9.29.2011

JMI - Dallas Rangemaster Reissue

 
 さて、RANGEMASTERに関して今回も続けます。オリジナルに関しては、中身やユーザーを含めて過去に書いてきた通り、そして当方は魔法の箱等と形容してますが、もうすでに有名なエフェクターなので、実はそれほど改めて発見したりすることはないかもしれません。随分昔からクローン製品が沢山ありましたしね。

 ですが、イギリスのJMI社から、2009年にこのRANGEMASTERの復刻品が発売された時はビックリしました。中身はもちろんですが、外身、つまり筐体までオリジナルと同じように作ってあったからです。今回はその復刻品のご紹介です。
 とかいいつつ、いきなりですが既に面倒臭いことに(笑)現JMIからはRANGEMASTER、もしくはTREBLE BOOSTERと呼ばれるエフェクターが今5種類もあって(笑)、全部RANGEMASTERの回路だったりもします。その辺をキチンと整理しつつ、順に見ていきたいと思います。

1. まずは一番基本となるJMI RANGEMASTER復刻品です。ご覧のように完璧に見た目が復刻されているばかりでなく、回路や箱まで(!)オリジナルと同じ様に作られました。とはいえ、今は当時と時代が違います。故に一部のパーツは違うものが使われています。
 トランジスタはシルバーキャップのOC44ですが、これはMULLARD製品ではなくて、おそらくNKT製のものかと思われます。60年代のゲルマニウム・トランジスタのNOSパーツです。また。ポットは現在一般的なフツーの(笑)ポットに、そしてキャパシタもイエローキャップの新品が使われています。
 ちなみに、電池の交換は後ろの真鍮色のパネルにある6角ナットをはずして簡単に行えますが、写真にあるように回路/基板部分を写真撮影しよう、と思った時には、筐体の底にあるネジを5つ外して、筐体上部分をズズズズっと滑らせて外します。正直これがスッゴイ面倒です(笑)。
 オリジナルもそうですが、筐体背面から延びているアウトプット・ケーブルは、長さが40〜50cmくらいしかありません。なので、これを直でアンプに刺すためには、RANGEMASTERは当然ながらアンプの上とかそばに置かないといけませんよね。そういう所までこのリイシュー品は律儀に復刻されていますが、正直使うにはやっぱり多少の面倒さはあります。

2. 上で「基本となる」と書きましたが、それとは別に限定版として、2010年にJMIは限定で、60年代の英国MULLARD製ブラックキャップ・トランジスタを用いたRANGEMASTERを制作/発売しました(たしか20ケか25ケか、そんな数だったと思います)。しかもそれは2種類あって、ひとつはMULLARD OC44を用いたもの、もうひとつはMULLARD OC71を用いたもの、というわけです。
 TONE BENDERで英国MULLARD製トランジスタを採用した時もそうでしたが、やっぱりお値段は高いです。それは純粋に英国MULLARDのトランジスタがもう殆どないから、につきます。当方でも一応このOC44、OC71版両方とも各1ケずつ仕入れましたが、今後仕入れるかどうかは決めていません。もし興味をもたれた方はお問い合わせ頂ければと思います。

3. 以上のような復刻精神に熱をいれた(笑)リイシュー品とは別に、もうちょっとコンテンポラリーな仕様のトレブル・ブースターもJMIから発売されています。
 まずは、RANGEMASTERとまったく同じ回路を、TONE BENDERと同じ筐体にブっ込んでみた、という JMI TREBLE BOOSTER があります(写真左)。このエフェクターに使用されたトランジスタは一番上の「基本の」RANGEMASTERと同じ、NKT製OC44ですが、当然のように「足でオン/オフできる」というデカいメリットがある訳ですよね。この製品は価格も1.のRANGEMASTERと同じなんですが、生意気を言わせてもらえれば、それほどカッコイイとは思えません(笑。そういうわけで当方ではこの3.のトレブルブースターは取り扱いをする予定がありません)。

4. まだあります。JMIは最近、ちっちゃい筐体にRANGEMASTER回路をブッ込んだ PLAYER'S SERIES TREBLE BOOSTER を発売しました。こちらはNPN回路にするために、トランジスタにはAC127が使用されています。LEDインジケータ付き、そして9Vアダプター使用可能、そしてなにより圧倒的に小さい筐体(MXRより小さく、薄いです)に収まったこのペダル、さすがに使い勝手は最高です。こちらは新製品でもありますし、JMI製品中最もお手頃な価格ということもあって、既に取り扱いしています。

 商品の紹介は以上になりますが、もちろんこの復刻版RANGEMASTERは、イギリスJMIがそのデモ動画をいくつか作成していますので、ここに2つ動画を上げてみます。

 左側は、上記ナンバリングでいうところの「1.」のRANGEMASTERのデモ動画です。復刻品のノーマル版、というヤツで、トランジスタにシルバーキャップのOC44を用いたものです。ご覧のように、ギターはテレキャス、アンプはJMIのAC30/6TB復刻品を使っていますね。それと、右側のほうの動画は英国MULLARD製のブラックキャップOC71をトランジスタに用いて超限定版として制作されたもの、の動画です。こちらの動画はトランジスタの違いがどうエフェクターに反映するか、を比較できるように載せてみました。似たような音といえば似たような音ですが(どちらもRANGEMASTERですから当然ですけど。笑)、中のテロップで説明されているように、OC71のほうが「歪みはちょっと弱い、でもそのかわりエッジがより強調される」と書いてありますね。パリパリした印象があると思われます。ただし、マイキングのせいで左(OC44)の方はやや残響音が厚めに入ってしまってるので(録画した場所の問題かも)、単純に比較できませんが、言わんとしていることはお判りいただけるのではないかと思います。

 さて、最後に余談をいくつか。上記した2.の「高級版」RANGEMASTERには、さらに少数限定で「イエロージャケットのMULLARD OC44トランジスタ」を用いたものもありました。限定10ケだったと思いますが、当方がJMIのディーリングを始めたときには既に全部売り切れになっており、今はもう作っていません。へー、こんなトランジスタがあったんですね。知りませんでした。
 それから、以前もチョロっと書きましたが、現在のJMIは「DALLAS RANGEMASTER」を商標登録しています。なので、最初にJMIがRANGEMASTERを復刻した時に、65年のDALLAS製オリジナルとおんなじラベルも復刻できたわけです。その後この箱のラベルは無くなってしまったんですが、先日「あれ、可愛いからまたあの箱で出荷してくんないかなあ?」と本国にリクエストを出しました。「ん、わかった。検討してみる」とのことです。たかが箱、されど箱(笑)、というわけで、またピンク&白のラベルにお目にかかれると嬉しいですね。
 

9.22.2011

Dallas Rangemaster (Pt.2)

 
 過去に当ブログでもいろんなところで触れていますが、RANGEMASTERと言えば有名なギタリスト達が重要なディヴァイスとして使っていることが知られています。以下、その主な組み合わせをちょっとまとめて列挙してみたいと思います。

 まず、こちらで写真をババンと使ってしまいましたが、当方が一番気になって仕方ない(笑)RANGEMASTER使いの人、マーク・ボランです。彼の場合は使用環境もちょっと特殊で、ギターはストラトとレスポールが半々、アンプはオレンジのスタックだったり、HHというブランドのカスタム・トランジスタ・アンプだったり、VOX AC30だったり、そしてあの有名なVAMPOWERだったり、とあまり統一されていませんでした。
 ちなみにVAMPOWERのアンプはアルバム『電気の武者』のジャケで有名ですが、もの凄くレアなアンプなんスよね。

 個人的なことを勝手ながら書かせていただければ、RANGEMASTERの音、ということで最も当方の耳に馴染みがあるサウンドは、T-REXの「20TH CENTURY BOY」のイントロなわけです。別に浦沢直樹作の漫画/映画にそれほど興味があるわけでもなく、もっともっと前から、ただ単純に当方が子供の頃からそのイントロは強烈に素敵なサウンドに思えたわけです。
 72年の来日中に日本の東芝EMIのスタジオで録音された、ということでも有名なその「20TH CENTURY〜」ですが、イントロにはギターが2本入ってて、使用アンプもちょっと判らないので正確なセッティングまでは追い込む事が出来ませんが、紛れもなく最高のRANGEMASTERサウンドだと思います。曲も最高スけど。

 今はもうYOUTUBEを含めいろんなところでマーク・ボラン/T-REXのライヴっていうのを確認することが出来ますが、ライヴになると、もの凄いデカい音でギター弾くんですよね、この人。ちなみに、まだそんなに売れてなかった60年代にマーク・ボランにリードギターの弾き方を教えたのは、当時売れっ子のセッション・ミュージシャンだったジミー・ペイジなんだそうです(一時マネージャーが同じ人でしたもんね)。
 それはともかく、T-REXのライヴ映像では、いつもアンプの上や床の上にRANGEMASTERがあることが確認できます。もちろん写真もいろいろ残っているわけですが、実際に手にしている写真を見ると、オオッと盛り上がってしまいますね(笑)。

 ロリー・ギャラガーに関しては以前も書きましたが、ギターはストラト、そしてアンプはVOX AC30です。ただしアンプの入力チャンネルはトップブースト側ではなく、ノーマル・チャンネルの方を使っていた模様です。後にクイーンのブライアン・メイがトレブル・ブースターを使用することになるのは、ロリー・ギャラガーの影響を受けたから、なんだそうです。
 左にロリー・ギャラガー率いるテイストの1970年のスタジオ・ライヴ動画を貼りましたが、すげえ画質が奇麗でビックリしますけど、それよりも嬉しいのは、例のボロボロのストラトを、RANGEMASTERに直で(カールコードで)刺していて、VOX AC30でならしてる、その様子が絵と音で両方で確認できることです。さらにさらに、この動画では曲中にギター側のボリュームを変化させている箇所があり(動画の1:02付近と2:41付近)、そのことで音と歪みがどう変化していくかが如実にわかる、という事ですよね。もしRANGEMASTERに馴染みがなく、どんな音のエフェクターなのか知りたい、という場合は、この動画が一番理解しやすいんではないかな、と思います。

 ブラック・サバスのトニー・アイオミの場合は、ギブソンSGスペシャル(ピックアップはP90ですが、メタルカバーがつけられたカスタマイズPU)とRANGEMASTERの組み合わせで有名ですね。アンプは初期のライヴ映像ではORANGE、PARKやLANEYのアンプを使ってるものが確認できます。右に1970年のライヴ動画を貼りましたが、ヘッドアンプの上にチョコンと載せられたRAMGEMASTERの姿を2:13の箇所で確認することができますね。
 後にアイオミ氏はRANGEMASTERに改造を施し、ブースト周波数を変更した模様です。また、アイオミ氏はアナログマンが「BEANO BOOST」を発売したときに最も最初に手に入れた一人で、今でも使用しているとのこと。

 エリック・クラプトンに関しても以前から折に触れて書いてますが、彼がRANGEMASTERを使っていたのはどうやら65〜66年周辺のごく限られた時期のようで、例の66年のアルバム「JOHN MAYALL BLUES BREAKERS WITH ERIC CLAPTON」、それとクリームの初期だけでしかその音を聞けないようです。当時はギターが60年製レスポール、アンプはマーシャルのコンボ(JTM45)です。その後クラプトンはFUZZ FACEを導入し、クリーム中期〜ソロ(おそらく70年代半ばまで)はずっとFUZZ FACEを使っていたようです。

 オマケとして書いておきますが、クイーンのブライアン・メイが使用していたトレブル・ブースターは、初期のころはRANGEMASTERの回路を参照して自作されたカスタム・ボックス(一番最初に自作したのは、同じくクイーンのベーシスト、ジョン・ディーコンだった、という話です)、75年以降はピート・コーニッシュに作ってもらったトレブル・ブースターです。どうやら彼がオリジナルのRANGEMASTERを持っていたことも過去にあったようですが、録音に際して使ったという話はあまり聞きません。言うまでもありませんが、ギターは「レッド・スペシャル」、それからアンプはVOX AC30ですよね。

 また、リッチー・ブラックモアが使用していたトレブル・ブースターはJHS(JOHN HORNBY SKEWS社)の青いトレブル・ブースターでした。TONE BENDER MK1の時とならんでここでも名前の出てくるJHS社、恐るべし、ですね(笑)。ご承知の通り、リッチーのギターはラージヘッドのストラト(パープル初期では335でしたが)、それからアンプはマーシャルMAJOR(後期型)200Wです。拾い物画像ですが、JHS TREBLE BOOSTERの画像を見つけたのでここに載っけておこうと思います(右の写真2枚)。どうみても、RANGEMASTERのパクリですよね(笑)。

 余談ですが、小さな鉄製の筐体に入ったVOXトレブル・ブースターというものも、66年頃に発売されています。これはイタリアのEF-ELという工場でOEM製造されていたと思われるブツで、バーズのロジャー・マッギンが(リッケンバッカーとの組み合わせで)使用していた、ということで知られています。

 そういえば 本来なら前回のポスティングで掲載するべきだったんでしょうが(忘れてました。笑)、65年のオリジナルRANGEMASTERの回路図をおこしたので、ここに掲載しておきます。なんてシンプルで美しい回路でしょうか(笑)。実は上に掲載したJHS社のブツも、そしてVOXのブツも、凄く細かい数値違いはあれど、回路はこのRANGEMASTERのものとほぼ一致します。現在はこの回路に更に多種多様なモディファイを加えた製品もありますが、既に最初の時点である種完成された回路、ということも言えるかと思います。(この項つづく)
 

9.15.2011

Dallas Rangemaster (Pt.1)

 
 前回も予告しましたように、しばらくDALLAS RANGEMASTERについて続けて書いてみたいと思います。その歴史背景に関しては、いろんな人に聞いてみてはいるのですが、なかなか本国イギリスでもあまり詳しい背景が今も判らないことが多いようで(例えば回路の設計者等)、不明な点も多々あるとは思いますが、おつき合いいただければ幸いです。

 いきなりの余談で恐縮ですが、60年代の英ダラス社には実はエフェクターのRANGEMSTER以外にも、同じ「RANGEMASTER」という名前を持ったアンプ製品が存在します。このアンプの中身はあまり判らないのですが、しばらく前までは「レンジマスター? ああ、そういうアンプあるよね」なんていう会話がネット上でも時々ありました。これは「昔はエフェクターのほうよりもアンプのほうが有名だった」というワケではなくて、単純にマニアな方が「俺そんな些細なことまで知ってるぜ」という意味でワザと使っていた、と思わしきフレーズです。まあ、いつの時代もどこの世界でも、そういう人はいるわけですよね(笑)。どうでもいい話です。

 さてさて、ダラス社から1965年に発売されたRANGEMASTERは、今ではもちろん「トレブル・ブースター」として知られるエフェクターです。
 一説では、この回路を設計/制作したのはジョニー・ダラス氏、つまりダラス社の社長だ、という文献を見ることがありますが、ウラは取れていません。また、1965年に発売が開始され、67年までにおよそ300ケが製造/販売された、という記述を見つける事ができます(その後、ダラス社はアービター社と合併し、ダラス・アービター社となります)が、RANGEMASTER自体は69年まで製造された、という記述もあるので、実際にはもう少し多く作られただろうと思われます。
 いずれにしろ同じ時期のTONE BENDERなんかに比べたら量が沢山あることは事実ですし、現実に今探しても、それなりにオリジナルを見つける事はできます。ただし、もちろん容易には入手できませんし、高い値段をフっかけられることが多いわけですけど。

 ここではいくつかのオリジナルRANGEMASTERの写真を載せてみました。それぞれちょっとずつ違ってて面白いですよね。上から順にこの古いエフェクター達を見ていきたいと思います。
 一番最初のが当方の所有物で、トランジスタがOC71のモデルです。なんでOC71かというと実は偶然ではなくて、わざわざOC71版を探したからです。なぜか。それは「マーク・ボランが使ったRANGEMASTERは、間違いなくOC71版だったから」という話を聞かされたからです。俺って単純(笑)。マーク・ボランに関しては、別項にてちょっと詳しく触れたいと思います。ご覧のようにトランジスタはブラックキャップの英国MULLARD製、キャパシタは黒いHUNTSのもの。残念ながら裏蓋が無くなっていますが、表側のクロームのトリムが(珍しく)残っています。
 それから以前も掲載しましたけど(野外で撮影された写真2枚)、イギリスのPAISLEY TUBBY EFFECTSさん所有のRANGEMASTERは、トランジスタがブラックキャップのOC44、キャパシタはMULALRDのマスタードになってます。このRANGEMASTERはアウトプット・ケーブルを排除し、後にアウトプット・ジャックを増設してありますね。

 それと、次に掲載したものは DISCOFREQ's DATABASE から引っ張ってきた写真です。シルバーキャップのOC71が搭載されているモノには、黒いHUNTSのキャパシタが乗っていますが、当方のブツとはそのサイズが異なります。この人はなんと65年当時の箱まで持っているようで、ピンクと白の素敵なラベルも拝見できます。箱に関しては後ほど別項でちょっと改めて触れます。それにしてもこの方、3つも持ってんですねぇ。スゴイっす(最下部の写真参照)。

 以上でも判るように、60年代ダラス社製RANGEMATSERでは、トランジスタにOC44とOC71を使ったものがあります。また、ともに英国MULLARD製のゲルマニウム・トランジスタではありますが、ブラックキャップのものとシルバーキャップのもの、両方が存在することも判っています。

 では同じRANGEMASTERでも、OC44とOC71は音がどのくらい違うのか、と言えば、実はそんなに大げさに違うわけではありません。ただし2つを比較する上で言えば、OC71のほうがちょっと音のエッジが強く出る、という傾向があります。
 米国のエフェクト・ブランドで、自ら「BEANO BOOST」というRANGEMASTERクローンを発売しているアナログマンのHPでも、そのトランジスタの違いに関する記述があります。いわく、OC44のほうがちょっとスムースでOC71の方がエッジと高い倍音の出方が強い、と。

 TONE BENDERと比較しても単純極まりない(というか、歪み系の中では最もシンプルな回路でしょうね)その回路構成のために、使用トランジスタの色はモロにエフェクターの出音に出ます。RANGEMASTERはその歪みのマイルドさが好まれる、という場合も多いので、エッジが際立つOC71よりもOC44のほうが好み、という人が多いようですね。

 ご覧のようにオリジナルのRANGEMASTERは、大げさでマヌケすぎるポット、ラグ板に荒々しく配線された回路、バカでかいHUNTSのキャパシター(註:以前も触れましたが、HUNTSでないキャパシタが採用されたモデルもあります)、そしてゲルマニウム・トランジスタ1ケだけで強引にブーストしてしまうというシンプルな構造、なのに無意味にデカい筐体、演奏中に絶対にオン/オフできないスイッチ、そして、使用するのにジャマ臭くてしょうがない、直で延びたアウトプット・ケーブル、という(笑)、今から考えれば非効率この上ないダメダメな(笑)ギター・エフェクターですが、それでも「魔法の箱」の名に相応しい、素敵なオーヴァードライブをもたらしてくれる箱なわけです。

 ツマミは1ケですから、使うのにそれほど悩むこともありません。どんなアンプとどんなギターの組み合わせであっても、間にRANGEMASTERを挟めば「ギャーン」と一瞬にして独特の美しいゲインと圧倒的な音量を稼ぐ事ができます。単純にトレブル帯域をブーストしているわけではなく、その加味された倍音成分がエレキギターにはドンピシャでフィットする、ということになりますかね。

 「市販されているギターアンプそのままでは、必要な音は出ない」と断言したのは元マルコシアス・ヴァンプの秋間経夫氏(アンプ・ビルダー/リペアマンとしても有名ですよね。しかし、MARCHOSIAS VAMP、もの凄いバンド名ですね。笑)ですが、その言葉にはかなり含蓄があり、一発で納得するのは難しいかもしれません。でも、意味は単純ですよね。それはインタビュー動画を見ればすぐご理解いただけると思います。
 秋間氏はアンプを例に上げてその話をされていますが、話を戻せば、ダラスのRANGEMASTERってエレキギターに必要な帯域をグワっと持ち上げてくれるエフェクターだと思われます。だから単純なのに、最高のエフェクターなんですよね。

 「アンプ直の音こそ至高」というギタリストが多いことはもちろん承知の上ですが(余談ですが、実はミック・ロンソンも同様の主旨の発言をしてるんですよね。自分はファズとワウ使ってるクセに。笑)、実はアンプ直だとどんなに工夫しても、なかなかドンピシャで欲しい音が出てこない/絶対に出ない、なんていう体験は、星の数ほど世間に存在してると思われます。そんな時にやはりこの「魔法の箱」RANGEMASTERがあると、世界観が変わりますよ、なんて当方は思っているわけです。(この項続く)
 

9.10.2011

news from JMI

 
 イギリスのJMIから「ホレ、早くエフェクター売れよ、ガンガン売れよ」みたいなプッシュが当方のもとにメールで送られて来るんですけど、その言葉とは裏腹に本国JMI側も在庫が少なくなっちゃってたり、さらには当方のおサイフ事情なんかも関連して(笑)、そんなにガシガシと大量仕入れ/多売すっぞ、っていう状態ではありません。
 そんなヨタ話はともかく、JMIはさすがにイギリスを代表する老舗ブランドなわけですから、JMIに関するニュースは日々いろいろと更新されます。英国本国JMIのサイトもマメに更新されるようになっていますが、今回はその辺のJMI関連ニュースをまとめてババっとご紹介しようと思います。

 まずドカーンと写真を大きく使いましたが、御大ピート・タウンゼンド氏です。彼は最近創刊されたウェブ・ギター・マガジン「iGUITAR」の創刊号で特集されていまして、その中で過去に使用した機材に関して説明がありました。で、「ピート・タウンゼンドは60年代にゲイリー・ハーストが作ったTONE BENDER MK1を使ってたぞ」ということが紹介されているんです。証拠写真なんかは掲載されていませんでしたが、その事実は当ブログをお読みいただいている方であれば、殆どの方が既にご承知のこととは思います。
 面白かったのはTONE BENDERのことだけでなく、「60年代後半頃、ピートが使用していた機材リスト、というのはミュージシャン間でもの凄く需要があった」という話です。なぜなら、当時ピートが使用した機材はファズのみならず、アンプやギターも「最新のもの」ばかりで、ミュージシャン達はそれが何だったのか知りたい、それを(他の誰よりも早く)買いたい、というニーズがあった、とのこと。ミック・ロンソンなんかもそのひとりだったんでしょうね。
 ピート・タウンゼンドは60年代から現在に至るまでもハイワット・アンプのユーザーであり、現ハイワットを運営しているのはJMIと同じ連中(つまりジャスティン・ハリソンがボス)ですから、今もJMIと懇意にしている、とのことです。いつかピートに直接インタビューできたら嬉しいですねえ。と勝手に個人的な妄想を巡らせています。

 それから、以前ここでも告知/紹介しましたが、やっとJMIはPLAYERS SERIESのラインナップに関してオオヤケの説明文を掲載しました。「我々JMIは、新しいラインナップとしてPLAYERS SERIESを用意しました。これはペダル・ボードでの使用を望むプレイヤーのリクエストをかんがみて、9Vアダプターの採用、それから明るいLEDランプの設置、そしてより小さなMXRスタイルの(註:以前も触れましたが、MXRよりはちょっと大きいです。ただし薄いですが)筐体を採用しました。それでも60年代のゲルマニウム・トランジスタを用いたクラシックなサウンドはそのままに、そしてより安い価格帯の製品となります!」だそうです。

 そして最新のニュースのひとつ。というか、ただの日記じゃね?とも思えるような(笑)ネタですが、今月ゲイリー・ハースト氏がJMIを訪れた、とのことです。彼は定期的にJMIを訪れて、その製品の品質管理や保証書へのサイン等々を行っているわけですが、現JMIとの関係は良好のようで、以前もチラっと書いたように新製品(どうやら以前話題に上がったオクターブ・ファズ以外にもいろいろあるようです。まだ決定してないから、ということで詳しいことは教えてくれませんでしたが)の打ち合わせ等を行った模様。ゲイリー・ハースト所有のビンテージ・ファズの販売に関してもJMIを通じて行う腹づもりのようです。
 そして本国の公式サイトには「JMIはゲイリー・ハーストが手がける唯一のエフェクター・ブランドです。偽物に注意!」とか書いてあります(笑)。まあ、偽物なんてのはいまのところ誰も作っていませんし、むしろゲイリー・ハーストという人の名前をもっともっと日本で有名にしなきゃなー、なんて当方は思ったりもするわけですが。先方からは「日本で楽器フェスかなんかあれば、喜んで日本にいくぜ」という連絡も貰っています。嬉しいですねえ。嬉しいんですけど、誰が飛行機代払うんだよ!という困難かつ重要な問題は解決できないママです(笑)。ちょっとこの件に関しては、しばらく様子をみながら考えたいと思います。

 ちょっと脱線しますが、最近VINTAGE PEDAL WORKSHOPの製品が遂に日本で発売されましたね。アレを「JMI製品と間違えて」購入するという人はいないだろう、とは思うんですが、一応念のために書いておけば、JMIとVPWはもちろん関係のないブランドです。ただし現VPWのスティーヴ・ジャイルズ氏が以前JMIでエフェクターを作ってた、というのももちろん事実ではありますが。余談ですが、次回以降でRANGEMASTERに関して詳しく紹介しようと思ってるので、詳細はそちらで書くつもりですけど、JMIは「DALLAS RANGEMASTER」の名を商標登録しています。ホントならRANGEMASTERという名前を商品名につけるのは、JMIしか出来ないんですよね。

 それからなぜかこんなニュースもありました。ジョニー・デップ(もちろんあのジョニー・デップ。本物さんですよ。笑)は音楽も大好きな人で、自分で音楽活動を行ったりもするわけですが、なんと最近彼はJMIのTONE BENDERを2ケ、購入したそうです(笑)。ひとつはMK1.5、でもうひとつはPROFESSIONAL MK2 OC81Dバージョン、とのこと。ホエー、やるじゃんジョニー・デップ。関係ないけどなんだかオイラも嬉しいぞ(笑)。まさか本ブログでジョニー・デップの写真を使うことになるとは思ってませんでしたねえ(笑)。そういえばジョニー・デップはキャリアの最初は、バンドマンとしてデビューしてるんですよね。イギー・ポップの前座も務めたことがあるそうですし、ローリング・ストーンズとも仲が良い、という話はよく聞きます(デップ扮するジャック・スパロウのルックスは、キース・リチャーズをモチーフにした、という話も有名ですし)。またいささか旧聞になりますが、オアシスのアルバム『BE HERE NOW』で、デップ氏はスライドでチョロっとギター弾いてるそうです。

 さすがにジョニー・デップ氏にくらべたら認知度は下がるとはおもいますが、他にも現在のロッド・スチュワートのバック・ギタリストでもあり、ソロ活動もしているギタリスト、ポール・ウォーレン氏は、JMIの公式エンドーザーです。ロッドのステージで彼は最近JMIのPLAYER SERIES MK1を使うらしく(でも彼の一番のお気に入りはデカイ方のTONE BENDER MK1なんだそうですが)、JMIのスタッフもロッドのステージがロンドンである度に訪れている、とのこと。
 また、最近発売された彼のソロ名義(ポール・ウォーレン・プロジェクト名義)のアルバムでも、JMIのTONE BENDERが活躍した、とのことです。
 長らく日本で品切れとなっていたMK1.5や、MULLARD OC81D版のMK2(こちらは予約分ですでにSOLD OUTとなりますが)も近日中には日本に到着する見込みです。引き続きJMI製品をよろしくおねがいします。
 

9.02.2011

JMI - Del Casher Wah

 
 さて、延々と(しかも強引な流れで)ワウ・ヒストリーに関して書いてきましたが、前述したようにこれらはすべて現JMIが新しいワウ・ペダルを発売したので、その宣伝も兼ねているわけです。右上に掲載した写真はJMIが2010年にその新作ワウの告知を行った広告ですけど、前回載せた「67年のVOXの広告」をそのまんまパクってデザインされたわけですね。
 そして別な広告には、若き日のデル・キャッシャー本人の写真が使用されています。商品名からも判る通り、このJMI 1966 DEL CASHER SIGNATURE WAHはデル・キャッシャー本人の承認を得た、公式のシグニチャー・モデル、として製造されています。

 このワウ「DEL CASHER SIGNATURE WAH」は当初2010年発売、とされてきましたが、実際にブツが出来上がったのは2011年になってからでした。当然当方でもその取り扱いを開始しており、日本でも現在入手可能です。早速そのワウの詳細を見ていただきたいと思います。

 一見しておわかりのように、そのワウは67年の英国製VOX WAHのルックスを復刻したものです。これまでも数々のTONE BENDERリイシュー品の広告等でも打ち出してきたように、現JMIは「ブリティッシュ・メイドのブリティッシュ・トーン」にこだわっているので、ああナルホド、とその意図は判りやすいわけですよね。

 ここで小さな余談を挟みます。JMIの本国ウェブサイトでは「限定200ケ」と書いてあり、商品の中に封入された保証書には「限定100ケ」と書いてあります。なのに、筐体の裏には「限定250ケ」と書いてあります。何やってんだJMI(笑)。

 さらに、広告や保証書には「1967 WAH」と書いてあるのに、木箱や本体の裏蓋には「1966 SIGNATURE WAH」とか書いてあります。もーワケワカンネー、ということで早速本国に問い合わせしました。「ああスマンスマン。ミスっちまったな」。ったく、これだからイイカゲンなジョンブルさん達には困ります(笑)。どうかここはひとつ、日本の皆様にも大きな心と生暖かい目でJMIの連中の仕事を見守っていただければ、幸いです(笑)。

 とはいえ、デル・キャッシャー本人の協力を得られたのはさすがJMIですね。実はデル・キャッシャー氏は大変気難しい人物としても知られ、つき合うのは大変だ、という話を聞いた事があります。JMIのスタッフからも「その噂は本当だ」という話を聞きました。今回の製品が完成に至るまで、その中身とか外観とかに関して、アレもコレも、とデル・キャッシャー本人から指示が出ていた、ということも聞いています。もしかしたらデル・キャッシャー氏は、自分が言い出しっぺのエフェクターなのに、なんで製品化されたブツにはクライド・マッコイなんてヤツの名前が入ってんだよ!といまだに40年前のことを恨んでいるのかもしれませんね。勿論未確認ですが(笑)。

 本題に戻ります。外観としては前述通り、1967年に英国ソーラーサウンドで製造されたVOXグレー・ワウをそのまま再現したこのワウですが、アメリカ人ギタリスト、デル・キャッシャーのシグニチャー・モデルでもあることから、英国製のオリジナルと比べるといくつかの大きな変更点があります。

 まずそのひとつは、インプット/アウトプットの位置です。向かって右側がインプット、左側がアウトプットです。つまり、現在一般に知られるワウ・ペダルと同じ向きになっています。67年の英国製VOX WAHはそれが逆だったわけですが、ここに関しては「デル・キャッシャーの持っているプロトタイプに準じた」とのこと。

 そしてそのインプット/アウトプットの周囲にある「WAH WAH」のレタリングですが、オリジナルはステッカーだったのに対し、JMIの復刻品は塗装で処理されています。オリジナルのグレー・ワウではそのステッカーを剥がしちゃう人が多いわけですけど(笑)、JMIのほうはそういうわけにはいかねえぞ、ということになりますね(笑)。

 そして中身です。インダクターは60年代のNOSパーツだ、という250Kのインダクターが採用されています。誰がどう見ても、そのインダクターに掘られているロゴは(我が日本がほこる)TDKのロゴなわけです。
 ワウ・ヒストリーの中ではよく知られる話ですが、70年代にVOXのワウで採用された悪名高き(笑)TDK5103という四角い形のインダクタがありますけど、こちらのJMI復刻品で採用されたパーツはそれとは異なる、60年代のNOSパーツです。
 基板はユニバーサル基板なので、若干その幅も広く、ルックスは英国製オリジナルとも米国製プロトタイプとも異なりますが、一応配列等は英国産VOX WAHを元に組んであるようですね。真っ赤で目を引くキャパシタですが、ここにはヨーロッパ製品ではなじみ深いWIMAの製品が採用されています。トランジスタは、英国産オリジナルと同様の2N3707が2ケ、です。ポットも同様に100Kのパーツです。

 グチグチとその外見を書いてきましたが、問題なのは音、ですよね。このJMI製DEL CASHER WAHはデモ動画が既にあるので、ここでも掲載してみます。
 皆様既にご承知のようにワウの音ってのは入力される信号の周波数成分と、そしてアンプ側の周波数成分に大きく左右されるので、どんなギターでもこういう音になるぞ、てわけではありませんが、さすがに音は現行品のワウとは違います。多くのエフェクター・ビルダーが過去にも苦労されたように、やっぱり100Kのポット、そして250Kのインダクタ、それらと相性を併せたワウてのは、古くさくて美しいスイープを生み出しますよね。実はJMIもデル・キャッシャー本人もこの完成品のサウンドにすごく満足してるそうです。

 以前のポスティングも含めてここまでワウの歴史とかデル・キャッシャーに関して書いてきた通り、実際には60年代当時デル・キャッシャーはこういうワウを使ったわけではありません(彼が使ったのはプロトタイプだから)。そして60年代に英国でほんのわずかだけ製造されたJMI/VOXのグレー・ワウも、細部に関していえばこの復刻品と同じではありません。今回のJMI DEL CASHER WAHはその折衷案ともいうべき商品なわけで、その辺の細かい事情を知っていただければな、と思います。そして最新の英国産ワウが生み出すクラシックなスウィープ・トーンを楽しんでいただければ幸いです。

 さて最後に余談です。もうちょっとなんとかすりゃ、もっと面白くなるのになー、という当方の個人的なワガママを、既にイギリスJMIにぶつけてあります。当方の案とは「デル・キャッシャー・ワウは米国製プロトタイプのままで」そして「グレー・ワウは英国ソーラーサウンド製VOXワウそのままで」復刻品を作る、という案です。あまり期待はできませんが、まあ言っとくだけは言っとこうかな、と(笑)。