9.15.2011

Dallas Rangemaster (Pt.1)

 
 前回も予告しましたように、しばらくDALLAS RANGEMASTERについて続けて書いてみたいと思います。その歴史背景に関しては、いろんな人に聞いてみてはいるのですが、なかなか本国イギリスでもあまり詳しい背景が今も判らないことが多いようで(例えば回路の設計者等)、不明な点も多々あるとは思いますが、おつき合いいただければ幸いです。

 いきなりの余談で恐縮ですが、60年代の英ダラス社には実はエフェクターのRANGEMSTER以外にも、同じ「RANGEMASTER」という名前を持ったアンプ製品が存在します。このアンプの中身はあまり判らないのですが、しばらく前までは「レンジマスター? ああ、そういうアンプあるよね」なんていう会話がネット上でも時々ありました。これは「昔はエフェクターのほうよりもアンプのほうが有名だった」というワケではなくて、単純にマニアな方が「俺そんな些細なことまで知ってるぜ」という意味でワザと使っていた、と思わしきフレーズです。まあ、いつの時代もどこの世界でも、そういう人はいるわけですよね(笑)。どうでもいい話です。

 さてさて、ダラス社から1965年に発売されたRANGEMASTERは、今ではもちろん「トレブル・ブースター」として知られるエフェクターです。
 一説では、この回路を設計/制作したのはジョニー・ダラス氏、つまりダラス社の社長だ、という文献を見ることがありますが、ウラは取れていません。また、1965年に発売が開始され、67年までにおよそ300ケが製造/販売された、という記述を見つける事ができます(その後、ダラス社はアービター社と合併し、ダラス・アービター社となります)が、RANGEMASTER自体は69年まで製造された、という記述もあるので、実際にはもう少し多く作られただろうと思われます。
 いずれにしろ同じ時期のTONE BENDERなんかに比べたら量が沢山あることは事実ですし、現実に今探しても、それなりにオリジナルを見つける事はできます。ただし、もちろん容易には入手できませんし、高い値段をフっかけられることが多いわけですけど。

 ここではいくつかのオリジナルRANGEMASTERの写真を載せてみました。それぞれちょっとずつ違ってて面白いですよね。上から順にこの古いエフェクター達を見ていきたいと思います。
 一番最初のが当方の所有物で、トランジスタがOC71のモデルです。なんでOC71かというと実は偶然ではなくて、わざわざOC71版を探したからです。なぜか。それは「マーク・ボランが使ったRANGEMASTERは、間違いなくOC71版だったから」という話を聞かされたからです。俺って単純(笑)。マーク・ボランに関しては、別項にてちょっと詳しく触れたいと思います。ご覧のようにトランジスタはブラックキャップの英国MULLARD製、キャパシタは黒いHUNTSのもの。残念ながら裏蓋が無くなっていますが、表側のクロームのトリムが(珍しく)残っています。
 それから以前も掲載しましたけど(野外で撮影された写真2枚)、イギリスのPAISLEY TUBBY EFFECTSさん所有のRANGEMASTERは、トランジスタがブラックキャップのOC44、キャパシタはMULALRDのマスタードになってます。このRANGEMASTERはアウトプット・ケーブルを排除し、後にアウトプット・ジャックを増設してありますね。

 それと、次に掲載したものは DISCOFREQ's DATABASE から引っ張ってきた写真です。シルバーキャップのOC71が搭載されているモノには、黒いHUNTSのキャパシタが乗っていますが、当方のブツとはそのサイズが異なります。この人はなんと65年当時の箱まで持っているようで、ピンクと白の素敵なラベルも拝見できます。箱に関しては後ほど別項でちょっと改めて触れます。それにしてもこの方、3つも持ってんですねぇ。スゴイっす(最下部の写真参照)。

 以上でも判るように、60年代ダラス社製RANGEMATSERでは、トランジスタにOC44とOC71を使ったものがあります。また、ともに英国MULLARD製のゲルマニウム・トランジスタではありますが、ブラックキャップのものとシルバーキャップのもの、両方が存在することも判っています。

 では同じRANGEMASTERでも、OC44とOC71は音がどのくらい違うのか、と言えば、実はそんなに大げさに違うわけではありません。ただし2つを比較する上で言えば、OC71のほうがちょっと音のエッジが強く出る、という傾向があります。
 米国のエフェクト・ブランドで、自ら「BEANO BOOST」というRANGEMASTERクローンを発売しているアナログマンのHPでも、そのトランジスタの違いに関する記述があります。いわく、OC44のほうがちょっとスムースでOC71の方がエッジと高い倍音の出方が強い、と。

 TONE BENDERと比較しても単純極まりない(というか、歪み系の中では最もシンプルな回路でしょうね)その回路構成のために、使用トランジスタの色はモロにエフェクターの出音に出ます。RANGEMASTERはその歪みのマイルドさが好まれる、という場合も多いので、エッジが際立つOC71よりもOC44のほうが好み、という人が多いようですね。

 ご覧のようにオリジナルのRANGEMASTERは、大げさでマヌケすぎるポット、ラグ板に荒々しく配線された回路、バカでかいHUNTSのキャパシター(註:以前も触れましたが、HUNTSでないキャパシタが採用されたモデルもあります)、そしてゲルマニウム・トランジスタ1ケだけで強引にブーストしてしまうというシンプルな構造、なのに無意味にデカい筐体、演奏中に絶対にオン/オフできないスイッチ、そして、使用するのにジャマ臭くてしょうがない、直で延びたアウトプット・ケーブル、という(笑)、今から考えれば非効率この上ないダメダメな(笑)ギター・エフェクターですが、それでも「魔法の箱」の名に相応しい、素敵なオーヴァードライブをもたらしてくれる箱なわけです。

 ツマミは1ケですから、使うのにそれほど悩むこともありません。どんなアンプとどんなギターの組み合わせであっても、間にRANGEMASTERを挟めば「ギャーン」と一瞬にして独特の美しいゲインと圧倒的な音量を稼ぐ事ができます。単純にトレブル帯域をブーストしているわけではなく、その加味された倍音成分がエレキギターにはドンピシャでフィットする、ということになりますかね。

 「市販されているギターアンプそのままでは、必要な音は出ない」と断言したのは元マルコシアス・ヴァンプの秋間経夫氏(アンプ・ビルダー/リペアマンとしても有名ですよね。しかし、MARCHOSIAS VAMP、もの凄いバンド名ですね。笑)ですが、その言葉にはかなり含蓄があり、一発で納得するのは難しいかもしれません。でも、意味は単純ですよね。それはインタビュー動画を見ればすぐご理解いただけると思います。
 秋間氏はアンプを例に上げてその話をされていますが、話を戻せば、ダラスのRANGEMASTERってエレキギターに必要な帯域をグワっと持ち上げてくれるエフェクターだと思われます。だから単純なのに、最高のエフェクターなんですよね。

 「アンプ直の音こそ至高」というギタリストが多いことはもちろん承知の上ですが(余談ですが、実はミック・ロンソンも同様の主旨の発言をしてるんですよね。自分はファズとワウ使ってるクセに。笑)、実はアンプ直だとどんなに工夫しても、なかなかドンピシャで欲しい音が出てこない/絶対に出ない、なんていう体験は、星の数ほど世間に存在してると思われます。そんな時にやはりこの「魔法の箱」RANGEMASTERがあると、世界観が変わりますよ、なんて当方は思っているわけです。(この項続く)
 

2 comments:

  1. RANGEMASTERいいですよね。アンプ選びますがVOX AC30と合わせると最高です。私はOC44verのオリジ持っていまして本日RECで活躍しております。
    次の記事も楽しみにしています。Black SabbathのTony IommiもQueenのBrian Mayも使ってますしね。

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  2. コメント有難うございます(気付くのが遅れました、申し訳ありません)。
    そうですね、ゲイリー・ムーアもそうだったように、AC30とRANGEMASTERの
    組み合わせは、やっぱり凄くいい相性なのかもしれません。
    引き続きのご愛顧、よろしくお願いします。

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