4.29.2010

circuit of MK1.5 / Fuzz Face / Vox Tone Bender


 TONE BENDERの歴史を振り返った際に頻繁に言われる事ですが、66年に短期間のみ発売された通称ソーラーサウンドTONE BENDER MK1.5の回路。これは後(66年末)に発売された、有名なアービターFUZZ FACEのソレとウリふたつで、MK1.5こそが(その後ロックの歴史に大きく関与することとなった)名器FUZZ FACEの母体となったファズである、という史実があります。
 たしかに回路は似ています。というか、同じじゃねえか、と思ったのは当然筆者だけではなく、D.A.Mのデヴィッド・メイン氏も、ゲイリー・ハースト氏も、世界中のファズ・マニア達なら誰でも同様だと思いますが、では実際どう似ているのか、実際に電気回路に詳しいMANLAY SOUNDのビルダーROMAN氏の考察を交えて回路図を比較しながら検証しようと思います。

 まずは前年に開発されたオリジナルTONE BENDER MK1回路をゲイリー・ハーストが「リファインした」という、66年製TONE BENDER MK1.5の回路です(ちなみに回路図はいずれも当方がおこしたもので、クリックにて拡大表示できます。他のモデルとの比較がしやすいように書き直してありますが、その中身にはトーゼン一切手を加えていません)。オリジナルのMK1.5のトランジスタはOC75が2ケ使用されています。
 ちなみにトランジスタのゲイン値ですが、D.A.Mのデヴィッドが所持機のMK1.5に搭載されたOC75の歪み値を計測したところ、Q1の位置にあるOC75のゲイン値は120前後、Q2の位置にあるOC75は90前後、と結構低い値であることがわかっています。2ケのゲルマ・トランジスタの組み合わせは、マッチングと言っても単純に同じ数値をたたき出したものを選別すれば良い、というわけではないので、こういう結果にも納得がいきますね。そういった事例はFUZZ FACE回路等を自作したことのある方なら多かれ少なかれ経験しているかもしれませんが。
 以前から何度か書いていますが、実際にはこの回路でOC75を使うのは(少なくとも経験上)かなり難しく、同じゲルマ・トランジスタでも他のものを使用したほうが結果的にいいことが多い、という事象は既に確認しています。

 そういう事象が66年当時すでに確認されていたかどうかは今ではわかる術もありませんが、アービター社がこの回路を使ってFUZZ FACEのサーキットを同じく66年に組んだ際には、トランジスタにはご存知のようにNKT275を使っています(これも良く知られていることですが、他にもSFT363EAC128といったゲルマ・トランジスタも当時使用されていた事がわかっています)。キャパシタに関しても、ご覧のように細かい抵抗値がいずれも若干違うわけですが、それでもやはり、こうやって見比べれば「同じじゃん」と思ってしまいますよね。
 ちなみに、オリジナルFUZZ FACEのアウトプットの位置にカマせてある0.1µFの抵抗ですが、「おそらくこれは何らかのミスで選ばれた/つけられたんじゃないか?本来0.01µFであるハズだ」というのがROMANの主張です。ちなみに、ネット上で発見できる殆どのFUZZ FACEゲルマ盤の回路図(例えば有名なサイトfuzzcentral等で見ることが出来る回路図)では、ほぼ全てここは「0.01µf」と訂正されていますが、他のサイトではここに挙げたものと同様0.1µfと記載されているものもあります。何せトランジスタから何から使用部品さえ違いまくってる60年代のFUZZ FACEのことですので今確実なことが言えた訳ではありませんが、どっちにしろ電気的には「0.1µf」は間違いであることは事実なわけで、FUZZ FACEの後のバージョンではここが(0.1µfでも0.01µfでもなく)0.047µFという数値のキャパシタに変更されたことが分かっています。

 そして、これは今まであまり語られる事の少なかった話ではあるのですが、VOXがイタリアのEME工場(後のJEN)に作らせたVOX TONE BENDER。これもMK1.5やFUZZ FACE同様に1966年に初めて製造されたものなわけですが、実はこの回路ももの凄くMK1.5とかFUZZ FACEのソレに酷似しています。イタリア製VOX TONE BENDERには若干の回路違いモデルがあるのですが(回路図上でピンクの文字になっている部分が、モデルによって違いがあったりする箇所です)、その辺は時期や行程によって区別されているわけではなく、モノによってあったりなかったり、というレベルのモディファイ、と言えると思います。

 それらの「個体によって違う」部分を除けば、これはもうMK1.5回路と同じジャン、というものなわけです。ゲイリー・ハーストは「イタリアのVOX TONE BENDERはイギリス(ソーラーサウンド製)TONE BENDER MK2の劣化コピーだ」などと言っていますが、この回路図を見ればイタリア版は明らかにMK1.5回路をコピーしたであろうことが伺えますよね。

 こうやって見比べてみれば、回路上だけの話ではありますが、ソーラーサウンド製MK1.5、アービター製FUZZ FACE、イタリア製VOX TONE BENDERは、いずれも2つのPNPゲルマニウム・トランジスタを用いた「ヴォルテージ・フィードバック回路」によるファズであり、理論上はいずれもかなり近い、1卵性とまでは言えないけれど、少なくとも2卵性双生児と呼べるほどには近しい存在のファズ・ペダルだということがお判りいただけると思います。

 現在スペイン・バルセロナのMANLAY SOUNDでは、既に発売されているMK1.5回路のTONE BENDERクローン「66 BENDER」に続いて、アービターFUZZ FACEのクローン・ペダル「BABY FACE」を製作中です。まだ完成には至っておりませんが、その製作途中で実感として判明した回路構成上の事実等もいろいろありましたので、その辺のことは次回、ROMAN GIL本人の弁を交えてご紹介したいと思います。
 

4.25.2010

Abraxas Sound / MK1 Fuzz

 最近新しいTONE BENDERのクローン・ペダルを入手しました。なかなか面白いペダルだったので、ここで紹介させていただきたいと思います。この現物以外には、まだひとつも日本に入っていない事は間違いないと思われますが(というのも、当方が2人目の客だ、とビルダー本人が言ってましたから。笑)、以下にてその詳細を見ていきます。

 これはABRAXAS SOUNDというイギリスのブランドが出した、TONE BENDER MK1のクローン・ペダルで、MK1 FUZZというそのマンマな名前のファズ・ペダルです。見るまでもなく、ゲイリー・ハーストが65年に10ケだけ作ったプロトタイプの木製ケースのTONE BENDER MK1を元に制作されたことがわかりますね。ただ、こちらのペダルは筐体にホワイト・アッシュ材を使用していて、フィニッシュはワックスのみ、と思われます。実はこのワックスがちょっと臭くて(笑)、当方の好みではなかったので、到着後すぐに手持ちのビーズワックス(オレンジ・オイル配合)で磨きなおしててしまいました。写真がちょっと「しっとりと」してるのはそのせいです。その点はご容赦ねがいます。

 コントロールに関しては、オリジナルのMK1と全く同じです。ボリューム、アタック(FUZZ)、未だにその必要性に疑問を感じてしまう(笑)オン/オフ用のトグル・スイッチ、ボディてっぺんにあるインプット・ジャック、ボディ前側面にあるアウトプット・ジャック、そしてフット・スイッチ、となっています。
 この金属製ノブは、オリジナルのMK1もそうなのですが、60年代にVOX製のアンプが採用していたメタル・ノブのパーツをそのまま転用しています。ABRAXASのペダルもJMIのリイシューも、60年代当時のパーツを使用しているので、この部分だけが古めかしい(使用感たっぷりで傷だらけ、ということが多いです)カンジになっております。
 オリジナルMK1ではフットスイッチが配置された部分がカパッと外れて内部の電池を交換するようになっているのですが、このABRAXASのクローン・ペダルでは、背面(裏側)が全部パッカリと外れるようになっていて、実用という面ではこのほうが全然ラクチンですね。オリジナルのプロトタイプMK1は「板を組み合わせた」筐体ですが、こちらは「木材をくり抜いた」筐体です。

 では内部を見ていきましょう。手書きでサインと日付が入っており、つい最近くみ上げたモノであることがお分かりいただけると思います。電気に詳しくない当方が偉そうなことをいうのは正直ためらわれるのですが、それでも「あまり精密に回路を組み立てたモノではない」ことはすぐにわかりました。まあ別に不具合があるわけではないので無問題ですが、最近MANLAY SOUNDの回路をいつも眺めていたり、BLACK CATの回路とか、D.A.Mの回路なんかをマジマジと眺めることが多いので、久しぶりにラフな回路を拝見して、率直にそう思ってしまいました(笑)。逆に言えば、D.A.MとかBLACK CATなんかが異常/病的なほどにキレーに回路をくみ上げてる、ってことだろうとは思います。

 肝心の回路ですが、AC126を1ケ、AC125を2ケという3ケのトランジスタ構成になっています。PNPのゲルマニウム・トランジスタを使用していることから、フツーのMK1サウンドなのかな、と思いましたが、ちょっと違いました。音に関しては当方の印象を後述します。また、クローン・ペダルではありますが、内部にトリムポットを採用していることで、その歪み具合はユーザー各々が設定できるようになっています。

 このペダルを購入する際、ビルダーのマーク・ハリソン氏と直接何度かメールのやりとりをしたので、このブランドとペダルに関して本人の弁を紹介します。マーク・ハリソン氏はイギリス・マンチェスターでカスタム・ギター・アンプを製作したり、リペアしたりしている方だそうです。数ヶ月前に「自分でファズが欲しくなったから」、このMK1ファズを製作したそうですが、後に地元の楽器屋さんから「これ売りたいからもっと作れよ」という要望があり製作を始めたそうです。つい最近そのマンチェスターの楽器屋さんで展示が始まり、商品として売り出し始めたところ、とのことです。
 ペダル製作に従事するようになって、何週間か「どうやれば正確なボルテージを得られるか」でモンモンと悩んだけど、やっとウマくいったのがこれ(MK1 FUZZ)だ」とのこと。「ピッキングのアタックやノブで可変できるクランクの度合い」の調整は大変だった、とも言ってました。

 さて、音に関してですが、大雑把に断言してしまえば、これはゲイリー・ハーストが開発したMK1サウンドとは違います。だからダメ、と言うつもりは全くなくて、むしろ逆に「これはもの凄くコントロールがしやすいMK1風ファズ」と言えるかと思います。
 オリジナルMK1もそうですが、例えば我がMANLAY SOUNDの65 BENDERや、JMIが復刻したTONE BENDER MK1 REISSUE等も含め、MK1というペダルはもの凄く「大暴れ」する大音量ファズで、回路自体は単純なクセに扱いがヒジョーに難しい部類のペダルです。例えば出力は非常に大きく、またファズのツマミも9時以降に回せばいつもギンギンに歪む、ギター側のVOLコントロールにはあんまり反応しない、といった具合です。オリジナルの回路に従順に組めば、そういう「暴れ馬」ファズになるのが至極当然なのです。

 おそらくビルダーのマーク・ハリソン氏は、その点を改良しようと思ったハズです(というか、メールでもその旨を伝えてきました)。出力はオリジナルより控えめに設定され、単純に言えば今のフツーのギター・エフェクターの標準的な音量に近い、と言えると思います。また、前述した内部トリム・ポットの設定によって歪み具合は調整できます。ですから、ギター側のVOLポットに追随するような(語弊を承知の上で言えばFUZZ FACE風なクランクを得ることが可能な)ファズになっています。ハリソン氏は「ピッキングのアタックネイル(食い付き/日本ではバイト感、などとも言いますね)、クラリティー(透明度/これはクリスタルな、という意味ではなく、明確に効果がわかる、という意味です)に一番重点を置いた」と言ってるので、こういう形のサウンドになったと推測されます。歪みの度合いよりは、一番おいしいハーモニクスを得られるスイートスポットを重視した、とも言っていました。

 歪みの傾向としてはオリジナルのMK1のソレよりももうちょっとだけ高い位置に設定されていて、その面でもオリジナルのMK1よりはMK1.5やMK2などに近い歪みを感じることができます。ただし、内部トリムで歪みをフルにして(注:フルにすると勿論ノイズの嵐になりますが。笑)、更にATTACKノブをフルにしても、このペダルはオリジナルMK1回路の持っていた凶悪な歪みサウンドを得ることは難しいです。アレはアレで暴れ馬の魅力があり、これはこれで使い勝手のいい魅力がある、と言えるのではないでしょうか。

 マーク・ハリソン氏はこれに続けて、最近新たに「MK1のファズにトレブル・ブースター回路をくっつけたペダルを製作した」という話をしてくれました。3つのチキンヘッド・ノブを使い、フットスイッチを2ケ採用したのがそのペダル(上の写真がソレです)で、これもMK1 FUZZと同様に現在ABRAXAS SOUNDのブランドから発売されているそうです。
 

4.17.2010

JMI Tone Bender Reissue Models

 
  JMIといえば、これまでも何度も記しているように、VOXという有名なブランドを所持した会社として既に広く名が知れています。1956年、イギリスのケントという所でトーマス・ジェニングスさんという人が興した会社であり、一番最初はオルガンの製造会社でありました。64年にはVOXブランドの権利を売却し、68年にはトム・ジェニングス率いるJMIは正式に消滅しています。

 歴史の真ん中部分を、ここではゴッソリと省きます(笑)。現在、イギリス/ロンドンのデンマーク・ストリートにMUSIG GROUNDという楽器屋があります。正確に言えばこのお店はイギリスに沢山チェーン店を持ってるので、今ではロンドンはおろか世界中で有名な楽器屋さんではあります。1997年、MUSIC GROUNDオーナーであるリチャード・ハリソンとその息子ジャスティン・ハリソン等がJMIのトレードマークの権利を獲得しました。それまで既に所有していたHIWATT(これも英国を代表するアンプ・ブランドとして有名ですね)に続いて、JMIブランドの名の元で商品開発/発売することになりました。
 もちろんその歴史を振り返り、いにしえのVOX AC15やAC30のクローン・アンプ(現在VOXという名前の権利はKORG社が持っているので、VOXの名は当然使えませんが)を完全な英国産で発売します。以降、JMIブランドは古き良き英国製品の復刻に執心します。
 2008年、その新生JMIブランドはNAMMショーに突然ギター・エフェクターを出品しました。その小さな記事がシンコー・ミュージック「THE EFFECTOR BOOK」に掲載された際に、編集長に無断で勝手に写真を大きく取り上げてしまったのは当方の独断の仕業です(笑)。申し訳ありません。堂々とTONE BENDERなどと書かれたそのデカい筐体を見て、盛り上がってしまいました。重ねて申し訳ありません(笑)。
 JMIはその後あらゆるTONE BENDER、更にそれ以外の英国産ペダルを片っ端から復刻していますが、ここではそのTONE BENDER関連商品のみを紹介したいと思います。

 まずは木製ケースに入ったMK1プロトタイプの復刻品。以前も書きましたが、再度ご紹介です。「ゲイリー・ハーストが65年に10ケほどのみ製造した、世界で最初のTONE BENDER」の復刻品ですね。この復刻品はゲイリー・ハースト本人が(44年の時を経て)全く同じパーツで全く同じ回路で製作したものです。ゲイリー・ハースト本人によるサイン入り。筐体の裏には「PROTOTYPE」とサインペンでデカデカと記されています。
 トランジスタはOC752G381が2つ。限定50ケのみの製造で、鉄製のノブ(これ、VOXのギターやアンプが英国で製造されていた時期のノブと同じパーツですね)やトグル・スイッチも本家そのままに復刻されています。

 続いてはメタルケース入りのTONE BENDER MK1のリイシュー。こちらは実は時期によっていくつかアップデートが施されています。一番最初に復刻されたモデル(外観はまったく同じ)を見たゲイリー・ハーストが「本物と中身が違う」と気づき、自らその回路をリファインすることになりました。そこでいくつかの抵抗値の変更が施され、2009年に再度お目見えした、というモデルです。2009年に発売された50ケのみ、ゲイリー・ハーストが直筆サインを入れたものが発売されましたが、以降出回ったモデルも中身は全く同じ、ゲイリー・ハーストが監修しリファインされた回路です。

 また2009年、このMK1のバリエーション違いではありますが、MICK RONSONシグニチュア・モデル、というものも発売されています。このモデルに関してはその詳細を別項にて検証しようと思ってますが、簡単に言うならば、デカい木箱のケースに入ってて、MICK RONSONの写真、それからバイオグラフィー本、鑑定書なんかがオマケで付いたモノです。ちなみにこのシグネイチャー・モデルも、中身はゲイリー・ハーストが監修したMK1回路であり、余計なことではありますが、MICK RONSONのご遺族の許可を得て発売されています。だからメチャクチャ高いんですが(笑)。
 それからTONE BENDER MK1.5のリイシュー・モデル。限定100ケの製造で、中身はこれもゲイリー・ハースト本人の監修で仕上げられたモノ(こちらも直筆サイン入り)です。トランジスタはOC75が2ケ。この復刻品が発売された時に、JMIは「ビートルズ・スペック」と堂々とうたっていました。既にその頃には本サイトでも触れていたようにポール・マッカートニーの使用したファズは何か、という論争にある程度のケリがついていたのですが、世界中にはそれでもまだ「違うんじゃないのか?」と疑問を持つ方も多かったようです(未だに世界中のビートルズ・マニアから質問される、とジャスティンもボヤいてました)。

 続いてTONE BENDER MK2のリイシュー・モデル。実はこの復刻品にもエピソードがあります、JMIが初めて復刻したTONE BENDERはこれだったのですが、当時(2008年)は「なんだこれ」という感想を持つユーザーが多かったのです。当時は、66年にソーラーサウンドがOEM生産したVOX TONE BENDERを知る人があまりおらず、まずこのデザインはなんなんだ、という話が起こりました(主にネット上で)。今ではもう良くしられる所になりましたが、最初の英国製VOX TONE BENDERのデザインを復刻したもの、なんですね(当然VOXと文字を入れることはできず、JMIとなっていますが)。
 加えて、一番最初にこのTONE BENDERが発売された時、回路はゲルマ2石でした。これは単純に、オリジナルがどんな回路だったか、を調べ尽くす前に商品化したからだ、と思われるのですが、JMIは(数ヶ月後には)トランジスタはOC75を3ケ使用したオリジナルと同じ回路で出し直ししています。我がMANLAY SOUNDのビルダー、ROMÁN GILなんかも「昨年JMIにMK1(金色の)をオーダーしたら、なぜかMK2が届いた。返却する前に中身を見てみたら、回路も全然違うモンだった。なんだコレ」というような率直な感想を持っていました(笑)。そんな経緯もあってか、限定生産ではあっても、製造数は正確には公表されていませんね。

 そして、これはつい最近出来上がったTONE BENDER MK2クローンの2つめのモデルです。外観はオリジナルのソーラーサウンド製のものを模した(面倒臭い話ですが、カラーサウンドが日本製で90年代に復刻したものとほとんど見た目の上では同じ、ってことですね)もので、最大の違いはトランジスタにOC75ではなくOC81Dを使用したものだ、ということです。ガラガラと荒々しいOC75のアグレッシヴなサウンドにくらべて、OC81Dはややマイルドでローミッドに特徴がある、ということですが、当方自身はこれ(OC81D)を試したことはないので、その辺の解釈はユーザー諸氏におまかせしたいと思います。ただし、今NOSパーツのOC81Dはほとんど入手不可能なんですが、その辺どうしてるんでしょうねJMIは。大変興味があるモデルです。

 まだあります。TONE BENDER MK2の亜流(?)ともいえる、マーシャルSUPA FUZZの復刻品です。勿論こちらもマーシャルとは堂々とうたえないので、JMI SUPA FUZZ、という名前になってます。中身の回路はOC75を3ケ使用した、2ケ上のMK2クローンと全く同じものではあります。こちらも100ケ限定での製造だそうです。
 そしてZONK MACHINEの復刻品。こちらに関しての詳細は、以前記したこちらのページを参照していただければと思います。65年製JHS ZONK MACHINEという青いファズの復刻品で、今年の春に250ケ限定で復刻されました(まだ日本に入ってきてはいないと思われますが)。回路にはJMIがリイシューしたTONE BENDER MK1とまったく同じものを流用してるので、トランジスタはOC751ケと2G381が2ケ、という組み合わせです。筐体も折り曲げ式のMK1のメタルケースの筐体を流用してると思われます。

 加えて、実は既にJMIは「JMI TONE BENER MK3」という商品の発売を既にアナウンスしています。これは70年代にSOLA SOUNDが製造したMK3回路を持つVOXブランドのTONE BENDERの復刻品だと思われます(少なくとも外観はそれソノママですね)。3ノブで、トランジスタはOC75が1ケとNKT223Sが2ケを使用している、という風にアナウンスされています。この春発売予定、とのこのですが、まだ出荷されてないようなので、もう少し先になるかもしれませんね。

 JMI製品は日本ではイケベ楽器のインポート部門が代理店をやっているようです。ほとんど店頭で見かけないのは、そのレア度もあってと思われます(だってどれも限定だし、イケベさんをフォローするわけではありませんが、ジャスティンはいつもダラダラ発送作業してるし。笑)。TONE BENDERのクローン・ペダルの中では、日本では今一番入手しやすいのがこのJMIの復刻品です。もちろんゲイリー・ハーストの監修といった作業を含め、すべて可能な限りオリジナルに近づける、というその手法には感服します。やるじゃんジャスティン。
 ただ、いちマニアとしてのつまらない苦言を呈するならば、JMI製品のあのハンマートーン塗装だけはイタダケませんね(笑)。MK1もMK1.5もMK2も、あんなにツブツブなサーフェイスじゃないんだけどな。でもそんなコマケーことはどうでもいいスね。何より、当方もROMANも、そして世界中のTONE BENDERマニアも皆喜ぶような、イカシた復刻シリーズであることは間違いありませんから。TONE BENDERと名のつくファズだけで9種類も復刻してしまう、そんな豪気なJMIさんの復刻品でした。



(2016年2月付記)これまで上記ポストにて、JMIのTONE BENDER MK1.5復刻品として掲載していた写真が、他の方が所有するJMI製ではないブツの写真であるとのご指摘をいただきました。お詫びするとともに訂正させていただきます。写真を変更しました。
 

4.11.2010

John Hornby Skewes / Zonk Machine (1965)


 初めてこのサイトでMK1のご紹介をした際に、オリジナルと同じく65年に発売された世界初のTONE BENDERクローン、とも言えそうな青いファズ、JHS社のZONK MACHINEというモデルを掲載しました。
 そのJHS社(正式にはJOHN HORNBY SKEWES社)は他にもTONE BENDER系のファズを当時発売していて、本稿ではそれらをちょっとまとめてみたいと思います。ちなみに筆者はその現物を拝んだことがないので、残された文献や写真等から整理することしかできませんが。

 JHS社は65年、イギリスのリーズにて設立され、現在もギターものを中心に機材を販売しているメーカーです。オフィシャルのHPはこちらですが、いきなりポール・ウェラー先生がババンと登場してビックリしました。今このJHS社はFRETKINGというギター・ブランドを持っていて、ウェラー先生はここのテレキャスを使ってるんですね。

 話がそれましたが、JHSから青いMK1風(とはいえ、何から何までそっくりですが)のファズZONK MACHINEが発売されたのは65年末だそうです。今ではその経緯を確認することは不可能ですし、ゲイリー・ハースト自身も「自分は全く関与していない」ということを証言しているので、確たるものは何もありませんが、ソーラーサウンドのMK1とほぼ同じ(とはいえ、ボルトの位置やノブなど、些細な違いは勿論見受けられますが)筐体を持ち、ブルーのハンマートーン塗装が施されたモデルでした。
 その内部回路は、現在JMIの技術者が言うには「ソーラーサウンドのMK1と全く同じ」ということなのですが、写真で確認できたオリジナルの現物を見る限り、いろいろと違いは見受けられます。まず、MK1が「OC75/2G381」というトランジスタ構成だったのに対し、こちらは「ムラード製OC75かOC71/ムラード製OC44かOC71/TI社のA02650」という3ケのトランジスタ構成になっているようです。またその基盤構成は、オリジナルのMK1の基盤(写真左)が黒い板の両端で接点を作っているのに対し、ZONK MACHINEでは(写真右)ご覧のようにボードに穴をあけて足を通し、裏で回路を繋げていることがわかります。オリジナルのMK1とZONK MACHINE、その両方の回路図を見比べても、抵抗値に若干の違いが見受けられますが、ほぼMK1の回路そのマンマです。

 そしてそのJHS社はその後このZONK MACHINEの改良版を発売します。まずはそのまま続編、ということでTHE ZONK2と名付けられた青いファズです。見た目はほとんど初代ZONK MACHINEと同じですが、中の回路を見るとトランジスタは2N4061というPNPのシリコン・トランジスタが2ケ使用されています。また回路レイアウトも大幅に修正され、もの凄くシンプルな回路に変更れています。
 つまり、ゲルマ3石の「FUZZ TONE的な原始的ファズ回路」からの脱却、とでも呼べばいいんでしょうか。オリジナルのTONE BENDERがその後MK1.5に変遷したように、いわゆるFUZZ FACE的なトランジスタ2石の回路にリファインしたモデルだということが容易に想像できます。さらに加えてJHS社はいち早くシリコン・トランジスタの歪み回路に着手したということもわかりますね。繰り返しになりますが、筆者本人はこのZONK2を弾いたことがありません。ですので音の傾向を記すことができませんので「FUZZ FACEみたいな音だろう」と想像はできても断言できないことはあらかじめご容赦ねがいます。

 また、JHS社は別なモデルも発売しています。それはSHATTERBOXと名付けられ、金色のハンマートーン塗装が施されたモデルです。そこまでコピーしていいのかよ、と今なら間違いなくオリジナルの会社から訴えられそうなデザインではありますが、中身はまったく違います。
 こちらはまさに「2 in 1」を目指したようなペダルで、上記のTHE ZONK 2のファズ回路にトレブルブースターをくっつけたペダルです。よってフットスイッチが2ケあり、独立して作動するようになってるみたいです。

 SHATTERBOXのトレブルブースター回路も2N4061というシリコン(余談ですが、今ではPNPのシリコン・トランジスタなんてほとんど見かけることさえありませんよね)のトランジスタで作動します。んー、これ欲しいなあ。こないだオークションにコレが出たんですけど、MK1と同じ位の値段になっちゃったので、早々にあきらめましたが。
 ちなみにJHS社はもちろん単体でのトレブルブースターも発売しています。真四角な筐体で青のハンマートーンという、なかなかグっとくる渋いルックスですね。回路は上述したもの、そのまんまですが、フットスイッチではなくダラスRANGEMASTERのように手でスイッチを入れるタイプのもののようです。ただしRANGEMASTERとは違って、ゲインを可変コントロールするノブが見当たらないので、スイッチオンで一定のゲインを稼ぐ、という原始的な回路だと思われます。

 さて、ありとあらゆるTONE BENDERファズの復刻に余念のない現JMI社は、なんとその初代JHS製ZONK MACHINEの青いファズまで、今年2010年に250ケ限定で復刻しました。スゲー。おそらく日本にはまだ入ってないと思われますが。回路はJMIがリイシューしたTONE BENDER MK1とまったく同じものを流用してるので、トランジスタはOC751ケと2G381が2ケ、という組み合わせです。筐体も折り曲げ式のMK1の筐体を流用してると思われます。

4.03.2010

Gary Hurst Interview part 6

 インタビューの最終回です。現在ゲイリー・ハースト氏はイギリスのJMIブランドがガンガン復刻している各種ファズの復刻品に協力していることもあり、ここではその辺を中心に伺っています。
——あなたが60年代にデザインした各種TONE BENDERは、未だにギタリストに愛されて止まないわけですが、TONE BENDERに何か特別なポイントがあるとすれば、それは何だと思いますか?
G:どうだろうな。世界中のコレクター達が、オリジナルのTONE BENDERを探し続けているよね。だから、私自身で、全く同じ回路で、当時と同じものを作った。それがJMIのTONE BENDERのリイシュー・ペダルだ。だからどれも限定品なんだ。今の時代にあえてリイシューするなら、可能な限りオリジナルに近くないと意味がない。外観、つまり筐体から、回路、パーツの全てに至るまで、ね。ただし、古いトランジスタを回路に使えば、どうしてもオリジナルにはなかったハズの余計なノイズが生まれてしまう。だから昔やった時よりも難しい作業になるんだけどね。
——今、あなたは近年復活したJMIブランドのエフェクターに多く関わっていますが、その経緯は?
G:現JMIのリック・ハリソンは、もう何十年来にもなる私の友人だ。彼の息子ジャスティン(現在MUSIC GROUND店主/写真上の右側、黒Tのクールガイが彼)もね。彼らから「戻ってこいよ、また一緒に仕事しようぜ」と何年にもわたって頼み込まれてね(笑)。彼らには「またオリジナルのTONE BENDERを発売したい」というアイデアがあった。それでまたデンマーク・ストリートのバックルームの世界に舞い戻ったわけだ(笑)。TONE BENDER以外にも、私が昔デザインしたペダルがいくつかJMIから近日中に復刻されることになっている。
——JMI版TONE BENDER MK1には、今となっては極めてレアなのTI社製2G381(写真は最近当方が入手したNOSパーツ)が使用されていてビックリしたんですが、やはり重要なパーツなのでしょうか?
G:なぜ2G381を使用したかといえば、オリジナルに忠実に作ったから、それだけだ。勿論バイアスを正確に合わせたトランジスタであれば、他にもベターな選択肢が沢山あるのは知っているが、JMIのMK1に関しては「本物のMK1」であることが必要だった、ということだね。
——JMIからはMK1.5、MK2のみならず、RANGEMASTER(オリジナルはダラス社)やBUZZAROUND(オリジナルはBURNS社。ロバート・フリップがキング・クリムゾン「21ST CENTURY SCHIZOID MAN」で使用したことで有名)もリイシューされていますが、それらの回路もあなたが手がけたのでしょうか?
G:いや、私がやっているのはTONE BENDERの回路だけだ。MK1、MK1.5、それから60年代や70年代に私が開発したファズだね。そういえば、70年代に私が開発したDOUBLERというファズ・ペダルがあるんだが(オリジナルはCBSアービター社)、これはTONE BENDERとは全くカラーの違うオクターヴ・ファズ・サウンドを持つんだけど、これも近日中にJMIからリイシューすることになってる。雑誌のスペースを開けて、待っててくれよ(笑)。
 JMIが復刻したTONE BENDERに関しては、後ほど別項にて紹介したいと思っているのですが、ここではTONE BENDER以外のJMI復刻ファズを簡単におさらいしようと思います。
 まず、BUZZAROUNDは上記したようにロバート・フリップが使用した、ということで有名なファズで、デイヴィッド・メイン率いるD.A.Mからもこのクローン・ペダルFUZZAROUNDが限定で製作発売されたこともあります。オリジナルは極めてレアな個体なので、待望の復刻、ということにはなるのですが、掲載したオリジナルと寸分違わぬデザインで復刻されています。トランジスタにはNKT213というゲルマ・トランジスタが3ケ使用されています。

 それから、ゲイリー・ハーストが70年代に開発し、CBSアービター社から当時発売された英国産オクターブ・ファズ、DOUBLER。こちらも現在現物を拝むことは不可能に近いレア・アイテムですが、まだJMIから正式なリイシューのアナウンスはされていません。ノーマル・ファズとオクターブ・ファズ、それぞれ独立したフット・スイッチが搭載されている、ちょっと変わったモデルですね。

 そしておそらくファズ・マニアが一番驚いたのが、トレブル・ブースターの歴史的名品、と言っても過言ではないダラス社のRANGEMASTERの復刻品。実はこれ以前にJMIはRANGEMASTER回路をTONE BENDERのグレー・ハンマートーン筐体に収めた、というなんだかよくわからない(笑)トレブルブースターを発売していましたが、あのダラスの四角い筐体まで完全復刻して現在限定100ケのみ、発売されています(MUSIC GROUNDのお店までわざわざこの復刻版を買いにきたゲイリー・ムーアの可愛らしい写真が、今JMIのHPに掲載されていますね。笑)。実は今当方の手元にはオリジナルのRANGEMASTERがあるので、どこかでヒマがあれば、復刻品も入手し比較検証しようかな、とも思っています。
 インタビューは以上になりますが、何度か彼とやり取りした中でキツーく言われたことがあります。それは「TONE BENDERは2ワードだからな。よく繋げて(1ワードで)書く困った野郎がいるんだが、気をつけろよ」とのことです。コマケエなあ(笑)とも思いましたが、オリジネイターがそう仰るのだから、勿論従います。
 実はつい先日も別な用件で彼の話を聞きたいことがあったのですが「ん?わかったよ。じゃあドイツのミュージック・メッセ(3月末・フランクフルトで開催)に来い」とか言われてしまいました。そんなお金も時間も無かったのでその申し出は丁寧にお断りせざるを得なかったのですが、別な機会があれば是非お会いしてみたいです。