3.29.2012

RotoSound - Fuzz Box


 ロトサウンド。ギターを弾く人であれば一度は名前を聞いた事のあるブランドだと思われます。なんと言ってもギターの弦の超有名ブランドですもんね。イギリスで1958年に会社設立以来(ギターに限らず)楽器用の弦を製造・販売してきた会社ですが、その名を一躍有名にしたのは1966年、SWING BASS STRING SETというベース弦セットをTHE WHOのジョン・エントウィッスルのために製造し、これを製品化したところ爆発的にヒット、というのが契機だったのだそうです(このセットはジャコパスも使用していたことで有名)。もちろんベースだけでなく、ジミヘンがロトサウンドの弦を使ってますし、ミック・ロンソンもロトサウンドでしたね。

 さて今回は別に弦の話ではありません。ロトサウンドは1967年にファズ・ペダルをリリースしています。過去にも何度か触れたことがありますが、SOLA SOUND社のTONE BENDERがちょうどMK2を製造した頃(=3つのトランジスタに戻った時)、自社ブランドのみならず、他社ブランドのOEM製造品として、MK2回路を持ったSOLA SOUND製ファズがいくつも誕生しています。ロトサウンドのFUZZ BOXもそのひとつにあたります。

 金色のものと銀色のものがありますが、金色はほとんど製造されていないと思われます。これが最初のロトサウンド・ブランドのFUZZ BOXになります。他では見る事のできないオリジナルの筐体を採用していますね。金色のほうが先に、銀色の方があとに製造されたことが判っていますが、中身は同じMK2回路です。金色の方はコントロールが「SUSTAIN」と「VOLUME」になっているのに対し、銀色のほうは「FILTRE」と「VOLUME」になっていますね。

 そして現在わかっていることは、このロトサウンド・ブランドのFUZZ BOXにはトランジスタにOC75やOC81Dを使ったものがある、ということです。両方の写真を掲載してありますが、キャパシタや抵抗に若干のパーツ違いがあるものの、配線方法や配線位置がほぼ同じことがわかります。実際にホンモノの音を耳にしたことはないのですが、どう考えてもSOLA SOUNDブランドのPROFESSIONAL MK2と同じであろう、なんてことが伺われます。一説によれば、このMK2回路のロトサウンドFUZZ BOXは「殆ど販売されていない」とのこと。これに関しては後述します。

 さて1968年、SOLA SOUND社のTONE BENDERがフルモデル・チェンジ(=MK3へ)したことに伴い、ロトサウンドFUZZ BOXも同様にモデル・チェンジしました。全てがTONE BENDER MK3と同様になり、筐体はワウのものを流用(VOX TONE BENDER MK3と同じ形のもの)、ノブも3つになり、回路基板はプリントに、という具合です。

 ご丁寧にどなたかがこの68年版ロトサウンドFUZZ BOXのMK3バージョンをバラバラにした写真を撮影されていますが、トランジスタはブラックキャップのOC75が3ケ使用されていることがわかります。ただし、別な報告によれば、トランジスタにBFY71を2ケ、NKT214を1ケ使用した、というものがあるとのこと。これは未確認なので、今後の検証が必要になります(というのも、実はBFY71やNKT214は90年代の再生産COLORSOUND TONE BENDERで使用されたトランジスタなので、それと勘違いしてるのかも、という疑いが残るからです)。

 以前にも写真を掲載したことがありますが、ジミー・ペイジがツェッペリン時代にこのファズをステージで使ったことがあります。このファズは1969年6月にジミー・ペイジの元に送られ、ペイジ本人は同6月16日、19日、24日、27日のBBC RADIOショウにて使用(写真はその時のもの)されたとのことです。白黒の写真のほうは6月19日の、後ろ姿の方は6月21日の写真です。

 さてさて、英国ロトサウンド社はなんと40数年振りに、このFUZZ BOXをリイシューすることになった模様です。先日ドイツのフランクフルトにて行なわれたミュージック・メッセにて2012年にFUZZ BOXを再発売することを大々的に発表。現在自社HPでもババンと紹介していますね。現時点でその中身とか発売日とか価格とかは未定なのですが、ロトサウンドといえばヤマハ(註:日本の代理店です)、というわけで日本発売も期待されるところです。

 製品名としてはROTOSOUND RFB1とう名前になるらしく、既に最初のロットの製造品がある、ということから、見かけることのできる日は近いだろう、と思われます。ロトサウンドの公式HPやメッセで公表された宣伝文句には、以下のようにあります。「1960年代のオリジナルとまったく同じ回路やレイアウトを忠実に再現し、現代の抵抗パーツ、キャパシター・パーツを利用して製作されています。いにしえのMOJOフレイヴァーと現代のテクノロジーを結合した新しいペダルです」

 この文章から、もしかしたらトランジスタはゲルマではないのかも、とも思われますが、中身に関しては全く定かではありません。そして以下の文章が続きます。「オリジナルのプロトタイプはほんのわずかしか製造されず、殆ど販売されていません。しかし、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが使用したことでよく知られるところでしょう」。勿論、宣伝文句としては疑う余地なく正しいモノではあります。なので、ペイジっつったらMK2でしょう?なんていうツッコミはここでは不要、ですよね。


3.24.2012

Manlay Sound - 65 Bender (Limited Metal Enclosure)


 以前チラリとご紹介したのですが、限定2ケ、というフザけた製造数にて(笑)つくりました、MANLAY SOUNDのMK1クローン・ファズ、65 BENDERの鉄製ケース入りです。実は既に1ケはお問い合わせいただいたショップさんに販売してしまったので、手元には1ケしかありません。今日の時点では、最後の1ケを売るかどうか決めてません。

 中身は木製ケースの65 BENDER限定版とまったく同じモノで、トランジスタはブラックキャップのOC75と、NOSパーツのテキサス・インストゥメンツ製2G381を2ケ、という構成で、ご覧頂けるように配線もオリジナルMK1と同様のタコ足配線になっています。なので、音は木製の限定版と同じです。あとは気分の問題、ですよね(笑)。

 お買い上げいただいた方ならご承知かと思いますが、限定版の65 BENDER(鉄製ケースも木製も)は、通常版のモノとは若干音が違います。それは勿論こちらで以前書いた通り、ちょっとだけ違う音を狙ったからという原因が大きいのですが、当方の所持するオリジナルの65年製のTONE BENDER MK1との比較において、やはり「どちらが近いか」と言えば限定版のほうが近いです。

 ただし、当方の所持品だけではなく、他にオリジナルのMK1を所持されている方に話を聞いたりすると、やはり個体差ってのが大きいらしく、「もっとダーク」な印象のものとか、「もっと歪まない」モノ、なんていう個体もあるようです。それに加えて、一部回路の差異が確認できている例の「初期型」の中には、音量も(おおげさに言えば)半分以下程しかない、というブツもあったりするので、「これが完璧なMK1クローンだ」等ということはできません。ただ、65 BENDERの限定版のほうの音は、当方の所持するオリジナルMK1に近い、ということは確かです。

 写真にもあるように、新品のマスタード・キャパシタを使用しているのは「正確な数値」を求めたためです。NOSパーツ(たとえばムラードのマスタード・キャパシタとか、本ブログでは既にお馴染みのHUNTSのキャパシタとか)を使うとリーケイジ(漏れ)の差が激しくて、音が安定しません。実はトランジスタに関しても全く同様のことが言えますが、そこは「オリジナルと同じ銘柄」にこだわったので、NOSパーツを使用しました。

 鉄製の筐体ですが、製造工場は不明です。当方がこれを入手したのはイギリスのPIGEON FXに「MK1のケースがあるよ。いる?」と言われたので「いるいる」と答えて2ケだけ購入したのですが、採算があわなかったのかなんなのか不明ですけどその後は販売していないようです(もうないの?と追加で聞いた所、確認してみるわ、と返事があったきり長らく音沙汰もないですし。笑)

 さて、スペインのMANLAY SOUNDでは、今回を機に通常版の65 BENDERにも小さな仕様変更を加えてあります。それは塗装の色です。いままでかなり黄色の強いゴールド・ハンマートーン塗装だったのですが、よりメタリックなイメージに近づけたかったこと、更には「今までの塗料が(強度的に)弱い」ということもあり、ご覧のようなシャンパン・ゴールドのハンマートーン塗装に変更になりました。たしかに当方が所持する一番最初の65 BENDERとかは、もう塗装がハゲまくっていますね(3年も使ってるのだから当然ですが)。色に関してはもう好みの範疇でしかありませんので「いい悪い」を言っても無駄ですが、とにかく変更になりました。中身はまったく変えていませんので、音には一切影響はありません。

 余談になりますが、最近(に限らず延々と)TONE BENDERてやつのセッティングをひたすら試しまくる、という作業に没頭している筆者ではありますが、(特にハムバッカーを使われるプレイヤーの方に)是非お試しいただきたいセッティングをひとつご紹介します。それはMK1の前にMK1.5を繋げる、というセッティングです。
 MK1.5はギターのボリュームをチョイ下げして、カリンカリンの音になるようにしておき(ただしあまり歪まない程度で)、その後にMK1を接続します。すると(誤解を承知の上であえて言えば)MK1の歪みにカリンカリンなトレブル成分を足すことができるんですよね。
 何故これをオススメするかというと、小さな音で(=つまり家やスタジオのアンプで)なかなかMK1の抜けのいい音が体験できない、という場合に有効かも、と考えたからです。実際に当方も、5Wの真空管アンプ(1VOLでトーンつまみ無し)、さらにはアンプ・シミュレーターを通してのライン録音、その双方でその効果を確認してみました。ファズ2ケ直列、というセッティングではありますが、MANLAY SOUNDの「65」+「66」で試した所、それほどノイズも気にならないレベルです。好き嫌いはあるかもしれませんが、機会があればお試しいただければ幸いです。


3.19.2012

Castledine Electronics - MK One Bender


 イギリスにて「wah-wah.co.uk」というアドレスで、ワウのモディファイに関する研究をしていたサイトがあります。まだVOXのグレー・ワウとかクライド・マッコイの中身の変遷等がそれほどメジャーではなかった頃からあったサイト(2002年にスタートした模様)です。当方も以前から何度も訪れたことがあったのですが、今はすっかりオリジナル商品を販売するサイトとなっております。

 ここのサイトはスチュワート・キャッスルダインさんという方が運営してるんですが、彼はTONE BENDER他英国産のファズの研究でも有名な方で、今は自分のブランド「CASTLEDINE」でワウやファズを通販にて発売しています。商品数は多くありませんが、ヴィンテージ・ペダルを研究しまくってる人なので、レア&マニアックなラインナップは今後も少しずつ増えていくだろうと思われます。CASTLEDINEの現在のラインナップは後ほどちょっとだけ触れます。

 で、今回ご紹介するのはそのスチュワート・キャッスルダイン氏が制作した、TONE BENDER MK1クローンです。しかも、当ブログにていろいろこれまで掲載してきたMK1とはちょっとばかり違う中身となっております。その事を検証してみたいと思います。

 MK ONE BENDERと名付けられたこのクローンは、極少数だけ制作されたモデル(4ケか5ケ、だったと思います)なので、ラインナップには含まれていないカスタムメイド品なのですが、これを制作した意図や狙いを本人が以下のように説明しています。

 彼が所持しているオリジナルTONE BENDER MK1は極初期の製造品(註:本人いわく)で、ラベリング他、見た目の違いもいろいろありますが、何よりも回路のデザインが異なっています。回路基板は真っ黒に塗りつぶされており、使用トランジスタやスイッチ他のパーツも通常のMK1とは結構ことなっています。で、CASTLEDINEでこれを完全コピーしたクローン・ペダルを作ってみた、というのが今回のMKONE BENDER、ということになるのだそうです。その証拠として氏はそのオリジナルのMK1も同時に写真を公開しています。

 さてさて、今回重要なのは、この「回路が黒く塗りつぶされた」オリジナルMK1です。果たしてこれがいつどのように製造されたモノなのか、イマイチ判別はできません。パッと見て筐体上にあるロゴの文字が全然違う事が誰にでもわかると思われますが、この書体を使ったMK1は65年のオリジナルのソーラー・サウンド製のブツに実際にあります。なのでその点はいいのですが、他の点がどうもよく判りません。

 ワイヤーやスイッチを含め、かなりの部分のパーツが新しいものに変更されていること、基板上に搭載されたトランジスタがすべてブラック・キャップのOC75を使用していること(一部キャパシタは最近のものに変更されていますね)、蛇の目基板を使って回路が組まれていますが、これは65年のオリジナルTONE BENDERではなかったこと、等、他にもいろいろと不思議な点が存在します。

 本人に「その辺ドーなの?」と聞いてみたんですが「オリジナルだと思う。手に入れたときからこうだった」とのことでした。本人は「木製プロトタイプの直後に作られた、鉄製筐体版のプロトタイプじゃないか」と言ってましたが、個人的にはそうは思えません。というのも、基板は木製プロトタイプのものも金色の製品版も同じレイアウトだったからです。蛇の目基板ではなく、タコ足配線でポットに直に付けられていたという、原始的なものだったことはご承知の通りです。

 オリジナルのTONE BENDERが発売されたのが65年ですが、その翌年、SOLA SOUNDはマーシャル・ブランドのためにTONE BENDERのOEM製造をスタートさせた、という話を以前こちらで書きましたが(その結果出来上がったのが、67年に発売されたMARSHALL SUPA FUZZなわけですけど)、そのSUPA FUZZの初期プロトタイプにはMK1回路が搭載されたものがあった、ということは現在既に確認されています。その初期MK1回路ってのが、実はここで載せたOC75を3ケ使った蛇の目基板のMK1回路にそっくりなんですよね。

 66年には既にSOLA SOUNDでは自社製品としてMK1を作っていない時期にあたります。ですが他社向けOEM製造品としてわずかながら生き残っていた、ということになります。そんなこともあって、実はこのCASTLEDINE MK ONE BENDERのモトになったオリジナルのMK1は、66年かそれ以降に作られたものではないか、と推測しているのですが、いかがでしょうか。

 CASTLEDINEが制作したクローンはデモ映像がアップされています。音は例の「中域に思い切り偏った」MK1独特の歪みですね。テレキャスを使ってこれなので、かなり信号がブーストされていることもわかります。見た目やトランジスタは結構違いますが、回路はおそらく通常の(基本的な)MK1と同じもの、と思われます。

 CASTLEDINEではこの金色の筐体に入ったモデルはすでに作っていませんが、今購入できる製品ラインナップとして、VOXのグレー・ワウのクローン、VOXのクライド・マッコイ・ワウのクローン、それからTONE BENDER MK1回路をモディファイした「SUPA MK1」というファズ、シンエイUNI-VIBEのクローン・ペダル「SPURA-VIBE」、そして(ちょっと珍しい企画だと思います)ビートルズが60年代中期にレコーディングで使ったVOXのトランジスタ・アンプの音を再現するために作ったというプリアンプ「MAGICAL MYSTERY BOX」なんていうものを現在発売しています。今後もCASTLEDINEからはそういう「一風変わった」ブリティッシュ・ペダルのクローンを期待したいところですね。


3.13.2012

Masayuki Mori Interview - Part 5



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——今思い出しましたけど、TUBE SCREAMERのモディファイものを片っ端から試してる、っていう森社長の写真をネットで以前拝見したことがあります。オーバードライブもやっぱり気になりますか?
M:ああ、楽器屋で、って写真ね。そんなに懸命に試したんではなくて、あの楽器屋さんにはフラっと入ったカンジですけどね。たしかにTS系はマーシャルとの相性はいいとは思いますけど、TS系っていっちゃえばランドグラフもその系統ってことになっちゃうし。でもさあ、たとえばオーバードライブの名器といわれるBOSSのOD-1だけど、そんなに有名な使用者が海外にはいないですよね。DS-1とかも。
——んー、僕が知ってる中では、カート・コバーン(註:BOSS DS-1を使用)くらいですかね。
M:単体のエフェクトとしては、オーバードライブもディストーションも中途半端なカンジがするんですよね。それだったら、もっと潔いファズのほうが楽しいジャン、って(笑)。
——潔い、つまり不器用なってコトですけどね。
M:ところがさっき言ったように、「巧み」が使うと素晴らしい音をヒネリ出すんですよね、ファズって。そのファズの中でも、例えばさっきのシンエイ(UNIVOX)のファズなんかは、海外の人には作れないだろうっていう、変わったモデルですよね。低い音だとディストーションなのに、12フレット以上の音だと発振しまくる、っていう(笑)。日本人もスゲエだろ、ってカンジですよ。
——「日本をなめんなよ」と(笑)。でも森社長のエフェクターは、みんなスゴイ奇麗ですねえ。
M:ギターもそうなんですけど、出会った時が買うとき、なんですよね。「おっ、いいねえ、じゃあ今度考えよう」とか思ってると、もう次がない、というブツばかりですから。
——余談ですけど、今森社長はギター何本お持ちですか? あのー、その中身が凄いのは今までの雑誌やなんかで承知の上なんですが、どうやって管理とかしてるのかなあ、と思いまして。
M:随分ギターも減らしたんですけどね。でもギター用の部屋を設けてます。空調2台入れてますね、そこには。
——2台(笑)。
M:でもねえ、空調がどうだろうが湿度をどう管理してようが無理なモンは無理(笑)。ほとんど諦めてますね。
——オーダーでギター作ったり、なんてことは?
M:いえ、僕はオーダーをしないんですよ。僕はね、楽器職人が「楽器としていい音」を目指して作ったギター。それを使い倒したいっていう考え方なんですよ。
——なるほど、楽器職人さんとの勝負、ですね。
M:いやいや、そんな偉そうな話じゃないですけど(笑)。関係ない話だけど、マスタービルダーのジョン・イングリッシュ(1970年からフェンダー社でギターを製造したビルダーで、カスタムショップにおける「マスタービルダー」のトップに位置した人物。2007年逝去)と偶々話をする機会があって、その時に聞いたことがあるんですよね。あなた方マスタービルダーは、材のチョイスとか作り方とか、そういうスキルが素晴らしい方々ばかりなのに、なぜみな「ビンテージ」のギターを再現するのにこだわるのか、と。つまり50年代はパートのオバチャンが決められたネジの数と行程だけでオートコンベアで出来上がったギターなハズでしょ。マスタービルダーはネックの材をひとつひとつ選び、行程も理想に近いものを毎回試行錯誤して作る、という、全然別な方法でギター作りをする人なのに、なぜ「自分の理想のギターを新しく作らないのか」ときいたんですよ。
——ほぉー。
M:そしたらね、彼が言うには「大変いい質問だ」と(笑)。「だが、我々とあなたではひとつだけ誤解がある。ベルトコンベアで何万本か作られたギターなのはたしかだけれど、古ければ全部ビンテージ・ギターというわけではない。その何万本の中で、いまの時代、現在に求められるプレイヤビリティーとサウンドに応えるギターは数本か数十本しかない。我々はそれを求めているんだ」と。「ワインと一緒だよ。何年に製造されていようが、今飲んでマズイものはマズイ。ウマイものはウマイ。自分たちは今飲んで旨いワインを作りたいんだ」と。それとね、ジョン・イングリッシュがこれまた面白いことを言ってたんだけど、「我々は製作家ではあるが、その前に演奏家なんだ」と。
——えっ、そうなんですか。レオ・フェンダー(1909年生まれの電気技師。フェンダー社の創業者だが、自身はギターが弾けなかったことは有名。1991年逝去、92年にロックの殿堂入り)とは大違い、というか真逆ですね(笑)。
M:「プレイヤーが何を求めているか、その汎用性を兼ねそなえた現代のギターを作るのが我々の仕事なんだ」とね。でもね、そこでもうひとつ質問したんだけど「じゃあ形は?あのストラトの形から離れないのは何故?」って。
——そうですよね。可能性は他にも探るべきですよね。
M:そしたら「テレキャスターが出来上がったことが、まず最初の奇跡。あれはレオ・フェンダーの理想だったハズだ。次に生まれたストラトキャスター。これは最初の奇跡を越えた奇跡中の奇跡。もうひとつの奇跡があって、それはギブソン社で生み出されたレスポール。その後の試行錯誤はもちろんあり得るかもしれないけど、その3つの奇跡を越える奇跡を生むのは、計画しても生まれないだろう、というくらいの完成度がある」と。
——んー、確かに人体工学とか素材とか新しい試みで出来たシェイプのギターが、過去のストラトとかテレキャスを凌駕するようなことは、今の所ないですもんね。アラン・ホールズワースが「スタインバーガーはストラトが発明されて以来の革命だ」と言ってましたけど、今はもう彼はスタインバーガーを使わないですからね(笑)。
M:たしかに昔のギターに関して言えば、パっと見て「〜〜の〜〜年製だ」とわかるくらいにはなりたいと思ってたこともあるんですけど、「あそこのネジが何個かだけマイナスだ」とか、だんだんドーデモイーヤ、と思うようになってきてね(笑)。使えないペグとかサビたマイナスネジとか、どうでもいいじゃんか、と。僕とは関係ない話だ、と思ってますね。だから個人的にはコンバージョンものでも大歓迎、ってカンジだし。
——森社長はバーストをお持ちでしたよね。
M:ええ、58年と59年。60年は持ってないんだよね。太いネックのほうが好きなんで、あの60年の平べったく薄いネックを握ると、もうどうしていいかわかんない(笑)。SGなんかも一緒。ボキっと折れちゃうんじゃねえか、と。
——クラプトンはスリムネックになった60年製こそがすべて、って言いますし、ジミー・ペイジのもあんだけ薄く削っちゃってますよね。女子高生向きなんじゃねえか、っていうくらい(笑)。どっちがいいかは置いといても、ネックの太さってギターの音にダイレクトに直結しますよね。
M:ジョン・イングリッシュはね、「ギターはネックだ」って断言してましたよ。ネックがしっかりしてないとしっかりした音は絶対でないって。だからねえ、GIBSONでもレスポール・ジュニアとかのネックは、侮れないんですよね。ナンダこりゃ!ってくらい凄い太い音だもんね。1マイクで、ブリッジもあんな原始的なモノなのに(笑)。
——これは僕の個人的な見解なんですけど、あの時代のホンジュラス・マホガニー材って最強だあ、って思ってるんですよね。重さはもちろん重いのも軽いものありますけど。今のモノとは音が全然違うなあ、と。
M:あ、それはもちろんそうですよね。今の製品をあんまり批判するつもりはないけど。ただ「同じか?」と言われれば「違う」としか言い様がないよね。
——他にもレスポール、沢山お持ちですよね。
M:うん。56年のゴールドトップとか。TOMになった最初の年のもの、ね。マイクはP90で。
——森社長のバーストは、やっぱり虎杢に惹かれてほしくなった、ということですか?
M:いや、僕の59年はほぼプレーン。58年の方はちょっと虎も入ってるけど、フレットはフェンダーものより細いんじゃねえか、ってくらい細い。
——バーストの伝説のひとつに、トップのメイプルの厚さが全部バラバラで違う、っていうのがありますけど、森社長はメイプルの厚さ測ったりしたことありますか?
M:いや、そこまで確かめたことはないですね。僕のはそんなに重いギターじゃないけど。ダブルホワイツ(57〜60年頃に生産されたPAFピックアップでも、59年中頃以降に製造された、ボビンが両方ともクリーム色のもの。PAFの中でも最もレアなものとされる)のせいかもしれないけど、他のギターに比べてとにかく音はバカでかいですね。あのー、僕もいい加減なので偉そうなことは言えないんですけど、最近は「音を追求する」ってことのプライオリティーが下がってきてる、と思うんですよ。エフェクターの場合でも、安いオーバードライブがダメっていう意味じゃなくて、安いオーバードライブでなんでもかんでも出来るわけじゃない、ってところを考えちゃうんですよね。
——んー、なるほど。同時に「値段が高ければいいわけでもない」に通じますよね。まあ、最近の音楽という意味では、ギターソロの需要さえ少ない時代ですし…
M:最近の音楽…… こんな言葉使うと「またジジイがなんかいってらー」とか思われるんだろうけど、たとえば「歌が上手い」っていうのは「カラオケが上手い」ってことと意味が違いますよね。そういう点がね、今はどんどん曖昧になってると思うし。
——あ、それはそうかも知れませんね。今の時代は、ギタリストっていう存在意義も変わってきたとは思うんですよね。たとえばツェッペリンってバンドには、大暴れするリズム感の悪いギタリストと、暴走しまくるドラムがいますが(笑)、それなのにちゃんとボトムもリズムもキープさせるベースがいますよね。彼がいるから、ペイジもボンゾもひっくるめてツェッペリンの「音」は凄まじいものになったのかも、と思うんです。
M:ジョン・ポール・ジョーンズがいないと、成り立たないバンドなんだよね。ロバート・プラントってギターとの掛け合いのアドリブの時「ah yeah」「a-ha」くらいしか言わないで、あんまりダラダラとつき合わない、ってのもよく判るんだよねえ。そんないつまで続けるのか判らないペイジ&ボンゾのデタラメな掛け合いに、そんなに従順につき合ってらんねえよ、みたいな(笑)。
——(笑)ツェッペリンはあの時代だからこそ成立したのかもしれませんね。
M:でも、ジェフ・ベックの場合は今でも昔のままのジェフ・ベックで、あれはあれで笑っちゃいますよね(笑)。もうサイコー。まさに円熟期。ベックはムラが酷い人だから、気分次第でメロメロになることもあったんだけど、今はすごい安定してるし。ベースの彼女(タル・ウィルケンフェルド)つれて世界回るのが楽しいのかなあ、とか(笑)。
——今はドラムの彼女(ヴェロニカ・ベリーノ)ですね。しかもどうやらベックはあの娘をYOUTUBEで見つけた、っていう(笑)。
M:えっ、そうなんだあ(笑)。ったく、何やってんでしょうね(笑)。

special thanks to Office Kitano and The Effector Book. ©2012 Tats Ohisa / Buzz the Fuzz

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森社長のコレクション その5 CARLSBRO SUZZ + UNIVOX SUPER-FUZZ

 CARLSBROといえば、TONE BENDER MK3と同じ青いファズで知られると思いますが、70年代に入ってからはSOLA SOUND以外でもOEM製造を委託して別なペダルも発売しました。こちらの「SUZZ」はその名の通り「FUZZ+SUSTAIN」をうたったもので、よりディストーションに近いファズ。71年以降に製造されたもので、その初期モデルはシリコン・トランジスタ、70年代後半にはオペアンプを使用したものが製造されています。筐体を見て思い出した方もいると思われますが、このペダルの製造はおそらく(以前紹介した)WEM(ワトキンス)社の後期型RUSH PEP FUZZと同じ工場だと思われます。
 最後のUNIVOX SUPER-FUZZは、既にファズの世界では有名なペダルですよね。日本のシンエイという会社がOEM製造を行なっていたもので、ピート・タウンゼンドが70年代に使用したことでも有名です。ただし同機は時代によってスペックが変わり、写真にある初期モノはノブ2ケが筐体横に配置。後期モノはラバーパッドのついて、ノブの位置も筐体前面に移動されてます。歪みを増やせばアッパーオクターブ成分が徐々に追加される、という仕組み。この初期型のSUPER-FUZZは日本のHONEYというブランドが出した「BABY CRYING」というファズと見た目も中身もほぼ同じ、とのこと。



3.12.2012

Masayuki Mori Interview - Part 4



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——TONE BENDERに限らず、ゲルマニウム・トランジスタを使ったファズって「もの凄くアンプを選ぶ」と思うんですけど、いつもアンプ側はどうセッティングされてるのかなあ、と。
M:特にこの季節(冬)、鳴らない日は鳴らないですからねぇ。
——イギリスも冬は寒いですけど、知り合いに聞いた所、みんなドライヤーとかであっためるそうですね。
M:まあ僕は最近はすっかり自宅ギタリストですから、盆栽を楽しむ感覚でしかギターに触ってないですけど。
——なんか、スッゴイ高級な盆栽が目の前にゴロゴロと置いてありますが(笑)。
M:いえいえ(笑)、何年もかけて結果的に集まった、というだけなんでね。一気に集めたわけでもないですし。
——TONE BENDERクローンも色んな所からいろいろ出てますけど、どの辺りをお持ちですか?
M:もちろんJMIのは持ってて、それからD.A.M.のも持ってます。あとMACARI'S(現行のSOLA SOUND製品)も。あとね、個人製作家のモノもかなり持ってますね。OC75を使ったTONE BENDERクローンは割と手に入りやすいですよね。
——そうですね。とはいえ、楽器屋さんに行って手軽に買える、ってモノではないですけど(笑)。
M:D.A.M.のは試してみて「あー、いいじゃない」と思ってたんだけれども、OC81Dていうトランジスタはどこか神格化された部分があるでしょう? D.A.M.のクローンでもOC81Dを使ったものがあるんだけど、それはなかなか手に入らないし、あってもメチャクチャ高いし(笑)。それでそれ以降意識していろんな製作家のMK2でOC81Dを使ったモノを集めたりしたんですよ。
——SMITTY PEDALSとかLUMPY'S TONE SHOPとか、ですかね?
M:んー、名前は覚えてないんだけど、フランスの製作家もいたり、イギリスの人もいたり。でも、音はたいてい似通ったようなモノですけどね。
——あー、それはやっぱりD.A.M.フォーラムの影響が大きいでしょうね。今ブティック系ビルダーは皆あそこで情報共有しちゃうので。パーツとか定数とか全部ディスクローズしますからね。
M:MACARI'SのTONE BENDERで、D.A.M.が作ったのがあるじゃない?あれは石は何だったっけ?
——いまMACARISから出ていものは、ムラードのOC84を使ってますね。
M:でもカスタムメイドかなんかでOC81Dを使ったのもあるんですよ。
——あ、それは知りませんでした。お持ちなんですか?
M:うん。でもね、D.A.M.が作ったそのOC81DのMK2は、全然抜けなくて、コンプがかかったような抜け切らない、埋もれた音なんですよね。他のD.A.M.のTONE BENDERは、それなりに抜けのいいファズなんだけどね。そうは言ってもD.A.M.のファズは、たとえどんな石を使っててもやっぱり「D.A.M.の音」がするんだよね。
——あ、そうですよね。一定のカラーがありますよね。
M:あと安定してる。でも今MACARI'Sから出てるMK2っていうのは、D.A.M.製なんだけどあんまり安定してない。どうしてなんだろうね。やっぱり石の問題なのかな。それとも作る方向性を変えてきたのかな。
——どうでしょうね。彼はいまだに延々と試行錯誤してる、というカンジですもんね。トランジスタに関しては、今はMAGNATECのAC128をよく使うようですけど。
M:D.A.M.が最近作ってる小さくてカラフルなペダルって、「日本のエフェクター」、それこそBOSSとかマクソンなんかのコンパクトなエフェクターに対する憧れがあって、ああいう色にしたんだって聞いたよ。ああいうBOSS的な体裁にしてみたい、っていう。
——へー、そうなんですか。森社長はJMIのTONE BENDER PROFESSIONAL MK2のMULLARD OC75版を既にお持ちとのことですが、今回入手されたMULLARD OC81D版は実際に音出されてみて、いかがでしたか?(註:写真は左から、ムラードOC75を使ったJMIのMK2、OC81Dを使ったJMIのMK2、それからD.A.M.製造のSOLA SOUND MK2復刻版)
M:なんて言うんだろう、ほとんどもうニュアンスの違いくらい、ですよね。どっちがどう、とは言いきれるものではないですよね。
——ええ、それはその通りですね。それでもほんの僅かですが、僕が試した印象ではOC75版のほうは埋もれずにスッキリと抜けてくれる、という印象だったんですが。
M:少〜しね、OC81Dのほうは若干おとなしい、というカンジがしましたね。
——あ、そうですか。暴れるカンジではない、と。
M:そうね、OC81D版はよくも悪くもまとまってるというか。個体差もあるから一概には言えないんだけど、とても「整ってる」という印象ですね。メーカーはもちろん「音をまとめよう」として作ってるんだろうけど(笑)。 
——ちなみに森社長は、乾電池なんかもいろいろ試されるタイプですか?
M:あ、いやそこまでこだわりがあるわけじゃないです。基本的にデュラセルに統一してますけど、他をアレコレ試すことはないですね。
——ウチのHPでファズを購入されるお客さんには、結構電池にこだわる方もいらっしゃるんですよね。〜〜が一番いい、とか〜〜ボルトまで電力の落ちた状態が一番いい、とか研究されてる方が。さっきのオリジナルのTONE BENDER MK2 OC81Dに話が戻りますが、入手は大変だったんじゃないですか?
M:でも、どこまでがオリジナルか、は保証できないですよね。売る方は「オリジナルだ」って言いますけど。まあご丁寧にダメになったゴム足まで付けてくれた、ってことは「ほら、嘘じゃないぞ」っていう売り手のアピールなんでしょうね。でもヘンな位置に小さい穴が開いてたり、裏蓋がビミョーにずれてたり、「え?ホントにこんなにいい加減な作りなのかなあ?」って疑心暗鬼にはなりますよね。
——僕の知る限りでは、この位ならよくある、ってレベルでいい加減だったようです、当時は。作った本人(ゲイリー・ハースト)に聞いても覚えてない、っていうことも多いんですよね。
M:まだFUZZ FACEのほうが、TONE BENDERよりは判ってる事が多いでしょうね。TONE BENDERに使われてるトランジスタに関してもね、たとえばD.A.M.なんかがよく解説してるようなトランジスタの特性は、まあ一応僕もその通りだとは思うんだけど、実際にオリジナルのOC81DのMK2を買ったら、そんな細かいことなんて関係ねー、ってくらい音もバカでかくて。
——例えばジミー・ペイジ本人は、石がOC81Dかどうかとか、おそらく気にしてなかったと思うんですよね。
M:絶対気にしてないでしょう。ジミヘンのFUZZ FACEも、シリコンかどうかを気にしてなかったでしょうね。
——これは聞いた話ですが、ジミヘンが使うギターを選ぶ方法っていうのは「その日一番チューニングが合ってるギターを手に取る」だったそうなんですよ(笑)
M:(笑)。でも「奥が深い」てのはそういうことなんですよね。いいモノかどうか、いい音かどうか、っていうのは使われてる石とか、スペックとかでは判明できないですからね。
——TONE BENDER以外のファズで、いろいろ研究した、というのは?
M:やっぱりエレハモ関係(BIG MUFF)かなあ。トライアングルとラムズヘッド。その初期のほうが面白いですね。今でもエレハモは面白いモンが出すんですけどね。グラフィック・ファズとかね。
——ラムズヘッドの頃までは、全く同じ回路のBIG MUFFはひとつもない、ってことなんですが。当然音も違って、マフもホント難しいですね。
M:トライアングルもそうだし、当然TONE BENDERなんて全部一個一個音が違うんですけど、開発者がどういう音を目指してたんだろう?とかよく考えちゃいますよね。
——トレブルブースターなんかはどうでしょう?
M:一時ハマりましたね。今もOC44を使ったのを1ケだけ持ってるんですけど。トレブルブースターもフルレンジ・ブースターでもそうなんですけど、最初は僕もブースターの使い方がよく判ってなかったですね。プリアンプ的な使い方がおそらく一番多いパターンなんでしょうけど。僕がピート・コーニッシュのブースター(註:右の写真はTB-83TM。同機種はフットスイッチのついたカスタム版もある)を入手した時に、「これは一体どうやって使うモンなんだろう?」って悩んだんですよね。あれはフットスイッチもついてないし。で、そんなことを考えてたときに「これは全部ギターのボリュームで調整するモンなんだよ。トレブルブースターてのは、本来はそういう使い方をしたモンなんだ」と聞いて。あ、なるほど、と思ったんですよね。以前はそういうことを楽器屋さんも知らなかったですし。楽器屋さんならたいていブースターを「ソロでオンにして歪みや音量を増やして〜」って説明することが多いと思うんですけど。
——そうですね。
M:ブースターも結局本来は、「ソロになったら音をブワーとデカくする」というエフェクターではないんだぞ、ということですね。それに「トレブル」ブースターっていうくらいだから、アンプ側のトレブルをどうしとくかも重要なわけで。
——ロリー・ギャラガーもブライアン・メイも、AC30のノーマル・インプットを使いますもんね。
M:そう。そしてロリー・ギャラガーもギターのツマミをこまめに気にしてる。だから、TONE BENDERもトレブルブースターもそうなんですけど、使ってみて教えられること、っていうのが非常に多いですね。オーバードライブを使い続けていたら、知る事はなかっただろう、っていう知識。
——なるほど(笑)。オーバードライブの方がたしかに明解で判りやすいすもんね。
M:ましてや今はデジタルの時代ですからね。私はもの凄いアナログの人間ですから、その便利さはわかりますけど、あまり持つ気にはなれないですねえ。
——まあ、デジタルのマルチをドライヤーであっためるなんて人は、世界中のどこにもいないでしょうねえ(笑)。
M:今日はエフェクターの機嫌が悪いぞ、とか(笑)。デジタルではあり得ない、っていう。

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森社長のコレクション その4 PARK FUZZ SOUND (1968)
 1968年にSOLA SOUNDが他社ブランドのために製造したTONE BENDER MK3のOEM製品のひとつが、このPARKのFUZZ SOUND。既に有名ですが、PARKはマーシャル社のサブ・ブランドとして機能していたブランドなので、考えてみればマーシャル・ブランドのSUPA FUZZの後継機種としてこのFUZZ SOUNDを売り出した、と言えるのかもしれません。写真を一見してわかるように、SOLA SOUND製MK3との違いは表の塗装だけです。が、個体差の問題や製造時期による細かな定数/パーツの違いもあってか森社長いわく「音は違う」とのこと。PARKのFUZZ SOUNDには、こちらのようにSOLA SOUND製品と同じ筐体/コントロール(3ノブ)のものと、それとはちょとだけ違う2ノブ(こちらは筐体がVOXのTONE BENDER MK3のような形のもの)とがあります。どちらも回路はMK3回路で、2ノブのほうは「TRABLE・BASS」のノブがありません。そちらは機会を見てまた改めてまとめて紹介するつもりです。



3.09.2012

Masayuki Mori Interview - Part 3



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M:で、今日このへんを持ってきてみたんですが。
——あ、ホント申し訳ありません。重くてデカいのバッカリで、恐縮です。
M:これがね、OC81Dが使われてる、60年代のTONE BENDER PROFESSIONAL MK2
——えっ! うわー、僕ホンモノ触るの初めてです。開けて中見せてもらってももいいですか?
M:ええ。どこまでオリジナルかは、僕には断言できないんですけど。これねえ、ボリュームのノブが10時くらいでもう爆音。音デカくってねえ。
——あ、そうなんですか。MK2はそれほど出力がバカでかい、ってカンジではないものが多いんですけど、そのあたりは石のせいなのかもしれませんね。トランジスタが1ケだけホワイトジャケットなんで、もしかしたらトランジスタは後でちょっと弄られたっていう可能性も否定できないですね。
M:あと、マーシャルのSUPA FUZZね。これがまたスッゴクいい音なんですよね。これはねえビックリしました。
——こっちのトランジスタは?
M:OC75。さっきのOC81Dより出音はオープンなんだけど、枯れたカンジがして、音的にはこれが一番好きかも。SUPA FUZZもそうだけど、TONE BENDERは同じモデルでも中身はけっこう違うのが多いですね。
——さっきのOC81Dの入ったMK2とマーシャル SUPA FUZZとの比較でいうと、どういう差をお感じになりますか?
M:「コレでも食らえ!」っていう使い方をするなら、OC81DのMK2ですね。とにかくサスティンが凄いあるので。SUPA FUZZはそこまで強烈ってカンジではなく、枯れたイメージがあるから、音も控えめに出してやったほうがすっごいいい音になるんですよね。ストラトでこれ通せば、もうタマンナイ!って音になりますよ。
——OC81Dのほうでストラトを通すと、どういう印象でした?
M:もうストラトもなにも関係ない、ってくらい直線的ですね。ワビサビもへったくれもない、っていう(笑)。
——OC81Dはいわゆる“ジミー・ペイジ仕様”なわけですけど、レスポール使ってペイジはコピったりしましたか?
M:ん、まあやってみたけど、でもあのムチャクチャさは真似できないですよね(笑)。それに、レスポール使うくらいなら、テレキャス使ったほうが所謂ペイジっぽい音にはしやすいし、ね。
——TONE BENDERのMK1であれば、「爆音・爆歪」なんで、僕もツマミは9時くらいまでしか回さないんですけど。このOC81DのMK2も、そんなカンジですか?
M:うん、10時とか、そんなモンですね。いきなりピークが出ちゃうというか。コントロールは難しいですね。それから次が、VOXのこれ(イタリア製TONE BENDER)。これはシリアルが凄く若かった(1500番代)、ということもあって買ってみたんだけど、これ、凄くいい音なんですよね。同じモノでシリアルが6000番代っていうのもあって、ミントっていえるくらい奇麗なのをこの後に買ってみたんだけど、音がちょっと違うんですよね。若いモノのほうがまろやか、っていうか太い。こっちの若いほうは、完全に音で決めて買いましたね。
——一般に、イタリアのTONE BENDERは「MK1.5回路」の中でも、カリカリで音が枯れる印象があると思うんですが。見せていただいた限りこれの回路はフルオリですけど、音はそんなに太いんですか?
M:うん、フットイですね。もう一個もってるVOX TONE BENDERは、箱にビートルズの絵が書いてあるもので、ほんとにド・ミントなんですけど、すっかり飾りですね(笑)。もうプラグインすることもないでしょうね(笑)。イタリアのTONE BENDERも、見るたびに中身違いますよね。
——ええ、全く同じ中身のもの、見た事ないですね。まあこの時期のイタリアものの場合はワウも同様ですけど。
M:それから、この青いヤツ。
——あ、PARK FUZZ。お持ちですねー。スゴイ。
M:これもねえ、凄いいい音ですよ。銀色の(TONE BENDER MK3)も持ってるんだけど、音が違いますねえ。
——回路は同じハズなんですが、トランジスタがモノによって全然違うモノを使用してる、っていう噂がありますね。僕の持ってるSOLA SOUNDのMK3は銀色で無印の石なんですが。
M:これもトランジスタはそれ。「歪み」のツマミを回すと、それに従ってちゃんと歪んでくれる、という(笑)。
——(笑)。ホントはそれがフツーなんですけどね(笑)。TONE BENDERとしては、逆に珍しい、というか。
M:出音のね、上っ面の部分だけが歪むんじゃなくて、コシのある歪みというか、しっかりと歪む、というか。
——TONE(TREBLE・BASS)のツマミが凄い効きますよね、これ。
M:凄い効くよね。それと僕が大好きな、日本が誇るシンエイのファズ(UNIVOX SUPER FUZZ)ね。オクターブ・ファズもいくつか試したんですけど、ラバーパッドのついたモノより、こっちのほうが凄く良かった。
——ツマミが時代によって違うんでしたっけ?
M:そう。この最初のモデルはオクターブ成分のコントロールができない。これねえ、何故か12フレット周辺より高い音を出す時オクターブ成分がブワーって出て、そうでない時はフツーのファズ、というか単純なディストーション・サウンドになる、っていう。まあいい加減といえばいい加減な作りですよね(笑)。それから最後に、これ。これはあなどれない、っていうCARLSBROのSUZZ。そんなにレアでもないし、あっても値段は安いんだけど。
——うわー、SUZZもお持ちですか。
M:これ、まったく正当な評価を受けてない、っていう気がしますね。いわゆるディストーション的なファズなんだけど、すっごくコントロールしやすい。
——トランジスタはシリコンでしたよね。
M:そうです。サスティン&ファズだから「SUZZ」だと思うんですけど。ちょっとコンプがかかったカンジで、歪みはそんなにバリバリって強烈なものではないけど、ディストーションよりはエッジが思い切り立ちますよね。
——TONE BENDERと同じように、アンプは選びますか?
M:いや、SUZZはそうでもないですよ。一時、多分70年代かな?クラプトンが使ってた、という噂がありますよね。
——え、それは知りませんでした。今のクラプトンはもう「機材?何でもいいよ」ってカンジだそうなんですけど。
M:私はね、フェンダーが一番最初に出したレースセンサーの載ったクラプトン・モデルのストラトってやっぱり名器だと思ってるんですよ。でも使ってる本人が「どうでもいい」ってなっちゃうと、ねえ(笑)。なんだかアルバムも最近はどんどん企画色の強いアルバムばっかりだし。
——(笑)。話が脱線しますが、森社長的には今回のウィンウッド&クラプトンのリユニオンはどうですか?
M:一応僕はリアルタイムでブラインド・フェイスを夢中になって聴いた方ですが、我々のような口の悪いタイプのファンからすれば「できればバラバラで来てくれた方が嬉しかったなあ」と(笑)。
——クラプトンの昔の機材っていうのも、謎が多いですよね。クリーム時代の歪みが何かは画像等で確認できないんですよね。ワウは当然のように使ってるんですが、アンプもコロコロ変わるし。あ、そういえば森社長の「スタンダード」アンプって何ですか? さっきのストラトと同じで、基準にしてるアンプ、っていう意味ですが。
M:最近はすっかりマーシャルに戻った、というカンジですねえ。ちょっと前にマーシャルの小さいのが出たんですよね。家ではもっぱらソレ。
——あ、5Wのヤツですか?(CLASS5) あれ楽しいですよね。
M:手間も楽だし、スピーカーも1ケだし。でも5Wでも音でかいです。5Wなのにアッテネーターかますっていうのもなんだか馬鹿馬鹿しいんだけど。でもあの歪みはいいですよ。しかもなぜかイギリス製だという(笑)。
——ええ、CLASS5最大の謎が「英国製」ってことですよね(笑)。

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森社長のコレクション その3 Marshall Supa Fuzz (1968)
以前こちらこちらのポストでマーシャルSUPA FUZZの年代ごとの違いを比較検討しましたが、それに照らし合わせれば、こちらの個体は筐体のエッジが丸みを帯び、ロゴがラベルプリントになったもので、恐らく68年頃に製造されたと思わしきマーシャルSUPA FUZZ中期の個体。極端に言えば、TONE BENDERのMK2回路を持ったファズは、ギターのボリュームに敏感に反応するオープンな歪みのものと、モーモーに暴れ狂う激歪タイプと、おおむね2タイプに分かれると思われます。こちらのSUPA FUZZは実際にお話を伺うと前者の方に分類されることがわかります。現行商品でたとえるならば、ムラードOC75を使ったJMIのMK2は前者に、ムラードOC81を使ったJMIのMK2は後者に、というカンジでしょうか。それにしても森社長の所持するペダルはどれもすごく奇麗な状態のモノが多くて、それを伺った所「出会った時が買うときだから」と仰ってました。


Masayuki Mori Interview - Part 2



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——ビンテージ・ペダル、つまりオリジナルの古いペダルにこだわりはありますか?
M:いや。エフェクターの場合はね、フェンダーやギブソンの初期のギターのように(その差が)大げさではないでしょう。けれど例えば最初のファズ、マエストロのFUZZ TONEね。あれさあ、正直言って今使えないでしょう?(笑)
——(笑)。とても難しいですよね。少なくとも近代的なファズっぽい用途には全く向かないですね。
M:ブチブチブチブチーっていう、あの音(笑)。あれを使うと、ギターがギブソンかフェンダーかはもう全然関係ねえや、っていう。
——アハハ、そうですよね。ストーンズの完コピする以外に、なかなか用途が見つからないっていう。
M:そこで考えるんですよね、ファズの完成形ってなんだろう?って。Z.VEXのFUZZ FACTORYなんかを試してみても、よく言われるように飛び道具的な使い方にやっぱり終始してしまうんですよね。
——FUZZ FACTORYも基本回路はFUZZ FACEを参照に作られてるハズですが、FUZZ FACEでは絶対にできないような使い方を想定してるっぽい作りですもんね。
M:で、そこで今でもよく考えるし、考えるのがまた楽しいんだけど、石(トランジスタ)によって音が違うとか、回路をちょっと変えただけで使い勝手が思い切り変わっちゃう、とか、歴史を含めてそういういろいろといい加減な部分が、楽しいんですよねえ。
——いい加減ですよね(笑)。で、一番楽しいんですよね。
M:だいたいFUZZ FACEにしたって基板には9ケしかパーツが載ってないし、TONE BENDERだってあきらかに無駄に大げさな筐体だし。でもそのガタイによって出音は変わるハズなんですよね。
——それは以前、土屋昌巳さんも同じ事を仰ってましたね(註:ギターマガジン2010年5月号のインタビュー)。鉄製の筐体に落とされるグラウンドの量に影響する、と語っていたのですが。
M:まあアンプにしても同じですけどね。回路が同じであっても、ガタイが変われば出音は変わりますよね。エフェクターは小さい機材だから、それほど大きな違いにはならないにせよ。
——試すときって、ギターはどういう基準で選びます? 試奏するときのギター、って意味ですけど。
M:最近はストラトが多いですね。あのね、レスポールって、音が安定してないというか、基準にしにくいんですよね。ストラトなら、たいていどんなギターでも「ストラトらしい」っていう基準がしっかり出てくれるから、判りやすい。ホントはレスポールのほうが自分の欲しい音を測るのにはいいんだろうけど、外ではストラト。
——ジミヘンの使ったストラトのグレーボビンPUは、出力が低いってことで有名ですけど、シーザー・ディアス氏(註:ギターテック/アンプ&エフェクト・ビルダー。スティーヴィー・レイ・ヴォーンの親友でもあり、SRVのギターやアンプを片っ端からイジリ倒した人物。SRVと共にジミヘンの機材/サウンドを研究しまくった人でもあり、本人もプロ・ギタリストとしてボブ・ディラン等のバックを務めた。2002年逝去)によればジミヘンがあれを使ってた理由って「エフェクトのノリがいいからだ」ってコトだそうなんですよね。そういう視点ってありますか?
M:そこまではないですね。そこまで気にしなくても、(ミッドブースターを組み込んだ)クラプトン・モデルみたいによっぽど基本回路をイジってるモノでない限り、ストラトであれば基本的なトーンはイメージできる通りの音になるから。
——お持ちのストラトで、基準にしてるモデルってありますか?
M:いや、そんなに気にしてないなあ。よく使うのは、71年くらいのラージヘッドなんですけど、別にそれはビンテージどうこう、っていう基準で買ったギターじゃなくて、ただなんとなくラージヘッドの見た目に惚れて、なので(笑)
——ラージヘッドですか。たしか森社長ってリッチーもお好き、でしたよね?
M:んー、いや、そんなでもないですね(笑)。ジミヘンのほうが大好き。リッチーも嫌いじゃないですよ。でもディープ・パープルはそんなに特別ってカンジじゃない。ホラ、リッチーってなんか恥ずかしいこともたくさんやってるじゃないですか(笑)。
——ん、まあそうですよね(笑)。ジミヘンとリッチーって、音の出し方が真逆なんですよね。ジミヘンは出力の低いストラトで、弦は太くて、であんまり歪まないFUZZ FACEとマーシャルの100W。リッチーは出力のバカでかいピックアップのストラトに細い弦張って、トレブルブースターとAKAIのエコーを挟んでマーシャルの200Wで。
M:でもジミヘンはFUZZ FACEをブースターのように上手いコト使うわけですよね。
——ハイ。あれがすごいんですよね。
M:で、ジミヘンもリッチーも、ギターのツマミは神経質にイジりまくるっていう。あの辺が「巧み」なんですよね。あの辺はもう「鬼」だな、と思いますね。
——かなり昔のインタビューだったと思うんですが、森社長はたしかエディー・ヴァン・ヘイレンにもの凄く影響を受けた、と読んだことがあるんですが。
M:いえ、エディーはもうね、好きだった、ていうだけですよ。
——タッピングとかアーミングとかに衝撃を受けた、ってワケではないんでしょうか?
M:いや、あんなのできないし(笑)。でもエディーのギターの音のツヤ、っていうか厚みっていうか、あれはジミヘン以来の衝撃、っていうものに近いかもしれませんねえ。エディーの場合はシンセ使った曲のほう(註:84年のヴァン・ヘイレン「JUMP」以降の作品群)が有名だったりして、コンポーザーとしてはそれほど有名になりきれないですよね。間奏はいつも最強なんだけどなぁ。
——他に大好きだ、ってギタリストは誰になりますか?
M:エリック・ジョンソンはずっと好きですねえ。
——なるほど。最初にファズを意識されたのはベンチャーズで、大人になってからジミヘンとかクラプトンとかペイジの研究をするようになって、ファズ再発見、というカンジですね?
M:そう。逆に言えば、しばらく長い間、ファズっていえばベンチャーズとかストーンズの、あのジージーいってるようなイメージしかなかったんだよね。個人的には距離感があって、親しみはなかった。ファズの前にはオーバードライブものにさんざんハマって、その後ファズに手を出して、その奥深さにハマってしまって、という流れですね。

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森社長のコレクション その2 SOLA SOUND TONE BENDER PROFESSIONAL MK2 (OC81D / 1966)

 いやー。ビックリしました。森社長はTONE BENDERのMK2で、OC81Dが入っているのをお持ちだったんですね。お恥ずかしながら、当方はこの現物を見るのが初めてでした。許可をいただいて、中身も撮影させていただきました。「どこまでオリジナルがキープされたモノかわからない」とおっしゃっていますが、勿論当方にも断定的に「どこまでがオリジナルか」は言えません。写真からも判る事は、まず裏蓋がサイズがいい加減にカットされており、ピタリと筐体にフィットしないこと。ただし塗装はオリジナルと思われる古いモノでした。昔のTONE BENDERはこのくらいいい加減なモノはよくあります。
 そして回路基板。ご覧のように幅の短いショート・サーキット・ボード仕様です。ここから、MK2の中でも初期に(おそらく66年内に)作られたものであろうことが推測できます。やはり一番気になるのはトランジスタでして、3つのOC81Dのうち、2つはシルバーキャップのもの(ムラード製でMADE IN ENGLANDのプリント入り)、もうひとつはホワイトジャケットと呼ばれる白いOC81Dで、これもムラード製です。このトランジスタが「混在」しているものを見たのも初めてなので、これだけでオリジナルかどうかの判別はつきませんが、当時のMK2回路では「違うトランジスタを混在させる」こと(例えばOC75とOC81D、とか)はないと思われるので、オリジナルかなあ、と思います。
 ただし、ショート・サーキット・ボードのMK2回路の場合は、一部のキャパシタが基板横/もしくは基板上にはみ出すように設置されるハズなんですが、こちらの回路はそうなっていません。その辺は(当方の調査不足もありますが)もうちょっと詳しく研究してからでないとなんとも言えません。ただしここから確認できることは、一部抵抗と、基板の止めネジは交換されたモノだということがわかります。それよりも「超・爆音」だというこのMK2、是非音を聴いてみたいところですね。