TONE BENDERの「裏歴史」というわけではありませんけれど、関連の深いファズをひとつ掲載してみたいと思います。それがこちらのJENNINGS FUZZです。まずはこの製品が世に出るまでの経緯を検証してみます。
以前も書きましたが、元々トム・ジェニングスという人が興したJENNINGS MUSIC INDUSTRIESという会社は、言うまでもなく世界的に有名なVOXというアンプ・ブランドを持っていた会社ですが、1964年にその社名/ブランド名を世界中でバラ売りしています。イギリスではそのブランド・ライツはROYSTON GROUPという投資会社が購入しました。それ以降ももちろんイギリスでVOX製品がバンバン発売されていますので、ブランドが消滅したわけではなく、母屋が変わった、というだけの話です。
しかし、当初ボスだったトム・ジェニングス、それから彼と共同運営していた技師のディック・デニー(VOX AC30の開発者でもあります)、そして、一時期JMI/VOXに入社し共に働いていた技師ゲイリー・ハーストは64年以降はバラバラになります。ゲイリー・ハーストがTONE BENDER(MK1)を開発したのは、彼がフリーランスだった時期の話、というのは以前に書いた通りです。

ところが1968年、そのトム・ジェニングス氏は旧友ディック・デニーと共に新たにエフェクター会社を興します。JENNINGS ELECTRIC DEVELOPMENTSという会社です。蛇足ですが、たまたまこれと同じ時期に、イタリアのEME(英JMI/VOXとイタリアのEKO等が作った合弁会社)は組織変更があり、二代目社長のエンニオ・ウンチーニ氏は社名をJENに変更しています。JENNINGS ELECTRIC〜社は1973年には早くも会社を畳んでしまっているので極めて短命な会社だったのですが、この会社は1969年にいくつかの新製品を発売しています。そのひとつがこのJENNINGS FUZZです。内部写真でもわかるように、とてもシンプルな回路/構造をしたこのファズは、ディック・デニーがデザインしたものです。外見からもすぐわかる構造的な特徴として、このファズはノブが1つで、しかもそれを足でグリグリとまわす、というちょっと珍しいコントロールを持っているのですが、シリコン・トランジスタを2石使ったこのファズの回路は、ディック・デニーが62年頃に開発したVOX T60ベースアンプの入力回路を元にしています。つまり、この回路は1965年のVOX DISTORTION BOOSTERとか、1966年のSOLA SOUND TONE BENDER MK1.5とか、同じ66年のイタリア製VOX TONE BENDERにそっくりな回路、ということになります。
某所、というか、ハッキリいえばBSMというドイツのエフェクター・ブランドのHPに書いてあるんですが、このJENNINGS FUZZは60年代末に「ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、デイヴ・エドモンズ、ポール・マッカートニー等が使用した」とあります。ほー、そうなんですか。当方が調べた限りでは、ベックやペイジがこれを使ったと思わしき形跡は全く見つからないのですが、もしかしたらどこかで実際に使ったことがあるのかもしれませんね。ジミー・ペイジはインタビューで「僕のディストーション・サウンドの75%はゲイリー・ハーストが作ったTONE BENDER」というような話を残してるんですが、ペイジの歪みに関してはまた別の機会にまとめたいと思います。

以前にも書きましたが、現在のMACARI'Sが生前のディック・デニーとタッグを組み、ディック・デニーが「60年代の頭に開発した」というファズ回路を、青いケースに入れてCOLORSOUNDブランドから発売したことがあります。その時の商品名はCOLORSOUND FUZZ BOXというものでした。このファズの回路が、上記したJENNINGS FUZZとほとんど同じモノであることは一見すれば疑う余地もないものですし、同じデザイナーによる開発品ですから何ら問題はありません。
が、しかし何故か、90年代にこの製品がSOUND CITY JAPANによって製造、販売されたときに、全く違う説明がなされていました。日本語の説明書に「世界で200ケのみの生産」と書かれているこのファズの名前はGARY HURST FUZZ BOXと書かれていました。以下に、その説明書の記載を抜粋してみます。

「トーンベンダーの生みの親、サウンド・エフェクターのルーツを作った男、それがゲイリー・ハーストです。(中略)そんな彼が1969年に、当時の有名ミュージシャンのために、ごくわずかな量だけハンドメイド生産したのが、今回限定で復刻された『ゲイリー・ハースト/ファズ・ボックス』です。ピンク・フロイド、フー、プリティー・シングス、ヤードバーズの手元に渡ったこの幻のアイテムは……(後略)」ハッキリ申せば、上記に書いてあるゲイリー・ハーストの説明とかFUZZ BOXの解説は、どこもかしこも誤解だらけで理解に苦しみます。このファズは現在では廃盤ですが、最近までMACARISのHPにもディック・デニーのくだりを含め、このファズの出所に関しては記載があったのですが、何故か日本発売に際しては全く関係のない文章が記載されてしまっていた、ということになります。そしてその真偽をゲイリー・ハースト本人に聞いてみた所、「全く関係していない」と本人が発言しているのは、このブログをご覧になっている方であれば既にご承知かと思います。
今も中古とかでこの青いファズを目にする機会は時折あります。で、その商品説明に「ゲイリー・ハーストが……」と書いてあるのを目にします。まあ、しょうがないんですよね。だって説明文にそう書いちゃってあるんですから。店員さんとか購入者はそう思ってしまいますよね。別にここで当方が「真実はこれだあ!」と偉そうに言うつもりは全くありません。知ってる人は知っている、というだけでいいんじゃないかな、と思ってます。ちなみに上でBSMというドイツのブランドのことに触れましたが、BSMはトレブル・ブースターばかりをパカパカと発売している、というなにげに恐ろしい(笑)ラインナップを誇るエフェクター・ブランドですが、最近(2009年)このBSMが、JENNINGS FUZZ BOXのクローン・ペダルを発売しています。JENNINGS FUZZ同様ノブは1ケですが、さすがに足ではなく、手で回すようなノブになってますね(笑)。
追記 記事の真ん中あたりにある、90年代の復刻版「FUZZBOX」の写真を入れ替えました。ご覧頂けるように、なんだかちょっとだけ違うルックスのものが並んでいますが、両方とも現在のMACARI'S/COLORSOUNDによる復刻版です。左側に掲載したものが復刻初期のFUZZ BOXで、回路はトランジスタ2ケ、ノブは大きくて黒いものがドカンと設置されているのがお判りいただけると思います。実はこのモデルは現行品としてMACARI'Sのラインナップに今も残っているものですが、右の写真はその現行品です。実は(その変更時期は正確に判らないのですが)今販売されているFUZZ BOXは回路がシリコン3石のものに変更になり、基板もご覧のようにデカいものに変更されています。これはPOWER BOOSTの回路をプチ・モディファイしたものであり、既にオリジナルの面影がない回路、となっていますね。よく見ると、筐体のペイント・デザインもちょっと変更になり、ノブも銀色でシャープなものに変更されていることも判ります。


























●ゲイリー・ハーストによるハンドメイド●木製ケース入りの試作品 ●65年夏に10ケ製造 ●回路はマエストロFUZZ TONEを元にした3トランジスタ構成 ●トランジスタはムラード製OC75+TI社製2G381×2 ●ON/OFF用トグルスイッチ付
●TONE BENER MK1のコピー製品 ●製造・販売はJHS(JOHN HORNBY SKEWES)社 ●65年発売 ●トランジスタはムラード製OC75×3 ●ブルー・ハンマートーン塗装 ●SWELLツマミはON/OFF機能付のスタック・ポットを採用
●TONE BENER最初のフルモデルチェンジ製品 ●ゲイリー・ハースト・デザイン
●2度目のフルモデルチェンジ製品 ●製造・販売はSOLA SOUND社 ●ゲイリー・ハースト・デザイン ●66年秋〜68年中旬まで発売 ●MK1.5の回路に増幅段を追加した回路 ●トランジスタはOC75×3 ●一部の同製品ではOC81Dを3ケ使用
●SOLA SOUND社の製造品 ●OEM製品だが発売ブランドは不明 ●66年〜67年にかけて発売 ●初期製造品は青い筐体でMK1.5回路 ●途中から3トランジスタのMK2回路に変更 ●途中からシルバーの筐体に変更 ●近年発見されたモデル
●EME(英JMI/米トーマスオルガン/伊EKOの合弁企業。後のJEN)によるTONE BENDER ●66年秋〜70年代末にかけて発売 ●MK1.5回路(一部定数を変更)●68年から黒の筐体に変更 ●70年代後半からシリコンTRに(回路も変更)
●MARSHALL社のためのOEM製品 ●67年〜69年頃まで発売 ●ゲイリー・ハースト・デザイン ●SOLA SOUND社製造品 ●PROFESSIONAL MK2と同じ回路 ●トランジスタはOC75×3 ●一部の同製品ではOC81Dを3ケ使用
●3度目のフルモデルチェンジ製品 ●製造・販売はSOLA SOUND社 ●68年発売 ●プリント基板 ●BURNS BUZZAROUNDに似た回路 ●トランジスタはOC71×3(他の種類もあり)●70年代中期に回路変更、トランジスタもシリコンに
●JMI/VOXのためのOEM品 ●SOLA SOUND社製造 ●68年発売 ●トランジスタはOC71×3 ●70年代中期に回路が変更され、トランジスタもシリコンに変更 ●トレブルブースト回路を付け加えたMK3 with TREBLE BOOSTもあり
●MK4とラベリングされているが、中身は上記2つ(MK3)と同じ ●製造はSOLA SOUND社 ●69年発売 ●プリント基板を採用 ●同様のデザインで、他に銀色、黄色のものもあり ●SOLA SOUND名義で出た最後のTONE BENDER
●「COLORSOUND」ブランド製品 ●製造はSOLA SOUND社 ●74年発売 ●3ケのBC184Cシリコン・トランジスタを用いた回路 ●ワイドケースの新シリーズ
●幅広の筐体に入った「COLORSOUND」ブランド製品 ●製造はSOLA SOUND社 ●74年発売 ●4ケのBC184Cシリコン・トランジスタを用いた回路 ●BIG MUFF回路に似たサーキット ●ワイドケースの新シリーズ
●90年代頭にKORG/VOXで製造・発売されたTONE BENDER ●米国製 ●93年頃発売 ●回路はMK1.5を踏襲したもの ●トランジスタはゲルマニウムSK3004x2 ●電池駆動のみ 

















