6.24.2011

circuit of Tone Bender MK3 and Buzzaround

 
 そんなわけで、回路比較です。まずはTONE BENDER MK3からいきたいと思います。そのオリジナルは1968年頃、イギリスのSOLA SOUND製TONE BENDER(写真左側の銀色の筐体のモノ)、そして全く同じ回路を持ったものとして、その右にある黒いVOX TONE BENDER MK3、それとPARKのFUZZSOUND、CARLSBLOのFUZZ、ROTOSOUNDのFUZZ、そういったOEM製品がありますよ、というのはこれまで書いてきた通りです。その辺の詳細は以前のポストを参照していただければ幸いです。

 65年に生まれたTONE BENDERも、わずか3年の間に(当然ですが近代化と大量生産の双方のニーズに応えるために)どんどん変わっていきました。ご承知のように、MK1はわずか半年、MK1.5なんて3ヶ月、そしてMK2も1年半ほどで生産は中止になっています。が、このTONE BENDER MK3は68年から(70年代後半に、MK4回路にリファインされるまで)10年弱にわたって製造されています。つまり、製品として完成度が高かった、といえるんでしょうね。

 以前も書きましたが、このMK3から回路基板はプリント(PCB)になります。その回路ですが、専門家であるデヴィッド・メイン氏(D.A.M.)の言を引用します。
 「入力段には2つのゲルマニウム・トランジスタが配置され、それがダーリントン・ペアとして働き、出力段に配置された3つめのトランジスタには、ゲルマニウム・ダイオードを介した原始的な温度安定化機能も有している」。ただし彼によると「1968年に製造されたMK3には、まったく同じ回路のものが存在しない」、つまり初期は個々で微妙に改良を加えられ出荷されてたようです。

 さて上で書いた「ダーリントン・ペア」ですが、当初は電気オンチの当方には意味がわかりませんでした。そこで早速検索けんさく、ということで、以下当方が把握できたことを簡単に書きます。2ケのトランジスタ(Q1/Q2)の、両コレクタを並列に接続、さらにQ1のエミッタをQ2のベースに接続することで、「1ケのトランジスタのように扱う方式」をダーリントン接続、というのだそうです。この方式を用いることで歪み値はそれぞれのトランジスタの積(つまりかけ算てことですね)になるそうです。この方式で最もメリットとされることは「トランジスタの品種が違ってても問題ない」のと、「小さなベース電流で、非常に大きなコレクタ電流を制御できる」とのこと。

 まだPNP/ゲルマニウム・トランジスタが用いられていた時代は、こうした手法で大きな電流を扱う、という技術が使われたわけですが、ほどなく大型のトランジスタが開発されてからは、ダーリントン接続という技法は必要なくなった、とのことです。詳細はウィキペディアにも掲載されていますので、そちらも併せて参照願います。
 ダイオードを用いた温度安定化、それからダーリントン接続による高歪み/大電流制御、なんていうハイテク(笑)がTONE BENDERというファズ回路にMK3から導入されたわけですね。なお、内部写真を2つ掲載していますが、茶色いほうがオリジナルの基板、緑色のほうがJMIが最近出した復刻版のモノです。

 で、続いては「謎」のBUZZAROUND回路です。何が謎か、と言えば、TONE BENDER MK3と非常に似ている回路であること、でも誰がデザインした回路なのか分かっていない、ということです。
 前述したとおり、BALDWIN/BURNS BUZZ AROUNDは1966年頃に発売された、ということになっています。つまり、TONE BENDER MK3より先にこの回路が開発されたということになりますね。似てる、とはいえ各抵抗の数値や配線には若干の差異も見受けられますが、TONE BENDER MK3で導入されたダーリントン接続ダイオードによる温度安定化はすでにこのBUZZAROUNDの回路に共に組み込まれており、間違いなくその後に発売になるTONE BENDER MK3にモロに影響を与えたファズであったと思われます。

 実は、一部ではBUZZAROUNDの回路も、TONE BENDERのオリジネイターであるゲイリー・ハーストがデザインした、という噂がありました。しかしD.A.Mのデヴィッド・メインも「BUZZAROUNDの回路の権利をゲイリー・ハーストは主張していない」と言ってます。そして実際に当方が本人にインタビューした際に聞いたところ「関与していない」とゲイリー・ハースト本人が証言しています。そんな経緯もあって、いまだにいろいろと「謎」なわけです。
 その回路上の数値のせいだと思われますが、そっくりな回路とはいえTONE BNEDER MK3とは違ってBUZZAROUNDのコントロールは非常に複雑です。デヴィッド・メインはこの回路をまるで猛獣/飼いならすのに苦労すると言っています。MK3との比較でいうなら、SUSTAINツマミは(MK3の)FUZZツマミに、BALANCEツマミは(MK3の)TREBLE/BASSツマミに、そしてTIMBREツマミは(MK3の)VOLUMEツマミに相当します。が、MK3のようには反応してくれません。

 たとえば「SUSTAIN」ツマミは左に振り切れば音が消えます。つまり、音量にも関与していることになります。また「BALANCE」ツマミはMK3のようなトーン・コントロールではなく、バイアスとコンプレッションに作用するため、明快なトーンツマミではありません。音量も変化します。そしてそして、「TIMBRE」ツマミもボリュームを可変させると同時に歪みの質感にも作用します。
 トランジスタに関しても、前述したようにBUZZAROUNDに使用されているNKT213は(たとえばFUZZ FACEで有名なNKT275や、TONE BENDERで定番でもあるOC75と比べると)トランジスタの歪み値は低いものが使用されてます。しかし、それをダーリントン接続させることで、激しい歪みとゲイン(デヴィッド・メインいわく、獰猛なトーンとべらぼうな音量)を生み出す回路になっているんですね。

 さて、実はTONE BENDER MK3、そしてBUZZAROUNDにならんで非常に興味深いファズがもう一個あります。それは60年代末〜70年代頭にかけて(正確な発表年は不明なママです)イタリアのELKAというブランドが出したDIZZY TONEというファズで、これもBUZZAROUNDとほぼ同じ回路を採用していたからです。そしてこのELKA DIZZY TONEの筐体の形。これはもう、ゲイリー・ハーストが試作機として2009年に製作した復刻版BURNS BUZZAROUNDにそっくりなワケです。前にもチラリと書きましたが、実はゲイリー・ハーストは60年代に一時期このイタリアのELKA社のために働いていたことがあります。実はそんな経緯から、60年代に彼がイタリアで仕事をしていた時に、おそらくELKA DIZZY TONEになんらかの形で関わったんじゃないか? そして「BUZZAROUNDはゲイリー・ハーストが作った」というウワサはそのために出たのではないか、と推測できるわけです。しかしながら、確証はありません。機会があれば今度本人に詳しく聞いてみたいネタではありますね。

 本人が関与を否定してるにも関わらず、40年くらい経てからそのゲイリー・ハースト本人がBUZZAROUNDの復刻品を製作し、監修して、現在JMIからその復刻品が出ている、っていうのも、なんだかTONE BENDER同様に複雑すぎてワケがワカラン、という混乱に陥りそうですが、現在わかっているのはそのくらいのことしかなく、まだまだMK3やBUZZAROUNDに関して謎が多いのは事実です。しかも、その2種のファズは回路はそっくりなのに音もコントロールも違う、というのも事実でして、そしてどちらもヒジョーに面白いファズなのは間違いありません。

 ちなみにその後70年代になってから、ELKAからは(同じくイタリアのJENにOEM製造してもらった)ELKA FUZZというファズ製品もありますが(写真右下)、これは中身はシリコン・トランジスタを用いたJEN FUZZ(=イタリア製のシリコン版VOX TONE BENDER)と同じものです。前述したDIZZY TONEのほうは60年代末に発売されたという話ですので、ELKA FUZZはそれよりも明らかに後のファズ製品ということになります。

 余談ですがELKAというブランドは現在シンセサイザーの製造で有名なイタリアのジェネラルミュージックという楽器製造会社の中のブランドであり、現在は同社の中では楽器部門のGEM、スタジオ機材部門のLEM、そしてアンプ部門のELKA、という位置づけで存続しています。
 

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