6.29.2011

Sola Sound - Tone Bender MK2 SCB ver. (made by D.A.M.)

 
 んー、またまたD.A.M.のデヴィッド・メインさんが、マニアックなTONE BENDERリイシュー・モデルを出しやがりました(笑)。その大まかな仕様等が判明したので、ご紹介しようと思います。なお、こちらは英国SOLA SOUND/MACARISからの発売になる模様です。

 見た事も聞いた事もない名前とカラーリングを持ったこのTONE BENDERはいったい何なのか、といいますと、1966年夏頃に初めてMK2回路のTONE BENDERが発表されたとき、実はその基板は(後の一般的なPROFESSIONAL MK2の基板と比べると)若干小さなものが使用されていた、とのことです。もっと簡単に言えば、極初期のMK2の基板は、MK1.5の基板と同じ大きさのモノを使用しており、そこにゲイリー・ハーストが初段部分にゲインステージの回路を追加した、という経緯があります。

 で、このD.A.M.による最新のTONE BENDERは、その「極初期のMK2を復刻してみた」というわけですね。
 名前にあるSCBは「SHORT(SMALL)CIRCUIT BOARD」の略で、単純に小さい基板ですよ、ってことを示してるそうです。

 もっと細かいマニアックな説明もされています。オリジナルのMK2初期バージョンでは入力段のキャパシターが1ケないこと、そしてサウンドは荒々しくて古めかしくもヘヴィーだ、ということ。一聴して、一般的なMK2サウンドよりはブライトで、フルアップして弾くとホンのちょっとだけささくれ立った印象があること、だそうです。これは全て、デヴィッド・メイン本人がオリジナルの実機を検証した上で残した弁です。

 そしてこれも本人の弁ですが、これまで自分が作ってきたD.A.M./SOLA SOUNDのPROFESSIONAL MK2リイシューでは、より豊潤で強化されたミッド域があり、FUZZ FACEほどのヘヴィー・ボトムではないにしろ、それほど激しく歪むファズではなかったわけです。ところが今回のSCBバージョンでは、高い域のトーンに重きを置いてみた、ということらしいです。

 えーと、読んだことのある方ならお判りかもしれませんが、デヴィッド・メイン氏が書く文章というのはいつもやけに文学的、といいますか、芸術的といいますか、ヒジョーに繊細かつメンドクサい形容をする人なので、なかなか日本語にするのは苦労します。というか、正直そのまま訳してもサッパリ要領がつかめない、ということが多いので、本稿ではバッサリと大意だけを掲載していることは、ご了解願います。

 まあ結局は今回のブツもD.A.M.製のMK2復刻品なわけですが、それでも今回さらにいつもと違う、というポイントはまずトランジスタにあります。今までD.A.M.が使う事を避けてきた、「無印」のブラックキャップOC75を使用しています。頑固者なので、彼はいつも英国製のMULLARDトランジスタばかりを使用していましたが、今回はその枠を取り払って製作してみた、というワケですね。本人いわく「引き出しの中にはまだまだいろんな英国ムラード製のトランジスタが秘蔵してあるけど、今回はそれには目を向けず、ゲインとトーンでだけ選んでみた」とのこと。

 また、今回D.A.M.ではMACARISのアンソニー・マカリ氏が所有するオリジナルのMK2のサウンドをサンプルとして製作した、という旨も言っています。そして「これまでD.A.M.が製作したファズのなかでも、最もブライトなサウンド」ということも言っています。

 左に掲載した写真では、グレー・ハマートーンのブツと一緒に今回の青いブツが並んでいますが、このグレーのほうがオリジナルの1966年製のMK2極初期バージョン、とのことです。たしかに回路基板が小さくて、基板からハミ出す形でパーツが並んでいることが確認できます。

 さてさて、それよりも何よりも、この色は一体どうしたのさ、というワケですが。「何故ブルーかって? ああブルーだよ。何がおかしい?ファンキーで、セクシーだろ?」。うん、反論の余地は一切ありませんね(笑)。ちなみにラベルですが、PROFESSIONAL MK2という文字がないことからも、ロゴだけみればまるでMK1.5と同様のモノです。これはオリジナルがそうだったわけではなくて、デヴィッド・メインが「シンプルでいいだろ」ということでこれに決めたようです。

 もしあなたがMK2のファンで、ギターのボリュームを絞ったときにもっともっと尖ったエッジやピッキングの食い付きが欲しいとき、そしてどうしても青いセクシーなペダルを足下に置きたい時はこれを買え、という宣伝文句もつけられています。

 ええ、つまりそれは当方個人にドンピシャに該当するわけでして(笑)、早速MACARISにコンタクトをとって、これをオーダーしました。「OK、ウェイティング・リストに名前載せといたよ。じゃ」という返事がきましたけど、また何年待たされるのかは正直わかりません(笑)。しばらくは期待しつつ、青く輝くTONE BENDERを待ってみようと思います。
 

6.24.2011

circuit of Tone Bender MK3 and Buzzaround

 
 そんなわけで、回路比較です。まずはTONE BENDER MK3からいきたいと思います。そのオリジナルは1968年頃、イギリスのSOLA SOUND製TONE BENDER(写真左側の銀色の筐体のモノ)、そして全く同じ回路を持ったものとして、その右にある黒いVOX TONE BENDER MK3、それとPARKのFUZZSOUND、CARLSBLOのFUZZ、ROTOSOUNDのFUZZ、そういったOEM製品がありますよ、というのはこれまで書いてきた通りです。その辺の詳細は以前のポストを参照していただければ幸いです。

 65年に生まれたTONE BENDERも、わずか3年の間に(当然ですが近代化と大量生産の双方のニーズに応えるために)どんどん変わっていきました。ご承知のように、MK1はわずか半年、MK1.5なんて3ヶ月、そしてMK2も1年半ほどで生産は中止になっています。が、このTONE BENDER MK3は68年から(70年代後半に、MK4回路にリファインされるまで)10年弱にわたって製造されています。つまり、製品として完成度が高かった、といえるんでしょうね。

 以前も書きましたが、このMK3から回路基板はプリント(PCB)になります。その回路ですが、専門家であるデヴィッド・メイン氏(D.A.M.)の言を引用します。
 「入力段には2つのゲルマニウム・トランジスタが配置され、それがダーリントン・ペアとして働き、出力段に配置された3つめのトランジスタには、ゲルマニウム・ダイオードを介した原始的な温度安定化機能も有している」。ただし彼によると「1968年に製造されたMK3には、まったく同じ回路のものが存在しない」、つまり初期は個々で微妙に改良を加えられ出荷されてたようです。

 さて上で書いた「ダーリントン・ペア」ですが、当初は電気オンチの当方には意味がわかりませんでした。そこで早速検索けんさく、ということで、以下当方が把握できたことを簡単に書きます。2ケのトランジスタ(Q1/Q2)の、両コレクタを並列に接続、さらにQ1のエミッタをQ2のベースに接続することで、「1ケのトランジスタのように扱う方式」をダーリントン接続、というのだそうです。この方式を用いることで歪み値はそれぞれのトランジスタの積(つまりかけ算てことですね)になるそうです。この方式で最もメリットとされることは「トランジスタの品種が違ってても問題ない」のと、「小さなベース電流で、非常に大きなコレクタ電流を制御できる」とのこと。

 まだPNP/ゲルマニウム・トランジスタが用いられていた時代は、こうした手法で大きな電流を扱う、という技術が使われたわけですが、ほどなく大型のトランジスタが開発されてからは、ダーリントン接続という技法は必要なくなった、とのことです。詳細はウィキペディアにも掲載されていますので、そちらも併せて参照願います。
 ダイオードを用いた温度安定化、それからダーリントン接続による高歪み/大電流制御、なんていうハイテク(笑)がTONE BENDERというファズ回路にMK3から導入されたわけですね。なお、内部写真を2つ掲載していますが、茶色いほうがオリジナルの基板、緑色のほうがJMIが最近出した復刻版のモノです。

 で、続いては「謎」のBUZZAROUND回路です。何が謎か、と言えば、TONE BENDER MK3と非常に似ている回路であること、でも誰がデザインした回路なのか分かっていない、ということです。
 前述したとおり、BALDWIN/BURNS BUZZ AROUNDは1966年頃に発売された、ということになっています。つまり、TONE BENDER MK3より先にこの回路が開発されたということになりますね。似てる、とはいえ各抵抗の数値や配線には若干の差異も見受けられますが、TONE BENDER MK3で導入されたダーリントン接続ダイオードによる温度安定化はすでにこのBUZZAROUNDの回路に共に組み込まれており、間違いなくその後に発売になるTONE BENDER MK3にモロに影響を与えたファズであったと思われます。

 実は、一部ではBUZZAROUNDの回路も、TONE BENDERのオリジネイターであるゲイリー・ハーストがデザインした、という噂がありました。しかしD.A.Mのデヴィッド・メインも「BUZZAROUNDの回路の権利をゲイリー・ハーストは主張していない」と言ってます。そして実際に当方が本人にインタビューした際に聞いたところ「関与していない」とゲイリー・ハースト本人が証言しています。そんな経緯もあって、いまだにいろいろと「謎」なわけです。
 その回路上の数値のせいだと思われますが、そっくりな回路とはいえTONE BNEDER MK3とは違ってBUZZAROUNDのコントロールは非常に複雑です。デヴィッド・メインはこの回路をまるで猛獣/飼いならすのに苦労すると言っています。MK3との比較でいうなら、SUSTAINツマミは(MK3の)FUZZツマミに、BALANCEツマミは(MK3の)TREBLE/BASSツマミに、そしてTIMBREツマミは(MK3の)VOLUMEツマミに相当します。が、MK3のようには反応してくれません。

 たとえば「SUSTAIN」ツマミは左に振り切れば音が消えます。つまり、音量にも関与していることになります。また「BALANCE」ツマミはMK3のようなトーン・コントロールではなく、バイアスとコンプレッションに作用するため、明快なトーンツマミではありません。音量も変化します。そしてそして、「TIMBRE」ツマミもボリュームを可変させると同時に歪みの質感にも作用します。
 トランジスタに関しても、前述したようにBUZZAROUNDに使用されているNKT213は(たとえばFUZZ FACEで有名なNKT275や、TONE BENDERで定番でもあるOC75と比べると)トランジスタの歪み値は低いものが使用されてます。しかし、それをダーリントン接続させることで、激しい歪みとゲイン(デヴィッド・メインいわく、獰猛なトーンとべらぼうな音量)を生み出す回路になっているんですね。

 さて、実はTONE BENDER MK3、そしてBUZZAROUNDにならんで非常に興味深いファズがもう一個あります。それは60年代末〜70年代頭にかけて(正確な発表年は不明なママです)イタリアのELKAというブランドが出したDIZZY TONEというファズで、これもBUZZAROUNDとほぼ同じ回路を採用していたからです。そしてこのELKA DIZZY TONEの筐体の形。これはもう、ゲイリー・ハーストが試作機として2009年に製作した復刻版BURNS BUZZAROUNDにそっくりなワケです。前にもチラリと書きましたが、実はゲイリー・ハーストは60年代に一時期このイタリアのELKA社のために働いていたことがあります。実はそんな経緯から、60年代に彼がイタリアで仕事をしていた時に、おそらくELKA DIZZY TONEになんらかの形で関わったんじゃないか? そして「BUZZAROUNDはゲイリー・ハーストが作った」というウワサはそのために出たのではないか、と推測できるわけです。しかしながら、確証はありません。機会があれば今度本人に詳しく聞いてみたいネタではありますね。

 本人が関与を否定してるにも関わらず、40年くらい経てからそのゲイリー・ハースト本人がBUZZAROUNDの復刻品を製作し、監修して、現在JMIからその復刻品が出ている、っていうのも、なんだかTONE BENDER同様に複雑すぎてワケがワカラン、という混乱に陥りそうですが、現在わかっているのはそのくらいのことしかなく、まだまだMK3やBUZZAROUNDに関して謎が多いのは事実です。しかも、その2種のファズは回路はそっくりなのに音もコントロールも違う、というのも事実でして、そしてどちらもヒジョーに面白いファズなのは間違いありません。

 ちなみにその後70年代になってから、ELKAからは(同じくイタリアのJENにOEM製造してもらった)ELKA FUZZというファズ製品もありますが(写真右下)、これは中身はシリコン・トランジスタを用いたJEN FUZZ(=イタリア製のシリコン版VOX TONE BENDER)と同じものです。前述したDIZZY TONEのほうは60年代末に発売されたという話ですので、ELKA FUZZはそれよりも明らかに後のファズ製品ということになります。

 余談ですがELKAというブランドは現在シンセサイザーの製造で有名なイタリアのジェネラルミュージックという楽器製造会社の中のブランドであり、現在は同社の中では楽器部門のGEM、スタジオ機材部門のLEM、そしてアンプ部門のELKA、という位置づけで存続しています。
 

6.20.2011

JMI / Burns - Buzzaround Reissue


 先日、TONE BENDER MK3と回路がそっくり、と書いたBUZZAROUNDですが、その回路比較をする前に、現在JMIから復刻されているそのBUZZAROUNDを紹介したいと思います。

 面白いことにこのファズは、今から2年ほど前伝えられた話では「BURNS社から復刻・発売される」ということになっていました。2009年、ドイツのミュージックメッセにてその試作品がお目見えしているのですが、その時この製品はなんとゲイリー・ハーストが作り、メッセで宣伝までしています。
 ゲイリー・ハーストとオリジナルのBUZZAROUNDに関しては後ほど別項にて触れたいと思うのですが、2009年、とにかくそういう形で発表されたBUZZAROUND復刻版は、なんだかオリジナルとはあんまり似ていない風情/風貌でした(下の写真2点は、その時のオフォシャル・ショットです)。BURNS社は現在も会社があり、試作品は現在のBURNSロゴをまとっていることからも、当初はおそらくイギリスのBURNSからこの形状で発売される予定だったことは間違いないと思われます。
 実は、細かい部分までは当方も聞いてはいないのですが、まあ多少の紆余曲折があり、復刻版BUZZAROUNDはその後、オリジナルとまったく同じ筐体&回路にドレスアップされて、イギリスのJMIから発売されたわけですね。

 ちなみに、このJMIのBUZZAROUND復刻版はTONE BENDERなんかと比べてもベラボウにその価格設定が高いんです。もちろんこの独特のケースをわざわざあつらえたり、ゲイリー・ハーストに監修してもらうことになって、とか理由は思いつくんですが、それでもやっぱり高いです。で、バカなフリしてその理由を聞いてみました。んで、なるほどまあ仕方ネーか、と一応納得できる答えを貰いました。
 その答えは「このJMIのリイシュー品は、BURNS社にライセンス使用料を支払って製造されている」んだそうです。つまりBURNS社が正式に認めたリイシュー品なんですね。そんな話はあまり世間には伝わらないモノですが、その証として2009年に製造されたJMI BUZZAROUNDの認定書には、現BURNS社の社長BARRY GIBSON氏のサインも入っているそうです。現在当方の手元にあるブツはつい最近製作されたモノなので、もう彼のサインは認定書に入ってませんでしたが、そんな経緯もあってこの復刻品BUZZAROUNDのフロント・パネルには、JMI製品であるにもかかわらず現在も「BURNS LTD.」というブランド名がプリントされています(ちなみに60年代のオリジナルでは、ここにBALDWIN-BURNS LTD.というブランド名がプリントされていました)。

 さて、復刻版の紹介の前にサラリとだけオリジナルに触れます。実はオリジナルはもう殆どお目にかかることさえ不可能なほどレアなブツで、今まで当方は60年代のオリジナルを写真でも3ケほどしか確認した事がありません(もちろん、触った事もありません/D.A.Mのデヴィッド・メインは実際に2ケのオリジナルを確認したことがあるそうですが)。もう少し現存するとは思われますが、おそらくオリジナルのTONE BENDER MK1と同じくらいの現存数、と推察されます。数年前一度だけeBayで売りに出たのを見たことがありますが、やはり数十万という結果になっちゃってましたね。

 1965年の終わりころ、イギリスのBURNS社が大手楽器商のボールドウィン社に買収された後に製造がスタートし、1968年にははやくも製造が中止された、といわれているオリジナルのBUZZAROUND。1966年には雑誌にその広告も出されていたことがわかっていますので、実際には3年ほどしか販売されていなかった、との推測が成り立ちます(68年にはボールドウィン/BURNS社はギター業界から撤退していますので)。
 なんと言ってもBUZZAROUNDというファズに注目が集まった理由は、1969年にキング・クリムゾンのデビュー作『クリムゾン・キングの宮殿(まったくの余談ではありますが、当方が一番好きなレコードジャケットでもあります。なので、目一杯大きなサイズの画像を張りました。ご同好の方は画像をクリックすれば拡大表示できます)で、ギタリストのロバート・フリップがこのファズを使った、ということが一因であることは間違いありません。
 実際にはフリップ先生はクリムゾン結成以前からこのファズを使用していたとのことですが、のちの1974年、フリップ先生はインタビューに答えて「いままでで最高のファズはBURNSのBUZZAROUND。もう6年以上前に製造中止になっちゃったけど」と答えています。D.A.Mのデヴィッド・メイン氏は「フリップ先生が実際にBUZZAROUNDを使ってる写真をみた事がある」と言ってますが、さっきまで懸命に検索してみたんですけど、さすがにそれはネット上にはなかったですね。
 機材フェチ(しかもかなり偏った嗜好)のフリップ先生ですが、70年代中頃からはそのBUZZAROUNDに変えて、ギルドのFOXEY LADY(3ノブ・バージョン/BIG MUFFと同じ中身/写真右参照)を使うようになりました。恐らくデヴィッド・ボウイ『HEROES』での客演でも、そのFOXEY LADYが使用されたもの、と思われます。

 で、やっと本題です。JMIのBUZZAROUNDはオリジナルと同じ、NKT213という60年代のNOSゲルマニウム・トランジスタを3ケ使った回路になっています。TONE BENDER MK3の回路に似ている、と言いましたが、それは当然サーキット構成、という意味でして、トランジスタはもちろん違いますし、BUZZAROUNDでは(オリジナル/復刻品ともに)アンプで使用されるようなラグ板で回路を組んでいます。そのため見た目は違うモノのように見えますね。
 ノブは3つで、「SUSTAIN」「BALANCE」「TIMBRE」という表示になっています。実は1966年のオリジナルでもその通りの表記で、それをそのまま復刻しているわけですが、正直いってそのツマミの効用は覚えるのが大変面倒くさい、といいますか、理解するのにかなりの時間のテストが必要かと思われます。その辺は次回の「MK3とBUZZAROUNDの回路比較」で述べますが、JMIの公式(英語)HPでも「世界で最もミステリアスなファズ」と紹介されていることでもわかるように、わりと近年までその中身も外観も謎が多かったのは事実です。

 肝心のそのサウンドに関しては、恒例ではありますがJMIが公式に製作した復刻版BUZZAROUNDのデモ動画をご覧頂ければと思います。プレゼンターはすっかりお馴染み、のジョン・パーさんです。残念ではありますが、このデモ動画ではセッティングがあまり変えられておらず、ガリンガリンのファズ・サウンド1種類のみしか確認できません。しかし、これも後述しますが、その音のバリエーションは、ジョン・パーが動画の中で言っているようにTONE BENDER MK3同様に大きな可変が可能になっています(ギター/アンプに当然大きく依存しますが)。フリップ先生がクリムゾンのファーストで披露したような、モーモーのロング・サスティンを生み出すことも勿論可能です。

 強烈なロング・サスティンと可変幅の広いトーン、そういったポイントがBUZZAROUNDの独特な魅力なワケですが、アフロヘア時代の(笑)フリップ先生&クリムゾンのファンであれば一家に一台、と言いたくなるようなファズではあります。が、前述したようにお値段は多少張ります。当方でもこのJMI製BUZZAROUND復刻品を仕入れてはいますが、もし興味をもたれた方がいれば別途お問い合わせ下さい。(この項続く)



追記:とある方から情報をいただきましたので追記します。おおっ、まぎれもなくBUZZAROUNDをフリップ先生本人が使ってる、という証拠写真2点ですね。先生のペイズリー柄ジャケットも素敵ですが(笑)、それよりもいつものごとく足踏みペダル3台に混じってプラグされた現物のBUZZAROUNDに感動です(H様、情報提供有難うございました)
 

6.14.2011

JMI - Tone Bender MK3 Reissue


 「スッゴイ気に入っている」とダイナソーJRのJマスシス氏が仰ってたという、JMIの復刻版TONE BENDER MK3をご紹介したいと思います。このTONE BENDERも既に日本に入荷しており、随時出荷中ですので、もし興味をもたれた方がいれば是非お試しいただければと思います。

 まずはおさらいとなりますが、このMK3のオリジナルは1970年代にVOXブランドが発売したVOX TONE BENDER MK3になります。当時、その中身はSOLA SOUNDが製作しており、ゆえにその中身はSOLA SOUNDのTONE BENDER MK3とまったく同じもの、ということは以前もご紹介した通りです。

 ですがこの 真っ黒い筐体とサイケなオレンジのロゴは、インパクトが絶大であるにも関わらずなかなかお目にかかることがないですよね。70年代のMK3は多様なブランドから沢山のOEM製品が発売されたことや、「VOX」のブランド・ライツがウロウロと移動していたこともあって、殆ど有名になることもなく放置されていたモデル、という位置づけなのかもしれません。
 で、昨年イギリスのJMIは、その真っ黒い筐体のMK3を復刻しました。勿論「VOX」の名前は使えませんので、筐体下部にあるロゴは「JMI」と変えられていますが、他のJMIがリイシューするTONE BENDERシリーズ同様に、当時のスペックをそのまま再現して製造されたモデルとなります。

 外見でも判りますが、エフェクターを上から見たときに、左側にギターのインプット(INSTRUMENTジャック)、右側にアウトプット(AMPLIFIERジャック)がある、なんていうのは現在のエフェクター事情からいえばあきらかにオールドファッションで使い勝手がよろしくない(笑)仕様ともいえるのですが、その辺も「オリジナルに忠実に」というワケですね。

 コントロールですが、3ノブのTONE BENDER MK3回路は、FUZZノブ、VOLUMEノブにくわえてTONEのノブ(右上のツマミ)があります。このツマミがまたヤヤコシイんですが、左にひねればトレブリーに、右にひねれば暗い音に、という具合になっています。よってノブの表示は「TREBLE/BASS」となっています。これも、70年代のオリジナルと同様の仕様です。
 ジャックは例のごとく、ではありますが、TONE BENDER関連製品ではお馴染みとなった、MADE IN ENGLANDの黒いプラスティック製のクリフ・ジャックです。

 さてさて、中身を見ていきます。オリジナルのVOX TONE BENDER MK3では茶色のプリント基板でしたが、中身だけは時代を反映してか(?)緑色のプリント基板を使用しています(註:たった今検索して知ったのですが、本来PCB / PRINTED CIRCUIT BOARDは「基盤」ではなく「基板」と書くのだそうです。おそらくいままで多くの箇所で誤記してると思われますが、ご容赦願います。スイマセン)

 ちなみに左の写真の一番左にボンヤリと映っているのは白いスポンジでして、筐体内部で電池をくるむためにあるものです。古いTONE BENDER MK3もスポンジを使って電池をくるんでいたのですが、ヴィンテージものの内部を見るとドロドロにスポンジが溶けているものを見かけますよね。JMIが採用した、この新しくて白いスポンジがどのくらいドロドロに溶けるのか、は現時点では未確認です(笑)。

 裏蓋をあけても基板のプリント面しか見えませんので、回路は容易く確認できません。バラすのはちょっと面倒だったので(笑)、回路に関しては今回はJMIから貰った内部写真を掲載します。まず目につくのは赤いWIMAのコンデンサ「MKS4」ですね。それこそ60年代以降、イギリスのみならずヨーロッパ中では定番で人気の高いWIMA製品ですが、それが採用されていますね。

 そして気になるのはトランジスタですが、JMIのMK3ではNOSのブラックキャップOC75を使用しています。以前書きましたが、60年代後半〜70年代前半のオリジナルTONE BENDER MK3はトランジスタの特定ができません。カタログ・スペック上ではOC75、OC81D、OC71(シルバーキャップ)、完全に型番が無記載のモノ、他いろんなバリエーションが確認できてるのですが、モデルごとに変えたり、もしくは時代で変えられたり、というワケではなさそうです。
 いずれにしろ最初のMK3回路ではPNPのゲルマニウム・トランジスタが採用されてたことに変わりはなく、今回のJMIもゲルマ、しかも贅沢にOC75を3ケ使用してMK3を組み上げてます。

 で、音に関して。今イギリスJMIではこのモデルと、全く同じ中身ですが筐体の色/デザインだけが違う「JMISOUND FUZZ(ROTOSOUND FUZZのクローン)」のデモを制作中、とのことなので、サンプル動画はもうしばらくお待ちいただければと思いますが、MK2とは全く違う独特のMK3のディストーション・サウンドは豪快で楽しいモノです。

 シンプルながらも面倒くさい(笑)60年代のファズ回路とは違い、コントロールも明瞭で判りやすく、操作しやすいペダルです。また、低域は控えめで、中域はプリプリ、さらにTREBLEノブでシャリシャリなトーンにする事もできて、幅の広いサウンドを作ることができます。その辺も、冒頭で書いたようにJマスシスが気に入ったポイントらしいですね。

 なお、オリジナルのTONE BENDERは70年代前期のものまでがゲルマニウム・トランジスタを使用したファズになります。以前も書きましたが、黒い筐体に入ったVOX TONE BEDER MK3には、70年代後半に発売された後期バージョン(ロゴの位置が違う)があり、それはシリコン・トランジスタを採用し、回路も全く別のものに変更されたモデルとなります。

 先日このTONE BENDER MK3の回路図を探してたときに、興味深いネタに巡り会いました。それは(同様にJMIが復刻発売している)英国BURNS/BALDWIN社が発売した有名な「BUZZAROUND」は、このTONE BENDER MK3回路に非常に似ている、という点です。現在BUZZAROUNDの実機も手元にあるので、その辺を次回以降、あらためて検証したいと思います。
 

6.08.2011

JMI - Justin Harrison Interview (Part.3)

 
 ジャスティン・ハリソン・インタビュー、最後のパートになります。日本にいる我々にとっては、なかなかロンドンの楽器店事情なんてモノには触れる機会もないわけですが、いざ話を聞けばいろいろと面白いネタが出てくるモンですね。ちなみに右の写真はもちろんゲイリー・ハースト氏なわけですが、イタリア在住の彼は今も年に数度ロンドンを訪れて、実際にこうして商品の検品や打ち合わせに従事しているんだそうです。



——JMIのエフェクターに関してなんだけど、クラシック・スペックを忠実に再現して出来上がる本物のクラシックなブリティッシュ・サウンドを目指してるよね?(註:左の写真は英語版のJMIエフェクター・カタログですが、表紙にもそのまま書いてあります)ジョー・ペリーとかゲイリー・ムーアのような達人の域にいる人ではなくて(笑)、例えばギターを始めたばかりの若いギタリストなんかにとっては、ある意味では“簡単な”機材ではない、と言い換えることもできるマニアックな製品だとも思うんだけど。そういう若いギタリスト/ユーザーに向けて、なんかメッセージみたいなモンを貰えるかな?
JH:単純な話で、我々JMIのエフェクターは、オリジナルとまったく同じ手法で作っている、それだけなんだよ。近代的なエフェクターなら、ツマミに「LEVEL」と書いてあれば、それは純粋に音量レベルを調整するためだけのツマミだろう(笑)。でもさ、さっきのジョー・ペリーの話と同じだよ。例えばたった2つしかツマミがない古いスペックの機材でも、時間を費やして、その効能を確かめれば、今まで他の機材を使ってどんなに頑張っても届かなかった本物のクラシック・トーンがついに得られるんだ。試してみる価値は十分にあると思うし、そういうクラシックなサウンドが好きなギタリストなら、間違いなくハッピーになれるよ。
——デンマーク・ストリートを「英国の“ティン・パン・アレー”(*1)」と呼ぶ人も多いけど、イギリスのミュージック・シーンに凄く影響のある通り、とも言えるよね。60年代から今日に至るまで、その街並みはどんなカンジで変わっていったのかな?
JH:そう、歴史のあるこの通りでいまだにウチの店は営業できているのがラッキーだしハッピーだ。この通りは60年代にはもう有名になってた場所だからね。多くのバンド、ミュージシャンがここから生まれたり、ここで伝説のライヴをやったりね(*2)。でも、イギリスに限らず世界中どこでも同じようなカンジだけど、この2〜3年は深刻な不況で、ロンドン中の老舗がパタパタと店を閉じてるのが現状だ。あの有名なマーキー・クラブも遂になくなった(*3)。でもこないだロンドンの評議会はデンマーク・ストリートの歴史と意義を尊重して、ここにはむやみな都市開発を入れずに楽器店が末永く残るべきだ、という声明を出してたよ。素晴らしい声明だ。
——素晴らしい。ところで、どうでもいいことだけど一応聞いておくべきかな、と思って質問するね。ネットの世界ではいろんな人が憶測だけであることないこと好き勝手に発言してる、って状況は目にしてると思うけど(笑)。
JH:ああ、何を聞きたいかもう判ったよ(笑)。
——昨年の春に、MUSIC GROUNDが破産して会社と店舗を全部閉鎖した、とか噂が流れたよね。一説では親子揃って起訴された、とか(笑)。今も実際にお店がオープンしてるのは知ってるけど、一応どういう状況なのか、改めて教えてもらえるかな?(*4
JH:イギリスでもいろんなネット掲示板に、あることないこと書かれまくった(笑)。真実を言えば、ここ3年ほどのイギリスの経済事情を反映して、ウチの会社も経営方針を変えざるを得なかった、というのは確かだ。イギリスの北部にあった3つのチェーン店は閉じた。その3店舗は家賃もすごく高くて、採算が取れなかったんだ。その3店舗の運営を手放して、その代わりにロンドンでの数店舗、それからインターネット通販、そしてHIWATTやJMIの製品開発と販売、それらに集中する、というビジネスに軌道修正したわけだ。
——なるほど、OK。さて今後のJMI製品に関してだけど、最近もあらたにDEL CASHER WAH(*5)が発売されたよね。さっきJマスシス・ファズの話は聞いたけど、今後いろいろ企画してるモノがあれば教えて貰えるかな。
JH:今は詳しく言えないけど、いろいろと新製品の開発は常日頃やってる。実現するかどうかはわからないけど、例えばベース用ファズとかね。今考えてるのは、ジョン・エントウィッスルのシグニチャー・ファズとか出したいなあ、と。「THE OX」て名前でね(*6)。それから、これは既に発売が決定してるけど、ゲイリー・ハーストが70年代に開発したオクターブ・ファズ(註:Octavedivider、という名前になるそうです)とかね。他にもいくつか面白い企画があるから、待っててくれよ。



*1 本来はNY州マンハッタンにある通称「音楽村」のあだ名。古くからブロードウェイ等に楽曲を提供する音楽家(ジョージ・ガーシュウィン等)や会社が多く居住していたことから、この通称がその一角につけられましたが、以降転じて「音楽の集う場所」をこう指すことがあります。70年代の日本の同名バンドも、ここからバンド名を頂戴していますね。
*2 デンマーク・ストリートはロンドン中央部の小さな細い道ですが、数多くの楽器店が古くから軒を連ねていることで有名な一角。また、それらの楽器店が経営するスタジオも沢山あり、64年にはローリング・ストーンズのデビュー盤がこの通りのスタジオで録音され、また70年にはエルトン・ジョンがあの有名な「YOUR SONG」をここで作曲、76年にはセックス・ピストルズがこの通りのスタジオで初のスタジオ・レコーディングを行っています。また正確なスタジオ名はわかっていなませんが、ジミ・ヘンドリックスが渡英後初めてレコーディングしたスタジオも、この一角にあったとのこと。
*3 1958年にオープンし、当初英国のジャズ・ブームの発祥地として有名になったマーキー・クラブですが、その後60年代から70年代にはビート〜サイケ〜ハードロック〜パンクに至るまで文字通りブリティッシュ・ロックを象徴し、長い歴史を見守ってきたロンドンの名クラブ。10年間隔くらいで移転を繰り返しつつ近年までクラブは存続していたのですが、2008年に遂に閉店しました。
*4 この部分の質疑は、雑誌に掲載した文章ではスペースの都合でカットしましたが、当サイトでは全文を載せます。ジャスティン・ハリソンも「隠すことは何も無い」と言っており、当方とて別に隠し立てすることもありません。というのも、質問文にあったように近年イギリス北部のいくつかのチェーン店を閉店して以来、MUSIC GROUNDに関するデマがイギリスのネット上ではびこったんです。イギリスやアメリカの楽器系掲示板にマルチポストを繰り返す輩もいたわけですが、その噂をどう受け取ったか知りませんけど、検証することもなく悪意ある憶測をネット上で流す人は残念ながら日本にもいました(むしろ欧米の人のほうが慎重な反応でしたね)。そこで当方も昨年来何度かこの話題の確認を、ジャスティン本人にも、更には彼を知る別の人々にもメールで行っています。「何なに?今度はどんなオレの噂があるって?」なんていうノンキな返事をジャスティンからもらったりしたわけですが(笑)、まあ結果的にいえば「風評被害」だったわけですけど、日本に向けて公式に声明を、というわけでこの質問に答えてもらっています。
*5 1967年、VOX/JMI社がギター用エフェクターとして英国SOLA SOUNDに試作品を製造させたものが、世界初のワウ製品、とされています。これは銀色の筐体に入ったワウで、当時デル・キャッシャーというギタリストによるデモ演奏がVOXのために残されたことから通称「デル・キャッシャー・ワウ」と呼ばれました。2011年JMIはそのワウ・ペダルを限定生産で復刻しており。近日日本にも入荷予定です。このワウに関しても、改めて別項にてご紹介します。
*6 OXは雄牛の意。ザ・フーのステージで派手に大暴れするロジャー・ダルトリーやピート・タウンゼンドと比べて、地味でアクションが少なかったベーシストのジョン・エントウィッスルに対して付けられたあだ名。彼のオフィシャルHPの名も「THE OX」ですね。
 

6.04.2011

JMI - Justin Harrison Interview (Part.2)

 
 JMIのボス、ジャスティン・ハリソン・インタビューの2回目です。今回は現在のJMIのエンドーザーや関係の深いミュージシャンに関して語ってもらっています。



——ゲイリー・ムーアはたしかベックとかクラプトンに影響を受けてギター始めたんだよね(*1)。
JH:それから、ロリー・ギャラガーがやった組み合わせ、つまりVOX AC30とRANGEMASTERの組み合わせ、あれも大好きだ、と。これはゲイリー・ムーア本人から実際に聞いた。彼はウチの店で、JMI製のAC30レプリカ(トップブースト仕様)とJMI RANGEMASTERを一緒に買っていった。その組み合わせから生まれるサウンドを絶賛してたし、入手後もしばらく彼のお気に入りだったようだよ(*2)。
——ところで、TONE BENDERと並んで謎が多いことでも有名なRANGEMASTERだけど、そのオリジナルのことについて詳しい? アレ、最初に回路をデザインしたのは一体誰なのか、とか知ってる? その辺の情報がいまだに確証がないんだけど。
JH:ゴメン、詳しくはわかんないな。ちょっと今から調べてみるよ。なんか判ったら連絡する(*3)。
——そういえば、エアロスミスのジョー・ペリーが最近JMIのTONE BENDER MK1を使ってるよね。たしか彼はもともとジェフ・ベックの大ファンだったと思うんだけど、そんな経緯でジョー・ペリーはMK1を使い始めたのかな?
JH:そう、その通り。ジョー・ペリーは最初にカナダの楽器店でJMIのTONE BENDER MK1をみつけて、それを買ったんだって。その後に聞いたんだけど、彼はJMIのTONE BENDERをいろいろと片っ端から試してみて、それでMK1を試したときに、すぐにそれをゲットしたそうだよ。「今まで大好きで、いろいろ探していたんだけど、どうしても自分では決して出すことの出来なかった音」。それがクラシックな英国産のファズ、TONE BENDER MK1の音だったんだってさ。最高のエピソードだよね。
——それから最近、Jマスシス(ダイナソーJR)がJMIのTONE BENDER MK3を使ってるよね。彼はBIG MUFFの大ファンてことで有名だけど、たしか彼の親友でもあるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズがMK3を使ってるから、Jも興味を持った、みたいな噂を聞いたことがあるんだけど、何か本人から話を聞いてる?
JH:彼がMK3を受け取った直後、すぐにメールが来たよ。スッゴイ気に入ってる、と言ってくれてる。ファズとレベルのツマミ(註:MK3は全部で3つのノブがあり、もうひとつはトーン)だけで、もの凄く幅広いファズのバリエーションが出せる、と喜んでたよ。今まで沢山の関係者や友人からも聞いてるけど、確かにケヴィン・シールズのギター・サウンドは、間違いなくJマスシスのギター・サウンドに多大な影響を与えてる。Jは今ウチが取り扱いしてるHIWATTアンプのユーザーでもあるんだけど、近い将来ギター・サウンドと機材に関して、また彼といろいろディープな相談をすることになってる。今はまだ詳しいことは何も決まってないんだけど、JMIはもしかしたらJマスシス・オリジナル・ファズっていうのを発売することになるかもしれない。是非実現したいね。
——個人的にどうしても聞いておきたいことなんスけど(笑)、JMIはTONE BENDER MK1のミック・ロンソン・シグニチャー・モデルというのを発売してるよね。あれの製作経緯を教えてもらいたいんだけど。実際に70年代にミック・ロンソンが使用してたファズの実機の回路をあなた方が確認した、というのはホントなの?
JH:ああホントだよ。実際にロンソンの未亡人が所有してたペダルの中身を、ゲイリー・ハーストが自分の目で確認してる。ロンソン・モデルもそうだけど、MK1の回路にはいつも悩まされてる(笑)。やっぱり今入手できるパーツでは、バイアスの調整とノイズの多さはなかなかクリアできないんだ。でも、ゲイリー本人の助言とスキルを得て、オリジナル通りのサウンドが出るように細かい調整を加えてJMIのMK1は製作されている。例の秘密の回路(*4)のことだけどあれはゲイリー本人の指示なんだ。知ってるよな?(この項続く



*1 ゲイリー・ムーアは、少年期に地元ベルファストでジミ・ヘンドリクスやジョン・メイオールのライヴを見たことがあるんだそうです。で、その後にピーター・グリーンの影響をモロに受けた、というのは有名な話ですね。
*2 ロリー・ギャラガーはクラプトンと並びRANGEMASTER使いとして有名な人で、彼はVOX AC30の「ノーマル・インプット」チャンネルにRANGEMASTERのアウトプットを突っ込んでいた、ということが判っています。ここにちっちゃく載せた写真は70年のワイト島フェス(ジミヘンが出たことで有名なフェスですね)でのギャラガー氏ですが、AC30の上にポツンと載せられたRANGEMASTERが確認できます。彼のサウンドにモロに影響を受けた人がクイーンのブライアン・メイであり、彼の代名詞ともいえるAC30+トレブル・ブースターの組み合わせは、ギャラガーからの影響がダイレクトに反映したものだったんですね。
*3 最近では、ジョー・ボナマッサ(写真左)もJMIのRANGEMASTERを愛用していて、JMIのエンドーザーの一人です。ボナマッサは20歳ソコソコでビルボードのブルース・チャートNo.1を獲得しちゃうような、年齢に似合わない(笑)激シブな本格派ギタリスト、といわれてますね。オリジナルのRANGEMASTERに関しては、別項にて改めて検証したいと思います。
*4 実はJMIのMK1回路はオリジナルとまったく同じではなくて、一部抵抗が追加された回路となっています。回路の中には黒いビニールテープが張ってあり、その中に抵抗が追加で配置されているのですが、以前そのことをJMIに指摘したことがあり、JMIは「オッ、気づいたね?」と笑ってました(笑)。この抵抗の追加はノイズの値を押さえるためのアイデアで、TONE BENDERの開発者ゲイリー・ハースト本人がJMIのために追加したモディファイであり、実際には秘密でもなんでもなく、これまでこの点に気づいてJMIに指摘したのが、たまたまスペインのMANLAY SOUNDのビルダーROMAN GILと日本の筆者の2人しかいなかった、という、どーでもいい話です。