDERの印象としてありがちな「フルアップするとただモーモー言うだけで使えない」という方には、別な印象を与えるであろうファズだとは言えると思います。

 ブティック系ペダルがそれほどなく、同時にやっと再びファズに脚光が集められたという頃の製品なので、今の時代と同じ目線では語れませんが、それでもゲルマ・ファズ/TONE BENDERが再び大手ブランドから大量に発売された、ということは画期的だと言わざるを得ません。なお、当方の持ってるこのV829の外箱はもうすっかりタバコのヤニで真黄色になってしまいましたが、もの凄く久しぶりに説明書を今日読んでみました(笑)。まったく意味のないことが書いてありましたが(『このファズは、電気的にファズサウンドを生み出します』といったカンジです。笑)。

 以前も書きましたが。このVOX V829 TONE BENDERを発売するために、90年代にKORG社はTONE BENDERという商標を登録し、保持していました。しかし今はそれも手放し、現在商標はイギリスのデイヴィッド・メイン氏が権利保有者になっています(追記:2011年にその権利はSOLA SOUNDブランドを保有するMACARI'S社に移譲された模様です)。