5.01.2011

Manner of Mick Ronson (Part.4)

 
 世間様ではどうやら黄金週間という時期になるらしく、その間にゆっくりご覧いただければな、と思いまして、最近パカパカと更新してるんですが、しかし当方個人はこの時期最も本業の仕事が忙しい時期でもありまして(笑)、その前に今のうちに溜め込んでたネタを放出、という次第です。ひとときおつきあいいただければ幸いです。

 さて、ミック・ロンソンがSPIDERS FROM MARS時代に使用したアンプ、マーシャルMAJORのお話の続きです。前編のテキストはこちらをクリックしてください。

 前述したように、ロンソンが実際に使用したアンプは1967年製の、マーシャルMAJORの「初期型」なわけですけど、ファンであればご承知の通り、ファンでなくてもWIKIPEDIA他で検索されたことがある方ならどなたでもご承知のように「マーシャルMAJORは “THE PIG” という愛称で親しまれる」という記述がいろんなところにあります。そしてそうした記事には必ず「そのTHE PIGというニックネームはミック・ロンソンが名付けた」とも出てきます。

 ロンソン本人がそのアンプを「THE PIG」と呼んでいた形跡は現在のところ残されていません。以前にも触れた、73年の本人による機材紹介インタビュー(ロンソンの公式サイトのこちらで読めます)でもロンソンはこのアンプを「マーシャルの200W」とだけ呼んでいます。ホントにロンソンがこのアンプを「THE PIG」といい出したのか、確証はまったくないのでその経緯は不明ですが、とにかくなんだかそういうことになってますよね。

 以下、こちらも未確認ですが有名な「別の説」を紹介します。THE PIG(そのまま“豚”の意)と最初に言ったのはマイケル・ドイルという人で、この人はマーシャルの歴史本「HISTORY OF MARSHAL」(この本が最初に発売されたのは80年代の中頃ですが)を書いた人ですけど、彼が2インプットのフロントパネルを見て「豚の鼻じゃん」と思ったのでそう呼称した、という説です。このことは「HISTORY OF MARSHALL」に記載されているそうなのですが、当方は未読なので確認できていません。まあ、いずれにしろ「ロンソンがTHE PIGを使った」ということに変わりはありませんけど。

 たまに「マーシャルMAJOR=THE PIG」と捉えられることもありますが、正確には「THE PIG」と呼ばれるアンプは67年製の初期型MAJOR(2インプットでアクティブEQ、PARTRIDGEトランス搭載型)だけを指します。ちなみにこの初期型のMAJORはドエラい希少性でも有名で、例えば当方はこれまで実際にこのアンプの現物を所有している人を3人程しか知りません(実際にはもっといらっしゃるんでしょうけど)。ちなみにここで指した3人とはロンソン本人や世界で最初の所有者だと思われるピート・タウンゼンドを除いてカウントしてます。

 このザ・フーの写真にはその初期型マーシャルMAJORがバッチリ(2段積みヘッドの下の方)映っているわけですが、これは1967年の写真です。
 英国在住のとあるヴィンテージ楽器のディーラーさんも「40年くらい楽器扱ってるけど、15年くらい前に1度、あと8年前に1度取り扱ったことがあるだけ」と仰ってました。このディーラーさんはローリング・ストーンズやポール・マッカートニーをはじめ、世界中のセレブな(笑)ミュージシャンために楽器を探しまわるような人なのですが、その人をしてもこの結果、というあたりで、THE PIGのレア度がなんとなくお判りいただけるのではないかと思います。

 マーシャルMAJORの回路ですが、入力段の真空管はECC83(12AX7)、そしてアンプのキモとなる出力段の真空管はKT88、というレアな真空管が採用されています(真空管構成に関しては、後期型のMAJORも同様です)。
 しかし、初期型のMAJORは、入力された信号がフィルターによって高域/低域に振り分けられ、それらの信号がトレブル、ベースそれぞれにアクティヴで “増幅” されます。その2つの信号がミックスされ「マスター・ボリューム」で最終的に音量調整される、という回路になっているのです。
 68年以降はパッシブでEQ処理される信号経路が2チャンネル分あり、それらの2系統の信号は別々で音量調整されて出力、という(1959等と同様の)仕様に変更されます。

 えーと、2回にわたって書いてきた大量のウンチクは、正直そんなに大切な情報でもない、と個人的には思ってたりします(笑)。肝心なのは「じゃあ音はどうなのよ」てワケでして、当方のようなロンソン・ヲタクにとっては感動的ですらある初期型MAJOR「THE PIG」の音をこちらで是非聞いてみてください。

 これは初期型MAJOR(通称PIG)を現在も所有してるロンソン研究家としても有名なジェイソン・クイックさんという方が、そのアンプの出音を昨年YOUTUBEにアップロードした動画で、「HANG ON TO YOURSELF」と「ZIGGY STARDUST」を思い切り弾きまくってます。今まで沢山書いてきたマーシャルMAJORの内部に関することは、おおむねその動画の中でも紹介されていることです(本稿で掲載した写真はすべて彼のアンプなんですが、実は彼のTHE PIGは、上のほうで書いた「英国の楽器ディーラーさん」が15年くらい前に扱ったTHE PIGそのモノでもあります)。

 ちなみにJ・クイック氏はその2曲の録音でそれぞれ、アンプの出力段の真空管を(別なメーカーのものに)交換して比較する、というマニアックな実験まで行っています。また使用ギターはもちろん、キャビの中身や、使用マイク、レコーダーの種類や方法まで明かしているので、すごく明瞭なデモンストレーションだと言えると思います。
 参考までに、ギターはギブソンのCS製LP(R8)、キャビは2台(スピーカーはWEBER4ケとCELESTION4ケ)鳴らしており、マイクは2本、ワウは現行のクライベイビー、そしてファズはD.A.M.のカスタムメイド品である「HOLY ROLLER」(「1965」以前にD.A.Mが作ったTONE BENDER MK1のクローン)を使用しているとのこと。パワー・アッテネータを使用したとも書いていますね。この「HOLY ROLLER」というMK1クローンのファズに関しては、別なネタも1ケあるのですがそれはまた別の機会に触れたいと思います。

 ところで当方はここまで全て、ロンソンの使用したマーシャルのアンプを「MAJOR」と読んでいますが、人によっては(たとえば上記動画の主であるジェイソン・クイック氏等)67年製の200Wアンプを「マーシャル200」と呼ぶ人もいて、つまり後の68年以降のMAJORと区別したい、という理由だと思われます。ですが実際に67年製の初期型にも後ろのパネルには「MAJOR」と書いてあるので、当方は「初期型」として区別しています。

 過去にも何度も「マーシャルMAJORは歪まないアンプで、ヘッドルームに余裕がある」と当方も書いてきましたが、それは動画の主、ジェイソン氏も同様に語っています。動画でかなり音がクランクしていますが、それでも強いプッシュ感とレンジが保たれているのがこの動画からハッキリと汲み取れます。動画の終わりのほうでは、セッティングをフラットにしたアンプ直のクリーン・サウンドも収録されていて、かなり透明感あるアンプだ、ということもお判りいただけるかと思います。「マーシャルはギターのボリュームに敏感に反応する」というのはよく言われる話ですが、その文字通りの現象がここで確認できます。

 さて、ミック・ロンソンがSPIDERS期のスタジオ・レコーディングでどんなアンプを使用していたか、に関してはなかなか証拠足り得るソースが存在しません。ただ、耳のみで判断するに、フェンダーのコンボ・アンプを多用していた形跡が多々見受けられます。一例を上げれば、有名な「ROCK'N ROLL SUICIDE」ではフェンダー・アンプのトレモロ音が確認できたり、という具合です。また「QUEEN BITCH」でのギャリンギャリンと豪快なクランチ・サウンドも、フェンダー系小型コンボを使用したと思わしき箱鳴りが聞き取れますよね。もちろんフェンダー系のみならず、アルバム『ALADDIN SANE』ではあきらかにマーシャルMAJORと思わしきサウンドも確認できます(「CRACKED ACTOR」等)。しかし、いずれにしろ「あの曲のアンプはアレ」という風に断言できるソースはいまだありません。

 以下、余談です。実は当方もマーシャルMAJORを所持していますが、当方のブツは「後期型」(1969年製)の4インプット/パッシブEQのモデルです。ええ、なかなかロンソンみたいにはイカネエなあ、と長年悩みまくってきたワケですが、そりゃ当然です。名前が同じでも中身はまったく違うアンプなわけですから(註:とはいえ、KT88の豪快なレンジ感と歪みはヤッパ最高っスけどね)。

 68年製のレスポール・カスタムは持ってる。それ以前から69年製のクライベイビーも持ってる。最近遂に65年製のTONE BENDER MK1も買ってしまった。さて残るは、というわけで、初期型MAJORが残されているわけです。実は2年ほど前から海外のいろんな楽器屋さんに「あったら買うから、教えてね」と言いまくってきたのですが、なんと!最近そのチャンスが遂にやってきました。あるリッチー・ブラックモアの大ファンだという方から、その初期型を譲り受けることにしました。実はこのアンプ、上のほうで書いた「とある英国のディーラーさん」が8年くらい前に扱ったTHE PIGそのモノでもあります(笑)。完全な「言い値」だったので、正直無謀な価格です。あーあ。こないだTONE BENDER MK1で大金使っちゃったばかりなんでまったくお金ないんだけどなー。しかし「おそらく人生最初で最後のチャンスかも」と己を洗脳させて(笑)購入決定。リッチー・ファンのその方に一応「オレの69年製MAJORと交換しない?」と聞いてみたんですが「いや、今4台持ってるからイラネ」と即座に解答されてしまいました。

 んー、だれか俺の69年製MAJOR買ってください(笑)。
 

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