8.29.2011
Wah Wah and Del Casher (Part 2)
ワウ・ヒストリーのお話の続き、です。1967年、イギリスのJMI社(=VOX)がなんで英国製ワウを作らなければならなかったか、は前回に当方の推測を書きましたが、あくまでも推測でしかありません。とにかくイギリスJMIは、アメリカで開発されたその新しいエフェクター「ワウ」の回路を元に、イギリスのソーラーサウンド社に製造委託して英国産ワウの製造に着手します。
右の写真ではジョージ・ハリソンの前にワウが鎮座していますが、この写真は69年「LET IT BE」セッション時と思わしき写真です。そのワウは銀色で、筐体前面にはデカデカとVOXという文字が刻印されています。つまりこれが英国産のVOX製ワウなわけですね。以下、その細部を見ていきたいと思います。
既にその外観からして、以前紹介した「デル・キャッシャーのプロトタイプ・ワウ」とは異なります。ロゴの刻印も浮き彫りになっており、そしてラバーのデザインもシンプルに(というかなんら素っ気ない)滑り止めのラインのみ、となりました。
ただ、明らかにそれらよりも目につくのは、筐体の両脇にある、WAH WAHという文字の入ったステッカーです。そのステッカーのレタリングから、入力は筐体左側に、そして出力は筐体右側に配置されています。つまり、現行の一般的なワウとは左右逆になっているわけですね。
しかし実はデル・キャッシャー本人が所有してるアメリカ/トーマス・オルガン製のプロトタイプ・ワウは、右が入力、左が出力、という、いわゆる「現行品と同じ」オーダーになっています。
なんでいっつもイギリスは左右逆なの?エスカレーターで並ぶ方向とかと関係あるわけ?などとツマラナイことまで考えてしまいそうですが(笑)、申し訳ありませんがそれに関してももう当時の実情を探るのは不可能かと思われます。とにかく入力は左、出力は右、です。
それはともかく中身を見てみます。米製プロトタイプとは違って、細長い基板が筐体内部の中央にタテに配置されていて、そしてインダクターはその基板中央にデデンと居座っていますね。実はこのインダクターが何なのか、そのブランド等は現在も不明なのですが、後にソーラーサウンド社が制作したマーシャルSUPA WAHや、カラーサウンドのワウでも採用されていたものにそっくりなパーツであることは見ただけでわかります。ただし確証はありません。推測です、スイマセン(註:一説では、イギリス製のワウに採用されたインダクターは、アメリカのトーマスオルガンから提供されたパーツ、という話もあります。ただしその説もウラは取れませんでした)。
ワウ用のインダクターに関しては、HALOとか、FILMCANとか、赤/黄/白/緑のFASELとか、ちょっと調べるだけでいろいろと種類が出てきますよね。ただし今挙げたものに関しては、実は殆どその構造/中身はかわらない、というのが一般的です。ただし「VOX製のワウは当初コストダウンのために“安物の”ドーナツ状磁性体(トロイダル)インダクターを採用したので、そのことがかえって出音に影響を及ぼし、それが結果的に人気を集めた」という面白い話もあります。後に70年代になってから、VOX製ワウでは高級なコアキシャル・インダクターを採用することになりますが、何故かそれ以降はあまり評価が芳しくない、という不可思議な結果も生んでいます。
67年のVOXグレー・ワウで採用されたインダクターの数値は(現在のワウ製品で使われるものは300K、もしくは500Kが多いと思われますが)250Kのものが採用されています。また、これは既に有名ですがトランジスタには2N3707というものが2ケ。ジャックは英国製のクリフ・ジャク。ポットは100K、というスペックです。
また、当方の所有ブツではすでに剥がれてしまっているのですが、本来この英国製VOXグレー・ワウには、筐体の裏にステッカーが張ってあり、DESIGNED AND CREATED BY JENNINGS MUSICAL INDUSTRIES LTDというクレジットがされています。
そういうわけで、いわゆるグレー・ハンマートーン塗装が施されたVOXワウはほぼイギリス製のもの、ということになります。前回掲載したイギリスのVOXの広告に掲載された写真は、そのイギリス製VOXワウの製品写真だったというわけです。実際に1967年にこのグレー・ワウは発売されたということですが、殆ど売れなかった、という話も残されています。
これまでも何度か書いてきましたが、たとえば後期ヤードバーズ〜初期ツェッペリン時代にジミー・ペイジが使用したワウは、まごうことなき英国製VOXグレー・ワウだったわけですね。そして、なぜかミック・ロンソンも(まだボウイと一緒にプレイする前の時代には)このグレー・ワウを所有し、使用していました。そして、冒頭の写真にもあるように、ザ・ビートルズのジョージ・ハリソンも、その英国製グレー・ワウを所持していたわけです。
余談ですが、知人のビートルズ・マニアに「ところで、ジョージがワウ踏んでるのって見た事ある?」と聞いたら「そういえばねえなあ」という返事を貰いました。「ACROSS THE UNIVERSE」でうっすらと聞こえるワウがおそらくジョージが踏んだワウの音だろう、という説がありますが、誰もそれを確認できていません(笑)。右の写真2枚は有名な1969年のルーフトップ・コンサート時のビートルズの写真です。ジョージの足下にはVOXのグレー・ワウが見えるのですが、残念ながらジャックは繋がっていません。なんだよジョージ、せっかくなんだから使ってくれよ(笑/ちなみにジョージ・ハリソンにはソロ作品にその名もズバリ「WAH-WAH」という曲もあるんですが)。
しかしイギリス製VOXワウは、あっという間にその短い歴史を終えることになります。というのも、67年秋以降イタリアで大々的にVOX WAHが大量生産されることになったからです。その辺のいきさつは、丁度VOX TONE BENDER MK2(英国製)と同じ運命、ということができるかもしれません。
いずれにしろ、60年代中頃に開発されたワウという新しいギター・ウェポンは、当時の先鋭的なミュージシャンであるクラプトン、ジミヘン、ジミー・ペイジ、ミック・ロンソン、そして勿論ビートルズをも巻き込んで、当時全盛だったブリティッシュ・ロックとともに世界中へと広まっていったわけですね。
ワウ史に関してはここで筆を置きます。「ワウの歴史」などと偉そうなことを言っておきながら、クライド・マッコイの名が一度も出てこないという、ありえない(笑)文献であることは承知しています。が、それにもちょっとだけ理由があって、それは次回で触れたいと思います。(この項続く)
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